なんだ)” の例文
少女は驚き感ぜしさま見えて、余が辞別わかれのためにいだしたる手をくちびるにあてたるが、はらはらと落つる熱きなんだをわが手のそびらそそぎつ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
『ボズさん!』とぼくおもはず涙聲なみだごゑんだ。きみ狂氣きちがひ眞似まねをするとたまふか。ぼくじつ滿眼まんがんなんだつるにかした。(畧)
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
かざす扇の利剣に添えて、水のような袖をあて、顔を隠したその風情。人は声なくして、ただ、ちりちりと、蝋燭ろうそくなんだ白く散る。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
驚きたる武男は、浪子の遺書を持ちたるまま、なんだを払ってふりかえりつつ、あたかも墓門に立ちたる片岡中将と顔見合わしたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
『いや、分かっている、殿は、何もいわれぬが、いわぬお心を、おれはむのだ。おれは、こよいの御酒を、なんだなしには、いただけぬわい』
取寄とりよせ忠八に渡し此品にて候と云にぞ忠八手に取て一目見に黒地くろぢに金にて丸に三ツ引のもんちらし紛ふ方なき主人喜内が常に腰に提られし印籠なれば思ずなんだ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この凄じき厳冬の日、姪の墓前になんだをそそぎし我は、あくる今年の長閑のどかに静なる暮春のこのゆうべ、更にここに来りて父の墓にこくせんとは、人事畢竟ひっきょう夢の如し。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
れでわたくし反應はんおうしてゐます。すなはち疼痛とうつうたいしては、絶※ぜつけうと、なんだとをもつこたへ、虚僞きよぎたいしては憤懣ふんまんもつて、陋劣ろうれつたいしては厭惡えんをじやうもつこたへてゐるです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
季弟きてい孝友こうゆうまたとらえられてまさりくせられんとす。孝孺之を目してなんだ下りければ、流石さすがは正学の弟なりけり
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雪江さんはげんここに至って感にえざるもののごとく、潸然さんぜんとして一掬いっきくなんだを紫のはかまの上に落した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
燭台の蝋燭ろうそくは心が長く燃え出し、油煙が黒く上ッて、ともしびは暗し数行虞氏すうこうぐしなんだという風情だ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
もはや一週間内にて、死する身なれば、この胸中に思うだけをば、遺憾いかんなく言いのこし置かんとの覚悟にて、かの書翰しょかんしたためしなれば、義気ぎきある人、なんだある人もしこれを読まば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
いよ/\蓮太郎が身の素性を自白して、多くの校友に別離わかれを告げて行く時、この講師の為に同情おもひやりなんだを流すものは一人もなかつた。蓮太郎は師範校の門を出て、『学問の為の学問』を捨てたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
されどなんだ笑聲せうせいまどひを脱し、萬象ばんしやう
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
燈火ともしびは暗し数行虞氏すうこうぐしなんだ——
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
念願せちになんだたる
(旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
なんだこほ威海湾ゐかいわん
寡婦の除夜 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
少女は驚き感ぜしさま見えて、余が辞別わかれのためにいだしたる手を唇にあてたるが、はら/\と落つる熱きなんだを我手のそびらそゝぎつ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
打ちうなずきて、武男はひそかになんだをふり落としつつ双眼鏡をあげたり。月白うして黄海、物のさえぎるなし。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
然れども思え、いたずらに哭してどうして、墓前の花にそそぎ尽したる我が千行せんこうなんだ、果して慈父が泉下の心にかなうべきか、いわゆる「父の菩提ぼだい」をとむらい得べきか。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
恐怖おそれと、なんだと、えみとは、ただその深く差俯向さしうつむいて、眉も目も、房々した前髪に隠れながら、ほとんど、顔のように見えた真向いの島田のびんに包まれて、かんざしの穂にあらわるる。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとしおひとに譲らねば人間ひとらしくもないものになる、ああ弟とは辛いものじゃと、みちも見分かで屈托のまなこなんだに曇りつつ、とぼとぼとして何一ツ愉快たのしみもなきわが家の方に
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
語り来りて彼は随喜ずいきなんだむせび、これも俳優となりたるおかげなりと誇り顔なり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
思いそこにいたると、さんぜんと、なんだなきを得ないのであった。
されどなんだ笑声しようせいまどひを脱し、万象ばんしよう
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
熱いなんだは其顔を伝つて流れ落ちた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
念願せちになんだたる。
(旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
「ああ琴をひいている……」と思えばしんの臓をむしらるる心地ここちして、武男はしばし門外になんだをぬぐいぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
聞き兼ねけんとすゐするまゝ、思ひ入りて擦る数珠の音の声澄みて、とふたゝび言へば後は言はせず、君にて御坐せしよ、こはいかに、となんだに顫ふおろ/\声、言葉の文もしどろもどろに
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
昌黎しやうれいものいふことあたはず、なんだくだる。韓湘かんしやういはく、いまきみ花間くわかん文字もんじれりや。昌黎しやうれい默然もくねんたり。ときおくれたる從者じゆうしやからうじていたる。昌黎しやうれいかへりみて、うていはく、何處いづこぞ。藍關らんくわんにてさふらふ
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こいねがわくは世の兄弟姉妹よ、血ありなんだあらば、来りてこれを賛助せられん事を。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
蘭花らんかまぶたは恩人に会ってなんだ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嗚呼弟とは辛いものぢやと、路も見分かで屈托のまなこなんだに曇りつゝ、とぼ/\として何一ツ愉快たのしみもなき我家の方に、糸で曳かるゝ木偶でくのやうに我を忘れて行く途中、此馬鹿野郎発狂漢きちがひ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
にべもなく、虞氏ぐしなんだしりぞけて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
われ清吉を突き放さば身は腰弱弓のつるれられし心地して、在るに甲斐なき生命いのちながらえんに張りもなく的もなくなり、どれほどか悲しみ歎いて多くもあらぬ余生を愚痴のなんだ時雨しぐれに暮らし
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)