高鼾たかいびき)” の例文
流石さすがの太宰さんも温和おとなしく高鼾たかいびき。急迫したような息苦しさと紙一重の、笑いたいような気持ち。何か、心のときめきを覚える夕べであった。
と其の夜は根岸のうちへ泊込み、酒肴さけさかなで御馳走になり大酩酊おおめいていをいたしてとこに就くが早いかグウクウと高鼾たかいびきで寝込んでしまいました。
かみさんが大の字になってグウグウと高鼾たかいびきてい、観者の内の一百姓「ホンに貴公のこの牝豕ほど酔うたのは生来一度も見ない」
「へエ——、昨夜此處に居たのは、私と、この吉三郎だけで——、朝から飮み續けて、日の暮れる頃はもう高鼾たかいびきでした、何にも存じませんよ」
それとは反対に、宅助は、冷酒ひやんで、五、六杯も盗み飲みをした揚句、いつか、裏土間のわらの上へ、高鼾たかいびきをかいて居眠ってしまった様子。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
銀之助は直にもう高鼾たかいびき。どんなに丑松は傍に枕を並べて居る友達の寝顔を熟視みまもつて、その平穏おだやかな、安静しづか睡眠ねむりを羨んだらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
すぐに高鼾たかいびきで眠ってしまう彼女の横で、私は苦しくてならぬ。これでは明日も、明後日も、永遠に仕事ができぬであろう。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
いや、黒服の狂犬やまいぬは、まだめかけの膝枕で、ふんぞり返って高鼾たかいびき。それさえ見てはいられないのに、……その手代に違いない。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一、此の頃の主膳は晝間の働きに疲れ切っているらしく、倒れたら最後高鼾たかいびきをかいてぐっすり眠り通すのである。尤もそれは主膳ばかりではなかった。
妻も女中も、雷なんぞ、の毛で突いたほども、感じてはおらぬ。子供二人はグウグウと、高鼾たかいびきで眠っている。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
農奴としての宇治山田の米友はと見れば、庵の後方なる穴蔵の中に、こもを打ちしいて、高鼾たかいびきで寝ております。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
洗ふ波の音は狼みの遠吼とほぼえとも物凄ものすごくお里はしきりに氣をもめども九郎兵衞は前後も知らず高鼾たかいびき折から川の向よりザブ/\と水をわけ此方こなたへ來る者ある故お里は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
つまり、内角が外角に変ってしまうのですが、いまあの生物は引ん曲った溝を月の山のようにくねらせて、それは長閑のどかな、憎たらしい高鼾たかいびきをかいておりますの。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
更に内職の針仕事に骨の髄迄疲れ果ててぐらぐら高鼾たかいびきを掻いて前後不覚に寝入って居る筈であります。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
中には酩酊して、自分たちの室へ帰るとぐに高鼾たかいびきで寝てしまった者もあった。あるいは満腹だから少し散歩して来るという者もあった。私も容易に眠られなかった。
はなしの話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やがてえいも十二分にまはりけん、照射ともしが膝を枕にして、前後も知らず高鼾たかいびき霎時しばしこだまに響きけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
一学は自分の部屋へ入ると、ごろりと横になり、そのまま高鼾たかいびきをかいて眠ってしまった。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
その三晩目に、姫を寝所から引っさらうことは、案外に赤子の首をひねるよりたやすいことが分った。手順は立派に調った。そなたなんどは高鼾たかいびきのうちに手際よくやってのけられる。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
みぞれがびしょびしょ降って寒いきつねの啼き声の聞える晩に、背戸へ締出しを喰わしておいて、自分は暖かい炬燵こたつ高鼾たかいびきで寝込んでいたような父親に、子供は子供なりの反抗心も持って来た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私と甥とが足音をぬすみ偸み、静にその小屋の前を通りぬけました時も、蓆壁むしろかべうしろにはただ、高鼾たかいびきの声が聞えるばかり、どこもかしこもひっそりと静まり返って、たった一所ひとところ焚き残してある芥火あくたびさえ
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
大尉は、すでにぐうぐう高鼾たかいびきです。
貨幣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
高鼾たかいびきである。
「ヘエ——、昨夜ここに居たのは、私と、この吉三郎だけで——、朝から飲み続けて、日の暮れる頃はもう高鼾たかいびきでした、何にも存じませんよ」
湿気払いを飲んで、羅漢らかん雑魚寝ざこねのように高鼾たかいびきになった寄子部屋の隅っこで、左次郎だけはマジマジと眼をあいていた。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「哲学者」と綽名のあるこの人は莚の上に高鼾たかいびきだ。若いものよりも反ってこの人の方がよく眠っているらしかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
