“珍(めず)” の例文
また前にいえるごとく、大臣と小姓組との身分は大(おおい)に異(こと)なるがごとくなれども、小姓組が立身(りっしん)して用人(ようにん)となりし例は珍(めず)らしからず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こんどもいったときと同じように、ニールスはいくさきざきで、珍(めず)らしい伝説(でんせつ)を聞いたり、美しい風景(ふうけい)をながめたりしていました。
真佐子の方から手ぶらで珍(めず)らしく復一の家の外を散歩しに来ていた。復一は素早く見付けて、いつもの通り真佐子を苛めつけた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
例によって私は午前十時に目を醒(さ)ました。窓を開いて見ると珍(めず)らしく快晴だった。ベルを鳴らすと、執事の矢口と、根賀地が入って来た。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうしたことは格別(かくべつ)珍(めず)らしい事(こと)でも何(なん)でもないのですが、場合(ばあい)が場合(ばあい)とて、それが飛(と)んでもない大騒(おおさわ)ぎになって了(しま)いました。——
書院前(しょいんまえ)の野梅(やばい)に三輪の花を見つけた。年内に梅花を見るは珍(めず)らしい。霜(しも)に葉を紫(むらさき)に染(そ)めなされた黄寒菊(きかんぎく)と共に、折って小さな銅瓶(どうへい)に插(さ)す。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
福山すなわち松前(まつまえ)と往時(むかし)は云(い)いし城下に暫時(ざんじ)碇泊(ていはく)しけるに、北海道には珍(めず)らしくもさすがは旧城下だけありて白壁(しらかべ)づくりの家など眸(め)に入る。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それからまた、いつも待(ま)ちがいのあるいいもの、菓子(かし)とか絵(え)とか珍(めず)らしい玩具などを持って来(き)てくれるから、好(す)きだった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
端渓には上層中層下層とあって、今時のものはみんな上層ですが、これはたしかに中層です、この眼(がん)をご覧なさい。眼が三つあるのは珍(めず)らしい。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんな珍(めず)らしい議論の必要が従来あんまりありませんでしたので恐(おそ)らくこの計算はまだ誰(たれ)も致しますまいが計算法だけ申し上げて置きましょう。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
笑いかけるとおびえたような目をしたり、無感動な表情のまま深い関心を見せて道をひらいた。珍(めず)らしげにじろじろ見るのは昔のままであった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
かたばみは我々にとっては迷惑至極な草だが、彼等はあの葉の珍(めず)らしい形と、実が胡瓜(きゅうり)のようなのに興味をもつ。
かくのごとき人は日(ひ)ごろ僕が歩き不精(ぶしょう)であるから、一里行くのも珍(めず)らしいのに十里歩いたのはエライとほめる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そこを通って猿に出くわすことは珍(めず)らしいことではないが、それを珍らしがって悪戯(いたずら)でもしかけようものなら、かえって飛んだ仕返しを食うことがあります。
着物の地や柄は婆やにはよく見えなかったが、袖裏に赤いものがつけてあるのはさだかに知れた。斜(なな)め後ろから見ただけでも珍(めず)らしく美しそうな人に思われた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
未産婦で乳癌になるひとは珍(めず)らしいと、医者も不思議がっていた。入院して乳房(ちぶさ)を切り取ってもらった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ば其儘に致し置べき忠兵衞が巧(たく)みと心得候見顯(みあら)はされし其砌(みぎ)り助け呉(くれ)しは却つて仇(あだ)にて情け無(なき)了簡(れうけん)に候と涙を流して申立しかば越前守殿倩々(つく/″\)聞(きか)れ扨々(さて/\)珍(めず)らしき事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
五十銭の原稿料でも、原稿料のでる雑誌などは、大いに珍(めず)らしかったほど、不景気な時代であった。五冊ほどで、つぶれた。私は「竹藪(たけやぶ)の家」というのを連載した。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
何年にも無い珍(めず)らしい事ですが、御改革の徹底を、面目にかけて期して居た鳥居甲斐守は、時には微行で、時には大びらに、江戸の町々を巡って、その冷酷無残な眼を光らせたのでした。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ときおり私たちは散歩をしている西洋人や村の子供たちとすれちがった。彼等(かれら)のもの珍(めず)らしそうな視線は私たちを——殊(こと)にまだこの村に慣れない彼女を気づまりにさせているらしかった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
もの珍(めず)らしい風物は多かったが、彼に来たものはしかし落胆でしかなかった。
