太息といき)” の例文
「初めにこっちの出した案だ」と宗兵衛は太息といきをつきながら云った、「全額の三分の二を貰えば訴訟を取りさげたいと云っている」
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
聴水は可笑おかしさをこらえて、「あわただし何事ぞや。おもての色も常ならぬに……物にや追はれ給ひたる」ト、といかくれば。黒衣は初めて太息といき
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
よびつかはしたり必らず/\心配しんぱいするに及ばず早々此所ここあふべきかぎを持參して此錠前このぢやうまへあけよと申されしかば漸々やう/\吉五郎はホツと太息といき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
話が一段落と見るや、平次はツイと座を立つて、縁側の雨戸を一枚引あけ、水の如く入つて來る月明りの中に、ホツと太息といきを漏らしたのです。
彼はほッと太息といきをもらして呟きました。そうして傍らにあった椅子に腰をかけ、気を静めようとしましたが、何だか頭がぼーっとしてきました。
玉振時計の秘密 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
指して定まらぬ行衛ゆくえに結ぼるる胸はいよいよ苦しく、今ごろはどこにどうしてかと、打ち向う鏡はやつれを見せて、それもいつしか太息といきに曇りぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
そのお帰りになった後のおかおの色は、打沈んで、太息といきをついておいでなさるのが、今までの兵馬さんとはまるっきり違う。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と膳の下へ突込つッこむようにり寄った。膝をばたばたとやって、歯をんでおののいたが、寒いのではない、脱いだはだには気も着かず。太息といきいて
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
太息といき吐き『それ程事情が聞きたけりやあ、話すまいものでもないが。一体手前は、あの深井と、いつからねんごろしたんだい』
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
何に驚きてか、垣根の蟲、はたと泣き止みて、空に時雨しぐるゝ落葉る響だにせず。やゝありて瀧口、顏色やはらぎて握りし拳もおのづから緩み、只〻太息といきのみ深し。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「お師匠さまはそのように申されたか」と、玉藻の瞳はまた動いたが、やがて感嘆の太息といきをついた。「卜占に嘘はない。お師匠さまは神のようなお人じゃ」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と生不動は、答えるでもなく太息といきを洩らして、重蔵の飛脚状を前に、いつまでも腕ぐみの中へ顔を埋めていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わざと多助に荒々しくいいつゝ引立てゝ太左衞門は帰りました。跡に丹治はおかめと顔見合わして太息といきつき
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし感じの鈍い單四嫂子も魂は返されぬものくらいのことは知っているから、この世で寶兒に逢うことは出来ぬものと諦めて、太息といきを洩らして独言ひとりごとをいった。
明日 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ややありて浪子は太息といきとともに、わなわなとふるう手をさしのべて、枕の下より一通の封ぜしものを取りいだ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
アアかつて身の油に根気のしんを浸し、眠い眼をずして得た学力がくりきを、こんなはかない馬鹿気た事に使うのかと、思えば悲しく情なく、我になくホット太息といきいて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あくる十七日の夕方左柳高次が早馬で馳せ付け私の前へ平伏して、姉さん、と云つたきり太息といきをついて居りますから、ては愈々と覚悟して、こみ上げる涙をじつと抑へ
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
お島はこの二三日、気が狂ったような心持で、有らん限りの力を振絞って、母親と闘って来た自分が、不思議なように考えられた。時々顔を上げて、彼女は太息といきもらした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女子をなご太息といきむねくもして、つきもるまどひきたつれば、おとざめて泣出なきいづる稚兒をさなごを、あはれ可愛かはゆしいかなるゆめつるちゝまゐらせんとふところあくればみてさぐるもにくからず
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
忍藻おしも和女おことの物思いも道理ことわりじゃが……この母とていとう心にはかかるが……さりとて、こやそのように、忍藻太息といきくようでは、太息のみ吐いておるようでは武士もののふ……まこと
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
「えらいところへ案内してすみませんでしたね。」青年は元気よく太息といきをつきながら笑った。
彼は弾んだ呼吸をすっかり太息といきに吐き出すと、ベッシェール夫人は冗談のように言った。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ジルベールがたちまち高手籠手にいましめられたのでルパンも太息といきして起ち上った。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
行燈をともしてその前に太息といきつきぬ、「何ゆえ死にしか和主がほかに知る人なし」「憐れ憐れ誰が殺せしぞ」「伯父よ佐太郎主が縊り殺せしとか」ああ怨めしき阿園、情なきことせしものぞ
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
私は夢から醒めたように深い太息といきをつくと両手で頭を押えた。私は気が狂ったんじゃないか知ら、しかしたしかに宮本夫人を見た。小田切大使を見た。この目で見たんだから間違うはずはない。
