麦酒ビール)” の例文
旧字:麥酒
なんとなく心配しんぱいそうなかおで、左様々々さようさよう左様さよう、と、打湿うちしめってってるかとおもうと、やれヴォッカをせの、麦酒ビールめろのとすすめはじめる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
二人で麦酒ビールの三四本ものんでコールビーフの一皿も食べたことと思う。とにかく一時間ほどそこで時間をすごして外へ出たのであった。
夏の夜の冒険 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
其三四郎に取つて、かう云ふ紳士的な学生親睦会は珍らしい。よろこんで肉刀ナイフ肉叉フオークを動かしてゐた。其あひだには麦酒ビールをさかんに飲んだ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私は一人で麦酒ビールを飲みに行き、労働者等のわめきどよめく音声の側に、歯の鈍痛のやうやく薄らいだやうな気持で数時間ゐて帰つて来た。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ちょうど三月の末、麦酒ビール会社の岡につづいた桜のつぼみほころびそめたころ、私は白金しろかねの塾で大槻医師が転居するという噂を耳にした。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
子供が遊んでいるのを見たら、粘土でお寺をつくり、その外側を瓶詰めの麦酒ビールその他の蓋になっている、小さな円い錫の板で装飾していた。
そこでは浴びる程うまい麦酒ビールを飲む事が出来た。ジヤンは酔つた紛れに変な腰つきをして舞踊をどりを踊つた。バヴアリア兵は低声こごゑで歌をうたつた。
けだし彼がその所得で買い入れるパンや麦酒ビールやその他の品物の価格は、これよりも前に騰貴せしめられているからである、と聞かされている。
(伯林初夏の月、桃やすももが春に咲きほこっている。夕暮れの公園の路を、人々が麦酒ビールをかたむけつつ行くのである。)
南半球五万哩 (新字新仮名) / 井上円了(著)
牧畜家のH、麦酒ビール会社のF、印旛沼開墾の庄亮、京都府警部のA、それに私がその前の椅子に腰を下ろしていた。昨日の正午前のことであった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
麦酒ビールの消費者の負担する所となり、そして地主の地代の負担する所とはならないであろう、ということを認めているのは、注目すべきことである。
褐色の口髭くちひげの短い彼は一杯いっぱい麦酒ビールに酔った時さえ、テエブルの上に頬杖ほおづえをつき、時々A中尉にこう言ったりしていた。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
胸当むねあてにつづけたる白前垂まえだれ掛けたる下女はしため麦酒ビールの泡だてるを、ゆり越すばかり盛りたる例の大杯おおさかずきを、四つ五つづつ、とり手を寄せてもろ手に握りもち
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
なんでも狭いごたごたした酒場で麦酒ビールを飲んでいたときなんだが、おれはなにかしきりと主筆に対して非難していた。
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まず麦酒ビール、それからお酒。なめこの赤だしが美味しかった。私と志ん太君だけ海鼠なまこをやり、歯の悪い志ん生君は豆を食べる。豆で飲むとは奇妙なり。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
私は思わず目をらした。食器をかたむけて、麦酒ビールを口の中に流し込んだ。再び瓶を傾けて、食器についだ。酔いがようやく廻って来るらしかった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
陳者のぶればかねてより御通達の、潮流研究用とおぼしき、赤封蝋ふうろう附きの麦酒ビール瓶、拾得次第届告とどけつげ仕る様、島民一般に申渡置候処もうしわたしおきそうろうところ、此程、本島南岸に、別小包の如き
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
煎餅せんべいつぼと、駄菓子の箱と熟柿じゅくしざるを横に控え、角火鉢のおおきいのに、真鍮しんちゅう薬罐やかんから湯気を立たせたのを前に置き、すすけた棚の上に古ぼけた麦酒ビールの瓶
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
製麻会社、麦酒ビール会社からの帰りらしい職工の群れもいた。園はそれらの人の間を肩を張って歩くことができなかった。だから伏眼がちにますます急いだ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一杯の冷たい麦酒ビールと、雲を見てゐる自由の時間! 昔の日から今日の日まで、私の求めたものはそれだけだつた。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
その尿あつまって末ついに川をなし流れ絶えず、英独フランドル諸国人その水を汲み去り最優等の麦酒ビールを作るを、妻どもこれは小便を飲む理屈だとて嫌うとある。
生は常に麦酒ビールと九柱戯ばかりではない。しかし、私は結局、事物の究極の適正を信ずる。私が一朝眼覚めた時地獄にちていようとも、私の此の信念は変るまい。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
船のなかへ行火あんかを入れ、酒や麦酒ビールを持ちこんで、島々の間をぎまわり、最近心中のあったという幾丈かの深い底まで見えるような、あおい水をのぞいたのだったが
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
麦酒ビールの鑵の形がひとり手に空に出たり消えたりする東京の夜の賑はひがはつきりとそこに浮んで来た。
海をわたる (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
それから又、近頃は毎日君のお蔭で麦酒ビールは買はずに飲めるが辞令を出して了へば、もう来なくなるだらうから、当分俺が握つて置かうかと思ふと言つたさうである。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
吾妻橋あずまばしを渡ると久しく麦酒ビール製造会社の庭園になっていた旧佐竹氏の浩養園がある。しかしこの名園は災禍の未だ起らざる以前既に荒廃してほとんどその跡をとどめていなかった。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
