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庵
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いおり
ふりがな文庫
“
庵
(
いおり
)” の例文
八五郎が一度来た琢堂の
庵
(
いおり
)
は、宵闇の中に堅く閉されて、人影がありそうもなく、四方は、松原で、人に訊くすべもなかったのです。
銭形平次捕物控:134 仏師の娘
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
そこには笛をふいている
飴
(
あめ
)
屋もある。その飴屋の小さい屋台店の軒には、俳優の紋どころを墨や
丹
(
あか
)
や
藍
(
あい
)
で書いた
庵
(
いおり
)
看板がかけてある。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
米友は自ら好奇をもって進入したところには、岩に沿うているけれども洞穴ではなく、たしかに人間のむすんだ草の
庵
(
いおり
)
があるのです。
大菩薩峠:37 恐山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
米と塩とは尼君が
市
(
まち
)
に出で
行
(
ゆ
)
きたまうとて、
庵
(
いおり
)
に残したまいたれば、
摩耶
(
まや
)
も予も
餓
(
う
)
うることなかるべし。もとより山中の
孤家
(
ひとつや
)
なり。
清心庵
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
左に太い幹をもつは
楊柳
(
ようりゅう
)
。下には流るる河、上には浮かぶ雲。水に建つ
庵
(
いおり
)
の中には囲碁を挿む二人の翁。右には
侍童
(
じどう
)
が茶を
煎
(
せん
)
じる。
工芸の道
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
▼ もっと見る
私は
性来
(
しょうらい
)
騒々
(
そうぞう
)
しい所が
嫌
(
きらい
)
ですから、わざと便利な市内を避けて、
人迹稀
(
じんせきまれ
)
な寒村の百姓家にしばらく
蝸牛
(
かぎゅう
)
の
庵
(
いおり
)
を結んでいたのです……
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
この作は、浅草
再法庵
(
さいほうあん
)
に、
行
(
おこな
)
い澄ましていた、元吉原松葉屋の抱え瀬川の作であって、
庵
(
いおり
)
の壁に書いてあった一首の
中
(
うち
)
だというのである。
傾城買虎之巻
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
そのうちに旅僧は、べつに先を急ぐ旅でもないから、どこか山の中に良い場所があるなら、
庵
(
いおり
)
を結んで、心
静
(
しずか
)
に修行したいといい出した。
風呂供養の話
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
そして武州家滅亡のゝちに
剃髪
(
ていはつ
)
して尼となり、何処かの「
片山里
(
かたやまざと
)
に草の
庵
(
いおり
)
を結んで、あさゆう
念佛
(
ねんぶつ
)
を申すよりほかのいとなみもなかった」
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
「——この親鸞も、近々に、いちど信州路まで出向かねばならんのう。国時どの、しばらく、宮村の
庵
(
いおり
)
を、留守にいたしますぞ」
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
むかし江戸品川、
藤茶屋
(
ふじぢゃや
)
のあたり、見るかげも無き草の
庵
(
いおり
)
に、原田内助というおそろしく
鬚
(
ひげ
)
の濃い、
眼
(
め
)
の血走った中年の大男が住んでいた。
新釈諸国噺
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
と妓王は、二十一という花の盛にいさぎよく別れを告げると、髪を切って
嵯峨野
(
さがの
)
の奥に小さな
庵
(
いおり
)
をつくって
引籠
(
ひっこも
)
ってしまった。
現代語訳 平家物語:01 第一巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
さて句意は、百姓が畑を打っている、そこに世を捨てた人が
庵
(
いおり
)
を結んで住まっている、その人の軒端まで打って行ったというのであります。
俳句とはどんなものか
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
この武骨の平馬、やさしい鶯が縁になって、その鶯よりも優しい飼主の少女と今こうして
庵
(
いおり
)
の竹縁に腰をかけて話している。
平馬と鶯
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
四条河原の
非人
(
ひにん
)
小屋の間へ、小さな
蓆張
(
むしろば
)
りの
庵
(
いおり
)
を造りまして、そこに始終たった一人、
佗
(
わび
)
しく住んでいたのでございます。
邪宗門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
上皇の
御幸
(
ごこう
)
であっても、お供の公卿たちは急造の
庵
(
いおり
)
に草枕することもあったのだが、それにしてもこうした交通の自由感の生れてきていたことが
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
「いや許せ許せ。
俺
(
おれ
)
が悪かったよ」と相変らずの御
豁達
(
かったつ
)
なお口振りで、「俺はあれからこっち、この谷奥の
庵
(
いおり
)
に住んでいる。
真蘂
(
しんずい
)
和尚と一緒だよ。 ...
