むかふ)” の例文
新見付しんみつけると、むかふからたり、此方こつちからつたりする電車がになりしたので、ほり横切よこぎつて、招魂社のよこから番町へた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一日ぼくしたがへて往來わうらいあるいて居るとたちまむかふから二人の男、ひたひからあせみづの如くながし、空中くうちゆうあがあがりしてはしりながら
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「どうしたんでえ、よきは」おつぎはるとはりむかふきしからひく川楊かはやなぎえだまつはつていとはしみづについて下流かりういてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
竹垣の直ぐむかふは隣家の平家造のしとみのさびれた板にしきられて、眼界は極めて狭い不等辺三角形の隙から、遠い空中がのぞかれる丈である。空には何の色もない。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
猶且やはり毎朝まいあさのやうにあさ引立ひきたたず、しづんだ調子てうし横町よこちやう差掛さしかゝると、をりからむかふより二人ふたり囚人しうじんと四にんじゆうふて附添つきそふて兵卒へいそつとに、ぱつたりと出會でつくわす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
むかふさんはわたくしの稚顔をさながほに見覚があつたと見えて、喜んでむかしの事を語り出した。
冬の夜がたり (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
むかふの山で
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
計測掛が黒板に二十五秒七四と書いた。書き終つて、余りの白墨をむかふげて、此方こつちをむいた所を見ると野々宮さんであつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
きしくさなかかはづ剽輕へうきんそのはないて、それからぐつとうしろあしみづいてむかふきしいてふわりといたまゝおほきなみはつてこちらをる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
むかふを見て居ると恰度幻灯を見て居るやうです。
夜の赤坂 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
なにかゝつちや不可いけませんがね。だまつてむかふ喋舌しやべらして、いてゐるぶんには、すこしも危險きけんはありません。たゞ面白おもしろだけです
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
よこころがしたうすまへゑて小麥こむぎつかんでは穗先ほさきうすはらたゝきつけるとたねがぼろ/\とむかふちる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
其外にやすりと小刀ないふ襟飾えりかざりが一つ落ちてゐる。最後さいごむかふすみを見ると、三尺位の花崗石みかげいしの台の上に、福神漬ふくじんづけくわん程な込み入つた器械が乗せてある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「あなたは……」とむかふいた様な事を此方こつちからも聞いた。すると、女はばすけつとえんの上へ置いて、帯の間から、一枚の名刺をして、三四郎に呉れた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其時蟻はもう死んでゐた。代助は人指指ひとさしゆびさきいた黒いものを、親指おやゆびつめむかふはぢいた。さうしてがつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かれ坂井さかゐいへそばつて、むかふれずに、ひとうかがやう便利べんり場所ばしよはあるまいかとかんがへた。不幸ふかうにして、かくすべきところをおもなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
代助は晩食ばんめしはずに、すぐ又おもてへ出た。五軒町から江戸川のへりつたつて、かはむかふへ越した時は、先刻さつき散歩からの帰りの様に精神の困憊を感じてゐなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
駄目だめよ。何時いつにかにいさんがみんなべて仕舞しまつた」とひながら、また火鉢ひばちむかふかへつてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)