“憚:はばか” の例文
“憚:はばか”を含む作品の著者(上位)作品数
泉鏡花57
吉川英治50
中里介山30
野村胡堂29
海野十三24
“憚:はばか”を含む作品のジャンル比率
文学 > 日本文学 > 小説 物語12.0%
文学 > 日本文学 > 評論 エッセイ 随筆1.0%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
「実に面目が無い、貴嬢あなたの前をもはばからずして……今朝その事で慈母おっかさんに小言を聞きました。アハハハハ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
然し若し此時、かの藻外と二人であつたなら、屹度外見みえはばからずに何か詩的な立〓たちまはりを始めたに違ひない。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
で、そのお婆さんは何か私に秘密ないしょで言いたいような素振そぶりが見えますが他の二人の男をはばかって居るらしい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その国民にして今日の如き進歩をなしたのは、主としてこの職業教育が盛んになった結果であることは僕が断言してはばからぬ。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
栄一は自分をはばかっている辰男に向ってしいて話をしかける気はなかったが、でもおりおり辰男に対しては神経を凝していた。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
旅人は眼をくばった。裏門の鳴子なるこを聞いたからである。客が客をはばかるにしては、その眼はすこしけわしすぎる。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして自分がはばからねばならぬような人たちから遠ざかったような心安さで、一町にあまる広々とした防火道路を見渡した。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それは息もないようなしずかな寝姿であり、見る目はばからぬこどものようにあおむき踏みはだかった無邪気な寝姿でもある。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
人のうかがふと知らねば、彼は口もて訴ふるばかりに心の苦悶くもんをそのかたちあらはしてはばからざるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
母の前をもはばからぬ男の馴々なれなれしさを、憎しとにはあらねど、おのれはしたなきやうにづるなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これまでぶらぶらしている時にはいつでも行けたのに、さすがにはばかって、商売をするようになってから稽古したいという。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
自分の母を見舞いに来ていながら人の前をはばかったり、知られまいとしたりせねばならないのは、何と悲しいことであろう。
光の中に (新字新仮名) / 金史良(著)
半蔵は自分で自分の耳たぶを無意識に引ッぱりながら、それを言った。その年になっても、まだ彼は継母の手前をはばかっていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
同勢は空屋あきやへ寄って来てほしいままに酒をあおったり、四辺あたりはばからぬ高声で流行唄をうたったりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
芸人になるということをはばかってはいるが、どうにかして生計を営むものとすると、自分の好む芸を以てしたいのであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
最初には、上へあがることをさえはばかった女が、今はかえって名残りを惜しんで、立たせともなき風情ふぜいであります。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
群集の思わんほどもはばかられて、わきの下にと冷き汗を覚えたのこそ、天人の五衰ごすいのはじめとも言おう。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といって男妾おとこめかけの浅吉は、つばを呑み込んで、何かいおうとして、いうのをはばかりましたが、思い切って、
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分の家の子のように呼捨てにしてはばからないことのみならず、江戸の将軍一族に対しても、或いは家茂いえもちがと呼び
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しもわれ等の述ぶる所が時期尚早で、採用をはばかるというなら、しばらくこれを打ちすてて時期の到るを待つがよい。
「童子は爪立っておりませぬ。爪立ち採るよう致しました方が活動致そうかと存ぜられます」はばからず所信を述べたものである。
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
心中の命は卯辰山に消えたが、はかない魂は浮名とともに、城下の町をはばかって、海づたいに波に流れたのかも知れません。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時、我が帽子も亦我と共にこの名誉なる一商船の機関長閣下をもはばからず、倣然がうぜんとして笑へるが如くなりき。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
(よせ、つまらない)などという顔は、この中には一つもいない。ただ師の吉岡清十郎の顔いろを多少はばかるのであったが、
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その後、口もきかずよそよそしく歩いているのも、畢竟ひっきょう、昼間だけ人目をはばかっているに過ぎないものと見ていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猿はしばらく考えていたが、わしの思いつめた眼をじっと見て――ほかの者が眼をさまさないようにとはばかるらしい小声で、
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すべて、殿の御見解がちがいます。はばかりながら、谷忠兵衛は、槍先の功をきそう雑兵ではございません。一国の老臣です。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その糞眞面目な、如何いかにももつともらしい先生の樣子を見てゐると、流石さすがに吹き出すのははばかられたのである。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
午後、我がせし狼藉ろうぜき行為こういのため、はばかる筋の人にとらえられてさまざまに説諭せつゆを加えられたり。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
うわさの恋やまことの恋や、家の内ではさすがに多少の遠慮もあるが、外で働いてる時には遠慮もはばかりもいらない。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
にもかかわらず、何時の間にか、彼は現政府の一大敵国と見做みなされ、恐れられ、はばかられ、憎まれるようになっていた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「御親切に有難うございますが、屋敷には、ちとはばかることがござりまする故、どうぞ、このままでお見逃し下さいませ」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、バーバラは、他の四人をずんと抜いて、私たちの間に入ってきたが、そのときあたりをはばかるような小声こごえで、
