)” の例文
諦念! 何たる悲しいかくだ! しかも、それのみが今の僕に残されている唯一の隠れ家だとは!——君のおびただしい気苦労のただ中へ
ほとんあやふかつたその時、私達は自らすくふために、十ぶんにそのちからうたがひをのこしながらも、愛とその結婚にかくを求めようとしました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
それにまた、ジャン・ヴァルジャンは隠れをよく選んでいた。彼はほとんど欠くるところなき安全さでそこにいることができた。
「さ、お立ちなさりませ。さ、歩かねばなりませぬ。夜明けぬうちにかくまで是非参らねばなりませぬ。肩にお縋りなさりませ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
見てひそかもとの座へ立ち歸り彼は正しく此所のあるじさては娘の父ならん然れば山賊のかくにも非ずと安堵あんどして在る所へ彼娘の勝手よりぜん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
細い横丁を二三度あちこちへ折れて、飛びこんだのはアパートメントとは名ばかりの安宿やすやどの、その奥まった一室——彼等の秘密のかく
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
悲哀かなしみの持って行きどころのないようなこの画家は、あいびきする男女の客や人を待合せる客のためにある奥の一室を旅の隠れともして
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
東風君と寒月君はヴァイオリンのかくについてかくのごとく問答をしているうちに、主人と迷亭君も何かしきりに話している。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「総じてこの山は都卒とそつの内院にもたとへ、又は五台山ごだいさん清涼山せいりょうぜんとて唐土までも、遠く続ける芳野山よしのやま、かくれ多きところなり。」
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
注意してそつと自分のかくを出た私は、眞直に臺所につゞいてゐる裏梯子うらばしごの方に出た。臺所中は火と騷ぎで一ぱいだつた。
隣家となりの市川楽翁は、夜が明けるのを待ちかねていたように、庭づたいにやって来て、藪田助八のかくをたたいていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青柳は、父の経営していた「隻流せきりゅう館」という、柔道の道場の裏二階に、夫婦で暮していた。そこの三畳の一室を、光丸の隠れに当てがった。……
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
竹腰と道家はそこからじぶんかくに帰って、不思議な老人に教えられた時機の来るのを待っていた。二人はその間の生計たつきに野へ出てけものっていた。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
貴重な材木や硝子ガラスを使つて細工がしてある。その小さい中へ色々な物が逃げ込んで、そこを隠れにしてゐる。その中から枯れ萎びた物のが立ち昇る。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
やまに、うらに、かくれも、さま露呈あらはなる、あさひらくより、ふすま障子しやうじさへぎるさへなく、つゝむはむねうすもののみ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかもその神社じんじゃ所在地しょざいちは、あの油壺あぶらつぼ対岸たいがんかくあととやら、このうえともしっかりやってもらいますぞ……。
生活上のある必要から、近い田舎の淋しい処に小さなかくを設けた。大方は休日などの朝出かけて行って、夕方はもう東京の家へ帰って来る事にしてある。
石油ランプ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
各新聞社は、隠れの捜索に血眼ちまなこだったが、絶縁状が『朝日新聞』だけへ出ると物議はやかましくなった。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ヴィタリスはそっくりひつじの毛皮服にくるまっているので、雨もしのげたし、さるのジョリクールも、一しずく雨がかかるとさっそくかくれににげこんだ。
朝から晩までべちゃくちゃさえず葭原雀よしわらすずめの隠れにもなる。五月雨さみだれの夜にコト/\たた水鶏くいなの宿にもなる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
越して飛んでまいるうちに天気が急にかわっていかい大風になって参ったので小鳥はそのかくれ
胚胎 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
お浜は今まで死ぬ気はなかったのです、郁太郎をつれてとにかくこの家を出て、広い世間のどこかにかくを見つけようと、無鉄砲な考えで胸も頭もいっぱいでした。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わたくしはまた更に為永春水ためながしゅんすいの小説『辰巳園たつみのその』に、丹次郎たんじろうが久しく別れていたその情婦仇吉あだきちを深川のかくれにたずね、旧歓をかたり合う中、日はくれて雪がふり出し
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
倉地が先に行って中の様子を見て来て、杉林すぎばやしのために少し日当たりはよくないが、当分の隠れとしては屈強だといったので、すぐさまそこに移る事に決めたのだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
