長椅子ながいす)” の例文
眞紅しんくへ、ほんのりとかすみをかけて、あたらしい𤏋ぱつうつる、棟瓦むねがはら夕舂日ゆふづくひんださまなる瓦斯暖爐がすだんろまへへ、長椅子ながいすなゝめに、トもすそゆか
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕はいまだに泣き声を絶たないめす河童かっぱに同情しましたから、そっと肩をかかえるようにし、部屋へやすみ長椅子ながいすへつれていきました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
マリユスは長椅子ながいすの上にひじをついて身を起こし、コゼットはそのそばに立って、互いに声低く語り合った。コゼットはささやいた。
ペテルブルグにつてからもドクトルは猶且やはり同樣どうやう宿やどにのみ引籠ひきこもつてそとへはず、一にち長椅子ながいすうへよこになり、麥酒ビールときおきる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ゴーシュはやぶれかぶれだと思ってみんなの間をさっさとあるいて行って向うの長椅子ながいすへどっかりとからだをおろして足を組んですわりました。
セロ弾きのゴーシュ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その内男も着物を着替えたが、部屋よりそとへは出ないで、ひるになるまで長椅子ながいすの上に寝転んで、折々微笑ほほえんだ。その間々あいだあいだにはうとうとしていた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
彼女は、もうとつくにその大事なものを持つて、とある長椅子ながいすの方へ引込んで。蓋を留めてある紐をとくのにせはしかつた。
クララは首をあげて好奇の眼を見張った。両肱は自分の部屋の窓枠に、両膝は使いなれたかし長椅子ながいすの上に乗っていた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「へんなようだが、すこし考えると、わけが分ります。ほら、またあらわれましたよ。こんどは長椅子ながいすの上のところだ」
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は、入口に近い長椅子ながいすに腰を下して、知人を探し出すべく、部屋の中を見渡しました。しかし、彼等はまあ、何という巧みな変装者達なのでしょう。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一方、ほかの人たちは、炉ばたで、高い背のついた二つのかし長椅子ながいすに腰かけて、ビールをのみながら、煙草たばこをふかしたり、四方山話よもやまばなしをしたりしていた。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
書斎の前の露台にとう長椅子ながいすを持ち出させて、その上に長々と寝そべりながら彼はその対策を考えつづけていた。
仮装観桜会 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
たいていの部屋へやには氣持きもちのよい長椅子ながいすいてあつて、見物人けんぶつにんはゆっくりとこしおろしてうつくしいたり、彫刻ちようこくをたのしんでながめたりすることが出來でき
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
お姫さまは、長椅子ながいすに横になって、眠っていました。見れば、たいへん美しい方でしたので、商人の息子は、どうしてもキスをしないではいられなくなりました。
伯爵は戸棚からヴェルモットのビンを出して、葉子にもすすめながら、長椅子ながいすに押し並んで掛けました。
いままで艶子たちの腰かけていた長椅子ながいすの下から大黒鼠だいこくねずみが毒ガスをがされたときのように、両手を床の上に泳がせて一人の白い手術衣を着た医員がむくむくとしたので
かくては所詮しょせん、我わざの進まむこと覚束おぼつかなしと、旅店の二階にもりて、長椅子ながいす覆革おおいかわに穴あけむとせし頃もありしが、一朝いっちょう大勇猛心をふるひおこして、わがあらむかぎりの力をこめて
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
風呂ふろにはいっては長椅子ながいすに寝そべって、うまい物を食っては空談にふけって、そしてうとうとと昼寝シエスタをむさぼっていた肉欲的な昔の人の生活を思い浮かべないわけにはゆかなかった。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
階段を駆け下りた女たちは、いたわるようにみのりを長椅子ながいすに連れていった。
宝石の序曲 (新字新仮名) / 松本泰(著)
数日ののち、明子は伊曾の長椅子ながいすの上にゐた。伊曾が明子にいた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
長椅子ながいすの上に眠りたる猫ほのじろ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
真紅しんくへ、ほんのりとかすみをかけて、新しい火のぱっと移る、棟瓦むねがわら夕舂日ゆうづくひんださまなる瓦斯暖炉がすだんろの前へ、長椅子ながいすななめに、トもすそゆか
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ペテルブルグにってからもドクトルはやはり同様どうよう宿やどにのみ引籠ひきこもってそとへはず、一にち長椅子ながいすうえよこになり、麦酒ビールときにだけおきる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
けれどもなお彼は、鎖骨の挫折ざせつからくる容態のために、二カ月余りも長椅子ながいすの上に身を横たえていなければならなかった。
壁という壁は、戸棚をひかえていたが、大きな事務机が、部屋の右手の窓に向っておかれてあり、その右には書類戸棚が、左側には長椅子ながいすがあった。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
書記の今西いまにしは内隠しへ、房子の写真をかえしてしまうと、静に長椅子ながいすから立ち上った。そうして例の通り音もなく、まっ暗な次のへはいって行った。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
卓子テエブルをこつちへ。」と彼は云つた。私は、それを彼の長椅子ながいすの方へ引き寄せた。アデェルとフェアファックス夫人とは、繪を見ようと寄つて來た。
