微風びふう)” の例文
まず、窓際へゆっくり席をとって、硝子窓がらすまどを思いッきり押しあける。と、こころよい五月の微風びふうが、れかかるように流れこんで来た。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
短い太皷型たいこがたの石橋を渡ると、水屋みづやがあつて、新らしい手拭に『奉納ほうなふ』の二字を黒々とにじませて書いたのが、微風びふううごいてゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さらその何處どこにもかんじない微風びふう動搖どうえうして自分じぶんのみがおぢたやうにさわいでる。なにさわぐのかといぶかるやうにすこ俯目ふしめおろしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ひとみをこらしてみつめていると、ときおり、おもてをなでてくる微風びふうにまじってかすかな叫喚きょうかん……矢唸やうなり……呼子笛よびこぶえ……激闘げきとう剣声けんせい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其れがやわらかな日光にみ、若くは面を吹いて寒からぬ程の微風びふうにソヨぐ時、或は夕雲ゆうぐもかげに青黒くもだす時、花何ものぞと云いたい程美しい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
同時どうじしたると、すぐちかおおきなはいり、四ほうったえだやわらかな緑色みどりいろ毛氈もうせんひろげたように、こまかなが、微風びふうにゆれていました。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
朝靄あさもやを、微風びふういて、さざら波のたった海面、くすんだ緑色の島々、玩具おもちゃのような白帆しらほ伝馬船てんません、久しりにみる故国日本の姿は綺麗きれいだった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
唯、金環蝕が終ってようのはじまるときに生をうけた子供が、五月の微風びふうにそよぐ若葉の色彩しきさいの中に、すくすくと伸びてゆくことをいのるのみである。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
双無塩ふたりのあくぢよひとり西施せいしかたるは蒹葭けんが玉樹ぎよくじゆによるが如く、皓歯しろきは燦爛ひか/\としてわらふは白芙蓉はくふようの水をいでゝ微風びふううごくがごとし。
砂地のけつくようなの直射や、木蔭こかげ微風びふうのそよぎや、氾濫はんらんのあとのどろのにおいや、繁華はんか大通おおどおりを行交う白衣の人々の姿や、沐浴もくよくのあとの香油こうゆにおい
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
にしとしあきのはじめ、汽船きせん加能丸かのうまる百餘ひやくよ乘客じようかく搭載たふさいして、加州かしう金石かないはむかひて、越前ゑちぜん敦賀港つるがかうはつするや、一天いつてん麗朗うらゝか微風びふう船首せんしゆでて、海路かいろ平穩へいをんきはめたるにもかゝはらず
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
微風びふうの中から桜の花びらが病気の子のわきに落ちる。病気の子は動かない。
病む子の祭 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
微風びふうが花弁を動かしまた耀やかす。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
微風びふうもない晩春ばんしゅんの夕ぐれ、——ありやなしの霞をすかして、夕陽ゆうひの光が金色こんじきにかがやいている。いちめんの草にも、霞にも、竹童のかたにも——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
公園こうえん木立こだちは、青黒あおぐろい、そらっていました。こまかなが、かわいらしい、きよらかなせてわらっているように、微風びふうらいでいました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
蒸暑むしあつうちにもすべてがみづやうつきひかりびてすゞしい微風びふうつちれてわたつた。おつぎはうすからもち拗切ねぢきつて茗荷めうがせてひとつ/\ぜんならべた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
双無塩ふたりのあくぢよひとり西施せいしかたるは蒹葭けんが玉樹ぎよくじゆによるが如く、皓歯しろきは燦爛ひか/\としてわらふは白芙蓉はくふようの水をいでゝ微風びふううごくがごとし。
折からさわやかな五月の微風びふうに、停車場一面ときならぬ香水の嵐をまきおこしながら、かけ出して行った。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
どこかしらひえびえとした微風びふう
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あたかも南蛮絨毯なんばんじゅうたんきのべたように、すみきった大気たいきもみださぬほどな微風びふうになでられてあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分じぶん伴侶なかまが一つにあひあひいだいて微風びふうにさへえずひゞきてゝ戰慄せんりつしつゝあるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
秋なり、絶えず微風びふうはきたる
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
時折ときをり微風びふうはねをかへして
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)