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
戸口とぐちからだい一のものは、せてたかい、栗色くりいろひかひげの、始終しゞゆう泣腫なきはらしてゐる發狂はつきやう中風患者ちゆうぶくわんじやあたまさゝへてぢつすわつて、一つところみつめながら、晝夜ちうやかずかなしんで、あたま太息といきもら
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
慎九郎は眼をぱちりとさせた、妻きいは夫の顔をみて、太息といきいた。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
狭山は徐々おもむろに目をうつして、太息といきいたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それからやおら体ぜんたいに曲線の波をうたせながら、熱い太息といきといっしょにもうひと膝すり寄せて、清純無邪気にこう囁やいた。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
話が一段落と見るや、平次はツイと座を立って、縁側の雨戸を一枚引あけ、水の如く入って来る月明かりの中に、ホッと太息といきを漏らしたのです。
偖質屋よりは今日中猶豫いうよ致し明日は是非とも質物しちもつ相流し候旨ことわりに來りければ文右衞門は途方とはうにくれ如何はせんと女房お政に相談さうだんなしけるにお政も太息といき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
鷹を逃がした前後の事情を聞かされて、老人は太息といきをついていた。かれは殆ど途方に暮れたように其の首をうなだれたまま、しばらくは何にも云わなかった。
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御溝をはさんで今を盛りたる櫻の色の見てしげなるに目もかけず、物思はしげに小手こまぬきて、少しくうなだれたる頭の重げに見ゆるは、太息といき吐く爲にやあらん。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
主人はしばしその細き目を閉じて、太息といきつきしが、またおもむろに開きたる目を冊子の上に注ぎつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
笹村は視力がえて来ると、アアと胸で太息といきいて、畳のうえにぴたりと骨ばったせなかを延ばした。そこから廊下を二、三段階段を降りると、さらに離房はなれが二タ間あった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
心に物を思えばか、怏々おうおうたる顔の色、ややともすれば太息といきを吐いている折しも、表の格子戸こうしどをガラリト開けて、案内もせず這入はいッて来て、へだての障子の彼方あなたからヌット顔を差出して
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そうしてお君は、やっとお嬢様の手からその写真を取り上げて、太息といききながら
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
十三分! 彼女は「ああ」と太息といきをもらしました。私は思わず叫びました。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「行き届きたるおんみの情しみじみかたじけのう存ずるぞかし、して人間はただ前の方に進むばかり跡には返らず、まして墓に入ればそれまでのこと」と、阿園も太息といきし、暫時はともに無言なりき
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
戸口とぐちからだい一のものは、せてたかい、栗色くりいろひかひげの、始終しじゅう泣腫なきはらしている発狂はっきょう中風患者ちゅうぶかんじゃあたまささえてじっとすわって、一つところみつめながら、昼夜ちゅうやかずかなしんで、あたま太息といきもら
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
女子おなご太息といきに胸の雲を消して、月もる窓をひきたつれば、音に目さめて泣出なきいづ稚児おさなごを、「あはれ可愛かあいし、いかなる夢をか見つる。乳まいらせん」とふところあくれば、みてさぐるも憎くからず、「勿躰もつたいなや、 ...
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
謙造は太息といきついて
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分のいたとがが自分に返ってきたのだから、……ああ、ああと絞めつけられるように太息といきをつき、身もだえをしたい気持で面をおおった。
日本婦道記:萱笠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
聞て思ず太息といきつき驚き入たる大膽だいたん振舞ふるまひ其性根そのしやうねならんには首尾しゆびよく成就じやうじゆなすべしとさすがの天忠もひそかした
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
提灯ちょうちんの火はちょろちょろ道の上に流れて、車夫くるまやは時々ほっほっ太息といきをつきながら引いて行くのです。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
思はず深々ふかぶか太息といきつきしが、何思ひけん、一聲高く胸を叩いて躍りあがり、『嗚呼あやまてり/\』。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
笹村は太息といきいた。そしておそろしいような気持で、心のうちに二、三度月を繰って見た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
手代の喜三郎はう言ひ切つて、安心したやうにホツと太息といきをつくのです。
さぶは力なくうなだれ、肩をちぢめて太息といきをついた。悲しげな、頼りなげな姿である。どうしておれはこうだ、と栄二は思った。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
土竈へつゝひほこりを冠つた、赤つ毛の背の高い娘、着物も洗ひざらしの木綿物ですが、この見るかげも無い下女が、三尺のところへ來て、恐る/\顏を擧げたのを見て、平次も思はず太息といきをつきました。