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抛
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な
ふりがな文庫
“
抛
(
な
)” の例文
母の取りて与うるものをばことごとく
抛
(
な
)
げうちしが、机の上なりし
襁褓
(
むつき
)
を与えたるとき、探りみて顔に押しあて、涙を流して泣きぬ。
舞姫
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
そういったこの男の言葉は、
偽
(
いつわ
)
りがなかった。自分で
抛
(
な
)
げこんで置いて、自分で助けたんだから、礼をされる
筋合
(
すじあい
)
はない筈だった。
東京要塞
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
煙と火とを固めて空に
抛
(
な
)
げつける。石と石とをぶっつけ合せていなづまを起す。百万の雷を集めて、地面をぐらぐら云はせてやる。
楢ノ木大学士の野宿
(新字旧仮名)
/
宮沢賢治
(著)
福沢翁には吾人、「純然たる時代の
驕児
(
けうじ
)
」なる名称を呈するを
憚
(
はゞか
)
らず。彼は旧世界に生れながら、徹頭徹尾、旧世界を
抛
(
な
)
げたる人なり。
明治文学管見:(日本文学史骨)
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
姫は夜の闇にもほのかに映る
俤
(
おもかげ
)
をたどって、
疼
(
うず
)
くような体をひたむきに
抛
(
な
)
げ
出
(
だ
)
す。
行手
(
ゆくて
)
に認められるのは光明であり、理想である。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
▼ もっと見る
呟くように言葉を
抛
(
な
)
げつけて、小太郎を睨むと——膝をついてしまった。そして、左手を、土の上へついて、大きい息を、肩でしながら
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
これが石油を
襤褸
(
ぼろ
)
に
浸
(
し
)
み
込
(
こ
)
まして、火を着けて、下から
放
(
ほう
)
り
抛
(
な
)
げたところですと、市川君はわざわざ
崩
(
くず
)
れた
土饅頭
(
どまんじゅう
)
の上まで降りて来た。
満韓ところどころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
その
後姿
(
うしろで
)
に、
薫
(
く
)
ゆらすとみえた、
紫煙
(
シガア
)
のけむの一片。それが白い。ぽんと、
抛
(
な
)
げすてられたその殻。地におちて、なほ
燻
(
いぶ
)
る余燼。
雪
(新字旧仮名)
/
高祖保
(著)
来会の途で、ちょうど寺院から帰る子供に逢うごとに、
罵
(
ののし
)
られ石を
抛
(
な
)
げられた。一夕試みに会処を移したが、時刻を
差
(
たが
)
えず犬がその家へ来た。
十二支考:09 犬に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
ええ
抛
(
な
)
げようかと云うかとおもえば、どうしてくりょうと腹立つ様子を傍にてお吉の見る辛さ、問い慰めんと口を
出
(
いだ
)
せば黙っていよとやりこめられ
五重塔
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
母の涙の
紀念
(
かたみ
)
として
肌身
(
はだみ
)
離さず持っていたわずかの金を惜しげもなく
抛
(
な
)
げ出して入社した三崎町の苦学社を逃げ出して再び下谷の伯母の家に駆け込んだ時は
駅夫日記
(新字新仮名)
/
白柳秀湖
(著)
命の綱にしっかりと
捉
(
つか
)
まえて見ていた、そうして立ちすくむ足を踏み
占
(
し
)
めて、空を仰ぐと、頭上には隆々たる大岩壁が、甲鉄のように、凝固した波を空に
抛
(
な
)
げ上げ
谷より峰へ峰より谷へ
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
言い合せたように忽ち荷物を其処に
抛
(
な
)
げ出すと、大声に喚きながら、鹿に向って突進した。
鹿の印象
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
「さあ、それが
愚痴
(
ぐち
)
と云うものじゃ。
北条丸
(
ほうじょうまる
)
の沈んだのも、
抛
(
な
)
げ
銀
(
ぎん
)
の皆倒れたのも、——」
報恩記
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
鎔岩
(
ようがん
)
は
種々
(
しゆ/″\
)
の
形體
(
けいたい
)
となつて
噴出
(
ふんしゆつ
)
せられる。
先
(
ま
)
づ
火山灰
(
かざんばひ
)
の
外
(
ほか
)
に、
大小
(
だいしよう
)
の
破片
(
はへん
)
が
抛
(
な
)
げ
出
(
だ
)
される。
火山の話
(旧字旧仮名)
/
今村明恒
(著)
こせこせしたものは一切
抛
(
な
)
げ捨ててしまえ、生れたてのほやほやの人間になってしまえ。
渾沌未分
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
その様に
易々
(
やすやす
)
と
叶
(
かな
)
う願いである丈けに、廣介にとっては、一層苦しく悩ましく、一夜の
後
(
のち
)
にどの様な恐しい
破綻
(
はたん
)
が起ろうとも、身も心も、彼の終生の夢さえも、彼女の前に
抛
(
な
)
げ出して
パノラマ島綺譚
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
ハツバス・ダアダアはこれを憎みてあはれ
福
(
さいはひ
)
の神は、
直
(
すぐ
)