雪の宿り
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
丁度お若さんがこの
庵
(
いおり
)
に
籠
(
こも
)
る様になった頃より、毎日々々チャンと時間を
極
(
きめ
)
て廻って来る
門付
(
かどづけ
)
の物貰いがございまして、
衣服
(
なり
)
も余り見苦しくはなく
根岸お行の松 因果塚の由来
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
雲水
(
うんすい
)
に似た旅人芭蕉も、時には一定の住所に
庵
(
いおり
)
を構えて、冬の
囲炉裏
(
いろり
)
を囲みながら、
侘
(
わび
)
しく暮していたこともある。
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
余は
呆気
(
あっけ
)
にとられた。八年前
秋雨
(
あきさめ
)
の寂しい日に来て見た義仲寺は、古風な
巷
(
ちまた
)
に
嵌
(
はさ
)
まって、小さな趣ある
庵
(
いおり
)
だった。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
主人は「ここから百八十メートルほど浜の方に、麻をたくさん植えた畑がありますが、その持ち主で、そこに小さな
庵
(
いおり
)
をつくって住んでいらっしゃいます」
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
悟浄
(
ごじょう
)
がこの
庵室
(
あんしつ
)
を去る四、五日前のこと、少年は朝、
庵
(
いおり
)
を出たっきりでもどって来なかった。彼といっしょに出ていった一人の弟子は不思議な報告をした。
悟浄出世
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
お師匠様のお迎えにと、才蔵は
庵
(
いおり
)
を昼頃出て、秋野を歩いて城下の方へ、
暢気
(
のんき
)
そうにブラブラと進んで行った。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
四年
応文
(
おうぶん
)
は
西平侯
(
せいへいこう
)
の家に至り、
止
(
とど
)
まること旬日、五月
庵
(
いおり
)
を
白龍山
(
はくりゅうざん
)
に結びぬ。五年冬、建文帝、難に死せる諸人を祭り、みずから文を
為
(
つく
)
りて
之
(
これ
)
を
哭
(
こく
)
したもう。
運命
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
家康が千代田城を政権の府とした頃、半蔵門の近くに観智国師という高僧が
庵
(
いおり
)
を結んでいた。家康はその徳に
帰依
(
きえ
)
して、国師に増上寺の造営を嘱したのである。
増上寺物語
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
お手紙をお書きになりましてから三日めに
庵
(
いおり
)
を結んでおかれました奥山へお移りになったのでございます。
源氏物語:34 若菜(上)
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
「叔父さんの部屋には
何物
(
なんに
)
も無い——病人に舞込まれても掛けてやる毛布も無い。ここはまるで俺の
庵
(
いおり
)
だ」
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
「そういう
中
(
うち
)
にも呉羽之介が、おッつけ
庵
(
いおり
)
に見えるであろう、今日はこの絵すがたの仕上がる日なれば、あそびがてら出来ばえを見に来ると約束しているのじゃ」
艶容万年若衆
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
次ぎの間にも
違棚
(
ちがいだな
)
があって、そこにも小さい軸がかかっていた。
青蚊帳
(
あおかや
)
に微風がそよいで、今日も暑そうであったが、ここは山の
庵
(
いおり
)
にでもいるような気分であった。
挿話
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
「笹
龍胆
(
りんどう
)
」や「
庵
(
いおり
)
もっこ」の紋を染め出した白い幕が張ってあって、「大竹流」、「向かい流」という看板の出ている水練場で泳ぎながら帽子にいっぱい
蜆
(
しじみ
)
が捕れ
江戸前の釣り
(新字新仮名)
/
三遊亭金馬
(著)
この句は
洒堂
(
しゃどう
)
の『
市
(
いち
)
の
庵
(
いおり
)
』という集にあるので、洒堂が
膳所
(
ぜぜ
)
から難波へ居を移した記念のものである。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
わずかに有志者があるいは世を去りあるいは山深く
庵
(
いおり
)
を結び、あるいは市街にありても
僧
(
そう
)
となりて俗縁を断ったものが、文字どおりにこれを実行したるに過ぎなかった。
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
そして、つい
庵
(
いおり
)
の周囲を一めぐりして、いつの間にか、前の慧林寺の境内を歩きまわっていた。かなり大きな寺だった。かなり広い庭だった。かなり大きな木もあった。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
そうして自分はもう俗世では決して満足が得られないのでこれをも捨ててしまって人の来ない所に小さい
庵
(
いおり
)
を作って住む事に定めたのである。その時私は丁度三十歳であった。
現代語訳 方丈記
(新字新仮名)
/
鴨長明
(著)
赤と青と提灯の灯が揺れ、
拙
(
つたな
)
い字で天狗連らしいちぐはぐな落語家の名前が、汚れた
庵
(
いおり
)
看板の中にでかでかと書かれてあった。まだお客は一人もつっかけていないらしかった。
