なり)” の例文
見物も此の場の成行きに固唾かたづんでなりを沈めて居るものゝ、そろ/\舞台に穴があきさうになつて来るので気が気でなくなつて来た
(新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
越後の上杉家とは、それから間もなく、上野国こうずけのくにの国境で、小競こぜりあいがあり、甲州の武田信玄たけだしんげんは、久しくなりをひそめていたを鳴らして
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軍夫は黙して退しりぞきぬ。ぶつぶつ口小言くちこごといひつつありし、他の多くの軍夫らも、なりを留めて静まりぬ。されど尽く不穏の色あり。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何となくびれて来た矢場の中には、古城に満ちあふれた荒廃の気と、なりを潜めたような松林の静かさとに加えて、そこにも一種の沈黙が支配していた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うなる事かと暫らくなりを鎮めたところへ、二十幾条の刃に入れ代って、当の水野越前守忠邦、静かに門の外へ立って、冷たく上品な顔を挙げたのです。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
急ぎしに※らずも踏迷ふみまよあへぎ/\漸々やう/\秋葉の寶前はうぜんに來りしが此時ははや夜中にてゴーン/\となりしは丑刻やつかねなれば最早もはや何へも行難しふもとへ下ればおほかみ多く又夜ふけに本坊を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
子らよ見よ、われかくかける、かのわらべ、かく今翔る。空はよ、皆飛ぶべし、山河よ越えむに、時なし、またたく間ぞ、なりかぶら矢留やどみの子ら、いざやきほひ、土たたら踏み飛べや。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
鱗綴うろことぢの大鎧にあかがねほこひつさげて、百万の大軍を叱陀しつたしたにも、劣るまじいと見えたれば、さすが隣国の精兵たちも、しばしがほどはなりを静めて、出で合うずものもおりなかつた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
聖なる門のなりよき強き金屬かね肘金ひぢがね肘壺ひぢつぼの中にまはれるときにくらぶれば 一三三—一三五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
一時を快くする暴言もつひひかもの小唄こうたに過ぎざるをさとりて、手持無沙汰てもちぶさたなりを鎮めつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と、たか調しらべ荒鷲あらわしの、かぜたゝいてぶごとく、ひく調しらべ溪水たにみづの、いはかれてごとく、檣頭しやうとうはし印度洋インドやうかぜげんくだくるなみおとして、本艦々上ほんかんかんじやう暫時しばしなりまなかつた。
秋野も校長も孝子も、なりを潜めて二人の話を聞いてゐた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
人びとはなりを沈めた。
女賊記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
とあったので、殿上は、なりもやまず、笑いこけた。陛下のおん前ではあるし、さしもの三つ女錐の中将も、しょげかえったということである。
ただ、万綱はじめ、手下の誰彼たれかれ幾十人、一人として影を見せず、あとは通魔とおりまなりを鎮めて、日金颪のぎたるよう。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なが素人連中しろうとれんぢうにも上手じやうずの人々は我も/\とこゑ自慢じまんもあれば又ふし自慢じまんもあり最もにぎはふ其が中に今宵城富は國姓爺合戰こくせんやかつせんしぎはまぐりだんを語りけるに生得しやうとく美音びおんの事なれば座中ざちうなり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
福井町の加納屋は、なりしづめて嚴重な板塀の中に閉ぢ籠つたやうな家でした。時刻はまだ思ひの外早くて、辰刻半いつゝはん(九時)頃の秋の陽が、その外廓を物々しく照らして居ります。
そこここに貼付てんぷされた三色旗の印刷してある動員令、大統領の諭告ゆこく、貨物輸出の禁止令などを読もうとする人達が、今までなりを潜めて沈まり返っていたような町々に満ちあふれた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
艦中かんちう一同いちどうはヒタとなりしづめたのである。たゞ本艦ほんかんこと三海里さんかいり橄欖島かんらんたうおぼしきしま北方ほつぽうあたつて、毒龍どくりようわだかまるがごと二個にこ島嶼たうしよがある。その島陰しまかげから忽然こつぜんとして一點いつてんひかりがピカリツ。
ぶつぶつ口小言くちこごと謂いつつありし、他の多くの軍夫等も、なりとどめて静まりぬ。されどことごとく不穏の色あり。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ば頼入候なりとあつく申おか旅宿りよしゆくなる相良の功徳寺へ引取けり斯て程なく巳刻の太鼓もなりたる故外記は役所に出けるにはや同役どうやくの中村主計かずへ用人小笠原常右衞門柳生源藏大目附武林軍右衞門物頭ものがしらには
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
奔龍ほんりうごとくに波上はじやうふ、本艦ほんかんなりしづむる十べう二十べう
、しいんと、なりをひそめて、聞いてやがるにちがいない
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
氷店こおりみせ休茶屋やすみぢゃや、赤福売る店、一膳めし、就中なかんずくひよどりの鳴くように、けたたましく往来ゆききを呼ぶ、貝細工、寄木細工の小女どもも、昼から夜へ日脚ひあしの淀みに商売あきない逢魔おうまどき一時ひとしきりなりを鎮めると
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
海野はことさらに感謝状を押戴おしいただき、書面を見る事久しかりしが、やがてさらさらと繰広げて、両手に高く差翳さしかざしつ。声を殺し、なりを静め、片唾かたずを飲みてむらがりたる、多数の軍夫に掲げ示して
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
海野はことさらに感謝状を押戴おしいただき、書面を見る事久しかりしが、やがてさらさらと繰広げて、両手に高く差翳さしかざしつ。声を殺し、なりを静め、片唾かたずを飲みてむらがりたる、多数の軍夫に掲げ示して
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)