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かんばし
ふりがな文庫
“
甲走
(
かんばし
)” の例文
不夜城を誇り顔の電気燈にも、霜枯れ
三月
(
みつき
)
の
淋
(
さび
)
しさは
免
(
のが
)
れず、
大門
(
おおもん
)
から
水道尻
(
すいどうじり
)
まで、茶屋の二階に
甲走
(
かんばし
)
ッた声のさざめきも聞えぬ。
今戸心中
(新字新仮名)
/
広津柳浪
(著)
このオソラクが
甲走
(
かんばし
)
った声であったので、自分はふと耳を立てると、男の声で「オソラクってそりゃ何の事だ。誰に習ったのか」
雪ちゃん
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
と
甲走
(
かんばし
)
った声が聞えました。誰の発言かと見れば、それは焼けて壊れた提灯を膝の上に載せていた神尾主膳の口から出たものであります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
と女中は
思入
(
おもいいれ
)
たっぷりの取次を、ちっとも先方気が着かずで、つい通りの返事をされたもどかしさに、声で
威
(
おど
)
して
甲走
(
かんばし
)
る。
縁結び
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
レエヌさんは、憎悪に満ちた眼差しでキャラコさんの顔をにらみつけると、息をはずませながら、
甲走
(
かんばし
)
った声で、叫んだ。
キャラコさん:05 鴎
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
▼ もっと見る
『では……では
何日
(
いつ
)
か——』と、平四郎の声の方が、
顫
(
ふる
)
えを帯びて、むしろ彼女よりは、
女々
(
めめ
)
しく聞えるほど
甲走
(
かんばし
)
った。
夏虫行燈
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
甲走
(
かんばし
)
ったその声が、彼の脳天までぴんと響いた、作は主人の兄にあたるやくざ者と、どこのものともしれぬ旅芸人の女との
間
(
なか
)
にできた子供であった。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
という
甲走
(
かんばし
)
った声諸共に、中川夫人は未だ寝ていた主人公のところへ飛んで来るが早く、両手を捉えて引き起した。
髪の毛
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
と、倭文子の
甲走
(
かんばし
)
った声が叫んだ。日頃の彼女が、夢にも口にすべき言葉でない。これを以ても、その時二人が、如何に激し合っていたかが分るのだ。
吸血鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
「ブラ/\遊んでをる
穀
(
ごく
)
つぶしめア、今にあん通りになるんぢや」と私に
怖
(
こは
)
い凝視を投げて
甲走
(
かんばし
)
つた声で言つた。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
次第次第に糸のように
甲走
(
かんばし
)
って来て、しまいには息も絶え絶えの泣き声ばかりになって、とうとう
以前
(
もと
)
の通りの森閑とした深夜の四壁に立ち帰って行った。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
甲走
(
かんばし
)
るきいの声は、焔と煙とを
衝
(
つ
)
いて、板屋の棟にいる宮内に届いた、宮内はゲラゲラと、精力を一途に集めたような、笑い声を上から浴せかけて
酬
(
むく
)
いた。
討たせてやらぬ敵討
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
不夜城を
誇顔
(
ほこりがお
)
の電気燈は、
軒
(
のき
)
より下の物の影を往来へ投げておれど、
霜枯三月
(
しもがれみつき
)
の淋しさは
免
(
まぬか
)
れず、大門から水道尻まで、茶屋の二階に
甲走
(
かんばし
)
ッた声のさざめきも聞えぬ。
里の今昔
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
近所の小屋もみな打ち出したとみえて、世間は洪水のあとのようにひっそりして、川向うの柳橋の
桟橋
(
さんばし
)
で人を呼ぶ
甲走
(
かんばし
)
った女の声が水にひびいて遠く聞えるばかりであった。
両国の秋
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
狹
(
せば
)
い
家
(
いへ
)
の
内
(
うち
)
に
羽叩
(
はばた
)
く
鷄
(
にはとり
)
の
聲
(
こゑ
)
がけたゝましく
耳
(
みゝ
)
の
底
(
そこ
)
へ
響
(
ひゞ
)
いた。おつぎはまだすや/\として
眠
(
ねむ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
戸
(
と
)
の
隙間
(
すきま
)
が
瞼
(
まぶた
)
を
開
(
ひら
)
いたやうに
明
(
あか
)
るくなつた
時
(
とき
)
鷄
(