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はばからず声を放つて泣きたりしが、たちまちガパとね起きつ、足を踏みしめ、手を振つて、天地も動けと、呼ばはりぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
が、名をはばかった男の、低い声に、(ああん。)と聞えぬ振して、巡査が耳を傾けたのは、わざとらしく意地悪く見えた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雀と違って、ものがものだし、ちょっとかさは有るしするから、宵の人目をはばかったのが、虫が知らしたのかも知れんのだね。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どう考えても露八にはせないお菊ちゃんの行動だった。りんと澄ましきっているので、訊くのもなんだかはばかられたが、
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実際、「心理試験」ほどの傑作は、多産な英米の探偵小説界にも、めったに見当る作品ではないと私は断言してはばからぬ。
「心理試験」序 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
かように天意に背かれたことをはばからず行われる殿に対しては、天神も地神も赫怒かくどなされ必ず福は授けますまい。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わしの顔色の悪いのは、おはばかりだけれど今日ばかりは貧乏のせいでない。三年目に一度という二日酔の上機嫌じゃ、ははは。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
足音は、家臣の群れだった。金属的なひびきがすでに彼らのよろいいでたちを思わせる。――でも、はばかってか、廊の遠くで。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「誰に知れてもかまわぬ。わしは、恋はするが、不義はせぬ。何も人目をはばかることはない。十兵衛はそちが好きだ」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ため息つくように、やがてあるじがつぶやくと、妻は、彼の耳へ口をよせて、猫や鳥にもはばかるようにそっと云った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次はお品に座蒲団ざぶとんを勧めながら、明るい初夏の光を浴びて、何のはばかる様子もなくこう八五郎に話しかけるのでした。
犬の真似まねをすることには格別異存はないにしても、さすがにあたりの人目だけははばかっているのに違いなかった。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
真砂町の御宅へも、この事に附いて、刑事が出向いたそうだが、そりゃはばかって新聞にも書かず、御両親も貴娘には聞かせんだろう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところが終列車で、浜が留まりだったから、旅籠はたごも人目をはばかって、場末の野毛の目立たない内へ一晩泊った。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「なあに、ちょっとした心理考察をやったまでの話さ」と階上の召使バトラーはばかりながら、法水は小声で検事の問いに答えた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
昨日船まで出迎えに来てくれた父が、そわついて、人目をはばかるようにしていたのと思い合せ、伸子は厭な心持がした。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
と、たずねた。正太は、とつぜんの妹の問いに、はっとおどろいたようであったが、あたりをはばかるように声をひそめ、
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
聞いていた二人が、えッ! と言って眼を見合わせたので、富作さんも、世をはばかるように声を低くして語りつぎました
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ときにはこの銀杏いちょうしたで、御神前ごしんぜんをもはばからぬ一人ひとり無法者むほうもの
その若い騎馬の将校が、一人の大男の死骸を、馬のくらつぼに引っくくって人目をはばかるように京都の方へ宙を飛んでゆく。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はばかるものがいないのだから、私は大胆に注文した。すると、女中はこの子供がまあ呆れたといったような顔して眼をみはる。
酒渇記 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
しかし少しにても経済的のことならば改むるにはばからずそれらは御考にて如何様いかようとも可被成なさるべく候。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
夫人の姿像のうちには、胸ややあらわに、あかんぼのお釈迦様をいだかるるのがあるから、――はばかりつつも謹んでおう。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大哲スピノザ、少壮にして猶太ユダヤ神学校にあるや、侃々かんかんの弁を揮つて教条を議し、何のはばかる所なし。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
忠信(の人)にしたしみ、己れにかざるひとを友とすることなかれ、あやまてば則ち改むるにはばかることなかれ。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「おい、そんなに僕を侮辱ぶじょくしないで呉れよ。君がその気ならはばかりながら一臂いっぴの力を貸す決心でいるんだからね」
越年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
現に、今日楽しんで読まれさへすれば、明日は屑籠くづかごに投込まれても本望だと揚言してはばからない作家がある。
ともののしってはばからないのではあったが、しかしその彼らとて、全面的な皇室否定に狂奔しているものではない。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神道の歴史を説く者だけが、それを構わずに呼ぶようになっているが、信ずる人々はなおご本名と思うものははばかっている。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
泥棒はあっしでなきゃ、丑松かお徳で、こんな解り切ったことはないでしょう、親分さん、――はばかりながらあっしには覚えがねえ。
それはここに細叙さいじょすることをはばかるほどの、見るものはたちまち吐き気を催すほどの、無残な有様であった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一升徳利どくりをぶらさげて先生、はばかりながら地酒では御座らぬ、お露の酌で飲んでみさっせと縁先へ置いてく老人もある。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
母の予言通り見送りに来ていた佐野も、ようやく笑う機会が来たように、はばかりなく口を開いて周囲の人を驚かした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
