度々たびたび)” の例文
私はそれらの光景をあまり度々たびたび見せられたためか、どうもそれ以来、写真機をぶら下げた紳士を見ると少し不愉快を覚えるのである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
それから度々たびたびの手紙と文章、文章はまだ幼稚な点はあるが、癖の無い、すらすらした、将来発達の見込は十分にあると時雄は思った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ことにバクテリアなどは先頃せんころまで度々たびたび分類学者が動物の中へ入れたんだ。今はまあ植物の中へ入れてあるがそれはほんのはずみなのだ。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
工藝の方面でも、早くから雑誌を有ちたがっていたが、度々たびたび話題に上りながら、経済的に自信がつかなかったので断ち消えになった。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「叔母さん、どんなに私は是方こっちへ参るのが楽みだか知れませんでしたよ。お近う御座いますから、たこれから度々たびたび寄せて頂きます」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こういう声をわたしは度々たびたび聞かされた。団菊の歿後に洪水あるべきことは何びとも予想していたのであるが、その時がいよいよ来た。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「そんな事をいわずに、物は試しだから一口買ってごらんなさい、しかし度々たびたびけません、あたったら一遍こきりでおよしなさい」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その花はまた規則正しくしおれるころになると活けえられるのです。琴も度々たびたびかぎの手に折れ曲がった筋違すじかいへやに運び去られるのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
毎度このモデル問題では大真面目おおまじめでありながら滑稽こっけいに近い話などがいて、家のものなども大笑いをしたことが度々たびたびありました。
度々たびたび出掛けまして、四度目か五度目に位置が少し北に寄り過ぎているので、本社ヶ丸に隠れて見えないということを確めました。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
実際この学生は、今し方まで地上にいたかと思うと、たちまちにして胡桃くるみの木の天辺てっぺんに上っているようなことが度々たびたびあったのだ。
弥之助の家へもちょいちょい売りに来たが、父がこの為朝から薪を買い入れて、それから炉辺で話し込んだ事を度々たびたび覚えて居る。
「お内にも御病人の在るのに、早く帰つて上げたが可いぢやありませんか。わたくしも貴方に度々たびたび来て戴くのははなはだ迷惑なのですから」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
度々たびたびインチキにひっかかったことを後から知って口惜しさにたえず、もうこれからは引懸るものかと、研究してみたのである。
麻雀インチキ物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『おっさん度々たびたびですまんが——実は拙者はけさ風呂屋へ褌を忘れてきた。お恥ずかしい話だが、ちょっと二筋ばかり買ってきてくれまいか』
『七面鳥』と『忘れ褌』 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
関東煮とは、吾々われわれ東京人の所謂いわゆるおでんの事だよ。地方へくとおでんの事をく関東煮と呼ぶ。殊に関西では、僕自身度々たびたび聞いた名称だよ。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
少年時代からの親交であって度々たびたび鴎外の家に泊った事のある某氏の咄でも、イツ寝るのかイツ起きるのか解らなかったそうだ。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ことつたら、ひとたちのつてゐるしゆ御血汐おんちしほで、このなほるかもれぬ。おもふことも度々たびたびだ。このなら咬付かみつける。真白まつしろだ。
徳蔵おじは大層な主人あるじおもいで格別奥さまを敬愛している様子でしたが、度々たびたび林の中でお目通りをしてる処を木の影から見た事があるんです。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
度々たびたび来ているうち、その事もなげな様子と、それから人の気先きさきね返す颯爽さっそうとした若い気分が、いつの間にか老妓の手頃な言葉がたきとなった。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
得念は木挽町こびきちょうに住居致候商家の後家ごけと、年来道ならぬちぎりを結び、人のうわさにも上り候ため度々たびたび師匠よりも意見を加へられ候由。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それを故意わざと心附かぬふりをして、磊落らいらくに母親に物をいッたりするはまだな事、昇と眼を見合わして、狼狽うろたえて横へ外らしたことさえ度々たびたび有ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
で、私は度々たびたび氏へ自分の意見を云った。すると氏は「フン、フン、フン、その通りですな。もっともです。そうで無ければなりませんとも。賛成!」
名古屋の小酒井不木氏 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この蒐集の間に、わたくしは「弘前医官渋江うじ蔵書記」という朱印のある本に度々たびたび出逢であって、中には買い入れたのもある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今もじいの申した通り、この狭い洛中でさえ、桑海そうかいへん度々たびたびあった。世間一切の法はその通り絶えず生滅遷流せいめつせんりゅうして、刹那もじゅうすと申す事はない。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