にはとり
)
が
復
(
ま
)
た
甲走
(
かんばし
)
つて
鳴
(
な
)
いた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
「あらごらんよ、踊っているからさ」と云う
甲走
(
かんばし
)
った女の声も聞える——船の上では、ひょっとこの面をかぶった背の低い男が、吹流しの下で、馬鹿踊を踊っているのである。
ひょっとこ
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
音声としては、
甲走
(
かんばし
)
った最高音よりも、ややさびの加わった次高音の方が「いき」である。
「いき」の構造
(新字新仮名)
/
九鬼周造
(著)
中には
友禅
(
ゆうぜん
)
の赤い袖がちら附いて、「一しょに乗りたいわよ、こっちへお
出
(
いで
)
よ」と友を誘うお酌の
甲走
(
かんばし
)
った声がする。しかし客は大抵男ばかりで、女は余り交っていないらしい。
百物語
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
授業中で、学童の
誦読
(
しょうどく
)
の声に
交
(
まじ
)
って、おりおり教師の
甲走
(
かんばし
)
った高い声が聞こえる。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
美奈子は
凛
(
りん
)
とした
甲走
(
かんばし
)
つた声で云つた。執達吏と山田とは文庫を
一寸
(
ちよつと
)
開けて見て
執達吏
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
(著)
紀久榮の聲は次第に
甲走
(
かんばし
)
つて、平次の胸倉くらゐは掴み兼ねない劍幕でした。
銭形平次捕物控:287 血塗られた祝言
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
「まあ誰ぞいの」と機を織っていた女が
甲走
(
かんばし
)
った声を立てる。藁の男が入口に立ち
塞
(
ふさが
)
って、自分を見て笑いながら、じりじりとあとしざりをして、背中の藁を中へ押しこめているのである。
千鳥
(新字新仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
と、
彼
(
かれ
)
は
声
(
こえ
)
を
甲走
(
かんばし
)
らして、
地鞴踏
(
じだんだふ
)
んで、
同室
(
どうしつ
)
の
者等
(
ものら
)
のいまだかつて
見
(
み
)
ぬ
騒方
(
さわぎかた
)
。
六号室
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
時
(
とき
)
に
神學
(
しんがく
)
の
議論
(
ぎろん
)
まで
現
(
あら
)
はれて一しきりはシガーの
煙
(
けむ
)
を
熢々濛々
(
ぼう/\もう/\
)
たる
中
(
なか
)
に
六
(
ろく
)
七
(
しち
)
の
人面
(
じんめん
)
が
隱見
(
いんけん
)
出沒
(
しゆつぼつ
)
して、
甲走
(
かんばし
)
つた
肉聲
(
にくせい
)
の
幾種
(
いくしゆ
)
が
一高一低
(
いつかういつてい
)
、
縱横
(
じゆうわう
)
に
入
(
い
)
り
亂
(
みだ
)
れ、これに
伴
(
ともな
)
ふ
音樂
(
おんがく
)
はドスンと
卓
(
たく
)
を
打
(
う
)
つ
音
(
おと
)
日の出
(旧字旧仮名)
/
国木田独歩
(著)
お米が
甲走
(
かんばし
)
つて叫んだのは、蟒が立上つたところらしかつた。
大阪の宿
(旧字旧仮名)
/
水上滝太郎
(著)
甲走
(
かんばし
)
った声がすぐ響いた。
剣侠受難
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
徳太郎
(
とくたろう
)
の
声
(
こえ
)
は
甲走
(
かんばし
)
った。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
そうすると神尾主膳は、先程はやや
甲走
(
かんばし
)
っていた声がようやく落着いて、提灯を
枷
(
かせ
)
に使いながら、一人舞台のように主張をはじめてしまいました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
と差配になったのが地声で
甲走
(
かんばし
)
った。が、それでも、ぞろぞろぞろぞろと口で言い言い三人、指二本で
掻込
(
かっこ
)
む
仕形
(
しかた
)
。
陽炎座
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
その
甲走
(
かんばし
)
ったヒステリカルな声は、絶え間なく、次から次へ響き渡って、
室
(
へや
)
の中に充ち満ちし電燈の光りを波のように打ち震わしているかのように思われた。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
大垣の商人らしき五十ばかりの男
頻
(
しき
)
りに大垣の近況を語り
関
(
せき
)
が
原
(
はら
)
の
戦
(
いくさ
)
を説く。あたりようやく薄暗く
工夫体
(
こうふてい
)
の男
甲走
(
かんばし
)
りたる声張り上げて歌い出せば商人の娘堪えかねてキヽと笑う。