小説 円朝
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
大勢は
庵
(
いおり
)
の前に拝して、その願意を申し述べると、道人は
頭
(
かしら
)
をふって、わたしは山林の隠士で、今をも知れない老人である。そんな怪異を鎮めるような奇術を知ろうはずがない。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記
(新字新仮名)
/
瞿佑
(著)
劇場の表飾りもまけずに趣好をこらし、
庵
(
いおり
)
看板をならべ、アーク燈を橋のたもとに
点
(
つ
)
けたので、日本橋区内には、今までになかった
色彩
(
いろどり
)
をそえたのだった。それが人気にあった。
旧聞日本橋:19 明治座今昔
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
願わくば一度は
此処
(
ここ
)
にしばらくの仮りの
庵
(
いおり
)
を結んで篁の虫の声
小田
(
おだ
)
の
蛙
(
かわず
)
の音にうき世の塵に
汚
(
けが
)
れたる
腸
(
はらわた
)
すゝがんなど思ううち汽車はいつしか上り坂にかゝりて両側の山迫り来る。
東上記
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
風外
(
ふうがい
)
という僧が、
庵
(
いおり
)
を作ってそこに住み、後に出て行く時に残して置いたので、おおかた風外の父母の像であろうといいましたが(相中
襍志
(
ざっし
)
)、親の像を残して去る者もないわけですから
日本の伝説
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
主人は案内を知っていると見え、
柴折戸
(
しおりど
)
を開けて中庭へ私を導き、そこから声をかけながら
庵
(
いおり
)
の中に入った。一室には灰吹を造りつつある道具や竹材が散らばっているだけで人はいなかった。
東海道五十三次
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
すると毎夜
種油
(
たねあぶら
)
の
費
(
ついえ
)
を惜しまず、
三筋
(
みすじ
)
も四筋も
燈心
(
とうしん
)
を投入れた
偐紫楼
(
にせむらさきろう
)
の
円行燈
(
まるあんどう
)
は、今こそといわぬばかり独りこの
戯作者
(
げさくしゃ
)
の
庵
(
いおり
)
をわが物顔に、その光はいよいよ鮮かにその影はいよいよ涼しく
散柳窓夕栄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
僅かに垣を隔てて建った林中の
庵
(
いおり
)
で、これが不思議なことに、下屋敷の中にある
離屋
(
はなれ
)
と一対になった、恰好と言い、場所の関係に
銭形平次捕物控:025 兵糧丸秘聞
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
双ヶ岡の
庵
(
いおり
)
のあるじの姿は見えなかった。秋晴れのうららかな
日和
(
ひより
)
にそそのかされて、遁世の法師もどこかへ浮かれ出したのであろう。
小坂部姫
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
聞けば、向う岸の、むら萩に
庵
(
いおり
)
の見える、
船主
(
ふなぬし
)
の料理屋にはもう交渉済で、二人は慰みに、これから
漕出
(
こぎだ
)
そうとする処だった。
伯爵の釵
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「この
庵
(
いおり
)
の北口が、
垂
(
た
)
れ
薦
(
ごも
)
でなく、せめてどんなでもよいから板戸であったら、風も防げるし、夜もすこしは暖かに眠れるのだがなあ……」
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
庵りというと
物寂
(
ものさ
)
びた感じがある。少なくとも
瀟洒
(
しょうしゃ
)
とか風流とかいう念と
伴
(
ともな
)
う。しかしカーライルの
庵
(
いおり
)
はそんな
脂
(
やに
)
っこい
華奢
(
きゃしゃ
)
なものではない。
カーライル博物館
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「何を言っているのです、吉田がどうしました、御殿がどうしました、近江の国は
長等山
(
ながらやま
)
の
麓
(
ふもと
)
、長安寺の
境内
(
けいだい
)
、小町塚の
庵
(
いおり
)
がここなんですよ」
大菩薩峠:39 京の夢おう坂の夢の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
一方はかなり裕福の家から出て、かっぷくも堂々たる美丈夫で、学問も充分、そのひとが草の
庵
(
いおり
)
のわびの世界で対抗したのだから面白いのだよ。
庭
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
居士が根岸の住みなれた
庵
(
いおり
)
に病躯を横たえてから一月ばかり後のことであった。余に来てくれという一枚の葉書が来た。
子規居士と余
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
「いや許せ許せ。
俺
(
おれ
)
が悪かつたよ」と相変らずの御
豁達
(
かったつ
)
なお口振りで、「俺はあれからこつち、この谷奥の
庵
(
いおり
)
に住んでゐる。
真蘂
(
しんずい
)
和尚と一緒だよ。 ...
雪の宿り
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
庵
漢検準1級
部首:⼴
11画
“庵”を含む語句
庵室
此庵
草庵
庵主
沢庵漬
沢庵
沢庵石
庵原
沢庵和尚
古賀侗庵
道庵
小瀬甫庵
杏庵
楊庵
再法庵
大喜庵
快庵禅師
如是縁庵
不知庵
梅木淳庵
...