怜悧れいり)” の例文
れいの俗諺ぞくげんの「さわらぬ神にたたりなし」とかいう怜悧れいり狡猾こうかつの処生訓を遵奉しているのと、同じ形だ、という事になるのでしょうか。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
鶴輔からなった今の鶴枝も、しかし、けっして愚昧ぐまいでもない。第一、楽に時代と一緒に歩いているところに、先代同様の怜悧れいりを感じる。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「甚五郎は怜悧れいりな若者で、武芸にもけているそうな。手に合うなら、甘利あまりを討たせい」こう言い放ったまま、家康は座をった。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それぢやお前は、おれは馬鹿でお前が怜悧れいりだといふんだね。よろしい、弱い者いぢめといふんなら、おれは、ま、馬鹿になツてねるとしやう。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
右衛門は如何に聡明そうめい怜悧れいりな女でも、矢張り女だから、忌々いまいましくもあり、勘忍もしがたいから、定石どおり焼き立てたにちがい無い。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
魂の輝きを浮かべてる憔悴しょうすいしたその顔、熱い炎が燃えてるビロードのような美しいその眼、怜悧れいりそうな長いその手、無格好なその身体
かくいえば怜悧れいりなるものは必ず気弱でなければならぬという結論に達するらしくおもわれるが、決してそう一定せるものとは思われない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
まことに怜悧れいりな性質で、くる人くる人が、こんなかしこい猫は見たことがないと、口をそろえてほめそやすほど利巧な猫でした。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
人物も怜悧れいりで何の学問にも通じたりっぱな公子であった。つまらぬ事までも二人は競争して人の話題になることも多いのである。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
怜悧れいりに見えても未惚女おぼこの事なら、ありともけらとも糞中ふんちゅううじとも云いようのない人非人、利のめにならば人糞をさえめかねぬ廉耻れんち知らず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
これを考えることなくしては殺鼠剤さっそざい・駆鼠薬を売る者は、物売りとしては怜悧れいりであったかも知れぬが、少なくとも憂国の志士ではなかった。
さようじゃ。お腰元としてお城中へ上がりこみ、怜悧れいりにもご城内の様子までかぎ出したのだろうわい。おれときさまの江戸から下ることまでを
捨吉は市川を知る前に、先ず涼子の方を知った。その意味から言っても、あの怜悧れいりな娘がえらんだ未知の青年に逢いたかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
きつねのごとき怜悧れいりな本能で自分を救おうとすることにのみ急でないかぎり、自分の心の興奮をまで、一定のらち内に慎ませておけるものであろうか。
片信 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お増は怜悧れいりそうなうるんだ目をして、自分の顔を眺める静子に、そういって訊ねたりなどしたが、子供からは、何も聴き取ることが出来なかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
怜悧れいりなる商人を作り、敏捷びんせふなる官吏を作り、寛厚にして利にさとき地主を造るに在り。彼は常に地上を歩めり、彼れは常に尋常人の行く所を行けり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
多勢をたのむ猿どもはいよいよ驕慢きょうまんでありました。けれど怜悧れいりな彼等は、いつも相手の実力を見るのに鋭敏でありました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夜が明くるにおよんで、彼は怜悧れいりな二人の手下を残して見張りをさせ、あたかも盗人に捕えられた間諜かんちょうのように恥じ入って、警視庁へ引き上げた。
小女は浅草清島町という所の細民さいみんの娘なり。形は小さなれど年は十五にて怜悧れいりなり。かの事ありしのち、この家へ小間使こまづかいというものに来りしとなり。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
二人を対手あひて喋々てふ/\喃々なん/\するだ廿六七なる怜悧れいりの相、眉目の間に浮動する青年は同胞新聞の記者の一人吾妻俊郎あづまとしらうなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
淡路守の眼尻に、皮肉な鋭い、しかし怜悧れいりそのもののような小皺が寄る時は、かれ淡路、重大なことを事もなげに言い出すときである。今がそれだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
飽くまでも人間に対して親切で怜悧れいりでありますから、仏教の信仰を通して語る私の言葉は、殆んど絶対な理解や同情をみな様にお贈りすることが出来
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
怜悧れいり快活くわいくわつな、おほきいつてゐたうつくしい彼女かのぢよいま一人ひとりをんなとして力限ちからかぎたゝかつた。そしてつひやすらかにねむつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
お夏が無邪気なる意気地と怜悧れいりなる恋の智慧を見るに足るべし、「あの立野たちの阿呆顔あはうづら敷銀しきがねに目がくれて、嫁にとらうといやらしい」といふ一段に至りては
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
なるほど今日の青年はなかなか怜悧れいりである。我輩も時々鎗込やりこめられる事があるが、しかし色々の人と接触してみなければ広く智識を得られるものではない。
日本人との短日月の交渉によっても、彼らがどんなに怜悧れいりであるかということがわかった。しかも悪賢わるがしこいといってもよいほど、怜悧であることがわかった。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