殊に山陰方面の方策については、度々たびたび、献言も試み、尼子一族との間にも介在していた関係上、それは決して、彼の自惚うぬぼれだけのものではない。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それも度々たびたび読んだ書の一種かと思ふ。ところが、此謡ひといふものが、いやで/\たまらず、おまけに不器用で、覚えないと、手ひどく叱られる。
父親の仕事の都合か何かで幼い時に度々たびたび学校をかわったことのある人は覚えているだろう。ちがった学校へはいった初めのうちほどいやなものはない。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
一つ一つの風景については、物語が進むに従って、詳しく描き出す折が度々たびたびあるのだから、すべて説明を略して、場内の主なる建造物を列挙すれば
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「な、なんといわれるのです。ぼ、僕は笠神博士を敬慕のあまり、お宅に度々たびたびお伺いするのです。い、一体あなたは何を調べようと仰有おっしゃるのですか」
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
(しかし朝はウイスキイを用い、ビフテキも好んで食った。)住居は度々たびたび変ったが、純日本風の家を好んで、少しでも洋風を加味したものをきらった。
「よろしい、相撲すもうは勇壮な競技で結構です。これからも度々たびたびお相手申しあげる機会がありましょう。しかし、内藤君」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
なんかと度々たびたび海のむこうから文句が出るんだけれど、どうしてもさないものだから、海外の識者もみんな呆れて、諦めて、この頃ではもう黙ってる。
第四十二 肥前ひぜん飯 と申すのは鯛の身を白焼にして細かくさばきます。別に牛蒡ごぼうをササきにして半日ほど水へ漬けて度々たびたび水を取かえてアクを出します。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そう度々たびたびあるわけでもないらしいから、こんな浮わついた文章も、記念として、消さずにそのまま残して置こう。
鉄面皮 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ただ生徒ばかりでない、会計上からして教員の不足することも度々たびたびでしたが、ソンな時にも払は少しも狼狽しない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
度々たびたび申しますが、素直な糸柳はフラフラしておるからいけない、という事はいえないのであります。それは皆が皆、同じ自然美をもっているのであります。
亡き父上の御遺言をも忘れてそなたは分居せむとや、さても分別違ひのことを能くも汝はいひ得るよ、と度々たびたび弟を誡め諭してあえて弟のいふところを許さざりしが
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
けれどどろんとさお気味悪きみわるくよどんだみずそこには、どんな魔物まものんでいるかれないとおもうと、おじけがついて、度々たびたびみかけては躊躇ちゅうちょしました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
このパノラマは上野公園には上野戦争がかいてあったが、これは浅草公園のものほど度々たびたびは見ずにしまった。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
警察どもは小商人などのところへは度々たびたび戸籍調らべにやって来て、無遠慮な調らべ方をして行く代りに、門構でもあるような家には二度のところを一度にし
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
照葉てりは狂言にも度々たびたびおともしましたが、それもやっぱり正岡先生の方はおめし物から帽子まで覚えていますのに(うす色のネルに白縮緬ちりめんのへこ帯、ヘルメット帽)
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
これまでから度々たびたび私の感想を述べましたから、今は簡単に、男女の性別が人格の優劣の差別とはならず
婦人改造の基礎的考察 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
こんなに度々たびたび、見詰められては、一分も座に居られなかったに違いない私も染之助が信乃になっているばっかりに、何だか信乃の恋人の浜路はまじにでもなったように
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この娘は、まだ十七で、帰りに寄航したときも逢いましたし、内地に子供らしい手紙を度々たびたびくれました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
度々たびたび方々で人をいたり怪我をさせたので大分評判が悪く、したがって乗るのもあぶながってだんだん乗客が減ったので、とうとうほんの僅かの間でやめてしまいました。
銀座は昔からハイカラな所 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
そうして、誰もその存在を認めぬカッチャーカンデーとテジーマンデーの小市場は、突如として、ひそかな旋風のように市場の棉花相場を狂わすことが度々たびたびあった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
私は度々たびたび、その理由を訊ねたが、博士はただにやりと笑うだけで、かたく口をつぐんで話さなかった。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
私は家人に「御宅おたくでは、こんなに昼間鼠が騒ぎますか」と訊ねて「いいえ、そんな事はありません」と云う様なことを聞いた事も度々たびたびある、仮令よし、それが鼠としても
頭上の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
妖怪とか変化へんげとか、生霊とか死霊とか種々いろいろ怪物ばけものついては度々たびたび前に話をしたり書いたりしたから改めて申すまでも無かろうから今度は少し変った筋の話をする事にする。
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)