中には酩酊して、自分たちのへやへ帰ると直ぐに高鼾たかいびきで寝てしまった者もあった。あるいは満腹だから少し散歩して来るという者もあった。私も容易に眠られなかった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
むかし文覺もんがく荒法師あらほふしは、佐渡さどながされる船路みちで、暴風雨あれつたが、船頭水夫共せんどうかこどもいろへてさわぐにも頓着とんぢやくなく、だいなりにそべつて、らいごと高鼾たかいびきぢや。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
深山に棲み眼大にして光り深紅の舌と二寸ばかりの小さき耳あり、物を食えば高鼾たかいびきしてねむる由(『和漢三才図会』)、何かの間違いと見え近頃一向かかる蛇あるを聞かず。
前後も知らぬ高鼾たかいびきで、さも心持さそうに寝ておりますから、めた! おのれ画板め、今乃公おれが貴様の角を、残らず取り払ってやるからにわ、もう明日あしたからわ角なしだ
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
勘八は早くも高鼾たかいびき、兵馬もやがて眠りにつき、お銀様もうとうととして夢路に入りましたが、肉体は疲労によってあくまで休息を求めるのに、神経は夜来の刺戟によって
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そっと客間の障子をひらき中へり、十二畳一杯に釣ってある蚊帳の釣手つりてを切り払い、彼方あなたへはねのけ、グウ/\とばかり高鼾たかいびき前後あとさきも知らずている源次郎のほうあたりを
その三晩目に、姫を寝所から引つさらふことは、案外に赤子の首をひねるよりたやすいことが分つた。手順は立派に調つた。そなたなんどは高鼾たかいびきのうちに手際よくやつてのけられる。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
取て故意わざと腹に周環ぐる/\まきたるまゝ臥床ふしどいりまくらに付やいなや前後も知らぬ高鼾たかいびきに町人も半四郎のそばやすみしかば家内の女子どもは酒肴の道具だうぐさげ行燈あんどうへ油を注足つぎたし御緩おゆるりと御休みなされましと捨言葉すてことば
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今朝——駕籠で祇園ぎおんの茶屋から帰って来ると、妻のお陸が着せかけた夜具も退け、羽織の襟を頭からかぶったまま、高鼾たかいびきになってしまったものである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんて出鱈目でたらめに怒鳴るんですって、——コリャコリャとはやしてね、やがて高鼾たかいびき、勿論唯一人ひとりッきり
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
春見は煎餅せんべいのような薄っぺらな損料蒲団そんりょうぶとんを掛けてうちに、又作はぐう/\と巨蟒うわばみのような高鼾たかいびきで前後も知らず、寝ついた様子に、春見は四辺あたりを見廻すと、先程又作がはりつるした
「別に何とも云いませんでした。度胸がいいのか、その晩は高鼾たかいびきで寝ていました」
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
させ度くないと思ひ、高鼾たかいびきで寢たところを、一と思ひに刺しました
早くも高鼾たかいびきで納まり込んでいるかも知れない。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
寝ると高鼾たかいびきを響かせてねむってしまう。
アイヌ神謡集 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
ごろりと、そこらへ横になると、高鼾たかいびきをかいて眠ってしまう者があるし、大きな囲炉裏いろりのそばにかたまって
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どれもどれも、ろくでなしが、得手に帆じゃ。船は走る、口はすべる、なぎはよし、大話しをし草臥くたぶれ、嘉吉めは胴のの横木を枕に、踏反返ふんぞりかえって、ぐうぐう高鼾たかいびきになったげにござります。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と少しいきどおった気味で受合いましたから、大きにお竹も力に思って、床をってふせりました、和尚さまは枕にくと其の儘旅疲れと見え、ぐう/\と高鼾たかいびきで正体なく寝てしまいました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ところが、すこし時経つと、すぐこころよげな高鼾たかいびきが洩れてくる。怪しんで覗いてみると、鎖も鉄の枷もこなごなに解きすて、左慈は、悠々と身を横にしていた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほかの教順や、念名ねんみょうなどは、その前から高鼾たかいびきを掻いているのだった。……だが石念だけはいつまでも寝つかれないで、悶々と自分を持てあましているかに見えた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、疲れた足を蒲団ふとんの中にのばしながら、その疑惑に、寝入りばなの空想を囚われておりましたが、いつか、邪気のない高鼾たかいびきをかいて、ぐっすりと寝込んでしまった様子です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手ぶらで来て、そこの五人分も飲んで、炉のそばへ、横になると、やがて高鼾たかいびきである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
満腹するなり、あとは高鼾たかいびきの彼だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)