寝覚ねざめ)” の例文
旧字:寢覺
そうでしたか。景蔵さんには寝覚ねざめで行きあいましたっけ。まあ、お役所の方も、おしかりということで済みました。つまらない疑いを
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
寝覚ねざめでは、宿場茶屋の端をかりて、早目な昼めしを喰べたので、事なく済んだが、やがて一峠越えて、上松あげまつのあたりへかかると
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鐘も響かぬ山家やまがにさえ、寝覚ねざめ跫音あしおととどろいたが、どっと伊豆の国を襲ったので、熱海における大地震は、すなわち渠等かれらが予言の計略。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寝覚ねざめの床を左に見て、悠々一行が進んで行った時、貧弱みすぼらしい一人の老人が、ひどく何かに驚いたように、つと行列の先を切った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わが名をさえも三彦みつひこと書き、いつかはおい寝覚ねざめにも忘れがたない思出の夢を辿たどって年ごとに書綴りては出す戯作げさくのかずかず。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
河口はとにかく、犬山からこの笠松までの悠容ゆうようたる大景を下流にして、初めて中流の日本ライン、上流の寝覚ねざめ恵那えなの諸峡が生きるのである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ねむりさめて見れば眼あきらかにして寝覚ねざめの感じなく、眼をふさぎて静かにせばうつらうつらとして妄想はそのままに夢となる。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
二人の仲はあまりにも深間ふかま過ぎて、暗討まで仕掛けられた吾妻屋永左衛門にしても、寝覚ねざめのよくなかったことでしょう。
これから皆様御案内の通り福島を離れまして、の名高い寝覚ねざめの里をあとに致し、馬籠まごめに掛って落合おちあいへまいる間が、美濃みのと信濃の国境くにざかいでございます。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「隠れなき御匂ひぞ風に従ひて、ぬし知らぬかと驚く寝覚ねざめの家々ぞありける」と記されたかおる大将の、「扇ならで、これにても月は招きつべかりけり」
『新訳源氏物語』初版の序 (新字新仮名) / 上田敏(著)
「だが、重右衛門ナア、貴様も此村で生れた人間ぢや無えか、それだアに、此様こんな皆々みんな爪弾つまはじきされて……悪い事べい為て居て、それで寝覚ねざめが好いだか」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
仏国革命の当時物好きな御医者さんが改良首きり器械を発明して飛んだ罪をつくったように、始めて鏡をこしらえた人も定めし寝覚ねざめのわるい事だろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一条兼良いちじょうかねら公の『秋の寝覚ねざめ』下にも「猪と申す獣は猛なる上に、松の脂もて身を堅め候故矢も立つ事候はぬ由なれば、その心は武士の眼として猪の目すかす事になん」
宿引やどひきの声。それには用がない。竜之助は神宮の方へは行かないで、浜の鳥居から右に寝覚ねざめの里。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
寝覚ねざめから駒ヶ岳に登って、玉窪の小屋に一泊し、宮田みやだに下り、三峰みぶ川に沿うて高遠に至り、更に黒川を遡りて、忘れもせぬ八月十八日、暴風雨を突いて戸台から甲斐駒に登った。
北岳と朝日岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「へえ、こっちも意地だす。こんど蠅男にやられてしもたら、それこそ警察の威信地に墜つだす。完全包囲をやらんことには、良かれ悪しかれ、どっちゃにしても寝覚ねざめがわるおます」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
寝つかれない場合と見るか、夜半よわ寝覚ねざめと見るかは、この句を読む人の随意である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
夜はいつでも宵の口から臥床ふしどに入ることにしている父親の寝言などが、ふと寝覚ねざめの耳へ入ったりすると、それが不幸な旅客の亡霊か何ぞにうなされている苦悶くもんの声ではないかと疑われた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あわれ室香むろかはむら雲迷い野分のわけ吹くころ、少しの風邪に冒されてよりまくらあがらず、秋の夜ひややかに虫の音遠ざかり行くも観念の友となって独り寝覚ねざめの床淋しく、自ら露霜のやがてきえぬべきを悟り
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
どうも、貴方あなたも人間が悪くていけない。あんないゝ方をいじめるなんて、うも甚だよろしくない。貴方が、持って行けとったから、つい持って行ったものゝ、どうも寝覚ねざめが悪くっていけない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
寝覚ねざめ物語絵巻』では十六、七、八、九、などが普通である。草紙ということを頭に置き、紙の大きさや書き方が草紙にふさわしい方をとれば、源氏や紫式部のがちょうど適当なように見える。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ことに『伊勢物語』や『源氏物語』や『夜半よわ寝覚ねざめ』がつくられているではないか、それにまた『蜻蛉日記かげろうにっき』や『枕草紙まくらのそうし』や『更級日記さらしなにっき』やのような美しい日記随筆の類が生れているではないか
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
ほととぎす聴きたまひしか聴かざりき水のおとするよき寝覚ねざめかな
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
五月雨さみだれ御豆みず小家こいえ寝覚ねざめがち
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