なる「ピニヨロ」の木を顧みで、珠を朽木に
抛
(
な
)
げ與へしよ
抔
(
など
)
いひぬ。ベルナルドオは羅馬の
議官
(
セナトオレ
)
の
甥
(
おひ
)
にて、その家富みさかえたればなるべし。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
遠く
四八
唐土
(
もろこし
)
にわたり給ひ、あの国にて
四九
感
(
め
)
でさせ給ふ事おはして、此の
五〇
三
鈷
(
こ
)
のとどまる所、我が道を
揚
(
あ
)
ぐる
霊地
(
れいち
)
なりとて、
杳冥
(
そら
)
にむかひて
抛
(
な
)
げさせ給ふが、
五一
はた此の山にとどまりぬる。
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
鉄棒根性を
抛
(
な
)
げすてた友情があった。
われはうたえども やぶれかぶれ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
煙
(
けむり
)
と火とを固めて空に
抛
(
な
)
げつける。石と石とをぶっつけ合せていなずまを起す。百万の雷を集めて、地面をぐらぐら云わせてやる。
楢ノ木大学士の野宿
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
この帝都の惨状を、振りかえっては、あまりにも無力だった帝都の空の護りへの
落胆
(
らくたん
)
を、その飛行隊の機影に向って
抛
(
な
)
げつけたのだった。
空襲葬送曲
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
前の方は非我の事相のうちに愛を認めて、これを
描出
(
びょうしゅつ
)
するので、後の方は我の愛を認めたる上、これを非我の世界に
抛
(
な
)
げ出すのであります。
創作家の態度
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
毛を
梳
(
す
)
かるる際しばしばその脚の端蹄の
後
(
うしろ
)
ちょうど人の腕にあたる処へその絆に付けた
木丸
(
きだま
)
を
挟
(
はさ
)
み、後向きに強く
抛
(
な
)
げて馬卒に
中
(
あ
)
てたものあり
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
いかに
伐
(
き
)
って
抛
(
な
)
げ出したような
性質
(
もちまえ
)
がさする返答なればとて、十兵衛厭でござりまするとはあまりなる
挨拶
(
あいさつ
)
、
他
(
ひと
)
の
情愛
(
なさけ
)
のまるでわからぬ土人形でもこうは云うまじきを
五重塔
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
軽々しくも
夙少
(
わか
)
くして政海の知己を得つ、交りを当年の健児に結びて、
欝勃
(
うつぼつ
)
沈憂のあまり月を
弄
(
ろう
)
し、花を折り、遂には書を
抛
(
な
)
げ筆を投じて、一二の同盟と共に世塵を避けて
三日幻境
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
かつて
桑港
(
サンフランシスコ
)
の古本屋で見たその頃の石版画に、シャスタ火山が、
虚空
(
こくう
)
に
抛
(
な
)
げられた白炎のように、盛り上っている下を、二頭立ちの箱馬車が、のろくさと
這
(
は
)
いずって、箱の中には
火と氷のシャスタ山
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
ずっとしけばかり続いたために、持ち船の
北条丸
(
ほうじょうまる
)
は沈みますし、
抛
(
な
)
げ銀は皆倒れますし、——それやこれやの重なった
揚句
(
あげく
)
、北条屋一家は分散のほかに、仕方のない
羽目
(
はめ
)
になってしまいました。
報恩記
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
と、云って、町人の足下へ、ぽんと、
抛
(
な
)
げ出した。そして、四方の群集へ
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
純一は衝っ立ったままで、
暫
(
しばら
)
く床を眺めていた。座布団なんと云う
贅沢品
(
ぜいたくひん
)
は、この家では出さないので、帽をそこへ
抛
(
な
)
げたまま、まだ据わらずにいたのである。布団は縞が分からない程よごれている。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
二を引いて上から落ちて来た。
卍
(
まんじ
)
を
描
(
えが
)
いて花火のごとく地に近く廻転した。最後に穂先を逆に返して
帝座
(
ていざ
)
の真中を貫けとばかり
抛
(
な
)
げ上げた。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
私は、この男の帰還を待って、
早速
(
さっそく
)
全世界
覆滅
(
ふくめつ
)
の毒瓦斯を発明する鬼と
化
(
か
)
して、全力をあげ全財産を
抛
(
な
)
げうって発明官と一緒にやるつもりです
毒瓦斯発明官:――金博士シリーズ・5――
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
皮か麻緒を編んだ
長紐
(
ながひも
)
を付けたのを
抛
(
な
)
げて
米駝鳥
(
リーア
)
などに
中
(
あ
)
つると、たちまち紐が舞い
絡
(
から
)
んで鳥が捕わる仕組みで、十六世紀に南米のガラニ人既にこれを用い
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
し損じたりとまた踏ん込んで打つを逃げつつ、
抛
(
な
)
げつくる釘箱
才槌
(
さいづち
)
墨壺
矩尺
(
かねざし
)
、
利器
(
えもの
