あん)” の例文
あんずるにこれは、深海の魚が、盲目になったのと同じ事である。日本人の耳は昔から、油を塗ったびんの後に、ずっと姿を隠して来た。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あんずるに桔梗の方は、河内介の「任侠過ぎる申し出で」を、筑摩家に取って代ろうとする彼の野心に基くものと解釈したのであろう。
などといろいろあんじてみたが、元弘三年五月という月ほど、歴史的事件がかさなった月はない。つまり天下一変の革命月であったのだ。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あんずるに日本橋の上へは、困った浪花節の大高源吾が臆面おくめんもなくあらわれるのであるが、いまだ幸に西河岸へ定九郎の出た唄を聞かぬ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土蔵から、その財産を取り出して来てくれる間のこと、田山白雲は、地図をあんじて、追手搦手おうてからめての二つの戦略を考えはじめました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あんずるに諺に曰く、遠くて近きは男女の仲、近くて遠いは、嫁舅よめしゅうとの仲、遠くて遠いが唐、天竺、近うて近いが、目、鼻、口」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
枕山が妻を迎えたのは『松塘詩鈔』についてあんずるに弘化三年の冬にあらざればこの年四年の春であろう。新婦は和歌を善くしたらしい。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ひそかあんずるに日本の耶蘇教も西洋の仏法も、その性質は同一なれども、野蛮の国土に行なわるればおのずから殺伐の気を促し
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いささか憮然ぶぜんたる面持ちで、左膳は、ひだりの膝がしらに引きつけた長刀ちょうとう相模大進坊さがみだいしんぼうの柄をあんじて、うすきみのわるい含み笑いをしました。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのうちにわびしておくべしといへど、福一かしらをたれものをあんずるさまなりしが、やがて兎角とかくにむかひ、うた一首いつしゆよみ候かきて玉はれといふ。
「われ、まず鍼灸しんきゅうをもって汝を殺さん」といいて狐憑き者を捕らえ、その腹をあんじて塊あらば、そこに鍼灸せんに
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ややもすれば上に偶語ぐうごし、剣をあんじてその君主に迫らんとしたる勇夫健卒も、何時いつの間にやら君臣の大義に支配せられ、従順なる良臣となりおわれり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
あんずるに——と彼らの行路を説明する阿賀妻であった、——北西の海から吹きあげる冷気を間断なく防いでいる屏風びょうぶのごとき山つづきになやまされたのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
この前書によってあんずるに、二人が突然やって来たので、いささかもてなしのため、夜話のとぎにするような意味で、かき餅でも焼こうといったのであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
かつ先例をあんずるに、歯科医佐藤春益しゅんえきの子は、単に幼くして家督したために、平士へいしにせられている。いわんや成善は分明ぶんめいに儒職にさえ就いているのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
史をあんじて兵馬の事を記す、筆墨もまたみたり。燕王えんおう事を挙げてより四年、ついその志を得たり。天意か、人望か、すうか、いきおいか、将又はたまた理のまさしかるべきものあるか。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
獣の毛もまじりたりしとかや、あんずるに是は狒々と称するものにて、山丈とは異なるなるべし
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
太平記をあんずるに、義貞よしさだのため一敗地にまみれ、この寺を枕に割腹焼亡した一族主従は、相模さがみ入道高時たかときを頭にべて八百七十余人、「血は流れて大地にあふれ、満々として洪河のごとく」
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
だがあんじたほどのことはなかった。はいっていった加平かへいは、そこにねそべって忍術本にんじゅつぼんを読んでいたやあ公と話し出したのである。みればやあ公はいつもの、あの心安いやあ公である。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
あんずるに、耶蘇ヤソ教の人は古来この日をもって教祖蘇生の日となせり。しかれども、元ヘーデン宗の人ママ陽を神なりとして、これを祭祀するの日となせしをもって名称の起るところとす。
日曜日之説 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
熊楠あんずるに、チゲタイわかい時、虎条あること花驢に同じければ、拠って以て鹿蜀を作り出したものか。『駢雅』など後世の書に出たは、多少アフリカの花驢を見聞して書いたのだろう。
そしてそれっきり、どんなに燧石を叩いても曾古津神の声は聞こえなくなった、あんずるに曾古津様は禁を犯して人間に万能の力を与えたため、神界の法律によってしかるべく処置されたのであろう。
剣をあんじたもの……殊に精巧なのは、四番目の仮装であった。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
弾正太夫はかっと怒るや、太刀をあんじて立ち上がった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「悲哀」のきんの絲のを、ゆしあんずるぞ無益むやくなる。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
それつらつらいろは四十七文字をあんずるに
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
つらつらあんずるにわが俳諧修業は「ホトトギス」の厄介にもなれば、「海紅かいこう」の世話にもなり、宛然ゑんぜんたる五目流ごもくりうの早じこみと言ふべし。