敏捷びんしょうで、自由じゅうで、怜悧れいりで、なんでもよくっているみつばちは、きっと昨夜ゆうべのできごともっているであろう。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いかに彼女がそううことに敏感であり、器用であり、怜悧れいりであったかを語らないものとてはないのでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
敏捷に怜悧れいりにすきもなく動いてる、黒みがちの睫のながい子供の瞳をぢっと見てゐると、どうしたらいゝだらうといふやうに、やがて顔一ぱいな微笑ほゝゑみを持って
晩餐 (新字新仮名) / 素木しづ(著)
怜悧れいりなる手塚はすぐ一さくを案じて阪井をたずねた、阪井は竹刀しないをさげて友達のもとへいくところであった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
あの子は怜悧れいりでもなければ、才能を持つてゐるのでもない、しかし一寸の間に大した進歩をしたものです。
且つ労働多きにりて消化機能も盛なるを以て、かかる喰料にてもかえって都下の人より健康を増加するのみならず、生出せいしゅつする処の児輩こらは却て健康と怜悧れいりたるが如し。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
次に軍略から云う時は、我が国人は怜悧れいりである。軍略もうまいに相違ない。第三に地勢から云う時は、敵は谷底、我は山上、我らに利あることは云うまでもない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
神はこの哀れな孤児に怜悧れいりと美貌を与えたのみならず、さらに何物にもいじけない楽天性を付与した。
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
小柄で丸ポチャで、笑顔の美しい、眉の霞んだ、八重歯のある——そう言った怜悧れいりで清純な少女と想像して見て下さい。それが即ち十九になる美保子の肖像なのです。
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
相貌怜悧れいり、挙止敏捷、言語明晰、彼は確かに野卑遅鈍なる衆童を圧して一異彩を放っておった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
し、この危機に処して、一家の女房たるものが、少しく怜悧れいりであつたならば、狂瀾きやうらんを既に倒るゝにひるがへし、危難をいまだ来らざるにふせぐは、さして難い事では無いのである。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
私は児供たちに「魔子ちゃんのお父さんの咄をしてはイケナイよ、」と固く封じて不便ふびんな魔子の小さな心を少しでもいためまいとしたが、怜悧れいりな魔子は何も彼も承知していた。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
安宿は天性の麗質れいしつであり怜悧れいりであった。年齢も亦首皇子に相応し、生れながらにして、天皇の夫人たるべき宿命をあらわしていた。けれども三千代は更に一つの慾念があった。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
仮令たとえそれがふとした気紛れであつたとはいへ、つい此間の或る男性との失敗した関係、それらの事情を、怜悧れいりな眼でとつくに見抜いてゐて、決して表面にはあらはさないものの
水と砂 (新字旧仮名) / 神西清(著)
または個人の力は伝統の力より弱いからとも云えよう。個性はいかに強くとも自然の前にはなお狭く小さい。実際凡庸な民衆はあの怜悧れいりな個人より、さらに驚くべき作を産んだ。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
武蔵は童の胆力たんりょくに感じて、共に手伝って、屍体を裏山へ運んで厚く葬ってやった。そしてこの孤児の胆力と怜悧れいりを愛して、永く手許に養い、遊歴中も連れ歩いていたそうである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しょうは八、九歳の時、屋敷内やしきうちにて怜悧れいりなる娘とめそやされ、学校の先生たちには、活発なる無邪気なる子と可愛がられ、十一、二歳の時には、県令学務委員等ののぞめる試験場にて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
すなわち先のごとくにして軒ごとを見舞いあるき、怜悧れいり米塩べいえんの料を稼ぐなりけり。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかして、縞はよく既往を察し、未来を知り、怜悧れいりにして、またよく教えを受く。字義を解し、数理をさとり、義を守り理を弁じ、また、よく人をして勧善懲悪の観念を起こさしむ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その目には怜悧れいりな光を、その口には敏感な心のかすかな慄動りつどうを、そのほおには消ゆることなき情熱のこまやかな陰影を。しかしこの十一面観音の面相はそういう期待に応ずるものではない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ふく物事ものごと柔和やはらかにして名にし負ふ大和詞なればひとあいありて朋輩ほうばいの中もむつましく怜悧れいりゆゑわづかの中に廓言葉さとことばそと八文字の踏樣迄ふみやうまでも覺えしかば松葉屋の喜悦よろこび大方ならず近き中に突出つきだしにせんとて名を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あなたは冷たいくらい怜悧れいりな頭をもっていらっしゃるのに、唯ひとつの事だけには愚昧ぐまいのように眼がおみえにならない、それはあなたがご自分を美しくないとお信じになっていることだ。
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのへり下る心をさえも、受けとってもらえぬ悲しみ。それを貞子はその怜悧れいりさで分ってくれるだろう。だが分っている貞子自身もその美しさが文名と共に聞えている作家なのであった。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
武家の家庭のことで教育しつけは充分、生まれつき怜悧れいりで、母人はまたよろしい方、今は瓦解をして士族になって、多少は昔の威光が薄くなっているけれども、まだまだ品格は昔のままである。