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充
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み
ふりがな文庫
“
充
(
み
)” の例文
けれどもお邪魔にあがつて一二時間費し、門を辞する時には、まことに安楽な、何かに
充
(
み
)
たされたやうな心持になるのが常であつた。
露伴先生
(新字旧仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
江戸の噂の種を掻き集めて歩く八五郎は、生れながらの新聞記者で、好意と
惡戯
(
いたづら
)
つ氣と、好奇心と洒落つ氣に
充
(
み
)
ち溢れてをりました。
銭形平次捕物控:322 死の秘薬
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
不愉快に
充
(
み
)
ちた人生をとぼとぼ
辿
(
たど
)
りつつある私は、自分のいつか一度到着しなければならない死という境地について常に考えている。
硝子戸の中
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
一旦則重を鼻缺けにして彼の奇態な性慾的興味が
充
(
み
)
たされてしまうと、今度は見せかけの野望が次第にほんとうの野望にまで成長し
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
ただ
己
(
おの
)
れの義務と思うことを為した以上は、勝とうが負けようが、
己
(
おの
)
れの関するところでないとの考えが
充
(
み
)
ちていたように思われる。
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
▼ もっと見る
夫人が、訪ねて来たのだ! そう思ったときに、信一郎の心は、
烈
(
はげ
)
しく打ち
叩
(
たた
)
かれた。当惑と、ある恐怖とが、胸一杯に
充
(
み
)
ち満ちた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
強欲、残忍、
吝嗇
(
りんしょく
)
、
佞奸
(
ねいかん
)
、あらゆる悪評を冷視して一代に蓄えてきた金銀財宝、倉に
充
(
み
)
つる財貨は、いったいどうなったことやらと?
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
遊牧の民族は子孫の
益々
(
ますます
)
多きを加うるに従って、従来の狭小なる土地に生活し十分に食を
充
(
み
)
たすことを得ずして、草原に走って行った。
東西両文明の調和を論じて帝国の将来に及ぶ
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
そこの主人はこの町の三等郵便局に十何年勤続して、月給
僅
(
わずか
)
に五
拾円
(
じゅうえん
)
、盆暮れの手当てが
各々
(
おのおの
)
二拾円に
充
(
み
)
たないという身の上であった。
毒草
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
莊重
(
さうちよう
)
な修道院の建物と、またそこにみなぎる美しくも清らかな空氣とをいろいろに空想し思ひ描く一種の
敬虔
(
けいけん
)
な氣持が
充
(
み
)
ち
滿
(
み
)
ちてゐた。
処女作の思い出
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
しかもわたしは自分のうちに、大きい
充
(
み
)
たされないものがありました。神の恵みは、わたしには与えられないように思われました。
世界怪談名作集:05 クラリモンド
(新字新仮名)
/
テオフィル・ゴーチェ
(著)
そして私は、私がなぜ海や空を眺めていると一日ねころんでいても
充
(
み
)
ち足りていられるか、少年の頃の思い出、その原因が分ってきた。
石の思い
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
そうした宗教的反省こそ、私どもにいちばん大切な心構えだと思います。次に愛語とは、情のこもった、慈愛に
充
(
み
)
ちた言葉づかいです。
般若心経講義
(新字新仮名)
/
高神覚昇
(著)
でも見渡す限りのこの不破の古関のあとの、庭にも、
藪
(
やぶ
)
にも、畠にも、
爽涼
(
そうりょう
)
たる初秋の気が
充
(
み
)
ちて、悪気の揺ぐ影は少しもありません。
大菩薩峠:33 不破の関の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
時は九月の中旬、残暑はまだ
堪
(
た
)
え難く暑いが、空には既に清涼の秋気が
充
(
み
)
ち渡って、深い
碧
(
みどり
)
の色が
際立
(
きわだ
)
って人の感情を動かした。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
名
遂
(
と
)
げ功成った一代の英雄や成功者が、老後に幾人の
妾
(
めかけ
)
を持っても、おそらくその心境には、常に
充
(
み
)
ちない
蕭条
(
しょうじょう
)
たるものがあるであろう。
老年と人生
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
この
藷
(
いも
)
なかりせば国内の食物は
夙
(
つと
