せつ)” の例文
和漢蘭法、三徳具備、高徳無双のせつがついていやすから、そういう過ちの無いように、隅から、隅まで、ずいとおたのみ申し上げ奉ります
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
敬太郎は真面目まじめになって松本恒三様の五字をながめたが、ふとったしまりのない書体で、この人がこんな字を書くかと思うほどせつらしくできていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その席へ幇間ほうかんが一人やって来て言うことには、ただいませつは、途中で結構なお煙草入の落ちていたのを見て参りました、金唐革きんからかわ珊瑚珠さんごじゅ緒〆おじめ
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
両君の来意は近年いたずらせつを養うにのみつとめているわたしを激励して、小説に筆を執らしめんとするにあったらしい。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は大いに恐縮しながら、どうも客を遇する事は、隣国の君子に比べると、日本人が一番せつらしいと思った。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
勿論もちろん、描いた人物を判然はっきり浮出うきださせようとして、この彩色さいしょく塗潰ぬりつぶすのは、の手段に取って、か、か、こうか、せつか、それは菜の花のあずかり知るところでない。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顧みるに妾ら学浅く、才せつなり、加うるに微力なすあるに足らず、しかしてなおこの大事を企つるは、誠に一片の衷情ちゅうじょう禁ぜんとして禁ずるあたわざるものあればなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
今や余の魂は飛びはらわたは断たんとす、せめてはこの奇怪事を人間世界に知らしめんとて、余はおぼつかなくも鉛筆を取り出し、数葉の黄紙にこの事を記す、余の文はせつなり
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
と内心、いささか安んじたり、また謙信の用兵のせつを、わらっていたりしていたところである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨夜は岩三郎の次に梯子を降りたに間違いなく、突いた傷は背中でなくて——せつは人殺しの疑いだけは受けずに済むわけでへッへッ——などと、ヌケヌケしたことを言います。
銭形平次捕物控:245 春宵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「いや、せつはさようなことは考えませぬ。拙は文学道のためにのみ筆をとります。」
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そういう中川べりに遊行ゆぎょうしたり寝転んだりしてうおを釣ったり、魚の来ぬ時はせつな歌の一句半句でも釣り得てから帰って、美しいうまい軽微の疲労から誘われる淡い清らな夢に入ることが
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
せつの愚案はそうではげえせん、何んの佐野まで参りましょう、アノ待ち合いの蜂龍ほうりゅうへしけ込み、セイエイ連の綺麗どころを召し、小万ちゃんというのが気に入って、そうでげすな、お芝居話
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
無学にして発表にせつなる一平信徒ひらしんとの信仰かえって福音の中心的生命に触る。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
せつ此程このほどより所労しょろう平臥中へいがちゅう、筆をるにものうく、らん蒙御海容度ごかいようをこうむりたくそうろう
そしてこれを横井の手に成れりとせむには、余りにせつである。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
巧を求むるなかれ、せつおおふ莫れ、他人に恥かしがる莫れ。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「これに控えおりますせつの姪儀、いやはや奇妙不可思議の御縁により、計らずも、今般、岡田小藤次利武殿の御見出しにあずかり奉り——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
咄嗟とつさに辨ずる手際がない爲めに、やむず省略の捷徑せふけいを棄てゝ、几帳面な塗抹主義を根氣に實行したとすれば、せつの一字は何うしても免れ難い。
子規の画 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
何しろお嬢様もたよりのないお身の上で、金助さん頼みますとおっしゃるものですから、せつの気象で、ちょっとばっかりお力になって上げたまでのことですよ。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「はい。せつなどの医道のほうも、お武家さまの武者修業と同じことで、こうして諸国を遍歴いたしまして、変った脈をとらせていただきますのが、これが、何よりの開発でござりましてな——。」
口笛を吹く武士 (新字新仮名) / 林不忘(著)
せつが、と拔衣紋ぬきえもんつて、オホン、とひざをついとでて、る。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「四万とは号するものの、敵の布陣のせつ
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
広沢こうたくをして日本の能書のうしょならしめば、われはすなわち漢人のせつなるものと云うたのは、徂徠だったかな、和尚さん」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
せつが神奈川の神風楼しんぷうろうについて実地に調べてみたところによると、その跡かたはくうをつかむ如し、あれは何かためにするところのある奴がこしらえた小説でげす。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ああせつなる哉、浅井朝倉の
