悉皆すつかり)” の例文
何故自分は何もかも悉皆すつかり姉に言つてしまはないだらう。姉は今危地に居る。それを知つてゐる自分が親身の姉を救ふことが出來ない。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
前の晩に悉皆すつかり荷造りして置いた見窄みすぼらしい持物を一臺のくるまに積み、夜逃げするやうにこつそりと濃い朝霧に包まれて濕つた裏街を
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
尤もあの男の事だから、書物ほんといつたつてたんと読んでゐる訳でもあるまいが、源平盛衰記と太平記とだけはが悉皆すつかり暗記してゐる。
『音さん。四斗七升の何のと言はないで、何卒どうか悉皆すつかり地親ぢやうやさんの方へ上げて了つて御呉おくんなんしよや——わしはもう些少すこしりやせん。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さうして養蠶やうさんせはしい四ぐわつすゑか五ぐわつはじめまでに、それを悉皆すつかりかねへて、また富士ふじ北影きたかげ燒石やけいしばかりころがつてゐる小村こむらかへつてくのださうである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
父はもう悉皆すつかり健康になつた。相模灣の暖い日和に葉山の別莊から長者岬ちやうじやみさき近くまで散歩した位だと手紙にも書いてある。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
オヽくのかくなら少しお待ち、サ此飯櫃このおはちふたなか悉皆すつかりいておしまひ。源「ハツ/\ドうぞモウ一杯お湯を…。金「サおあがり。源「へい有難ありがたう。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ト同時に、口の歪んで居る事も、獨眼龍な事も、ナポレオンの骸骨な事も、忠太の云つた「氣をつけさつしあい」といふ事も、悉皆すつかり胸の中から洗ひ去られた。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
勿論栄子は撮影所へ入ることを、悉皆すつかり諦らめてしまつた。そして其から間もなく彼女は今迄の家庭生活を失ふと同時に、実生活の真中へ投り出されてしまつた。
質物 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
『さあ、うなつたらにがことでないぞ。』と最早もはやはらむなしいことも、いのち危險あぶないことも、悉皆すつかりわすれてしまつた。
さうね、まとまりやうがないつて思つてるンでせう? 悉皆すつかり、私はあきらめてもゐるのよ。奥さんを見たら、とても悲しくなつて、歩きながら、思ひ詰めちやつたわ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
兵隊上へいたいあがりの小使こづかひのニキタは亂暴らんばうにも、かくし一々いち/\轉覆ひつくりかへして、悉皆すつかり取返とりかへしてしまふのでつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
う、わたし恁麽こんな奇妙きめうゆめてよ!』とつてあいちやんは、ねえさんにおぼえてたゞけを悉皆すつかりはなしました。それはみなさんが是迄これまでんでところの、種々しゆ/″\不思議ふしぎ冐險談ばうけんだんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
与るものならば未練気なしに悉皆すつかり与つて仕舞ふが好いし、固より此方で取る筈なれば要りもせぬ助太刀頼んで、一人の首を二人で切る様な卑劣けちなことをするにも当らないではありませぬか
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「叱られるで。」と言ひながら、定吉はやがて其の樂書を悉皆すつかり消して了つた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それに行き著く一か八かの方途さへ、悉皆すつかり分つたためしはない。
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
二十年来慣れたことすら出来ないものを、是から新規に何が出来よう。根気も、精分も、我輩の身体の内にあるものは悉皆すつかりもう尽きて了つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「えゝ、悉皆すつかりなほりました」とあきらかに答へたが、にわかに立ちがつた。立ちがる時、小さな声で、独りごとの様に
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いつ贋物がんぶつで辛抱したら、格安に出来上るだらうと、懸額かけがくから、軸物、屏風、とこの置物まで悉皆すつかり贋物がんぶつで取揃へて、書斎の名まで贋物堂がんぶつだうと名づけて納まつてゐた。
贋物 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
