あんま)” の例文
旧字:
ところが娘の顔つきでは、麦粉や小麦を積んだ荷車のあひだを潜るやうにしてあちこちと歩き𢌞るのはあんまりうれしくないらしかつた。
あんまひどすぎる」と一語ひとことわずかにもらし得たばかり。妻は涙の泉もかれたかだ自分の顔を見て血の気のないくちびるをわなわなとふるわしている。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
みね「大きな声をしたっていゝよ、お前はお國さんのところへおでよ、行ってもいゝよ、お前の方であんまり大きな事を云うじゃアないか」
それを種々さまざまに思ふて見るとととさんだとて私だとて孫なり子なりの顔の見たいは当然あたりまへなれど、あんまりうるさく出入りをしてはと控へられて
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私があんまりポチばかり可愛がって勉強をしなかったから、父が万一ひょっとしたらこらしめのため、ポチを何処かへかくしたのじゃないかと思う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
大事にも為る事だらうと思つたら、もうもう悲くなつて、悲くなつて、如何いかに何でもあんまり情無くて、私はどんなに泣きましたらう。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
はあ、わたし。あなた、あんまりですわ。あんまりですわ。どうして来て下さらないの。うらんでいますよ。あの、あなた、も寝られません。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
突然いきなり来て、太郎さんはあんまりだなんて、し耳が取れたら如何どうする。鳥や魚のようになってしまっちゃ見っともないじゃないか。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あんまりだわ」と云う声が手帛の中で聞えた。それが代助の聴覚を電流の如くに冒した。代助は自分の告白が遅過ぎたと云う事を切に自覚した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「え、十両おくんなさる?」さもさも感心したように、「いやもくれっぷりのよいことだの。それじゃあんまり気の毒だ」
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そうか。しかし狭い土地だから、お前が角川の息子だと云うことは、先方むこうでも知ってるだろう。あんなところあんま出入ではいりするなよ。世間の口がうるさい。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ハア吾々なんざア駄賃取りでもしてたま一盃いっぱいやるより外に楽しみもないんですからな。民子さん、いやに見せつけますね。あんまり罪ですぜ。アハハハハハ」
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「さあ、私の威勢はんなものですよ。それだのにお前さんは、這んなめそっ子と道行をするんですか。濡れたん坊と裸では、あんまいきじゃあ有りませんぜ」
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
『大将細君には頭が上らないんですよ。——むこですからね。それにあんまり子供が多過るもんですからね。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
墓地向うのうちの久さんの子女こどもが久さんを馬鹿にするのを見かねて、あんまりでございますねとうったえた。唖の子の巳代吉みよきちとはことに懇意になって、手真似てまね始終しじゅう話して居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
云いかけた所を、澄子の笑ってる眼付で見られて、辰代は自分のあんまりな白々しさが胸にきて、文句につまってしまった。それへ向って、学生はまた一つお辞儀をした。
変な男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
わたしを何だとおもっておいでのだエ、こっちは馬鹿なら馬鹿なりに気をんでるのに、何もかも茶にしてましているたああんまり人をそでにするというものじゃあ無いかエ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あんまりだ、そんな馬鹿なことをする位ひなら、あたしは競馬場へなんか店は出さない、好い加減にするが好い! と斯う女房がつむぢを曲げ出した、何を云つてやがるんだい
競馬の日 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「ちっと昔しを考えて見るがいんだ。お前さんだって好いことばかりもしていないだろう。もとを洗ってみた日には、あんまり大きな顔をして表を歩けた義理でもないじゃないか」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お前さん、あんまりじゃないの、一体どうしたっていうんだろう。また居酒屋へ寄ったね。
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
二時となり三時となっても話は綿々として尽きないで、あんまり遅くなるからと臥床ねどこに横になって、蒲団の中にもぐずり込んでしまってもなおこのままてしまうのが惜しそうであった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
まあ! 貴君あなた、何をそんなにお怒り遊ばしたの、何かわたくし貴君あなたのお気に触るやうなことをいたしましたの。折角いらして下すつて、直ぐお帰りになるなんて、あんまりぢやありませんか。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
そうしてね、あんまり可哀そうですから、頂き残りの御飯粒で、モト通りに貼ってやりましょうと思ったついでに、何の気も無しに、その切端きれはしの新聞記事を読んでみたらビックリしちゃったの。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「お父様、それはあんまりで御座います。高城さんが何時いつ泥棒をしました」
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
