トップ
>
憚
>
はばか
ふりがな文庫
“
憚
(
はばか
)” の例文
憚
(
はばか
)
りながらお角さんのカクが違いますよ、蓋をあけたら正味を見ていただきましょう、正銘手の切れる西洋もどりのいるまんですよ。
大菩薩峠:22 白骨の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
わたくしは初め行先を聞かれて、
賃銭
(
ちんせん
)
を払う時、玉の井の一番賑な処でおろしてくれるように、人前を
憚
(
はばか
)
らず頼んで置いたのである。
寺じまの記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
これにはもちろん一々証拠のあることで、私は私の学問的良心の命ずるところにしたがって、これを断言して
憚
(
はばか
)
らないのであります。
融和促進
(新字新仮名)
/
喜田貞吉
(著)
いまだ胃吉と腸蔵に対して
憚
(
はばか
)
る所あり「それでは少々戴きましょう、餅は沢山ですから汁だけでも」と一口二口試みけるが舌
打鳴
(
うちな
)
らし
食道楽:春の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
「な、何を吐かしゃアがる。
憚
(
はばか
)
りながら、五両やそこらの
目腐
(
めくさ
)
れ金を取ったって取られたって、それでお天気の変る男じゃねえんだ」
醤油仏
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
▼ もっと見る
お手足ならば、即ちわれらかく用向あって
罷
(
まか
)
り越した以上、公儀お使者と言うも
憚
(
はばか
)
りない筈、ましてやそれなる用向き私用でないぞ。
旗本退屈男:04 第四話 京へ上った退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
言うべきことを
憚
(
はばか
)
らず言った、というほこらしい気持にさえ彼はなっていた。急にのどの渇きを覚え、むしょうに水がのみたかった。
次郎物語:04 第四部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
下婢は自分から進んで一字でも多く覚えようと思うような娘ではなかったが、主人の
思惑
(
おもわく
)
を
憚
(
はばか
)
って、申訳ばかりに本の
復習
(
おさらい
)
を始めた。
家:01 (上)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
立待岬
(
たちまちさき
)
から
汐首
(
しほくび
)
の岬まで、
諸手
(
もろて
)
を擴げて海を抱いた七里の砂濱には、荒々しい磯の香りが、何
憚
(
はばか
)
らず北國の強い空氣に
漲
(
ひた
)
つて居る。
漂泊
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
四五年以前の出来事だけれど、事件の主人公が現存していたので
憚
(
はばか
)
って話さなんだ。その人が最近病死したのだ。ということであった。
何者
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
阿闍梨
(
あざり
)
は、白地の錦の
縁
(
ふち
)
をとった
円座
(
わらふだ
)
の上に座をしめながら、式部の眼のさめるのを
憚
(
はばか
)
るように、
中音
(
ちゅうおん
)
で静かに法華経を
誦
(
ず
)
しはじめた。
道祖問答
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
その警告は何であるかと言えば、早晩我が国民は非常なる困難に陥る時が必ず来るということを予言するに、私は
憚
(
はばか
)
らぬのである。
〔憲政本党〕総理退任の辞
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
「へッ、付き合いますよ。——酒は御免を
蒙
(
こうむ
)
るが、
憚
(
はばか
)
りながら御用と来た日にゃ、夜が明けたって日が暮れたって驚きゃしません」
銭形平次捕物控:141 二枚の小判
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
さすがに
憚
(
はばか
)
るところなきにあらねば、「さきの怪しき笛の音は誰が
出
(
いだ
)
ししか知りてやおはする、」と
僅
(
わずか
)
にいふに、男爵こなたに向きて
文づかひ
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
五月蠅
(
うるさ
)
がって出るのは彼方の勝手だ。——決心に満足を感じ、せきは誰
憚
(
はばか
)
るところない
大欠伸
(
おおあくび
)
を一つし、徐ろに寝床へ這い込んだ。
街
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
まだ世間で知る者もなく、うわべは矢張友達のようにしていましたが、もう私たちは誰に
憚
(
はばか
)
るところもない法律上の夫婦だったのです。
痴人の愛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
西洋諸国の上流紳士学者の集会に談笑自在なるも、果たして君らの如き醜語を放って
憚
(
はばか
)
らざるものあるか、我輩の未だ知らざる所なり。
日本男子論
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