ジャンの新盆 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
どうぞ私(わたくし)に世(よ)の中(なか)の生活(せいかつ)を話(はな)して下(くだ)さい、何(なに)か珍(めず)らしいことでも無(な)いですか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
 など、一は強く一は大きくものしたるも珍(めず)らかに面白かるべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
群の中に珍(めず)らしく兵さんの頬冠(ほおかぶ)りしているのが見えた。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
それなら、せめて珍(めず)らしいものでも見せてやるのが、じぶんたちのつとめだということぐらい、わかってくれてもいいはずです。
一面から云(い)えば氏はあまり女性に哀惜(あいせき)を感ぜず、男女間の痴情(ちじょう)をひどく面倒(めんどう)がることに於(おい)て、まったく珍(めず)らしい程(ほど)の性格だと云えましょう。
ようやくある家にて草鞋を買いえて勇を奮(ふる)い、八時半頃野蒜(のびる)につきぬ。白魚の子の吸物(すいもの)いとうまし、海の景色も珍(めず)らし。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
以前ならば十五分ほどバスにのればゆけた道を母子はてくてくと歩きだした。珍(めず)らしいことなので、出あう人がきいた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
その次(つ)ぎが山(やま)の修行場(しゅぎょうば)、その時代(じだい)に竜宮界(りゅうぐうかい)その他(た)いろいろの珍(めず)らしい所(ところ)へ連(つ)れて行(ゆ)かれ、又(また)良人(おっと)をはじめ多(おお)くの人達(ひとたち)にも逢(あ)わせていただきました。
中部地方の人々には珍(めず)らしいが、いわゆるコナベヤキまたはナベコ鳥の物語は奥羽(おうう)には弘く行われていたらしい。
「こんなきれいな珍(めず)らしい皮(かわ)を、王様(おうさま)に差(さ)しあげてかざりにしてもらったらどんなに立派(りっぱ)だろう。」
手紙 一 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
丁坊(ていぼう)という名でよばれている東京ホテルの給仕君(きゅうじくん)ほど、飛行機の好きな少年は珍(めず)らしいであろう。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
来客があって、珍(めず)らしく東京から魚を買ったら、トラ先生早速(さっそく)口中に骨を立て、両眼に涙、口もとからは涎(よだれ)をたらし、人騒(さわ)がせをしてよう/\命だけは取りとめた。犬猫の外に鶏が十羽。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
そうして立(た)ちながら、外国(がいこく)や、露西亜(ロシヤ)の新聞(しんぶん)雑誌(ざっし)に書(か)いてある珍(めず)らしいこと、現今(げんこん)はこう云(い)う思想(しそう)の潮流(ちょうりゅう)が認(みと)められるとかと話(はなし)を進(すす)めたが、イワン、デミトリチは頗(すこぶ)る注意(ちゅうい)して聞(き)いていた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あなたがたにはただよその人が珍(めず)らしく見えるのではありますまいか。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
初めのうちは寧(むし)ろ病院へ行くのが珍(めず)らしくもあった。
母 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
月が、日本橋通りの高層建築の上へかかる時分、貝原は今夜は珍(めず)らしく新川河岸(かし)の堀に臨む料理屋へ小初を連れ込んだ。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ここに私(わたくし)が神社(じんじゃ)に入(はい)ってから間(ま)もなく手(て)にかけた事件(じけん)がございますから、あまり珍(めず)らしくもありませぬが、それを一(ひと)つお話(はな)しいたして見(み)ましょう。
たまに珍(めず)らしい「鳥の言葉」があるので、どうしてそういうのかと子供らしく尋ねて見ても、私も知らぬと言って、殆と答えてくれた人はないのである。
それに、小人は珍(めず)らしい胸着を見るのに夢中(むちゅう)になっていて、ほかのことは耳にも目にもはいらないようすです。
「まあ、ほんとに珍(めず)らしい顔。よくきたわねマッちゃん、ほんとに、よく。ありがとうマッちゃん」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
あまがえるは珍(めず)らしいものですから、ぞろぞろ店の中へはいって行きました。
カイロ団長 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
引越し当座は、村の者も東京人(とうきょうじん)珍(めず)らしいので、妻なぞ出かけると、女子供(おんなこども)が
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
これくらいの意味変化は方言には珍(めず)らしくない。そうしても一旦(いったん)耳に馴れた古い語形は棄(す)ててしまわぬのである。
鳳仙花の実がひとりで飛んで繁殖するということは、幼ない観察者にも珍(めず)らしい現象であったと思う。