飲食店が営業して居た頃は闇の酒や焼酎をかつぎわって商売にして居たが、勇の転落は彼女の商売にも響き、現在では配給酒や麦酒ビール素人しろうとから買って転売する他なく
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
ちやんと麦酒ビール看板かんばんだね、西洋酒せいやうしゆのビラがさがつてる所が不思議ふしぎだね、ばアさんはなんですか。民
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
つまみ上げられたように、北方の天にねられている、まるで麦酒ビールの瓶を押し立てたようだと、高頭君は半ば恐怖を抱いて言った、その壮容は、殉教者や迷信者を作って
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
麦酒ビールを上って愉快そうになすってられるあなたを見ているのは、私にも愉快です。どうせ夕飯を
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
十一時が鳴ると、アルトヴェル氏は麦酒ビールの最後の一杯をぐっと飲み乾し、ひろげていた新聞をたたんで、うんと一つ伸びをやって、欠伸あくびをして、それからゆったりとちあがった。
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
勘定のあやぶまれた二階の客の、銀貨銅貨取り混ぜた払ひをあらためて、それから新らしい客の通した麦酒ビールと鮒の鉄砲和てつぱうあへとを受けてから、一寸のひまを見出したお文は、うしろを向いてかう言つた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
身体を温めて麦酒ビールを飲んだ。混合酒カクテルを作っているのを見ている。種々な酒を一つの器へ入れて蓋をして振っている。はじめは振っているがしまいには器に振られているような恰好をする。
泥濘 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
軍服の上へムク/\する如き糸織の大温袍おほどてらフハリかぶりて、がぶり/\と麦酒ビール傾け居るは当時実権的海軍大臣と新聞にうたはるゝ松島大佐、むかひ合へる白髪頭しらがあたま肥満漢ふとつちよう東亜滊船きせん会社の社長
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
これは色々の製法がありまして麦酒ビールで造る事もあり、日本のお米と麹で造る事もありますが食パン屋のある地方ならそのパン種の出来たのを売ってもらってパンを焼いた方が便利ですし
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「構はないわ。それぢや、お麦酒ビールを……。ピーナツかなんかあつたでせう。」
花問答 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
その路地の突きあたりの家は、そこ一軒だけが二階建になっていて、主人はやはり河向うの麦酒ビール会社に勤めている。あとにはその老母とまだ若い細君が静かに留守居をしているきりである。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
津軽海峡つがるかいきょう、トラピスト、函館はこだて五稜郭ごりょうかく、えぞ富士ふじ白樺しらかば小樽おたる、札幌の大学、麦酒ビール会社、博物館はくぶつかん、デンマーク人の農場のうじょう苫小牧とまこまい白老しらおいのアイヌ部落ぶらく室蘭むろらん、ああぼくかぞえただけでむねおどる。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かかるあいだに卓上の按排あんばい備わりて人々またその席につくや、童子ボーイぎめぐる麦酒ビールあわいまだ消えざるを一斉にげて二郎が前途を祝しぬ。儀式はこれにて終わり倶楽部の血はこれより沸かんとす。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
貿易新報の新年号特別募集というのに応じて、ぼくの句が一等に推され、四ダース入の麦酒ビール箱を貰ったときは途方にくれた。又、松浦為王氏の寿町の自宅で小集のあったとき、行ってみたこともある。
ブラッセルでは最もよく麦酒ビールを飲み、ストックホルムでは最もよく火酒ウォッカを飲み、マドリッドでは最もよくチョコレートを、アムステルダムでは最もよくジン酒を、ロンドンでは最もよく葡萄酒ぶどうしゅ
ジョソン博士が麦酒ビールを飲みながら片手に長煙筒を持ってビール盃を出す料理屋がフリート町にある。その半木造ハーフティムバアの家で昔ジョンソン自身が現代の新聞社街を支配する資本家を知らずに酔っぱらった。
ロンドン一九二九年 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
女の匂をぎ廻して頭髪かみ香水かうすゐの匂をさせてゐるやうな浮ついた眞似をするのでもなければ、麦酒ビールウイスキーの味を覺えて、紅い顏をして街頭まちをうろついて歩くやうな不躰裁ふていさいな眞似をするでも無い。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
麦酒ビールなら水だから召上るだろうとか、白足袋を差上げようとか、したおびにおこまりだろうとか——すると、番僧が大火鉢で、ひじまで赤いたこをこしらえて、ガンばってあたりながら、拙僧わしにもくれよとか
冬になると、葡萄酒や麦酒ビールやその他のいろんな飲み物が樽の中で凍つて了ふ。コツプの水を空中に投ると、それが雪になつて落ちて来るし、息をするとその水分が鼻の下で針のやうな霜になつて了ふ。
「は、私は。——兄さん召上るなら麦酒ビールつて参りませう。」
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
アンリ親分は知らん顔して麦酒ビールを飲んでいる。
麦酒ビールでも飲もうか。」と村上が云った。
球突場の一隅 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「それでは麦酒ビールに致しませうか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
見ていると、芸者が宿の下女を使って、麦酒ビールだの水菓子だの三味線だのを船の中へ運び込ましておいて、しまいに自分達も乗りました。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)