烏瓜からすうり)” の例文
松やもっこくやの庭木を愛するのがファシストならば、つたや藤やまた朝貌あさがお烏瓜からすうりのような蔓草を愛するのがリベラリストかもしれない。
KからQまで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
庭の隅に取り忘れられた石榴ざくろの実や藪の中なる烏瓜からすうり、または植込のかげの梔子くちなしの実に、冬の夕陽の反映を賞するのも十二月である。
写況雑記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
竹むらにからまる烏瓜からすうりをつつきに来るからす、縁側の上まで寄って来る雀、庭木の細かい枝をくぐるひわ四十雀しじゅうからの姿も目に止った。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
秋の更けたことは、あたりの草陰に真っ赤な烏瓜からすうりだの草紅葉くさもみじをみても知れる——。やがて、山の彼方むこうは、霜にもなろうに——と考えられたりする。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、女の頭髪かみのけの乱れたようなつたなどが下っているところもあった。赤い、烏瓜からすうりの吊下っているところもあった。
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「何でもない。これは白山千鳥の根と烏瓜からすうりを粉末にして、外に二つ三つの薬味を併せたただの痛み止めですよ」
塀の中から立ち上った大きな欅の樹に、二つ三つ赤い実をつけた烏瓜からすうりからみ上って、風に吹かれて揺れている。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
兩側りやうがは大藪おほやぶがあるから、ぞくくらがりざかとなへるぐらゐたけそらとざして眞暗まつくらなかから、烏瓜からすうりはな一面いちめんに、しろほしのやうなはなびらいて、東雲しのゝめいろさつす。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今日誤ってもいだ烏瓜からすうりって細君が鶴子の為に瓜燈籠うりどうろうをつくり、帆かけ舟をって縁につり下げ、しば/\風に吹きされながら、小さな蝋燭をともした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのまん中をもう烏瓜からすうりのあかりもない川が、わずかに音をたてて灰いろにしずかに流れていたのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
私もなあ、この通り年は寄るし、弱くはなるし、たとえて見るなら丁度干乾ひからびた烏瓜からすうりだ——その烏瓜が細い生命いのちつるをたよりにしてからに、お前という枝に懸っている。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
烏瓜からすうりせんじて飲んで見た事もある。鼠の尿いばりを鼻へなすって見た事もある。しかし何をどうしても、鼻は依然として、五六寸の長さをぶらりと唇の上にぶら下げているではないか。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あくる朝、私が行って見ると、梯子は根下ねもとから見事に折れて、その隣の垣を倒していた。その垣には烏瓜からすうりが真赤に熟して、つるや葉がからみ合ったままで、長い梯子と共によこたわっていた。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と昔は種々いろ/\のものを持って往ったもので、小さい軽石が有りまして朴木炭ほうのきずみ糠袋ぬかぶくろの大きいのが一つ、小さいのが一つ、其の中に昔はうぐいすふん、また烏瓜からすうりなどを入れたものでございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
夏の夕暮れ、ややほの暗くなるころに、月見草や烏瓜からすうりの花がはらはらと花びらを開くのは、我々の見なれていることである。しかしそれがいかに不思議な現象であるかは気づかないでいる。
寺田寅彦 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
土橋どばしに白き烏瓜からすうり
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
大きながいくつとなくとんで来て垣根の烏瓜からすうりの花をせせる。やはり夜の神秘な感じは夏の夜に尽きるようである。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのまん中をもう烏瓜からすうりのあかりもない川が、わずかに音をたててはいいろにしずかにながれていたのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
たなしてかくるとにもあらず、夕顏ゆふがほのつる西家せいかひさしひ、烏瓜からすうりはなほの/″\と東家とうかかききりきぬ。ひてわれもとむるにはあらず、やぶにはうぐひするゝときぞ。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
