きさき)” の例文
宮と藤壺の宮とは同じおきさきからお生まれになったからであろうか、などと考えるだけでもその子と恋人との縁故の深さがうれしくて
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
左大臣はおろか、帝のきさきと云ってもよい程の容貌と品威に恵まれた人が、相手もあろうに無能力者の老翁の伴侶はんりょとなったのである。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
璋子は、人も知る白河法皇の猶子ゆうしで、祖父法皇のおはからいで、天皇に配されたきさきであることは、さきに誌した通りである。
おうさまは、戦争せんそうからおかえりなさると、そのうつくしいおきさきをおもらいになりました。三ごく一の美人びじんですけれど、まだおわらいになったことがありません。
春の日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
温雅優麗な貴公子を父として、昔ならばきさきがねともなりる藤原氏の姫君に、歌人としての才能をもって生れてきた。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
これまでに、女御にょうごきさきの御産の時に大赦が行なわれたことがあったが、今度の御産の時も大赦が先例に従って行なわれ、多くの重罪の者も許された。
するとある日天羅国てんらこく班足王はんそくおうというおうさまがりのかえりにわたしをつけて、御殿ごてんかえっておきさきになさいました。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
昔の歴史を見ましてもきさきの方から御離別を申しでられたためしはしばしば御座いますけれど、それが御歴代の御聖徳に影響しているとは思われません。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
クロオジヤスのきさきメッサライナ。メッサライナは、アグリパイナのひとみをひとめ見て、これは、あぶない、と思った。烈々の、野望の焔を見てとった。
古典風 (新字新仮名) / 太宰治(著)
宮廷には千人の女御、七人のきさきが国王に侍していたが、右の女御はその中から選び出されて、みかどの寵愛ちょうあいを一身に集め、ついに太子を身ごもるに至った。
しかし、息子むすこをなくした隣人りんじんを何と言って慰めてよいか、知らない。彼は、アダッド・ニラリ王のきさき、サンムラマットがどんな衣装いしょうを好んだかも知っている。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「そちたちはあの皇子を受け取るときに、必ず母のきさきをもひきさらってかえれ。髪でも手でも、つかまりしだいに取りつかまえて、無理にもつれ出して来い」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
エチオピアの王ヒダスペスはきさきペルシナをめとりて十年の間子無かりしに、十年目に姫君誕生ありし由に候。
皇太子はお玉母娘おやこを先立てゝやがて此家このうち這入はひりまして眼の前の不思議に感心をしました、左様さうしてこの娘が大きくなつたらば自分のきさきに貰ひたいと望みました。
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
「姉二人は既に、ですよ、既にさる貴族にし、妹はかねてフランスのきさきになることにきまっていた……」
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
その縁起を見るに、歳徳神は南海の沙竭羅竜王さからりゅうおうの御娘にして天下第一の美人なるゆえに、牛頭天王ごずてんのうこれをうけてきさきとしたてまつり、八人の王子を産みたまえり。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
また永福門院は西園寺実兼の女、伏見院のきさきであるが、式子内親王・俊成卿女などとならんで中世第一流の彤管とうかん詩人と申すべく、感覚はことにすぐれておられる。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
新しい王様の市場コンゲンス・ニュウトルフ馬像ヘステンの主クリスチャン五世がつくった広場プラザ。そのむこう側のシャアロッテンボルグ宮殿は五世のきさきシャアロット・アメリアの記念。現今は帝室美術館。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
この大和やまとのたかさじを、七人しちにんとほるをとめたち。そのうちのたれを、おきさきになさいますか。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
漢の成帝のきさき趙飛燕せうひえんの傳説を、道化の口上から一つ覺えに、八五郎は傳へるのでした。
梵施王象馬歩車の四兵を以て長生王を伐ち戦敗れて生捕いけどられしを長生王赦して帰国せしめた、暫くして梵施王また兵を起して長生王を伐ち敗り、長生王そのきさきと深山無人の処に隠れ
関白師実の娘といったのは、仙洞にかしずいている養女で、実は妻のめいである。このきさきは久しい間病気でいられたのに、厨子王の守本尊を借りて拝むと、すぐにぬぐうように本復ほんぷくせられた。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
東へ向っていたのをグルリと西へ向き返って見ると、高原の鼻の先にお内裏雛だいりびなのおきさきにそっくりの衣紋えもん正しい形をしたのが小仏山で、駒木野の関所から通る小仏峠道はその上を通ります。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
朝は王様がおきさきと御一緒に表の御殿へおでましになると、その御坐近くの柱に籠がかけられ、夕方お寝間へお下りになると、そのお次の間に籠が置かれます。誠に結構な身の上となりました。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
