トップ
>
鞭
>
むち
ふりがな文庫
“
鞭
(
むち
)” の例文
カチ、カチ、カチ! たえまのない
石工
(
いしく
)
の
鑿
(
のみ
)
のひびきが、炎天にもめげず、お城のほうから聞えてくる。町人の
怠惰
(
たいだ
)
を
鞭
(
むち
)
うつようだ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ふたりとも、黒っぽい洋服を着、長い靴をはき、細い
鞭
(
むち
)
を持っていました。鞭や
手綱
(
たづな
)
には、何かきらきら光るものがついていました。
金の目銀の目
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
食物と
鞭
(
むち
)
とで馴らせば、お猿も藝當をいたします。私は十二年の長い間、自分で自分の身體のやうな氣になつたことはございません。
銭形平次捕物控:185 歩く死骸
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
しかし、彼はそいつがどんなに荒れ狂っているときでも、
鞭
(
むち
)
を使って鎮めるのに慣れていたので、今度もそれをやってみようとした。
モルグ街の殺人事件
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
悪戯小僧どもを
鞭
(
むち
)
でこらす先生も、どうして元気よく嬉しくならないでいられようか。彼の意中の婦人がダンスのパートナーなのだ。
スリーピー・ホローの伝説:故ディードリッヒ・ニッカボッカーの遺稿より
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
▼ もっと見る
いまやその場所を、ニヴェルの郵便馬車を御しているジョゼフが、朝の四時に、口笛を吹きつつ愉快げに馬を
鞭
(
むち
)
うって通るのである。
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
脚燈の火に触れはすまいかと
狼狽
(
ろうばい
)
しているが、一方では
鞭
(
むち
)
打たれて、無理にも獅子だということを思い起こさせられているのである。
ジャン・クリストフ:07 第五巻 広場の市
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
あるいはなすべきことをなし切らない自己を
鞭
(
むち
)
うつか。あるいは社会の改造に活路を認めるか。——それらはおのおの一つの道である。
享楽人
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
別当も大よろこびで、五六ぺん、
鞭
(
むち
)
をひゆうぱちつ、ひゆうぱちつ、ひゆうひゆうぱちつと鳴らしました。やまねこが言ひました。
どんぐりと山猫
(新字旧仮名)
/
宮沢賢治
(著)
徒歩の兵は大部分討たれあるいは捕えられたようだったが、混戦に乗じて敵の馬を奪った数十人は、その
胡馬
(
こば
)
に
鞭
(
むち
)
うって南方へ走った。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
到底行い得べくも無いような空想に
駆
(
か
)
らるるのもその一つである。のみならず岸本は自分で自分の
鞭
(
むち
)
を背に受けねば成らなかった。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
このまま、こういうことばかりしてはいられないという不安が始終私の心を
鞭
(
むち
)
うち、そのため人知れぬ苦労をもしたのであった。
幕末維新懐古談:36 脂土や石膏に心を惹かれたはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
「富めるものの天国に入るは、——」そう冗談に言いかけて、ぴしと
鞭
(
むち
)
打たれた。「人なみの仕合せは、むずかしいらしいよ。」
秋風記
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
またしばしば刑罰の
鞭
(
むち
)
をふるってわれわれのとかく遊惰に流れやすい心を引き
緊
(
し
)
める「厳父」としての役割をも勤めるのである。
日本人の自然観
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
と、部屋の中央に、弓の折れを
鞭
(
むち
)
のようにひっさげた、五十あまりの
逞
(
たくま
)
しい、
頤髯
(
あごひげ
)
を生やした巨大な男が、両足をふんばり立っていたが
あさひの鎧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
鬼どもは一斉に「はつ」と答へながら、鉄の
鞭
(
むち
)
をとつて立ち上ると、四方八方から二匹の馬を、
未練未釈
(
みれんみしやく
)
なく打ちのめしました。
杜子春
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
かれは馬にまたがって
傲然
(
ごうぜん
)
と出て行ったが、門は閉じてある、垣は甚だ高い。かれは馬にひと
鞭
(
むち
)
くれると、
駿馬
(
しゅんめ
)
は
跳
(
おど
)
って垣を飛び越えた。
中国怪奇小説集:06 宣室志(唐)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
そして、年老いたヨーロッパは、疲れ果てた肉体を
鞭
(
むち
)
うって次の段階に足をかける。すると、その足からはまた血が流れるのだ。
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
