壁際かべぎは)” の例文
またそつとてゝとき頸筋くびすぢかみをこそつぱい一攫ひとつかみにされるやうにかんじた。おつぎはそと壁際かべぎは草刈籠くさかりかご脊負せおつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この唐紙の左右の壁際かべぎはには、余り上等でない硝子戸の本箱があつて、その何段かの棚の上にはぎつしり洋書が詰まつてゐる。
漱石山房の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
柱をば杉檜の葉もて包み、大なる紅葉の枝を添へ、壁際かべぎは廊下には菊花壇を作りて紙灯しちやうをともしたるなど、何となく一の菊畑でも見物する心地あり。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
わたし乳首ちゝくび苦艾にがよもぎまぶって鳩小舍はとごや壁際かべぎは日向ひなたぼっこりをして……殿樣とのさま貴下こなたはマンチュアにござらしゃりました……いや、まだ/\きゃしませぬ。
また電気灯をともすと、白つぽくなつた壁際かべぎはの二段の吊棚が目の前へ現はれて来るのです。私は洋杯こつぷの中にはひつた三郎の使ひ残した護謨ごむ乳首ちヽくびづ目が附きます。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
死骸らしい物のある奥の壁際かべぎはに、平八郎はさやを払つた脇差わきざしを持つて立つてゐたが、踏み込んだ捕手とりてを見て、其やいばを横にのどに突き立て、引き抜いて捕手の方へ投げた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
道子みちこ廊下らうか突当つきあたりにふすまのあけたまゝになつたおくへ、きやくともはいると、まくらふたならべた夜具やぐいてあつて、まど沿壁際かべぎは小形こがた化粧鏡けしやうかゞみとランプがたのスタンドや灰皿はひざら
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
平次は納戸なんどの外へ出ましたが、ほんの暫くすると歸つて來て、天井の壁際かべぎはに少し出て居る、細い糸を引つ張ると、それを白鼠の籠の外へ出て居る、車の心棒にかたく結びました。
ふすま開放あけはなしたちやから、其先そのさきの四畳半でうはん壁際かべぎは真新まあたらしい総桐さうぎり箪笥たんすが一さをえる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
満枝は飯桶を我が側に取寄せしが、茶椀ちやわんをそれに伏せて、彼方あなた壁際かべぎは推遣おしやりたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
八月の日は既に高く上つて、樹々きゞの蔭を小さく濃く美しい芝草の上に印してゐた。卵色のペンキが眩しく光る向ひの建物の壁際かべぎはのカンナの列は、燃えるやうな紅と黄の花を勢よくに擡げてゐた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
壁際かべぎはや、暖爐だんろ周邊まはりには病院びやうゐんのさま/″\の雜具がらくた古寐臺ふるねだいよごれた病院服びやうゐんふく、ぼろ/\の股引下ヅボンしたあをしま洗浚あらひざらしのシヤツ、やぶれた古靴ふるぐつつたやうなものが、ごたくさと、やまのやうにかさねられて
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
玄關げんくわんはひると、くら土間どま下駄げた大分だいぶならんでゐた。宗助そうすけこゞんで、ひと履物はきものまないやうにそつとうへへのぼつた。へやは八でふほどひろさであつた。その壁際かべぎはれつつくつて、六七にんをとこ一側ひとかはならんでゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お六さんのつきか、いさんの清元きよもとか、まあれをえ、とはれて、正太しようたかほあかくして、なんだお六づらや、こう何處どこものかとりらんぷのしたすこ居退ゐのきて、壁際かべぎははうへと尻込しりごみをすれば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
勘次かんじ自分じぶん壁際かべぎはにはたきゞが一ぱいまれてある。そのうへ開墾かいこん仕事しごとたづさはつてなんといつてもたきゞ段々だんだんえてくばかりである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この唐紙からかみの左右の壁際かべぎはには、余り上等でない硝子戸の本箱があつて、その何段かの棚の上にはぎつしり洋書が詰まつてゐる。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つぎ巡査じゆんさとなり傭人やとひにんれて壁際かべぎはしらべさせたがくぬぎ案外あんぐわいすくなかつた。それでもおつぎのではれなかつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)