弓形ゆみなり)” の例文
敵の腕は、彼の喉輪のどわを抱き込んだ。そのまま、二つの体が弓形ゆみなりになって、だだだだと、うしろへよろめいた。右衛門七は、声も出せない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弓形ゆみなりに曲ってただ一行ほか書かれてはいなかったが、浩にとっては、それ等の言葉から三行も四行もの意味がよみとれたのである。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
半町ばかり行くと、みちがこう急に高くなって、のぼりが一カ処、横からよく見えた、弓形ゆみなりでまるで土で勅使橋ちょくしばしがかかってるような。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貝殻の裏をのぞいたような白い大空が、この小さい島の上を弓形ゆみなりおおって、その処々に黄や紅のを打ったような小さい雲のかたまりが漂っていた。
麻畑の一夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこへ表から射し込む日の加減で、小鼻の下から弓形ゆみなりにでき上ったしわが深く映っている。この様子を見た自分は何となくもうけるのが恐ろしくなった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
汚れ煤けたガラスに吸い付いたように細長いからだを弓形ゆみなりに曲げたまま身じろきもせぬ。気味悪く真白な腹を照らされてさながら水のような光の中に浮いている。
やもり物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
枯萩かれはぎ一叢ひとむらが、ぴったりと弓形ゆみなりに地に平伏ひれふして居る。余は思わず声を立てゝ笑った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
片手に弓形ゆみなりばちを持って繰出くりだして参りまして釈迦堂の前面へ円く列ぶです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
半町はんちやうばかりくと、みちきふたかくなつて、のぼりがいつしよよこからえた、弓形ゆみなりまるつち勅使橋ちよくしばしがかゝつてるやうな。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
灯のない部屋の長押なげしから槍を降ろしている。弓形ゆみなりになっているので、何うかと思われた腰が、弦を外したようにぴんと伸び、手に取った槍をりゅうと二三度しごいて
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どてらの頬のあたりには、はてなと云う景色けしきがちょっと見えたが、やがて、かの弓形ゆみなりの皺を左右に開いて、やにだらけの歯を遠慮なくき出して、そうして一種特別な笑い方をした。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
男の方は、その重量おもみで、窓際へ推曲おしゆがめられて、身体からだ弓形ゆみなりえて納まっている。はじめは肩を抱込だきこんで、手を女の背中へまわしていました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さすが気丈きじょう怪童子かいどうじも、その一しゅんに、にわかにあたりがくらくなった心地ここちがして、名刀般若丸はんにゃまるをふりかぶったまま、五弓形ゆみなりくっして、ドーンとうしろへたおれてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丹念に引く線はようやくしげくなる。黒い部分はしだいに増す。残るはただ右手に当る弓形ゆみなりの一ヵ所となった時、がちゃりと釘舌ボールトねじる音がして、待ち設けた藤尾の姿が入口に現われた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
するすると向うへ流れて、横ざまに近づいた、細い黒い毛脛けずねかすめて、蒼い水の上をかもめ弓形ゆみなりに大きくあざやかに飛んだ。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さなきだに重体の多市は脾腹ひばらたれてひとたまりもなく、ウームと弓形ゆみなりにのけぞるはずみ——行燈の腰へすがった共仆ともだおれに、一面の闇、吹ッ消された燈火ともしびは窓越しに青白い月光と代った。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
する/\とむかうへながれて、よこざまにちかづいた、ほそくろ毛脛けずねかすめて、あをみづうへかもめ弓形ゆみなりおほきくあざやかにんだ。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
武松の足は、とたんに卓を、遠くへ蹴仆けたおしていた。左の手は、金蓮の黒髪をつかんでいて離さない。金蓮は、ひイっ……といって弓形ゆみなりに身をらす。武松の片腕が軽々と抱え上げたからである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門外おもてみちは、弓形ゆみなり一條ひとすぢ、ほの/″\としろく、比企ひきやつやまから由井ゆゐはま磯際いそぎはまで、なゝめかさゝぎはしわたしたやうなり
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
門外おもての道は、弓形ゆみなり一条ひとすじ、ほのぼのと白く、比企ひきやつやまから由井ゆいはま磯際いそぎわまで、ななめかささぎの橋を渡したようなり
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
邪慳じやけんに、胸先むなさきつて片手かたて引立ひつたてざまに、かれ棒立ぼうだちにぬつくりつ。可憐あはれ艶麗あでやかをんな姿すがたは、背筋せすぢ弓形ゆみなりもすそちうに、くびられたごとくぶらりとる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それ片手かたてかくしたけれども、あしのあたりをふるはすと、あゝ、とつて兩方りやうはうくうつかむとすそげて、弓形ゆみなりらして、掻卷かいまきて、ころがるやうにふすまけた。……
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
むらかゝると、降積ふりつもつた大竹藪おほたけやぶ弓形ゆみなりあつしたので、眞白まつしろ隧道トンネルくゞときすゞめが、ばら/\と千鳥ちどり兩方りやうはう飛交とびかはして小蓑こみのみだつばさに、あゐ萌黄もえぎくれなゐの、おぼろ蝋燭らふそくみだれたのは、ひわ山雀やまがらうそ
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
見ると、前へ立った、女の姿は、その肩あたりまで草隠くさがくれになったが、背後うしろざまに手を動かすにれて、き鎌、磨ける玉の如く、弓形ゆみなりに出没して、歩行ある歩行ある掬切すくいぎりに、刃形はがた上下うえしたに動くと共に
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)