意氣地いくぢ)” の例文
新字:意気地
「飛んでもない、先生、あつしは日本一の親不孝者だと思つて居りますよ。たつた一人の母親に、不自由ばかりさせて居る意氣地いくぢなしで」
ていでござります。へい、御見忘おみわすれは御道理ごもつともで。いや、うからつきし、意氣地いくぢもだらしもござりません。貴下あなた御成人遊ごせいじんあそばしましたな。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私は自分の意氣地いくぢなさと亂れた樣子に對するその當てこすりに耳もかさず、彼の手を振り拂ひ、また歩きはじめた。
「…………」周三は蒼白い顏をねぢ曲げながら視線をみだしておど/\した。それがいかにもあどけなくまた意氣地いくぢなく、生れつきのひもらしい感じであつた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
いま零落れいらく高見たかみ見下みくだして全體ぜんたい意氣地いくぢさすぎるとひしとかこくおもふはこゝろがらなり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見られ大岡殿イヤハヤ意氣地いくぢのなき坊主ばうずとくより知れてある事をおのれかくしだてをする大馬鹿おほばかめコリヤ其大帳そのだいちやうを是へと申さるゝ時目安方ハツと差出さしいだすをとりて見らるれば享保元年の帳に
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いや、何處どこくのも、なにるのものぞまんです。かんがへれば意氣地いくぢいものさ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
意氣地いくぢなしども! そんなら一昨年おととしの二百十のやうに、また一とあわかしてくれやうか」と怒鳴どなりつけやうとはおもつたが、なにをいふにも相手あひてはたか のしれた人間にんげんだとおもひなほして
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
そらぶ——火事くわじはげしさにまぎれた。が、地震ぢしん可恐おそろしいためまちにうろついてるのである。二階にかいあがるのは、いのちがけでなければらない。わたし意氣地いくぢなしの臆病おくびやう第一人だいいちにんである。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
眞太郎は、その弱さと意氣地いくぢなさを隱さうともせず、斯う言つて溜息をつくのです。
彼の顏立かほたちは整つてはゐるけれどしまりがなく、眼は大きくて美しく出來てはゐるが、そこからは、意氣地いくぢのないぼんやりした人となりが覗いてゐる——少くとも私にはさう思へたのだ。
是迄これまで虚心きよしん平氣へいきで、健全けんぜんろんじてゐたが、一てう生活せいくわつ逆流ぎやくりうるゝや、たゞちくじけて落膽らくたんしづんでしまつた……意氣地いくぢい……人間にんげん意氣地いくぢいものです、貴方あなたとても猶且やはりうでせう
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
つきそひのをんなかゆぜん持來もちきたりて召上めしあがりますかとへば、いや/\とかぶりをふりて意氣地いくぢもなくはゝひざよりそひしが、今日けふわたし年季ねんあきまするか、かへこと出來できるで御座ござんしやうかとてひかけるに
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
如何いかなるわけなるやととふに八五郎され御咄おはなし申べし先刻越後者のよしわかき夫婦連の侍士さふらひ私し見世に御休みなされしが逃亡者かけおちものとも見えず身形みなりも可なり立派なれども一向に旅馴たびなれぬ樣子にてイヤモウ意氣地いくぢもなく殊に女は足を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
平次の出した條件は穩健そのものと言ふよりも、少し意氣地いくぢなくさへありました。
れると、意氣地いくぢはない。そのとりより一層いつそうものすごい、暗闇やみつばさおほはれて、いまともしびかげいきひそめる。つばさの、時々とき/″\どツとうごくとともに、大地だいち幾度いくどもぴり/\とれるのであつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたしすこしもおまへなら非人ひにんでも乞食こじきでもかまひはない、おやからうが兄弟きやうだいうだらうがひと出世しゆつせをしたらばからう、何故なぜ其樣そん意氣地いくぢなしをおひだとはげませば、れはうしても駄目だめだよ
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかりつけられて我知われしらずあとじさりする意氣地いくぢなさまだしもこほる夜嵐よあらし辻待つじまち提燈ちやうちんえかへるまであんじらるゝは二親ふたおやのことなりれぬ貧苦ひんくめらるゝと懷舊くわいきうじやうのやるかたなさとが老體らうたいどくになりてやなみだがちにおなじやうなわづらかたそれも御尤ごもつともなりわれさへ無念むねんはらわたをさまらぬものを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)