化粧をすました葉子は長椅子ながいすにゆっくり腰をかけて、両足をまっすぐにそろえて長々と延ばしたまま、うっとりと思うともなく事務長の事を思っていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
暫くして男は女の体を放して、長椅子ながいすの処へ行って腰を掛けた。なんとも言いようのない疲労に襲われたのである。女は跡から付いて行ってそばへ腰を掛けた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
伊志田氏と三島刑事が両方から腕を支えて、応接間までたどりつき、一郎をそこの長椅子ながいすに掛けさせた。伊志田氏の指図で、女中が葡萄酒ぶどうしゅと水とを運んできた。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
或日あるひ郵便局長いうびんきよくちやうミハイル、アウエリヤヌヰチは、中食後ちゆうじきごにアンドレイ、エヒミチのところ訪問はうもんした。アンドレイ、エヒミチは猶且やはりれい長椅子ながいすうへ
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
日華洋行にっかようこうの宿直室には、長椅子ながいすに寝ころんだ書記の今西いまにしが、余り明くない電燈の下に、新刊の雑誌をひろげていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこには家主の女が長椅子ながいすを寝床にこしらえて置いてくれたのである。まあ、なんというい心持ちだろう。女は着物を着たまま横になって、ぐに目を閉じた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
そしてまた長椅子ながいすに腰かける時にはたなの上から事務長の名刺を持って来てながめていた。「日本郵船会社絵島丸事務長勲六等倉地三吉」と明朝ミンチョウではっきり書いてある。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
恒川氏と明智とは、そのグッタリとした文代さんを抱いて、とりあえず書斎の長椅子ながいすへと運んだ。ついでに女中さんのよく太ったからだもそこの肘掛ひじかけ椅子の柔かいクッションへ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼女を長椅子ながいすに呼びよせてたちまち膝一ぱいに彼女の『箱』の磁器じきだの象牙ざうげだの、蝋などの中味をひろげ、同時に彼女の覺えたあやしげな英語で説明したり喜んだりするのだつた。
がっかりして、彼はとなりの図書室の長椅子ながいすの上にのびて、ねてしまった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
或日あるひ郵便局長ゆうびんきょくちょうミハイル、アウエリヤヌイチは、中食後ちゅうじきごにアンドレイ、エヒミチのところ訪問ほうもんした。アンドレイ、エヒミチはやはりれい長椅子ながいすうえ
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さあ、このとう長椅子ながいすに寝ころび、この一本のマニラに火をつけ、夜もすがら気楽に警戒しよう。もしのどの渇いた時には水筒のウイスキイを傾ければ好い。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と仰りながら僕を長椅子ながいすすわらせて、その時また勉強の鐘がなったので、机の上の書物を取り上げて、僕の方を見ていられましたが、二階の窓まで高くあがった葡萄蔓ぶどうづるから
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
克彦が入口の長椅子ながいすにオーバーをおいて、椅子にかけると、股野は飾り棚からウィスキーのびんとグラスを出して、丸テーブルの上においた。高利貸しらしくもないジョニー・ウォーカーの黒である。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
アンドレイ、エヒミチはうんざりして、長椅子ながいすうえよこになり、倚掛よりかかりほうついかおけたまま、くいしばって、とも喋喋べらべらしゃべるのを詮方せんかたなくいている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
僕はとう長椅子ながいすにぼんやり横になっている。目の前に欄干らんかんのあるところをみると、どうも船の甲板かんぱんらしい。欄干の向うには灰色のなみに飛び魚か何かひらめいている。
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
葉子ははもう感じてはいなかったが、胸もとが妙にしめつけられるように苦しいので、急いでボアをかいやってゆかの上に捨てたまま、投げるように長椅子ながいすに倒れかかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
アンドレイ、エヒミチはやつと一人ひとりになつて、長椅子ながいすうへにのろ/\と落着おちついてよこになる。室内しつない自分じぶん唯一人たゞひとり、と意識いしきするのは如何いか愉快ゆくわいつたらう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それからやっと長椅子ながいすへかけると、あっけにとられた細君に細引ほそびきを持って来いと命令した。常子は勿論夫の容子ようすに大事件の起ったことを想像した。第一顔色も非常に悪い。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
俊助は煙草へ火をつけながら、ピアノと向い合った長椅子ながいすへ、ぐったりと疲れた腰を下して
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ふつうの客間用の調度のほかに、右手のすみに書きものデスク、左手ドア寄りにトルコ風の長椅子ながいす、書棚。窓や椅子のそこここに本。——よいかさつきのランプが一つともっている。薄暗い。
彼女は夫の飛び上るのを見たぎり、長椅子ながいすの上に失神してしまった。しかし社宅の支那人のボオイはこう同じ記者に話している。——半三郎は何かに追われるように社宅の玄関へおどり出た。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
レザー張りのばかでっかい長椅子ながいす。左手に、奥の間へ通じるドア。右手に、玄関へ出るドア。右手のドアのところには、百姓たちがよごさないように、靴ふきマット。——秋の夕暮。静寂。