わが性格を思ふ寝覚ねざめかな。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
旅のやどりの寝覚ねざめとこ
県歌 信濃の国 (新字新仮名) / 浅井洌(著)
寝覚ねざめてらす、窓の中。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
この、筆者の友、境賛吉さかいさんきちは、実はつたかずら木曾きそ桟橋かけはし寝覚ねざめとこなどを見物のつもりで、上松あげまつまでの切符を持っていた。霜月の半ばであった。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あんまり寝覚ねざめがよくねえから、ちょッと、お別れをいいに戻ったが……、お綱、ここはなんにもいわないで、お前は一ツ、別に考えなおしてくれ
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
偶然にも、半蔵はそんな帰村の途中に、しかも寝覚ねざめとこの入り口にある蕎麦屋の奥で、反対の方角からやって来た友人と一緒になることができた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
で、上流の福島や寝覚ねざめとこ探勝の予定も中止すると、どうでもみょう十三日の朝には此処ここを立たねばならなくなった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
上松あげまつを過ぐれば程もなく寝覚ねざめの里なり。寺に到りて案内を乞へば小僧絶壁のきりきはに立ち遙かの下を指してこゝは浦嶋太郎が竜宮より帰りて後に釣を垂れし跡なり。
かけはしの記 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「人殺しも多くしたが今日ほど寝覚ねざめの悪い事はまたとあるまい」と高き影が低い方を向く。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
清「まア黙っておでなせえ、旦那え、今三千円の金があれば清水の家も元のように立ちやす、そうすれば貴方あなた寝覚ねざめがいゝから、どうか返して下せえ、親子三人、うかあがります」
これにて愚僧が犯せる罪科の跡は自然立消たちぎえになり候事とて、ほつと一息付き候ものゝ、実はまんまとわが身の悪事を他人に塗付ぬりつけ候次第に候間、日数ひかずたち候につれていよいよ寝覚ねざめあしく
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
持参の瓢箪ひょうたんの中へいっぱい清酒を詰めさせた客人があるという手がかりがあって、それから問いただしてみると、それは多分くだんの一瓢を携えて寝覚ねざめとこへおいでになったのだろうとのことです。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
木曾路きそじに入りて日照山ひでりやま桟橋かけはし寝覚ねざめ後になし須原すはら宿しゅくつきにけり。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ハイわたくしは城外上松あげまつ寝覚ねざめの床のほとりの者、名は六と申します」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ものうき寝覚ねざめ
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
なぜだといえば、あのきているうちは、二人の寝覚ねざめが悪いから、殺した、いや照子に殺させたに違いありません。ほんとうに許されないのは貴女です。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御順路の日割によると、六月二十六日鳥居峠お野立のだて、藪原やぶはらおよびみやこしお小休み、木曾福島御一泊。二十七日かけはしお野立て、寝覚ねざめお小休み、三留野みどの御一泊。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
カーン、カーン、と何処かで鍛冶かじ鎚音つちおとがたかく響くのも、寝覚ねざめの耳には、快かった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よべのとまりの十六小女郎じゅうろくこじょろ、親がないとて、荒磯ありその千鳥、さよの寝覚ねざめの千鳥に泣いた、親は船乗り波の底」「うまいのねえ、感心だ事、話せるじゃありませんか」「話せますかな」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたくしは毎年冬の寝覚ねざめに、落葉を掃く同じようなこの響をきくと、やはり毎年同じように、「老愁ハ葉ノ如クハラヘドモ尽キズ蔌蔌タル声中又秋ヲ送ル。」と言った館柳湾たちりゅうわんの句を心頭に思浮べる。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「いや、いや、私が聞いただけでも、何か、こうわざと邪慳じゃけんに取扱ったようで、対手あいてがその酔漢よいどれいたわるというだけに、黙ってはおられません。何だか寝覚ねざめが悪いようだね。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寝覚ねざめ蕎麦屋そばやであった時の友人の口から聞いて来た言葉が、まくらの上で彼の胸に浮かんだ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
背中が重くなる、痛くなる、そうして腰が曲る。寝覚ねざめがわるい。社会が後指うしろゆびす。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……夜汽車が更けて美濃みの近江おうみ国境くにざかい寝覚ねざめの里とでもいう処を、ぐらぐらゆすってくようで、例の、大きな腹だの、せた肩だの、帯だの、胸だの、ばらばらになったのが遠灯とおあかり
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寝覚ねざめまで行くと、上松あげまつの宿の方から荷をつけて来る牛の群れが街道に続いた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あなたは寝覚ねざめが悪かありませんか」
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)