ト同時に、口の歪んで居る事も、独眼竜な事も、ナポレオンの骸骨な事も、忠太の云つた「気をつけさつしあい」といふ事も、悉皆すつかり胸の中から洗ひ去られた。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そして来た当座、毎日こゝに逢ひに来る彼を待つてゐるものらしかつたが、圭子の処へ子供を寄越して、父親が悉皆すつかり安堵あんどしてゐることは渡辺の話で圭子には解つてゐた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
サア、賓客おきやくさん、もうくらくなりましたぜ、大佐閣下たいさかくかもひどくお待兼まちかねで、それに、夕食ゆふしよく御馳走ごちさう悉皆すつかり出來できて、料理方れうりかた浪三なみざうめが、とり丸燒まるやき黒焦くろこげになるつて、眼玉めだま白黒しろくろにしてますぜ。
せめて疵口くち悉皆すつかり密着くつつくまで沈静おちついて居て下され、と只管とゞめ宥め慰め、脱ぎしをとつてまたすれば、余計な世話を焼かずとよし、腹掛着せい、これは要らぬ、と利く右の手にて撥ね退くる。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
其理由そのわけ悉皆すつかりむすめはなしてやれとグリフォンにひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
悉皆すつかり下宿の払ひを済まし、車さへ来れば直に出掛けられるばかりに用意して、さて巻煙草に火を点けた時は、言ふに言はれぬ愉快を感ずるのであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いつ贋物がんぶつで辛抱したら、格安に出来上るだらうと、懸額かけがくから、軸物、屏風、とこの置物まで悉皆すつかり贋物がんぶつで取揃へて、書斎の名まで贋物堂がんぶつだうと名づけて納まつてゐた。
「少しむくなつた様ですから、兎に角立ちませう。冷えると毒だ。然し気分はもう悉皆すつかりなほりましたか」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
無理強ひの盃四つ五つ、それが悉皆すつかり體中にまはつて了つて、聞苦しい土辯の川狩の話も興を覺えた。眞紅まつかな顏をした吉野は、主人のカッポレをしほ密乎こつそりと離室に逃げ歸つた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
しかし十九の時、しにつぱぐれにつた、あの時のやうな重患でもなかつたので、風邪かぜをひくとき起しやすい肺炎ではあつたが、一週間ばかり寝てゐると、悉皆すつかり好くなつてしまつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
る/″\本國ほんごくからたづさへてた三百餘反よたん白絹しろぎぬをば、悉皆すつかり使用しようしてしまつたさうだ。
「京都では別にこれといつて気に入つた物もないが、唯黄檗と指頭画とには悉皆すつかり感服させられた。」
「二三日のあめで、こけいろ悉皆すつかりこと」と平生に似合はぬ観察をして、もとせきかへつた。さうして
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
手捷てばしこく顔直しをした蝶子の仕度が初まると、咲子は圭子と一緒に立ちあがつて、さも自分が悉皆すつかりそれを心得てゐるもののやうに、「それをぐる/\捲くのね」とか、「今度これでせう」とか言つて
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
うですか。僕は悉皆すつかり醒めちやつた。もう何時頃でせう?』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
家光は心もち渋さうな顔をして笑つたが、その日の夕方には、柿の事なぞはもう悉皆すつかり忘れてゐた。
そうさんはうも悉皆すつかりかはつちまいましたね」と叔母をば叔父をぢはなことがあつた。すると叔父をぢ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
木山も出ると負け出ると負けして、悉皆すつかり気を腐らせてゐた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
『あゝ、悉皆すつかり醉つちやつた。』恁う言つて吉野は縁に立つ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「心臓のほうは、まだ悉皆すつかりくないんですか」と代助は気の毒さうなかほで尋ねた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
午後の三時、規定おきまりの授業は一時間前に悉皆すつかり終つた。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
宗助そうすけ安井やすゐ御米およねからとゞいた繪端書ゑはがきべつにしてつくゑうへかさねていた。そとからかへるとそれがすぐいた。時々とき/″\はそれを一まいづゝじゆんなほしたり、見直みなほしたりした。仕舞しまいにもう悉皆すつかりなほつたからかへる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
悉皆すつかりくなるなんて、生涯駄目ですわ」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「もう悉皆すつかりいんですか」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)