(首を振り夢中になり唄う)これは世間の女房の名寄なよせ。おきさき様には政所まんどころ、北の方には御台みだい様、奥方ご新造ご内室、おかみさんにはお内方うちかた嬶左衛門内かかあざえもんうちの奴(坐り込む)馬鹿だね、あははははは。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
真宗崩じて後、其きさきにくしみを受け、ほしいままに永定陵を改めたるによって罪をこうむり、且つ宦官かんがん雷允恭らいいんきょうと交通したるを論ぜられ、崖州に遠謫えんたくせられ、数年にして道州にうつされ、致仕して光州に居りてしゅつした。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「兄よ、爾のきさきは爾と共に踊りを見んとして待っていた。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
王女は、よく王様やお母さんのきさきもうしましたよ。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
王のきさきマルゲリタは縹緻きりやう自慢の女だつた。
きさきは禁ぜられた挨拶を内証で聴かれます。
おほがらのきさきメッサリイヌよ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
皇帝の白衣のきさき
パステルの竜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
院の皇子方は、父帝がどれほど御愛寵あいちょうなされたおきさきであったかを、現状のお気の毒さに比べて考えては皆暗然としておいでになった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「実はその、おきさきさまが、夕刻からにわかにご腹痛をお催しあそばしたので、てまえに医師をつれてこいとの仰せに、医師を求めに参りました」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうしたら、あいするおきさきわらってくれるだろうか? おうさまは、やま宝物ほうもつをおきさきまえまれました。けれど、やはりおわらいにはなりませんでした。
春の日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あるとき竜王りゅうおうのおきさきが、ふとしたことからたいそうおも病気びょうきになりました。いろいろにをつくして、くすりというくすりをのんでみましたが、ちっともきめがありません。
くらげのお使い (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
此奴こいつが今に美留藻が俺のきさきになった事を知ったならば、さぞ俺を怨む事であろう。成程、これは面白い。赤鸚鵡赤鸚鵡、何卒どうぞして此奴こいつが死なないように考えて話してくれ。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
異国の医師を自分の屋敷の内に入れることは一門の恥ではなかろうか? 漢の高祖が淮南わいなん黥布げいふを討ったとき、流れ矢で傷を受けたきさき呂太后りょたいこうが良医を迎えて診察させると
女御にょごきさきがねとよばれるきわの女性が、つくしびとにさらわれて、遠いあなたの空から、都をしのび、いまは哲学めいたよみものを好むとあれば、わたしのはかなんだロマンスは上々のもので
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
散々ちりぢりになって、このあたりの村々で亡くなった、それを神に祭って「きさきみや」とあがめてあること、帝が崩御ほうぎょあそばした時、神となって飛ばせ給うところの山を「天子てんしたけ」と呼び奉ること
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
親方の玉川權之助が、頭の上に兩手を突き上げると、そのてのひらの上で、蝶々てふ/\のやうに踊るんです。——唐土もろこしの何んとか言ふ殿樣か大名のきさきに、飛燕ひえんといふ美しい女があつたんですつてね。
その縁起をたずぬるに、歳徳神は南海の竜王の娘にして、天下第一の美人なるゆえに、牛頭天王ごずてんのうこれをもらい受けてきさきとした。その后に八人の王子ができた。この王子を八将軍と申している。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
太祖の崩ぜると、其きさきの崩ぜると、天下の情勢に関すること異なりと雖も、母の喪には奔りて従うを得て、父の葬には入りて会するを得ざらしむ。これも亦人を強いて人情に遠きをさしむるものなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
『古今集』を全部そらんじたきさきもおられるようになってきた。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
ちっとばかりさきになつてゐる、あの年長者ねんちようしやを、きさきにしよう。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
きさき達の寝室の清清すがすがしき白と金色こんじき……
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
きさきさまでも宮女でも
きさきが一人自分から生まれるということに明石のしらせが符合することから、住吉すみよしの神の庇護ひごによってあの人も后の母になる運命から
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「また、お内儀もそのかみは、後宇多院ごうだいんのみきさき西華門院せいかもんいんのお内で、雑仕ぞうし卯木うつぎと仰せありし小女房でおわしたの」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きさきは、かねらしただけで、あのさきあらそってあつまった兵士へいしたちのようすを、もう一たいとおもわれました。
春の日 (新字新仮名) / 小川未明(著)