紳士淑女として口にすべからざる事も、口にする事をはばかるために、一般の人々が如何に堕落という事に対して無智識になっているか。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
詳しいことを説明するのをはばかりますが、その夜、夫人が満悦したエクスタシーののち、恐らく笛吹川にかつを訴えたのでしょう。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はばかりながら御手前様、御同列様、御相談の上、その節の御取り扱い等を今より定め置かれ候よう大切に存じ奉り候。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
寒い外気に触れて頬のまわりに乾きつく涙を、道を行く人にはばかるようにしてそっときながら、私は心の中で、
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
母の前では縦横に駄々だだをこねたまえど、お豊姫もさすがに父の前をばはばかりたもうなり。突っ伏して答えなし。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
じっさい、あたりをはばかる低い啜り泣きの声が、廊下つづきの母家のほうから、あるかなしに伝わり聞えて来るのだ。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
北山と一学とは人目をはばかり、駕籠でこっそり帰った。そうしてどこへ行ったものか、しばらく消息が解らなかった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
このおやしきへ来るまでは、私は、あれ、あの、菊の咲く、垣根さえはばかって、この撫子と一所に倒れて、草の露に寝たんですよ。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夫が帰ってくると、ヒルミ夫人はひと目もはばからず、潜々さめざめと涙をながして、たくましき夫の胸にすがりつくのであった。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
また学生の分際ぶんざいでありながら文展に絵を運ぶという事は少年が女郎買いすると同じ程度において人目をはばかったものである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
なまめかしさ、というといえども、お米はおじさんの介添のみ、心にも留めなそうだが、人妻なればはばかられる。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
茶店のむすめは、目の前にほっかりと黒毛のこまが汗ばんで立ってるのをはばかって、洋盃コップもたらした。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世間或は人目をはばかりて態と妻を顧みず、又或は内実これを顧みても表面に疏外そがいの風をよそおう者あり。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
善兵衛は警察の手を借ることに躊躇ちゅうちょした、それは兇漢の復讐を怖れるよりも、事件の公表されることをはばかったのである。
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
そこで、志は松の葉越の月の風情とも御覧ぜよで、かつその、はばかんながら揶揄やゆ一番しようと欲して、ですな。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一歩を進めて妄断もうだんする事をはばからざれば油画は金髪の婦女と西洋の風景とを描くに適するものといふべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いっ腕力付うでづくで奪い取ろうかとも考えたが、剣をびたる多数の警官と闘うことは、彼も流石さすがはばかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あるじの太郎左衛門であった。そっと、そこをうかがったものの、あまりに静かな彼の姿に、呼びかけるのさえ、はばかられて、
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これにはもちろん一々証拠のあることで、私は私の学問的良心の命ずるところにしたがって、これを断言してはばからないのであります。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
久八がまぜ返すと、あとの四人が、はばかりもない高声でどッと笑った。そして、銀杏稲荷の鳥居の前を過ぎかけた――
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、そうでない。――はばかりもなく、左様な放言してひるまぬ馬鹿者だから、わしは汝を、不届き者、不忠者ともうしたのだ」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうそう、そちは今、その方面から帰って来た途中であったな。では、立話もはばかりあり。……おさらばおさらば」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一歩を進めて妄断もうだんする事をはばからざれば油画は金髪の婦女と西洋の風景とを描くに適するものといふべし。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
の少女を捕へた好奇の瞳は、やがて軒下をはばかつて歩くお葉の亂れた銀杏返しから、足元に到つたのである。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
さもなければ所謂民衆詩人は不幸なるウオルト・ホイツトマンと共に、芭蕉をも彼等の先達の一人に数へ上げることをはばからぬであらう。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
自分も母の前では気がとがめるというのか、必要のない限り、嫂の名をはばかって、なるべく口へ出さなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから一時間すると、大地を染める太陽が、さえぎるもののない蒼空あおぞらはばかりなくのぼった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実際は東洋城も独断で先例のない事をあえてするのをはばかって、しかとした御受はしなかったのだそうである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんらの怖れることと、はばかることがなしに、竜之助の刀の下へ、身を露出むきだしに持って来る者があります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
内に言えるは鮮人の思想貧弱にして恋愛文学なく、その男女の事を叙するや「これと通ず」「これを御す」と卑野露骨にしてはばからずと。
聞いている岩田天門堂は、さかんに愕きの声を洩らし、御前をもはばからず頤髯をひっぱり、果ては舌打ちまでした。
お美しい、お優しい、あの御顔を見ましては、恋の血汐ちしおは葉に染めても、秋のあの字も、明さんの名にはばかって声には出ませぬ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
残らず、一度は神仏の目の前で燃え輝いたのでございましょう、……中には、口にするのもはばかる、荒神あらがみも少くはありません。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雲助には国持大名が多い――彼等は長州と呼び、武州と呼び、因州と呼び、野州、相州と呼ぶことを誰人の前でもはばかりとしてはいない。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)