その動作には少女らしい
愛嬌
(
あいきょう
)
や明るさがなく、あまりにてきぱきとおとなめいていて、
鞭
(
むち
)
ででも
躾
(
しつ
)
けられたかと思われるくらいであった。
季節のない街
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
伊勢の神様が神馬に乗り、榊の枝を
鞭
(
むち
)
にしておいでになったのを、ちょっと地に
揷
(
さ
)
して置かれたものが、そのまま成長して大木になった。
日本の伝説
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
髯
(
ひげ
)
などはまことに御気の毒なくらい
黒白乱生
(
こくびゃくらんせい
)
していた。いつかベーカーストリートで先生に出合った時には、
鞭
(
むち
)
を忘れた
御者
(
カブマン
)
かと思った。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
と叫んで逃げようとするのを、腕を掴んで引き戻し、そこへ押しころがすと、あり合わせた細引きを
鞭
(
むち
)
にして、ビシリビシリ叩き始めた。
魔術師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
私が今日の目的に就いて水車小屋の
主
(
あるじ
)
に語った後に、杖を
棄
(
す
)
て、ゼーロンを
曳
(
ひ
)
き出そうとすると彼は、その杖を
鞭
(
むち
)
にする要があるだろう——
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
そして、狂気のようになって、甲板へ出ようとしますけれど、そこには岩のような
靴
(
くつ
)
と、ヒューヒューうなる
鞭
(
むち
)
が待ち構えているのでした。
紅毛傾城
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
喜平は目を輝かして正勝を
睨
(
にら
)
みつけ、唇を
噛
(
か
)
み締め、
鞭
(
むち
)
の手をぐっと正勝の身近くへ差し伸ばし、その手を
微
(
かす
)
かにわなわなと
顫
(
ふる
)
わしていた。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
其
(
その
)
車
(
くるま
)
の
輻
(
や
)
は
手長蜘蛛
(
てながぐも
)
の
脛
(
すね
)
、
天蓋
(
てんがい
)
は
蝗蟲
(
いなご
)
の
翼
(
はね
)
、
※
(
むながい
)
は
姫蜘蛛
(
ひめぐも
)
の
絲
(
いと
)
、
頸輪
(
くびわ
)
は
水
(
みづ
)
のやうな
月
(
つき
)
の
光線
(
ひかり
)
、
鞭
(
むち
)
は
蟋蟀
(
こほろぎ
)
の
骨
(
ほね
)
、
其
(
その
)
革紐
(
かはひも
)
は
豆
(
まめ
)
の
薄膜
(
うすかは
)
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
父はベンチに
腰掛
(
こしか
)
けて、
鞭
(
むち
)
の先で砂に何やら書きながら、半ばは注意ぶかく、半ばは放心のていで、わたしの話を
聴
(
き
)
いていた。
はつ恋
(新字新仮名)
/
イワン・ツルゲーネフ
(著)
憎んでやるわ。反抗してやるわ。もしかあんな
鞭
(
むち
)
で私をぶたうものなら、私、あの人の手から引つたくつて、目の前でへし折つてしまうわ。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
凍る身体に
鞭
(
むち
)
打ちつつ、人にも知られず
酬
(
むく
)
いられることも
少
(
すくな
)
いこういう仕事に黙々と従事するのもまた男子の本懐であろう。
満洲通信
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
そういううちにマダムの
背後
(
うしろ
)
に隠れていた白い肉付きのいい右手が前に出て来た。その手には黒い、短い、
皮革
(
なめしがわ
)
の
鞭
(
むち
)
がシナシナと
撓
(
しな
)
っていた。
継子
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
許生員は、はっとなったが、とうとう我慢がならず、みるみる眉をひきつらすと、
鞭
(
むち
)
をふりあげ
遮二無二
(
しゃにむに
)
小僧をおっかけた。
蕎麦の花の頃
(新字新仮名)
/
李孝石
(著)
かれらはさらに道人の指図にしたがって、
鞭
(
むち
)
や
笞
(
しもと
)
でさんざんに打ちつづけたので、三人は
総身
(
そうみ
)
に血をながして苦しみ叫んだ。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記
(新字新仮名)
/
瞿佑
(著)
「黙れ!」と、どなつたキャラ侯は、いきなり壁から
鞭
(
むち
)
をとり下ろして、ピシリ/\と、二度、アルライの頭を打ちました。
ラマ塔の秘密
(新字旧仮名)
/
宮原晃一郎
(著)
ふらふら歩いていた松木は、疲れた老馬が
鞭
(
むち
)
のために、最後の力を搾るように、また、銃を引きずって、向うへ
馳
(
は
)
せ
出
(
だ
)
した。
渦巻ける烏の群
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
私が
鞭
(
むち
)
で殴りつけると、彼は足を早める。私が止れと言うと、ちゃんと私の車を止めてくれる。私が手綱を左に引くと、おとなしく左へ曲る。
博物誌
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
