)” の例文
母の取りて与うるものをばことごとくげうちしが、机の上なりし襁褓むつきを与えたるとき、探りみて顔に押しあて、涙を流して泣きぬ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そういったこの男の言葉は、いつわりがなかった。自分でげこんで置いて、自分で助けたんだから、礼をされる筋合すじあいはない筈だった。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
煙と火とを固めて空にげつける。石と石とをぶっつけ合せていなづまを起す。百万の雷を集めて、地面をぐらぐら云はせてやる。
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
福沢翁には吾人、「純然たる時代の驕児けうじ」なる名称を呈するをはゞからず。彼は旧世界に生れながら、徹頭徹尾、旧世界をげたる人なり。
姫は夜の闇にもほのかに映るおもかげをたどって、うずくような体をひたむきにす。行手ゆくてに認められるのは光明であり、理想である。
呟くように言葉をげつけて、小太郎を睨むと——膝をついてしまった。そして、左手を、土の上へついて、大きい息を、肩でしながら
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
これが石油を襤褸ぼろまして、火を着けて、下からほうげたところですと、市川君はわざわざくずれた土饅頭どまんじゅうの上まで降りて来た。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その後姿うしろでに、ゆらすとみえた、紫煙シガアのけむの一片。それが白い。ぽんと、げすてられたその殻。地におちて、なほいぶる余燼。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
来会の途で、ちょうど寺院から帰る子供に逢うごとに、ののしられ石をげられた。一夕試みに会処を移したが、時刻をたがえず犬がその家へ来た。
ええげようかと云うかとおもえば、どうしてくりょうと腹立つ様子を傍にてお吉の見る辛さ、問い慰めんと口をいだせば黙っていよとやりこめられ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
母の涙の紀念かたみとして肌身はだみ離さず持っていたわずかの金を惜しげもなくげ出して入社した三崎町の苦学社を逃げ出して再び下谷の伯母の家に駆け込んだ時は
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
命の綱にしっかりとつかまえて見ていた、そうして立ちすくむ足を踏みめて、空を仰ぐと、頭上には隆々たる大岩壁が、甲鉄のように、凝固した波を空にげ上げ
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
言い合せたように忽ち荷物を其処にげ出すと、大声に喚きながら、鹿に向って突進した。
鹿の印象 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「さあ、それが愚痴ぐちと云うものじゃ。北条丸ほうじょうまるの沈んだのも、ぎんの皆倒れたのも、——」
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鎔岩ようがん種々しゆ/″\形體けいたいとなつて噴出ふんしゆつせられる。火山灰かざんばひほかに、大小だいしよう破片はへんされる。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
こせこせしたものは一切げ捨ててしまえ、生れたてのほやほやの人間になってしまえ。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その様に易々やすやすかなう願いである丈けに、廣介にとっては、一層苦しく悩ましく、一夜ののちにどの様な恐しい破綻はたんが起ろうとも、身も心も、彼の終生の夢さえも、彼女の前にげ出して
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ハツバス・ダアダアはこれを憎みてあはれさいはひの神は、すぐなる「ピニヨロ」の木を顧みで、珠を朽木にげ與へしよなどいひぬ。ベルナルドオは羅馬の議官セナトオレおひにて、その家富みさかえたればなるべし。
遠く四八唐土もろこしにわたり給ひ、あの国にて四九でさせ給ふ事おはして、此の五〇のとどまる所、我が道をぐる霊地れいちなりとて、杳冥そらにむかひてげさせ給ふが、五一はた此の山にとどまりぬる。
鉄棒根性をげすてた友情があった。
けむりと火とを固めて空にげつける。石と石とをぶっつけ合せていなずまを起す。百万の雷を集めて、地面をぐらぐら云わせてやる。
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この帝都の惨状を、振りかえっては、あまりにも無力だった帝都の空の護りへの落胆らくたんを、その飛行隊の機影に向ってげつけたのだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
前の方は非我の事相のうちに愛を認めて、これを描出びょうしゅつするので、後の方は我の愛を認めたる上、これを非我の世界にげ出すのであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
毛をかるる際しばしばその脚の端蹄のうしろちょうど人の腕にあたる処へその絆に付けた木丸きだまはさみ、後向きに強くげて馬卒にてたものあり
いかにってげ出したような性質もちまえがさする返答なればとて、十兵衛厭でござりまするとはあまりなる挨拶あいさつひと情愛なさけのまるでわからぬ土人形でもこうは云うまじきを
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
軽々しくも夙少わかくして政海の知己を得つ、交りを当年の健児に結びて、欝勃うつぼつ沈憂のあまり月をろうし、花を折り、遂には書をげ筆を投じて、一二の同盟と共に世塵を避けて