中田屋の一件とは別口べつくちで、千生さんは少し筋の悪いことがあって、当分は身を隠していなければならない。その隠れは知れているが、今すぐに逢わせるわけには行かない。
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
精神がぽうつとすることさへある。俺の魂はどこへか行つてしまつたのではあるまいか。こんなことを思つて、そのかくれをさがさうとする、すぐ愛子の額付ひたいつきが眼底に浮ぶ。
畜生道 (新字旧仮名) / 平出修(著)
ウーン……おっかア少し待ってくんな、あんまり強く遣るとおらア死んじまう、おれの息がとまっちまうと、若旦那さまのお尋ねなさる仇敵かたきかくもお探しなさるお刀の手掛りも分るめえ
外出先から歸つて來た親を出迎へる邪氣あどけない子供のやうに千登世は幾らか嬌垂あまえながら圭一郎の手を引つ張るやうにして、そして二人は電車通りから程遠くない隱れの二階に歸つた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
脱いだ衣類其他そのたを、森の奥の窪地くぼちで焼き捨て、その灰の始末をつけて了った時分には、もう太陽が高く昇って、森の外の街道には、絶えず、チラホラと人通りがして、今更らかくを出て
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
きっと僕のポケットから落っこったんだろう、いつか草ん中をころがり廻った時……気違いの真似をして……。しゃがんでみてごらん、母さん、この野郎やろうがうまく隠れたとこをさ、かくをさ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
という貼紙を、甚七の隠れでみた時、上の弟はじろりとお俊をみた。
新訂雲母阪 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「オイ、玄心斎どの、イヤ、皆の者、殿のお隠れが判明いたしたぞ」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
隠れや月と菊とに田三反
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
かくれもなし
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
五 かく
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ただ棟梁の大勘が、お家様の義理合いでやむなく一時のかくを、どこかへ探してやったことから、細かい用事をあっしにいいつけたんでございます
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飯田いいだの在に見つけた最後の「隠れ」まであとに見捨てて、もう一度中津川をさして帰って行こうとする人である。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこがイワノフ博士のかくなのである。大岩をたくみにくりぬいてつくってある洞穴は、見るからに身の毛のよだつほど、すさまじい光景を呈している。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
われわれはプティー・ピクプュスのいにしえのありさまを詳しく述べているのであるから、そして既にこの秘密な隠れの窓を一つ開いて中をのぞいたことであるから
それからというもの、岡は美人屋敷とうわさされる葉子の隠れにおりおり出入りするようになった。倉地とも顔を合わせて、互いに快く船の中での思い出し話などをした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼女かのじょわたくしははと一しょに、れい海岸かいがんわたくしかくって、それはそれは親身しんみになってよくつくしてくれ、わたくし病気びょうきはやなおるようにと、氏神様うじがみさま日参にっさんまでしてくれるのでした。
二人は声を掛け合ったがさっかくへ飛び込んだ。汗も出なければ呼吸いきもはずまない。
わたくしは突然二人が恋のかくれを驚す事のいかにも野暮らしく、今日はこのまゝ帰らうとも思ひ、また折角来たからには、人知れず様子だけでも窺つて置きたいやうな気もして
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
組んずほぐれつみ合っていると、近所の小屋からまたまた加勢が来る、弥次馬が来る、それをよそにして、この美人連のかくを見つけ出した連中はいい気になってこの一角を占領して
が、むべき岩窟がんくつを、かつ女賊ぢよぞくかくであつたとふのはをしい。……
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
男は自動車の運転手にさえ、彼のかくを知らせまいとして、わざと三町も手前で車を降りた。小間使のお雪がその車の番号を覚えて居た所で、こんなに用心深い相手には何の役にも立たなかった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この手紙は今年の春(大正十一年)中野の隠れからうけた一節で
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
万人に向かって頭からぶつかってゆき、なんら退却の道を講ぜず、未来のためにかくを取っておこうとしない、クリストフの勇敢な無法さを、おそらく彼は彼らよりもよく評価し得たのであろう。
鋸屑おがくずをこしらえて、それを隠れの入口のところにく。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
路通 「隱れや寢覺めさらりと笹の霜」
俳諧師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)