其方
(
おもと
)
は、この姫様こそ、藤原の氏神にお仕え遊ばす、清らかな
常処女
(
とこおとめ
)
と申すのだ、と言うことを知らぬのかえ。神の
咎
(
とが
)
めを
憚
(
はばか
)
るがええ。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
「君を書斎へ呼び込んだのも
他聞
(
たぶん
)
を
憚
(
はばか
)
るからだ。橋本君の方は君が令嬢の病癖に恐れを為して逃げ出したということに取り繕って置く」
求婚三銃士
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
お夏の
跫音
(
あしおと
)
ではない。うとうとした女房、台所の
傍
(
かたわら
)
なる部屋で目を覚すと、枕許を通るのは愛吉で。
憚
(
はばか
)
りかと思うと
上框
(
あがりがまち
)
の戸を開けた。
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
自分は父から評された通りだいぶ堂摺連の傾きを持っていたが、この時は父や母に
憚
(
はばか
)
って、嫂の相図を返す気は
毫
(
ごう
)
も起らなかった。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
瑠璃子は、その白痴な息子の不平を聞くと、勝平が中途から、世間体を
憚
(
はばか
)
って、自分を息子の嫁にと、云い出したことを、思い出した。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
葉子は一緒に歩くことをも
憚
(
はばか
)
るように、急いで向う側へ
渉
(
わた
)
ると、そこでガタ車を一台呼び止め、彼の来るのを待ってドアをしめた。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
家庭に於ては夫婦喧嘩をなし、一杯機嫌で
打擲
(
ちょうちゃく
)
をなして
憚
(
はばか
)
らず、
而
(
しか
)
してその子弟を聖人たらしめよとは矛盾の甚しきものである。
教育の最大目的
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
わたくしの口から申すも
憚
(
はばか
)
られますが、鼻筋
凜々
(
りり
)
しく通り、眼は青みがかった黒い瞳で、口元の締り方に得も云われぬ愛嬌がございます。
狐
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
政府が人権を
蹂躙
(
じゅうりん
)
し、抑圧を
逞
(
たくま
)
しうして
憚
(
はばか
)
らざるはこれにても
明
(
あき
)
らけし。さては、平常先輩の説く処、
洵
(
まこと
)
にその
所以
(
ゆえ
)
ありけるよ。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
仕事の邪魔になるのを
憚
(
はばか
)
つて、よく/\の用事でもなければ二階へ上つて來ないのにと
訝
(
いぶか
)
つてゐたが、母親は火鉢を持つて來たのだつた。
仮面
(旧字旧仮名)
/
正宗白鳥
(著)
(睨む。)あんたが野暮天か道楽者か、その見分けが付かないようで、
憚
(
はばか
)
りながら
芸妓
(
げいこ
)
の
鑑札
(
かんさつ
)
を持っていられるかって云うんだ。
影:(一幕)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
けれども呼びかけることはできなかった、幸太が火を見にゆくというのは口実で、ほんとうはおせんのそばにいることを
憚
(
はばか
)
った。
柳橋物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
「無論、吉弥だ」と、言いきりたいのだが、心の奥に誰れか耳をそば立てているものがあるような気がして、そう思うことさえ
憚
(
はばか
)
られた。
耽溺
(新字新仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
斯様
(
かよう
)
な記憶の誤りが他にも有るのではないかと
憚
(
はばか
)
られて、憶い出の筆を取ることに躊躇されるのであるが、疎漏の罪は暫く
寛恕
(
かんじょ
)
を願いたい。
木曽駒と甲斐駒
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
しかし人間の眼は自在に動く。
彼
(
か
)
の少女を捕へた好奇の瞳は、やがて軒下を
憚
(
はばか
)
つて歩くお葉の亂れた銀杏返しから、足元に到つたのである。
三十三の死
(旧字旧仮名)
/
素木しづ
(著)
「童子は爪立っておりませぬ。爪立ち採るよう致しました方が活動致そうかと存ぜられます」
憚
(
はばか
)
らず所信を述べたものである。
北斎と幽霊
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
お城の下では、十八とルリ子が、あたり
憚
(
はばか
)
らずまだピッタリと抱き合って恋を語っている。月が西の空に落ちたのも知らない。
軍用鼠
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
誰
憚
(
はばか
)
らず廉介の肩へ手をかけて、無邪気に気取つた風をしてゐるところなど、やつぱり西洋の女はかなはんと思はせるやうなものであつた。
落葉日記