わが俳諧修業 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
床几しょうぎを、展望のよい、頃合な所に置かせて、そこから味方の善照寺の砦、中島の砦、鷲津、丸根のるいなどを、地形的に頻りとあんじ顔に
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陽城公がみことのりに答えていうのは……臣、六典ノ書ヲあんズルニ、任土ハヲ貢シテヲ貢セズ、道州ノ水土生ズル所ノ者
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
事の起因おこりあんずるに、去年秋雨の降くらす、奥の座敷に、女ばかり総勢九人、しかも二組になって御法度の花骨牌はながるた。軒の玉水しとしとと鳴る時、格子戸がらり。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卒爾そつじの一句を漏らしたが、後はしばらく無言になった。眼は半眼になって終った。然しまだ苦んだ顔にはならぬ、碁の手でもあんずるような沈んだのみの顔であった。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あんずるに此頃に至るまでは、金澤三右衞門は丹後と稱せずして越後と稱したのではなからうか。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
あんずるに春琴の稽古振りが鞭撻のいきを通りして往々意地の悪い折檻せっかんに発展し嗜虐しぎゃく色彩しきさいをまで帯びるに至ったのは幾分か名人意識も手伝っていたのであろうすなわちそれを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あんずるに結城の藩中は維新の際佐幕と勤王との両派に分れ、時の藩主水野勝知かつともは二本松の城主丹羽氏より出でたもので、上野の彰義隊と気脈を通じて結城の城に拠ろうとした時
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あるいは「ひそかに門隙もんげきよりこれをうかがえば、すなわち灯下に座せる一無頭婦人、一手は首を膝の上にあんじ、一手はくしを持ってその髪をけずる。二目炯々けいけいとしてただちに門隙を見る」
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
あんずるにいにしえは麦・稲の穂をくに、二つの小管こくだなわを通してつなぎ、これを握り持ちはさみて穂を扱きしなり、秋収の時に至れば、近隣の賤婦せんぷ孀婆そうば是が為にやとはれ、もっくことを得たり。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しこうして我邦においても、近藤守重は(寛政十年)、択捉えとろふ島に渡り、大日本国領の標柱を建て、間宮林蔵は(文化五年)、樺太を探験し、独身満州に入り、黒竜江畔の形勢をあんじて帰り
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
農家の人々から見たら、あるいは平凡な事柄であるかも知れぬが、こういう句は机上種浸の題をあんじただけで拈出ねんしゅつし得るものではない。実感よりきたった、たくまざるところに妙味がある。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
... へてつもりしこしみづうみ五月雨山さみだれやまの森のしづくか」▲柿崎かきざき(頸城郡にある駅也) 親鸞聖人しんらんしやうにんよみ玉ひしとて口碑こうひつたへし哥に「柿崎にしぶ/\宿やどをもとめしにあるじの心じゆくしなりけり」あんずるに
それから『和漢三才図会』に〈あんずるに秀郷の勇、人皆識るところなり、三上山蜈蚣あるべし、湖中竜住むべし、しかして十種宝物我が国中世用の器財なり、知らず海底またこれを用うるか
あんずるにこの書生は日本に生まれていまだ十分に日本語を用いたることなき男ならん。国の言葉はその国に事物の繁多なる割合に従いて、しだいに増加し、ごうも不自由なきはずのものなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「悲哀」のきんの糸のを、ゆしあんずるぞ無益むやくなる。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
あんずるに無条件の美人を認めるのは近代人の面目めんもくかかわるらしい。だから保吉もこのお嬢さんに「しかし」と云う条件を加えるのである。
お時儀 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
(よしおれは、剣をもって、自己の人間完成へよじ登るのみでなく、この道をもって、治民をあんじ、経国のもとを示してみせよう)
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地誌をあんずるに、摩耶山は武庫郡むこごおり六甲山の西南に当りて、雲白くそびえたる峰の名なり。山の蔭に滝谷たきだにありて、布引ぬのびきの滝の源というも風情なるかな。上るに三条みすじみちあり。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あんずるに、牡鹿城没落の端緒が此の一向衆いっこうしゅうとの争いに発したことは正史の記す通りであろう。
剣をあんじて右におもむきて曰く、諸君うらくはつとめよ、昔漢高かんこうは十たび戦って九たび敗れぬれどついに天下を有したり、今事を挙げてよりしきりかちを得たるに、小挫しょうざしてすなわち帰らば
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
... へてつもりしこしみづうみ五月雨山さみだれやまの森のしづくか」▲柿崎かきざき(頸城郡にある駅也) 親鸞聖人しんらんしやうにんよみ玉ひしとて口碑こうひつたへし哥に「柿崎にしぶ/\宿やどをもとめしにあるじの心じゆくしなりけり」あんずるに
〔凝リテ花ヲ成サザルハ霿淞ニ異ナリ/著来シテ物物おのオノ容ヲ異ニス/柳条ハ脆滑ニシテ蓴油ノゴトクなめラカナリ/松葉ハ晶瑩ニシテ蛛網ノゴトクヅ/氷柱四檐繖角ニ垂レ/真珠万点裘茸ニ結ブ/詩人何ゾ管セン休徴ノ事/奇景ノアタリニ驚ク老イニ至リテ逢フトハ〕あんズルニ曾南豊そうなんほうノ集中ニ霿淞むしょうノ詩アリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あんずるにその堂みたいなものは、昔、武田衆が武相乱入の折に人馬千魂のとむらいをしたという経塚きょうづか名残なごりであるかも知れません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)