)
に尽きて、今のごとく人口の
充
(
み
)
ち
溢
(
あふ
)
れる前に、外へ出て生活のたつきを求めずにはいられなかったろう。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
私の胸中は、まだ
憤懣
(
ふんまん
)
に
充
(
み
)
ちてゐた。私はそれを訴へたい為に、広小路の方まで歩くと云ふK君と
暫
(
しば
)
らく一緒に歩くことにした。
良友悪友
(新字旧仮名)
/
久米正雄
(著)
爾後
(
じご
)
、
餓
(
う
)
うるときは鉄丸を
喰
(
くら
)
い、
渇
(
かっ
)
するときは銅汁を飲んで、
岩窟
(
がんくつ
)
の中に封じられたまま、
贖罪
(
しょくざい
)
の期の
充
(
み
)
ちるのを待たねばならなかった。
悟浄歎異:―沙門悟浄の手記―
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
幸福を語ることがすでに何か不道徳なことであるかのように感じられるほど今の世の中は不幸に
充
(
み
)
ちているのではあるまいか。
人生論ノート
(新字新仮名)
/
三木清
(著)
日は青々とした空に低く
漂
(
ただよ
)
ッて、射す影も蒼ざめて冷やかになり、照るとはなくただジミな水色のぼかしを見るように四方に
充
(
み
)
ちわたった。
武蔵野
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
同時に椅子に腰をかけたまま左手をズーッと白くさし伸ばして背後の書物棚から青い液体を
充
(
み
)
たした酒瓶とグラスを取出した。
けむりを吐かぬ煙突
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
地獄
變相
(
へんざう
)
の圖の樣な景色が出來ても是非に及ばないが、何人にも詩人的情緒は有るから、生氣に
充
(
み
)
ちた
青々
(
あを/\
)
とした山々の間に
華厳滝
(旧字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
「俺は元来うつろの人間で人から
充
(
み
)
たされる性分だ。おまえは中身だけの人間で、人を充たすように出来てる。やっと判った」
雛妓
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
その時の美妙の返事は敗残者の卑下した文体で、勝誇った
寵児
(
ちょうじ
)
のプライドに
充
(
み
)
ちた昔の面影は微塵も見られないで
惻隠
(
そくいん
)
に堪えられなかった。
美妙斎美妙
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
女は広巳の気もちを
硬
(
こわ
)
ばらさないように勤めているように見えた。広巳は一杯の酒を
空
(
あ
)
けた。すると少女がもう後を
充
(
み
)
たした。
春心
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
いつもならばまっ
赤
(
か
)
に充血して、精力に
充
(
み
)
ち満ちて眠りながら働いているように見える倉地も、その朝は目の周囲に死色をさえ
注
(
さ
)
していた。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
その忙しげな動作は躊躇に
充
(
み
)
ちて危うげだったが、やがて、エリーゼの楽譜に眼を据えると、指はたしかな音を弾いていた。
永遠のみどり
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
折節
(
おりふし
)
地震がゆった、その地震もそう烈しい地震ではなかった、野沢の水は春になって一面に
充
(
み
)
ち溢れているというのである。
俳句はかく解しかく味う
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
また深い穴に
毎
(
いつ
)
も毒ガス
充
(
み
)
ちいて入り来る人を殺す。それを不思議がる余り、バシリスクの所為と信じたのだと説いたは道理ありというべし。
十二支考:08 鶏に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
物
(
もの
)
堅
(
がた
)
い
良人
(
おっと
)
の
方
(
ほう
)
でも、うわべはしきりに
耐
(
こら
)
え
耐
(
こら
)
えて
居
(
お
)
りながら、
頭脳
(
あたま
)
の
内部
(
なか
)
は
矢張
(
やは
)
りありし
昔
(
むかし
)
の
幻影
(
げんえい
)
で
充
(
み
)
ち
充
(
み
)
ちているのがよく
判
(
わか
)
るのでした。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
「人として」のボオドレエルはあらゆる精神病院に
充
(
み
)
ち満ちている。ただ「悪の
華
(
はな
)
」や「小さい散文詩」は一度も彼らの手に成ったことはない。
十本の針
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
人間世界の文化があまり発達し過ぎてしまう頃には、沢山の組織とあり余った規則とうるさい儀礼とでこの世の中は
充
(
み
)
たされてしまう事である。
油絵新技法
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