細君が鶴子の為に母屋おもやの小さな床に茄子馬なすうまをかざり、黒い喪章もしょうをつけたおもちゃの国旗をかざり、ほおずきやら烏瓜からすうりやら小さな栗やら色々供物くもつをならべて、于蘭盆うらぼんの遊びをさせた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あくる朝、私が行ってみると、梯子は根もとから見事に折れて、その隣りの垣を倒していた。その頃には烏瓜からすうりが真っ赤に熟して、つるや葉がからみ合ったままで、長い梯子と共に横たわっていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
庭木に烏瓜からすうりの下つたのは鋳物師いもじ香取秀真かとりほづまの家。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
壁天井かべてんじやうすゝのたゞくろなかに、かへつてあざやかである。このむねにかゝるつたはいちはやくもみぢしよう。この背戸せど烏瓜からすうりさきんじていろめよう。東京とうきやうはるかに、いへとほい。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それはこんやの星祭ほしまつりに青いあかりをこしらえて川へなが烏瓜からすうりりに行く相談そうだんらしかったのです。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
二十年前の我家のすぐ隣りは叔父の屋敷、従兄いとこの信さんのうちであった。裏畑の竹藪の中の小径から我家と往来が出来て、垣の向うから熟柿が覗けばこちらから烏瓜からすうりが笑う。
森の絵 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それはこんやの星祭に青いあかりをこしらえて川へ流す烏瓜からすうりを取りに行く相談らしかったのです。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
今年は庭の烏瓜からすうりがずいぶん勢いよく繁殖した。中庭の目垣めがき薔薇ばらにからみ、それから更につるを延ばして手近なさんごの樹を侵略し、いつの間にかとうとう樹冠の全部を占領した。
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
烏瓜からすうり、夕顔などは分けても知己ちかづきだろうのに、はじめて咲いた月見草の黄色な花が可恐こわいらしい……可哀相かわいそうだから植替うえかえようかと、言ううちに、四日めの夕暮頃から、っと出て来た。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
草の中には、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、ある葉は青くすかし出され、ジョバンニは、さっきみんなの持って行った烏瓜からすうりのあかりのようだとも思いました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一つ腰をして、つえがわりの繻子張しゅすばり蝙蝠傘こうもりがさの柄に、何の禁厭まじないやら烏瓜からすうり真赤まっかな実、あい萌黄もえぎとも五つばかり、つるながらぶらりと提げて、コツンといて、面長で、人柄な、あごの細いのが
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この四つ目垣には野生の白薔薇をからませてあるが、夏が来ると、これに一面に朝顔や花豆をわせる。その上に自然に生える烏瓜からすうりからんで、ほとんど隙間のないくらいに色々の葉が密生する。
小さな出来事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
草の中には、ぴかぴか青びかりを出す小さな虫もいて、あるは青くすかし出され、ジョバンニは、さっきみんなのって行った烏瓜からすうりのあかりのようだとも思いました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さては婆さんに試されたか、と一旦いったんは存じましたが、こう笠を傾けて遠くから覗込のぞきこみました、勝手口の戸からかけて、棟へ、高く烏瓜からすうりの一杯にからんだ工合ぐあいが、何様、何ヶ月も閉切しめきりらしい。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうそう、まだ明るくならないうちにね、谷の上の方をまっ赤な火がちらちらちらちら通って行くんだ。ならの木や樺の木が火にすかし出されてまるで烏瓜からすうり燈籠とうろうのように見えたぜ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
烏瓜からすうりでございます。下闇したやみで暗がりでありますから、日中から、一杯咲きます。——あすこは、いくらでも、ごんごんごまがございますでな。貴方あなたは何とかおっしゃいましたな、スズメの蝋燭ろうそく。」
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
沓脱くつぬぎをつかつかと、真白い跣足はだしで背戸へ出ると、母屋の羽目はめを、軒へ掛けて、森のようにからんだ烏瓜からすうりつる手繰たぐって、一束ひとつかねずるずると引きながら、浅茅生あさぢうの露に膝をうずめて、せなから袖をぐるぐると
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柏の木の烏瓜からすうりランタン
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)