耳がいのか、おめえの目にや、わたしと云ふものが何と見えるんだ、——何処どこの者とも知れねエ乞食女の行倒ゆきだふれの側に、ヒイ/\泣いてる生れたばかりの女の児が、あんまり可哀さうだつたから拾ひ上げて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
調べて何になりますかっ、あんまりな仕打ですぞ
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
あんまり可愛がり過ぎたもんだで……
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
悪事をするうちにも時々思い出すと、あんまい心持じゃアありません……ナアお瀧、手前も時々うなされた事もあったな、手前も死処だぜ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お叱んなさるも、あれの身の為めだから、いいけれども、只まだ婚嫁前よめいりまえこってすから、あんなもんでもね、あんま身体からだきずの……」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
腹の立った事さえござんせん、あんまり果報な身体からだですから、みつればくるとか申します通り、こんな恐しい目に逢いましたので。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うさ。毎日海岸をブラ/\歩いている。しかし何処へ行っても若い丈夫な人間がノラクラしていると思うと、あんまり好い心持はしないね」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それまで大事を取つてをりながら、かう一も二も無く奇麗にお謝絶ことわりを受けては、私実に面目めんぼく無くて……あんまくやしうございますわ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あんまりだわ」と云ふ声が手帛ハンケチなかで聞えた。それが代助の聴覚を電流の如くに冒した。代助は自分の告白がおそ過ぎたと云ふ事を切に自覚した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その通りだ、安普請やすぶしんをするとその通りだ。原などはあんまり経費がかかり過ぎるなんて理窟りくつを並べたが、こういう実例が上ってみると文句はあるまい。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
聡明なる読者諸君のうちにも、この物語に対して「あんまり嘘らしい」という批評を下す人があるかも知れぬ。いな、足下自身もあるい其一人そのいちにんであるかも知れぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あんまり御前が温順おとなし過るから我儘わがままがつのられたのであろ、聞いたばかりでも腹が立つ、もうもう退けてゐるには及びません、身分が何であらうが父もある母もある
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まあ! 貴君あなた、何をそんなにお怒り遊ばしたの、何かわたくしが貴君のお気に触るようなことをいたしましたの、折角いらして下すって、ぐお帰りになるなんて、あんまりじゃありませんか。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一体ならば迎ひなど受けずとも此天変を知らず顔では済まぬ汝が出ても来ぬとはあんまりな大勇、汝の御蔭で険難けんのんな使を吩咐かり、忌〻しい此瘤を見て呉れ、笠は吹き攫はれる全濡ずぶぬれにはなる
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「だってあんまりではありませんか。自分で上坂さんの奥さんの悪口をさんざん云っておいて、それを皆私が云ったように上坂さんの奥さんの所で饒舌ったんですもの。腹が立つ位はあたりまえですわ。」
田原氏の犯罪 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「そうですね。がさがさしてる癖に、あんまり好い気持はしませんね」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「だがあんまり逢わねえがいい、今じゃ身分がちがうんだからな」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『……あんまり不思議です、貴女と僕の事が。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
菊「早くお前の部屋へおいでなんぼ私が年がかないと云って、あんまり人を馬鹿にして、さ、出て行っておくれよ、本当に呆れてしまうよ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あんまり早いねと母がいういのを、空耳そらみみつぶして、と外へ出て、ポチ来い、ポチ来いと呼びながら、近くの原へ一緒に遊びに行く。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「叱ったって次第わけでもありませんが、新太郎君があんまりいつまでも帰って来ないものだから、伯父さんの御機嫌が悪いんです」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「いえ、なに、私は脳が不良わるいものですから、あんまり物をみつめてをると、どうかすると眩暈めまひがして涙の出ることがあるので」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
(もういい時分じゃ、またわしあんまおそうなっては道が困るで、そろそろ青を引出して支度したくしておこうと思うてよ。)
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いいや、母上おっかさんに会って取返えして来る。あんまりだ、あんまりだ。親だってこの事だけは黙っておられるものか。然しどうしてそんな浅ましい心を起したのだろう……」
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「何、昨夜ゆうべから飲み続けて、あんまり頭が重いから、表へちっと出て見たのさ。」と、お葉はものうげに答えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「今迄つてゐたけれども、あんまおそいからむかひた」と美禰子の真前まんまへに立つた。見下みおろして笑つてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)