かし)” の例文
時折首をかしげながら調べていたが、やがて立上ると、今しがた部下の警部補と何か打合せを終えた内木司法主任に向って声を掛けた。
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そこまでがほんとの話で、突然いきなり、まつはつらいとみなおしゃんすけれどもなア——とケロケロとうたいだすのだった。そして小首をかしげて
身内になんの疵らしいものも見いだされず、さりとて急病ともおもわれず、まことに不思議の最期さいごであると、医者も首をかしげていた。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
丹治は大きな獲物の落ちきた刹那せつなの光景を想像しながら鶴の方を見た。鶴は平気で長いくびかしげるようにしていた。丹治は眼をみはった。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
机の上には大理石のくず、塩酸のびん、コップなどが置いてあった。蝋燭ろうそくの火も燃えていた。学士は手にしたコップをすこしかしげて見せた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つづいて二度、大きな震動があって、物見台がグラリとかしいだ。吉之丞はころげだそうとする壺を、やっとのことでおさえつけた。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
二時ごろに、昨夜ゆうべ医師いしゃが来て診て行った。医師は首をかしげながら、叮寧ていねいな診察のしかたをしていたが、別に深い話もしなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「月輪殿は、いったい、何のために黄金こがねをおつかいなされたのか、どういう量見なのか、とんと、分らぬ」と、知己の者は、首をかしげた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんなにひっかしがった穴だらけのぼろ家にいるのとは、お星さまと土竜もぐらよりえれえちげえだに、なあよ、おめえいってくろよ杢助
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこで気が付いたのが筆談だ。紙と鉛筆を取り寄せ、正成まさしげ公から思いついて「くすのき」の字を大書し、箱を叩いて首をかしげて見せた。
一種の迷信めいたものを持つてゐるS君はその鋭いひいでた眼を少しとろりとさせ、白い小作りな顔をぽつとさせて、首をかしげ/\云つた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
精霊が頭をかしげでもしたように、その衣の上の方の部分はその襞の中に一瞬間収縮した。これが彼の受けた唯一の返辞であった。
黄袋の口を檻の上へかしげた。粉薬をサラサラと檻の中へこぼした。だが全部みんなはこぼさなかった。半分がところで止めてしまった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、同じようなことを——全く同じことを、よく聞かされたと、首をかしげている。こざかしい額が髪の下から覗いている。
女客一週間 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
が、ワルシャワの貴婦人たちはパラソルをかしげながら、また平然と空を仰ぎ見た。夜は芝居も活動写真キネマも、あいかわらず興行を続けていた。
勲章を貰う話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
無感無情な人物である、唯一の会長者たるミラノ人——料理の盆を運ぶのに、ベルニニの描いた天使のように、首をかしげ腕や胴をねじらす
私は不審さに小頸をかしげながら、もう一度路次に入って来てその飯田という名札の掲っている中央の家の前に立って、しばらく考えていた。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ともかく珍しい、ぜひ遊びにやって来給え——ええと、拙者のところは小石川の茗荷谷、切支丹屋敷に近いところで、いやにかしいだ長屋門を
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
梁川君は首をかしげて聴いて居たが、「面白いな」と独語した。一座の話は多端に渉ったが、要するに随感随話で、まとまった事もなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ひとり静かに思惟にふけっていたもの——それはあの笹むらのなかに小さな頭をかしげていた石仏だったろうか? それとも
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「一体、今のあれは何の騒動なんだろう。喧嘩けんかにしてはどうもおかしいが……」と私は首をかしげた。すると誰やらが小声で
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
『然うだなア!』と、重兵衛は重々しく首をかしげて、薪雑棒まきざつぼうの様な両腕をこまねいだ。月四円五十銭は成程この村にしては高い。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
前屈み、左にかしいでいた生首が髪振り乱して合点がってんをするようにゆさゆさと動いて、背後に反った。思わずあっと叫んで人々は逃げ散る。
「いつの世にも殉教者の氣慨がなけりやア駄目ですな。」自分はあてもなく書生の慷慨を漏すと、高佐君は突然首をかしげて
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