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
かつて桑港サンフランシスコの古本屋で見たその頃の石版画に、シャスタ火山が、虚空こくうげられた白炎のように、盛り上っている下を、二頭立ちの箱馬車が、のろくさといずって、箱の中には
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ずっとしけばかり続いたために、持ち船の北条丸ほうじょうまるは沈みますし、げ銀は皆倒れますし、——それやこれやの重なった揚句あげく、北条屋一家は分散のほかに、仕方のない羽目はめになってしまいました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、云って、町人の足下へ、ぽんと、げ出した。そして、四方の群集へ
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
純一は衝っ立ったままで、しばらく床を眺めていた。座布団なんと云う贅沢品ぜいたくひんは、この家では出さないので、帽をそこへげたまま、まだ据わらずにいたのである。布団は縞が分からない程よごれている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
二を引いて上から落ちて来た。まんじえがいて花火のごとく地に近く廻転した。最後に穂先を逆に返して帝座ていざの真中を貫けとばかりげ上げた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は、この男の帰還を待って、早速さっそく全世界覆滅ふくめつの毒瓦斯を発明する鬼として、全力をあげ全財産をげうって発明官と一緒にやるつもりです
皮か麻緒を編んだ長紐ながひもを付けたのをげて米駝鳥リーアなどにつると、たちまち紐が舞いからんで鳥が捕わる仕組みで、十六世紀に南米のガラニ人既にこれを用い
し損じたりとまた踏ん込んで打つを逃げつつ、げつくる釘箱才槌さいづち墨壺矩尺かねざし利器えもののなさに防ぐすべなく、身を翻えして退はずみに足を突っ込む道具箱、ぐざと踏みく五寸釘
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すると今まで静かに茶褐色の天鵞絨ビロードに包まれて、寝ていたかと思われる浅間山が、出し抜けに起き出してでも来るように、ドンドンと物をげ出す響きにつれて、紫陽花あじさいの大弁を
日本山岳景の特色 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
斉彬は、成瀬の方へ、スナイドル銃を、げるように、押し転がした。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
物をぐる真似しけるに、たちまちに飛去りぬ。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
計測掛が黒板に二十五秒七四と書いた。書き終つて、余りの白墨をむかふげて、此方こつちをむいた所を見ると野々宮さんであつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
古い由緒も、非常識な夫の手にかかっては、解剖のあとの屑骨くずぼねなどをげこんで置く地中の屑箱にしか過ぎなかった。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
王病といつわりその輩を召して毒殺し、その屍を湖にげ入れて安心し酒宴する席へ、夥しい鼠が死体から出て襲来した。王おそれて火で身を囲うと鼠ども火をくぐって付け入る。
そして飛ぶやうに背後うしろへ、るが如くに過ぎ失せてしまふのも一種の快味がある。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ともかく眼の前の大山を登った、石片が縦横にげ出されている、しかし石と石とは、漆喰しっくいにでもッつけられたようで動かない、いずれも苔がべッたり覆せてある、太古ながらの石の一片は
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
かたへにげて膝を立つれど
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
大将は草の上に突いていた弓を向うへげて、腰に釣るした棒のようなけんをするりと抜きかけた。それへ風になびいた篝火かがりびが横から吹きつけた。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
愛宕山あたごやまの上では、暗黒の中に、高射砲が鳴りつづいていた。照空灯が、水色の暈光うんこうをサッと上空にげると、そこには、必ず敵機の機翼きよくが光っていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何気なきていで遊戯に誘い入れ、普通本邦婦人が洗濯する体にうずくまらしめ、急に球をげると両手で受け留むる刹那せつなまたを開けば女子、股をせばむれば男子とは恐れ入ったろう。
同じ火の芸術の人で陶工とうこう愚斎ぐさいは、自分の作品をかまから取出す、火のための出来損じがもとより出来る、それは一々取ってはげ、取っては抛げ、大地へたたきつけて微塵みじんにしたと聞いています。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
生死以上の難関を互の間に控えて、羃然べきぜんたる爆発物がげ出されるか、抛げ出すか、動かざる二人の身体からだ二塊ふたかたまりほのおである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
破甲弾はこうだんはどことどことに落とすつもりか。焼夷弾しょういだんはどの位もって来て、どの辺の地区にげおとすのであろうか。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
和歌山近在、矢宮より出す守符は妙に蝮にく。蝮を見付けてこれをげ付くると、麻酔せしようで動く能わずというが、予尋常なみの紙を畳んで抛げ付けても、暫くは動かなんだ。