淫奔
(
いんぽん
)
、汚濁、しばらくの
間
(
ま
)
も神の
御前
(
みまえ
)
に汚らわしい。
茨
(
いばら
)
の
鞭
(
むち
)
を、しゃつの
白脂
(
しろあぶら
)
の
臀
(
しり
)
に当てて石段から
追落
(
おいおと
)
そう。——が
呆
(
あき
)
れ果てて聞くぞ、
婦
(
おんな
)
。
多神教
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
うっとり聞き入っている邦夷が、そうかあいつが、か、と、
傍目
(
わきめ
)
にちらりと
一瞥
(
いちべつ
)
して、それが安倍誠之助の面上にぴしりと
鞭
(
むち
)
のようにおちた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
ともすれば
挫
(
くじ
)
けようとする気力を、正統を信ずる心によって
鞭
(
むち
)
打ちつづけた厳しくもわびしい感触をあたえているのである。
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
罪でなくとも大きな過誤を犯した誰れも受けなければならない、激しい
鞭
(
むち
)
に悩まされているような錯覚にさえ襲われる。私は全く苦しくなった。
指導物語:或る国鉄機関士の述懐
(新字新仮名)
/
上田広
(著)
ちょうど私たちが尼寺の下へ来た時、わたしの馬が路から
跳
(
おど
)
り出ようとしたのを、そのままにひと
鞭
(
むち
)
あてて、路を突っ切って一目散に走らせた。
世界怪談名作集:12 幻の人力車
(新字新仮名)
/
ラデャード・キプリング
(著)
又恋愛の欲望の
鞭
(
むち
)
でむちうたれていてすると云うなら、それも別問題であろう。この場合に果してそれがあろうか、少くも疑を
挟
(
はさ
)
む余地がある。
百物語
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
しまいには
鞭
(
むち
)
で小っぴどく性根にこたえるほど恥ずかしい
折檻
(
せっかん
)
をした上、ことによったら、家まで追い出すかもしれない。
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
その副知事はコサックに命じて、一揆をおこした農民たちを
鞭
(
むち
)
で殴り殺させたり、その妻や娘に
凌辱
(
りょうじょく
)
を加えさせたり、暴虐のかぎりをつくした。
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
社会は又警察が罪人を造る——法以外の
鞭
(
むち
)
によって心にもない自白をなさしめた——そう騒ぎ立てるのではあるまいか。
撞球室の七人
(新字新仮名)
/
橋本五郎
(著)
その長さ六〇一〇キロメートル〔およそ一五三二里〕に
連亘
(
れんこう
)
し、しかしてその前面を通過するには快馬に
鞭
(
むち
)
うちて疾駆するも十二日六時間を要し
将来の日本:04 将来の日本
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
王ともかく本人をとて召し見ると、かの男王の前で金を吐く、王女馬の腹帯もて彼を縛り塩水を呑ませ
鞭
(
むち
)
うつと玉を吐くを、王女拾い嚥みおわる。
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
児太郎は、手を
叩
(
たた
)
いて近侍を呼び、
鞭
(
むち
)
を持たさせた。近侍がびくびくさし出した三尺なめしの鞭は、弥吉の、脊すじに向って激しく打ちのめされた。
お小姓児太郎
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
十五世紀から十九世紀までも英国で行なわれたような、労働立法を制定して、額に
烙印
(
らくいん
)
を
捺
(
お
)
すのが一等だ。
鞭
(
むち
)
で打つのだ、耳を半分切り取ることだ。
海に生くる人々
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
これは
唐人
(
とうじん
)
の姿をした男が、腰に
張子
(
はりこ
)
で作った馬の首だけを
括
(
くく
)
り付け、それに
跨
(
またが
)
ったような格好で
鞭
(
むち
)
で尻を叩く真似をしながら、
彼方此方
(
あっちこっち
)
と駆け廻る。
梵雲庵漫録
(新字新仮名)
/
淡島寒月
(著)
大江ノ
匡衡
(
まさひら
)
は、と御尋ねあれば、鋭士数騎、
介冑
(
かいちゅう
)
を
被
(
こうむ
)
り、
駿馬
(
しゅんめ
)
に
鞭
(
むち
)
打
(
う
)
って、粟津の浜を過ぐるにも似て、其
鉾
(
ほこさき
)
森然
(
しんぜん
)
として当るものも無く見ゆ、と申す。
連環記
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
“鞭”の解説
鞭(むち、笞、Whip)は、動物(人も含む)を打つ(たたく)ための道具であり、持ち手(棒)の先に革の紐を編んで蛇状にした縄を取り付けた一本鞭(牛追い鞭:bullwhip)、竹などのよくしなる細長い棒状のもの(騎馬鞭)、などがある。動物に対しては、カウボーイが牛を追いたてるときや乗馬で騎手が馬を制御するときなどに使われる。また、人に対しては、主に殺傷目的以外の刑罰や拷問に用いられる。
(出典:Wikipedia)
鞭
漢検準1級
部首:⾰
18画
“鞭”を含む語句
三鞭酒
鞭打
三鞭
教鞭
革鞭
馬鞭草
鞭韃
鞭撻
一鞭
鞭影
鞭索
金鞭
先鞭
鉄鞭
鞭声粛々
鞭策
鞭声
棄鞭
捨鞭
激励鞭撻
...