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
これこそ、全くそっくりではないか! そこでは誰をも
憚
(
はばか
)
らない「原始的」な搾取が出来た。「
儲
(
もう
)
け」がゴゾリ、ゴゾリ掘りかえってきた。
蟹工船
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
彼女は
憚
(
はばか
)
りもなくその冷評を彼にくり返し聞かした。彼が傍らにいるたびごとに、彼女は何か口実を設けて隣の女の
噂
(
うわさ
)
をした。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
然
(
しか
)
しそれは
怎的
(
どう
)
でもいゝといふ
云
(
い
)
ひ
擲
(
なぐ
)
りではなくて、
凡
(
すべ
)
てがお
品
(
しな
)
に
對
(
たい
)
して
命令
(
めいれい
)
をするには
勘次
(
かんじ
)
の
心
(
こゝろ
)
は
餘
(
あま
)
り
憚
(
はばか
)
つて
居
(
ゐ
)
たのである。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
神道の歴史を説く者だけが、それを構わずに呼ぶようになっているが、信ずる人々はなおご本名と思うものは
諱
(
い
)
み
憚
(
はばか
)
っている。
年中行事覚書
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
それが今回の僕の外遊によって、
憚
(
はばか
)
りながらほぼ明らかになった。僕のテストでは、その料理の発達振りはバカバカしく幼稚なものであった。
フランス料理について
(新字新仮名)
/
北大路魯山人
(著)
誰
憚
(
はばか
)
るものがいないのだから、私は大胆に注文した。すると、女中はこの子供がまあ呆れたといったような顔して眼を
瞠
(
みは
)
る。
酒渇記
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
捨撥
(
すてばち
)
にしてからは恐ろしき者にいうなる
新徴組
(
しんちょうぐみ
)
何の
怖
(
こわ
)
い事なく
三筋
(
みすじ
)
取っても
一筋心
(
ひとすじごころ
)
に君さま大事と、時を
憚
(
はばか
)
り世を忍ぶ男を
隠匿
(
かくまい
)
し半年あまり
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
肩
(
かた
)
や胸の歯形を
愉
(
たの
)
しむようなマゾヒズムの
傾向
(
けいこう
)
もあった。
壁
(
かべ
)
一重の隣家を
憚
(
はばか
)
って、
蹴上
(
けあげ
)
の旅館へ寺田を連れて行ったりした。
競馬
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
医師の癖でドイツ語をしきりと会話の中に入れたのかそれともひろ子の前を
憚
(
はばか
)
つてわざとそうしていたのだか、私にはよく判らないけれども
殺人鬼
(新字新仮名)
/
浜尾四郎
(著)
やがて死んだのか宗旨
代
(
が
)
えをしたのか、その乞食は影を見せなくなって、市民は誰れ
憚
(
はばか
)
らず思うさまの生活に
耽
(
ふけ
)
っていたが
クララの出家
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
立政は、
衛律
(
えいりつ
)
をもって完全に
胡人
(
こじん
)
になり切ったものと
見做
(
みな
)
して——事実それに違いなかったが——その前では明らさまに陵に説くのを
憚
(
はばか
)
った。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
円
(
まる
)
く
取巻
(
とりま
)
いた
中
(
なか
)
から、ひょっこり
首
(
くび
)
だけ
差
(
さ
)
し
伸
(
の
)
べて、
如何
(
いか
)
にも
憚
(
はばか
)
った
物腰
(
ものごし
)
の、
手
(
て
)
を
膝
(
ひざ
)
の
下
(
した
)
までさげたのは、五十がらみのぼて
振
(
ふ
)
り
魚屋
(
さかなや
)
だった。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
されども
堰
(
せき
)
敢
(
あ
)
へず流るるは恩愛の涙なり。彼を
憚
(
はばか
)
りし父と彼を
畏
(
おそ
)
れし母とは、決して共に子として彼を
慈
(
いつくし
)
むを忘れざりけり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
幼い私に聞かせるのは
憚
(
はばか
)
って、祖母が言葉を濁していた、そのお手討ちというのも横恋慕を聞かれなかった家老の
嫉妬
(
しっと
)
心からだったのでしょう。
棚田裁判長の怪死
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
そして今きゅうに向うの方から洗濯物をしにくる女らしいのが一人、重い籠を抱えてくるのが見えると、小さい弟はそれを
憚
(
はばか
)
るように見つめた。
童話
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
憚
漢検1級
部首:⼼
15画
“憚”を含む語句
忌憚
乍憚
人憚
誰憚
憚様
不憚
口憚
御忌憚
憚樣
畏憚
行憚
過而勿憚改