しかしそういう時でも、質を
充
(
み
)
たすものでない限り、量だけでは買わぬ。ただ、数多く集めるとなると量が表に出て、質は裏に廻されてしまう。
民芸四十年
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
そこで達夫等はこれを帰省詩嚢を刻する資に
充
(
み
)
てたのださうである。これは「文化丁丑冬井毅識」と署した序の略である。
伊沢蘭軒
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
ああ、あの花のように
輝
(
かがや
)
きに
充
(
み
)
ち、あの広葉のようにお心広く、おやさしくいらっしゃる天皇を、どうして私はおしたわしく思わないでいられよう
古事記物語
(新字新仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
しかし五月の花のように、幸福に
充
(
み
)
ち
溢
(
あふ
)
れた葉子を見ると、鉛のように重い彼の心にも何か
弾
(
はず
)
みが出て来るのであった。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
しかし粛然たる
静謐
(
せいひつ
)
な空気が全
堂宇
(
どうう
)
に
充
(
み
)
ちわたり、これこそ彼が願望したすべてであったと
云
(
い
)
う印象を消し難く残した
ロード・ラザフォード
(新字新仮名)
/
石原純
(著)
どことはなしに生じる人望というものの、子供にも大人にも通じて、無形の間にエーテルのように
充
(
み
)
ちていることを。
光り合ういのち
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
「それ神は
完
(
まった
)
き人を棄て給わず……(汝もし神に帰らば)
遂
(
つい
)
に
哂笑
(
わらい
)
をもて汝の口を
充
(
み
)
たし
歓喜
(
よろこび
)
を汝の唇に置き給わん」
ヨブ記講演
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
そして彼女は、私がそばにいるのでひどく
曖昧
(
あいまい
)
にされたような好意に
充
(
み
)
ちた眼ざしで、その男の方を見つめていた。少くとも私にはそんな気がした。
美しい村
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
一門の人々、思顧の
侍
(
さむらひ
)
は言ふも更なり、都も鄙もおしなべて、
悼
(
いた
)
み
惜
(
を
)
しまざるはなく、町家は商を休み、農夫は業を廢して
哀號
(
あいがう
)
の
聲
(
こゑ
)
到る處に
充
(
み
)
ちぬ。
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
そして見たところなんの
醜悪
(
しゅうあく
)
なところは一点もこれなく、まったく美点に
充
(
み
)
ち
満
(
み
)
ちている。まず
花弁
(
かべん
)
の色がわが眼を
惹
(
ひ
)
きつける、
花香
(
かこう
)
がわが鼻を
撲
(
う
)
つ。
植物知識
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
暗い雲が
面
(
おもて
)
をよぎり、眼に
充
(
み
)
ちた輝きを消してしまったように思われました。セエラは激しく息を吸いこんだので、声も妙に悲しく、低くなりました。
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
生白い男体に僧衣をまとって
呪
(
のろ
)
いに来たのだが、お前の一念がこの鐘を鋳上げたばかりに、己の指の爪という爪にもありがたい仏身の力が
充
(
み
)
ち満ちて
道成寺(一幕劇)
(新字新仮名)
/
郡虎彦
(著)
それがどんなものであるかという不安でたまらないうちにもいいがたい楽しみに
充
(
み
)
ちた期待をもって待つ心でいた。
黒髪
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
とり巻いている。オリンポスの平安に満ち
充
(
み
)
ちた静かな大きい眼をしてる彫像、それの魂を私は今もっている……。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
そうした時、私は物を言う必要がなかった。父は私の
眼差
(
まなざ
)
しから私の願いを知って、それを
充
(
み
)
たしてくれたから。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
確かに彼らは、ただ単純に、神秘なる力の根源としての仏像を礼拝し、彼らの無邪気なる要求——現世の幸福——の
充
(
み
)
たされんことを祈ったに相違ない。
日本精神史研究
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
激
(
はげ
)
しい動作によって、身うちに
充
(
み
)
ち満ちているものを
驚
(
おどろ
)
かしはせぬかと、それが心配でならなかったように……。
はつ恋
(新字新仮名)
/
イワン・ツルゲーネフ
(著)
充
常用漢字
中学
部首:⼉
6画
“充”を含む語句
充満
充分
充滿
充溢
充實
補充
填充
充填
充血
充実
充牣
充盈
充足
腦充血
充行
汗牛充棟
王充
補充兵
拡充
充々
...