いずれも三尺に満たぬ木標もくひょうが建られていた。古いのは腐ってしまい、二三年前のものは、墨痕すみあとが雨風に消えて、根元が腐りかけてかしがっている。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「此頃は江戸菊えどぎくが大変よくさいているのよ、江戸菊をもって来ましょうねエ。」とお富は首をちょっとかしげてニコリと笑って。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そういうと、義公も不審気に頸をかしげた。勿論、いま聞いたばかりの仙次を始め他の座員に、その不思議な悦楽の原因なぞ、解る筈はなかった。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
だから、花弁が散って来て、その反映がチラチラ明滅すると、柱の平行線が、かわるがわるかしいで行くように見えるのだ。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それにつれて、女のながい睫毛が、伸びたり縮んだりする。みじかいおとがいを隈どつてゐる陰影も、移つたりかしいだりする。
鸚鵡:『白鳳』第二部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
ガラッ八が店の方へ行くと、平次は血染めの脇差を取上げて死骸の傷口とにらみ合せながら、しきりに首をかしげております。
女房のスゲノは首をかしげながら言うのだった。炎天の下に水を溜めようとしても、水は、いつの間にか蒸発してしまう。伝平もそれは知っていた。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
と菊太郎君は如何にも不思議そうに首をかしげた。頭の大きさと好さを一緒に考えている。この傾向が今でも確かにある。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
時々は間違えて苗字みょうじと名前を顛倒てんどうして、石井町子嬢とも呼んだ。すると看護婦は首をかしげながらそう改めた方が好いようでございますねと云った。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何故だらうとキプリングは小首をかしげたが、それが郵税の節倹しまつからだと聞いて、文豪は蟹のやうにぶつぶつおこり出した。
前つぼのかた草履ぞうりさきすなって、一目散もくさんした伝吉でんきちは、提灯屋ちょうちんやかどまでると、ふと立停たちどまって小首こくびかしげた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
馬鹿七は首をかしげながら、森を出て山を降りて、村へ帰りました。そして村の人たちにこの話を致しましたが、みん
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
「さあ。近頃のばてれんと来たら非人にでも、おんばうにでも平気で化けるから、或はさうかも知れないが。」裕佐は尤もらしく頸をかしげて云つた。
そして、初めて恰好のいいつむりかしげて、じっと暖炉の火をみつめていられたが、書きかけの紙を火の中へ投じられた。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
手に取ってみて小首をかしげていたが、彼自身のみに解る何等かの証跡を発見したらしく下女を呼ぶ電気ぼたんを押した。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
が、その会釈はいつもの癖で少し横にかしぎはしたけれど、実にゆったりしていて一同をうっとりさせてしまった。
弁慶の七つ道具の中にピストルがあったといっても誰も問題にしないが、長禄に安房の田舎武士が鉄砲を持っていたというと、ちょっと首をかしげさせる。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ぢい」とおつぎはみゝくちてゝ呶鳴どなつた。つめたい卯平うへいはぐつたりと俛首うなだれたまゝである。すこかしげたかれ横頬よこほゝ糜爛びらんした火傷やけど勘次かんじ悚然ぞつとさせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あい長上下なががみしも、黄の熨斗目のしめ、小刀をたしなみ、持扇もちおうぎで、舞台で名のった——脊の低い、肩の四角な、堅くなったか、かんのせいか、首のややかしいだアドである。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これを聞くと赤鸚鵡は、さも困ったらしく首をかしげて黙り込んでしまった。そうしてしばらくの間何か考えている様子だから、四人の者は待ち遠しくなって——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
女の方でもそんな気がするかして、二人の子供を連れた先客の用を聞きながらも、時々こちらをぬすみ見るようにした。小平太は「はてな?」と小首をかしげた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
講習生の人々は、何事が起きたのかと、ちょうど、軍鶏しゃもが自分の卵ほどの蝸牛かたつむりを投げ与えられた時のように、首をのばしかしげて、息を凝らして見つめました。
手術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
西陽はもうかしいであたりはうすぼんやりと昏れそめても、母は気づかぬげにやはり縫い続けておられる。
作画について (新字新仮名) / 上村松園(著)
考え出そうと頭をかしげ乍ら戸棚の奥まで徒に探した愛は、急に何か思い当て嬉しそうに柔かい毛足袋けたびの音を立てて二階に行った。禎一は、机に向って居る。愛は
斯ういう気持 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
赤羽主任は懐中電灯をりて、由蔵の屍体の周囲を丹念に調べてみたのち、ちょっと首をかしげて云った。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かしげて「では君の村は大藤おおふじ村の方でないかね。実は僕は大藤村をよく知っているんだ。あそこに僕の知合いの猟師がいてね、冬になるとよく出かけて行くんだ……」