)
のなさに防ぐ
術
(
すべ
)
なく、身を翻えして
退
(
の
)
く
機
(
はずみ
)
に足を突っ込む道具箱、ぐざと踏み
貫
(
ぬ
)
く五寸釘
五重塔
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
すると今まで静かに茶褐色の
天鵞絨
(
ビロード
)
に包まれて、寝ていたかと思われる浅間山が、出し抜けに起き出してでも来るように、ドンドンと物を
抛
(
な
)
げ出す響きにつれて、
紫陽花
(
あじさい
)
の大弁を
日本山岳景の特色
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
斉彬は、成瀬の方へ、スナイドル銃を、
抛
(
な
)
げるように、押し転がした。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
物を
抛
(
な
)
ぐる真似しけるに、
忽
(
たちま
)
ちに飛去りぬ。
秋窓雑記
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
計測掛が黒板に二十五秒七四と書いた。書き終つて、余りの白墨を
向
(
むかふ
)
へ
抛
(
な
)
げて、
此方
(
こつち
)
をむいた所を見ると野々宮さんであつた。
三四郎
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
古い由緒も、非常識な夫の手にかかっては、解剖のあとの
屑骨
(
くずぼね
)
などを
抛
(
な
)
げこんで置く地中の屑箱にしか過ぎなかった。
俘囚
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
王病と
詐
(
いつわ
)
りその輩を召して毒殺し、その屍を湖に
抛
(
な
)
げ入れて安心し酒宴する席へ、夥しい鼠が死体から出て襲来した。王
惧
(
おそ
)
れて火で身を囲うと鼠ども火を
潜
(
くぐ
)
って付け入る。
十二支考:11 鼠に関する民俗と信念
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
そして飛ぶやうに
背後
(
うしろ
)
へ、
抛
(
な
)
げ
遣
(
や
)
るが如くに過ぎ失せてしまふのも一種の快味がある。
華厳滝
(旧字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
ともかく眼の前の大山を登った、石片が縦横に
抛
(
な
)
げ出されている、しかし石と石とは、
漆喰
(
しっくい
)
にでも
粘
(
く
)
ッつけられたようで動かない、いずれも苔がべッたり覆せてある、太古ながらの石の一片は
白峰山脈縦断記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
かたへに
抛
(
な
)
げて膝を立つれど
北村透谷詩集
(旧字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
大将は草の上に突いていた弓を向うへ
抛
(
な
)
げて、腰に釣るした棒のような
剣
(
けん
)
をするりと抜きかけた。それへ風に
靡
(
なび
)
いた
篝火
(
かがりび
)
が横から吹きつけた。
夢十夜
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
愛宕山
(
あたごやま
)
の上では、暗黒の中に、高射砲が鳴りつづいていた。照空灯が、水色の
暈光
(
うんこう
)
をサッと上空に
抛
(
な
)
げると、そこには、必ず敵機の
機翼
(
きよく
)
が光っていた。
空襲葬送曲
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
何気なき
体
(
てい
)
で遊戯に誘い入れ、普通本邦婦人が洗濯する体に
蹲
(
うずく
)
まらしめ、急に球を
抛
(
な
)
げると両手で受け留むる
刹那
(
せつな
)
、
股
(
また
)
を開けば女子、股を
狭
(
せば
)
むれば男子とは恐れ入ったろう。
十二支考:10 猪に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
同じ火の芸術の人で
陶工
(
とうこう
)
の
愚斎
(
ぐさい
)
は、自分の作品を
窯
(
かま
)
から取出す、火のための出来損じがもとより出来る、それは一々取っては
抛
(
な
)
げ、取っては抛げ、大地へたたきつけて
微塵
(
みじん
)
にしたと聞いています。
鵞鳥
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
生死以上の難関を互の間に控えて、
羃然
(
べきぜん
)
たる爆発物が
抛
(
な
)
げ出されるか、抛げ出すか、動かざる二人の
身体
(
からだ
)
は
二塊
(
ふたかたまり
)
の
燄
(
ほのお
)
である。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
破甲弾
(
はこうだん
)
はどことどことに落とすつもりか。
焼夷弾
(
しょういだん
)
はどの位もって来て、どの辺の地区に
抛
(
な
)
げおとすのであろうか。
東京要塞
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
和歌山近在、矢宮より出す守符は妙に蝮に
利
(
き
)
く。蝮を見付けてこれを
抛
(
な
)
げ付くると、麻酔せしようで動く能わずというが、予
尋常
(
なみ
)
の紙を畳んで抛げ付けても、暫くは動かなんだ。
十二支考:04 蛇に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
抛
漢検1級
部首:⼿
7画
“抛”を含む語句
抛棄
抛物線
抛擲
抛出
放抛
打抛
抛込
抛下
追抛
執抛
独鈷抛山
槌抛
捨閉擱抛
抛放
抛捨
抛打
抛射物
抛合
抛却
抛入
...