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平安な時あらゆる人に絶えず附けまとはる自己広告の衒気げんきほとんど意識にのぼる権威を失つてゐる。従つて艇長の声はもつとも苦しき声である。又もつとせつな声である。
艇長の遺書と中佐の詩 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
せつのお出入りの旦那に三一小僧さんぴんこぞうというのがござりやして、その旦那が近頃、和歌に凝り出したと思召おぼしめせ」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、そのせつを嘲笑った。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せつが一ぺん古榎ふるえのきになった事がありやす、ところへ源兵衛村の作蔵さくぞうと云う若いしゅが首をくくりに来やした……」
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこはせつが一通り心得ていやすから、失礼ながら殿様には、拙のすところを見よう見真似みまねに遊ばしませ。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「何たるせつ!」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芝居好きと不好ぶすきとにかかわらず、見逃してはならないものでげす……もっとも、ここに来ている海老蔵様は何代目だか、そこんところはせつにもよくわかりませんよ
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この点において主人はむしろせつな部類に属すると云ってよろしい。拙だから珍重されない。珍重されないから、内部の冷淡を存外隠すところもなく発表している。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
北側にとこがあるので、申訳のために変なじくを掛けて、その前に朱泥しゅでいの色をしたせつ花活はないけが飾ってある。欄間らんまにはがくも何もない。ただ真鍮しんちゅう折釘おれくぎだけが二本光っている。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「まあ、そうおっしゃらずにお聞き下さいましな、せつがこの羽織をいただくまでには、涙のにじむような物語があるんでございますよ、あだやおろかの話じゃございません」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なるほど達磨の画が小さいとこに掛っている。しかし画としてはすこぶるまずいものだ。ただ俗気ぞっきがない。せつおおおうとつとめているところが一つもない。無邪気な画だ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「こりゃ驚きましたねえ、なんぼせつが仙公にしたところで、おちなさるのはひどうげすな」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
広瀬中佐の詩に至つてはがうも以上の条件をそなへてゐない。やむを得ずしてせつな詩を作つたと云ふ痕跡はなくつて、やむを得るにもかゝはらず俗な句を並べたといふ疑ひがある。
艇長の遺書と中佐の詩 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
先生様は御番料ごばんりょうを千俵もいただく御典医で、せつ蔵前くらまえの旦那衆というようなかおをしたって誰もとがめる者はござんせん、ワザワザ十八文と書いて、暗闇の恥を明るみへ出さずとも……
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その婆化されようと云う作蔵君の御注文に応じてせつがちょっと婆化ばかして上げたまでの事でげす。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
せつも近ごろ改名を致したいと、こう考えておりやすんでげすが、いかがなもんでげしょう、金助ってのは、少しイキがよすぎて、気がさすんでげす——河岸かしの若い者か、大部屋の兄いでげすと
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
子規は人間として、又文學者として、最も「せつ」の缺乏した男であつた。永年ながねん彼と交際をしたの月にも、の日にも、余は未だ曾て彼のせつを笑ひ得るの機會をとらたたためしがない。
子規の画 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
せつもこれでかなりの色男でゲス、というような見得みえをきるものだから
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこへ、べにだか白だか要領を得ぬ花が安閑あんかんと咲く。やわらかい葉さえちらちら着ける。評して見ると木瓜は花のうちで、おろかにしてさとったものであろう。世間にはせつを守ると云う人がある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
せつ冷汗ひやあせをおかかせなさるには当るまいじゃあございませんか。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
代助は中に這入っていた小切手を引き抜いて、手紙だけをもう一遍よく読み直した上、丁寧に元の如くに巻き収めて、無言の感謝を改めてあによめに致した。梅子よりと書いた字はむしせつであった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さうしてその文のせつなれば拙なる丈まことの反射として意を安んずるのである。
艇長の遺書と中佐の詩 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
北側きたがはとこがあるので、申譯まをしわけためへんぢくけて、其前そのまへ朱泥しゆでいいろをしたせつ花活はないけかざつてある。欄間らんまにはがくなにもない。たゞ眞鍮しんちゆう折釘丈をれくぎだけが二ほんひかつてゐる。其他そのたには硝子戸がらすどつた書棚しよだなひとつある。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
隱し切れないせつあふれてゐると思ふと答へた。
子規の画 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)