東上記
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
あぶない溝板を渡りながら路地の奥へはいってゆくと、
甲走
(
かんばし
)
った女の声がきこえた。
半七捕物帳:18 槍突き
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
と、
彼
(
かれ
)
は
聲
(
こゑ
)
を
甲走
(
かんばし
)
らして、
地鞴踏
(
ぢだんだふ
)
んで、
同室
(
どうしつ
)
の
者等
(
ものら
)
の
未
(
いま
)
だ
甞
(
か
)
つて
見
(
み
)
ぬ
騷方
(
さわぎかた
)
。
六号室
(旧字旧仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
と再び
甲走
(
かんばし
)
って、秀子さんはサッサと行ってしまった。
脱線息子
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
幾間か隔てて、お近の聲が
甲走
(
かんばし
)
るのです。
銭形平次捕物控:196 三つの死
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
その跫音へ、玉枝の声が、
甲走
(
かんばし
)
ッた。
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と
甲走
(
かんばし
)
った声で言った。
あなたも私も
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
甲走
(
かんばし
)
る声は鈴の
音
(
ね
)
よりも高く、静かなる朝の
街
(
まち
)
に響き渡れり。通りすがりの
婀娜者
(
あだもの
)
は歩みを
停
(
とど
)
めて
義血侠血
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
……遠い、高い処で
鴉
(
からす
)
がカアカアと
啼
(
な
)
いている……近くの台所らしい処で、コップがガチャガチャと壊れた……と思うと、すぐ近くの窓の外で、不意に
甲走
(
かんばし
)
った女の声……。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
表は次第に賑やかになって、灯の影の明るい仲の町には人の
跫音
(
あしおと
)
が忙がしくきこえた。誰を呼ぶのか、女の
甲走
(
かんばし
)
った声もおちこちにひびいた。いなせな地廻りのそそり
節
(
ぶし
)
もきこえた。
箕輪心中
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
お銀様の泣き声は
甲走
(
かんばし
)
ってしまいました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
と、さすがに声は
甲走
(
かんばし
)
っていた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と伯母は
忽
(
たちま
)
ち
甲走
(
かんばし
)
った。
脱線息子
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
ちょうどこの時分用事あって、雪の下を通りかかり、かねて評判が高いので、
怯気々々
(
びくびく
)
もので歩いて行くと、
甲走
(
かんばし
)
った
婦人
(
おんな
)
の悲鳴が、青照山の
谺
(
こだま
)
に響いて……きい——きいっ。
活人形
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
中野学士の語尾が少し
甲走
(
かんばし
)
った。又野の瞳がキラキラと光った。
オンチ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
と恐ろしく
甲走
(
かんばし
)
った。
一年の計
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
キャキャとする
雛妓
(
おしゃく
)
の
甲走
(
かんばし
)
った声が聞えて、重く、ずっしりと、
覆
(
おっ
)
かぶさる風に、何を話すともなく
多人数
(
たにんず
)
の物音のしていたのが、この時、
洞穴
(
ほらあな
)
から風が抜けたように
哄
(
どっ
)
と
動揺
(
どよ
)
めく。
歌行灯
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と
甲走
(
かんばし
)
つた
聲
(
こゑ
)
を
浴
(
あ
)
びせて、
奴
(
やつこ
)
また
團扇
(
うちは
)
を、ばた/\、ばツと
煽
(
あふ
)
ぐ。
松の葉
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
甲走
(
かんばし
)
った早口に言い交わして、両側から二列に並んで
遁
(
に
)
げ出した。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
甲
常用漢字
中学
部首:⽥
5画
走
常用漢字
小2
部首:⾛
7画
“甲”で始まる語句
甲斐
甲
甲板
甲冑
甲高
甲羅
甲虫
甲斐性
甲斐甲斐
甲斐絹