はずかし)” の例文
「くそっ」と、反抗を研ぎ「おれは足利殿の家来だ。なんで新田の陣所へなど曳かれようか。のみならず、よくもいまは、はずかしめたな」
とうとう腹を決めて、細君がそばへ来ると口ぎたなくののしった。細君はそのはずかしめに堪えられないで、泣きながら死のうとした。景はいった。
阿霞 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「主君のはずかしめられたとき、誅奸ちゅうかんのとき、おのれの武名の立たぬとき、——こんなくだらぬ喧嘩に刀を抜くほど、おれは腰ぬけではない」
多くの美徳をそなえた人達を祖先に持った岸本の家の子孫に自分のような不都合なものの生れて来たことは、祖先をはずかしめる次第であるが
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
余が如きは不肖ふしょうながら、一旦外患の迫るにおいては、一死以て君にむくい、武門の面目をはずかしめざるべし。この心日光廟も、弓矢八幡も照覧あれ
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
が、その婦人は、恨を物の見事にねつけてしまったのです。そればかりでなく、死んだお兄さんをはずかしめるようなことまでも云ったのです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
家来としては君はずかしめられるのが一番おそろしい。同級生は何々君と君づけで呼びあうが照彦様だけは花岡さんで通っている。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
輝祖は開国の大功臣たる中山王ちゅうさんおう徐達じょたつの子にして、雄毅ゆうき誠実、父たつの風骨あり。斉眉山せいびざんたたかいおおいに燕兵を破り、前後数戦、つねに良将の名をはずかしめず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
現にこのウスノロのために、自分があられもないはずかしめ(?)を蒙った苦い体験があるにかかわらず、本来そんなにこの先生を憎んではいないのです。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
間道を取れば強盗及び猛獣の難あり、公道を取れば縲紲るいせつはずかしめを受くる恐れあり、いずれの道を取れば無事に目的地に着く事が出来ましょうか。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
はずかしめられ、踏みにじられ、揚句あげくの果にその身の恥をのめのめと明るみにさらされて、それでもやはりおしのように黙っていなければならないのだから。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
蘇武そぶの答えは問うまでもなく明らかであるものを、何もいまさらそんな勧告によって蘇武をも自分をもはずかしめるには当たらないと思ったからである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
何故なぜ意久地がないとて叔母があああざけはずかしめたか、其処そこまで思い廻らす暇がない、唯もうはらわたちぎれるばかりに悔しく口惜しく、恨めしく腹立たしい。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
というのは、女故おんなゆえはずかしさが、裸体で飛び出す軽率けいそつはばからせたのと、一人ぽっちの空気が、隣の事件を決して重大に感ぜしめなかったものらしかった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
政府はこれを任命しないとしても、これを推薦すいせんするのであるから自分の国民をはずかしめるような人を出すはずはない。
真の愛国心 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
第二条 心身の独立を全うし、みずから其身を尊重して、人たるの品位をはずかしめざるもの、之を独立自尊の人と云ふ。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
すると父から非常にしかられて、早速さっそく今夜あやまりに行けと命ぜられ長者をはずかしめたというので懇々説諭された。
初恋 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「ならぬ!」と威厳のある老人の声! 「わしはいいのだ、わしなどはな! だがあの方をはずかしめてはならぬ」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
戯作者という低さの自覚によって、思想性まで低められ卑しめられはずかしめられるが如くに考えるのであろう。
曩日さきに政府は卑屈無気力にして、かの辮髪奴のためにはずかしめを受けしも、民間には義士烈婦ありて、国辱をそそぎたりとて、大いに外交政略に関する而已のみならず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
子游曰く、君につかえて(責)むればすなわ(則)ちはずかしめられ、朋友に(交わりて)むればすなわうとんぜらる。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
而も屍骸に忍ぶべからざるはずかしめを受けたことを知っていたので、心中筑摩家に対し釈然たらざるものがあったのだが、兎に角、表面は他意なきていに取りつくろい
あの四方に使つかいして君命をはずかしめずということがございましたね。あれを一つお講じ下さいますまいか。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
圖「何だ手前てまえは、何をする、斯様なるけしからん事をして何と心得て居る、何だ此の女をはずかしめんとするのか、捨置き難い奴だが今日こんにちは信心参りの事だから許す、け/\」
人をはずかしめるような賞賛の仕方をしてるわ。どんな大根役者が演ずるのを見ても、やはり同じようにうれしがってるわ。軽蔑けいべつすべき馬鹿者と同様に私たちを取り扱ってるわ。
痴情ちじょうのためにその身を亡し親兄弟に歎をかけ友達の名をはずかしめたる事時人じじんの知るところなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
『三国志』に名高い呉に使して君命をはずかしめなんだ蜀漢の鄧芝とうしは、才文武を兼ねた偉物だったが、黒猿子を抱いて樹上にあるをを引いて射て母に中てしにその子ためにを抜き
日本軍の中には赤十字の義務をまっとうして、敵より感謝状を送られたる国賊あり。しかれどもまた敵愾心てきがいしんのために清国てきこくの病婦をとらへて、犯しはずかしめたる愛国の軍夫あり。委細はあとより。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
期限が来て農夫から葡萄園の地代を受け取るためにしもべをその許につかわしたのに、彼らはこれをとらえて打ち叩き、空手むなでにて帰らしめた。またほかの僕を遣わしたのに、そのこうべに傷つけ、かつはずかしめた。
かくの如く、他国に征して、他国にわが名をはずかしめた不届き者は、諸人の見せしめ、各営門を曳き廻した上、死罪にせよ、と厳命した。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「『きみはずかしめらるればしんす』ということさえある。臣が君より上席に坐れば、とりもなおさず臣が君を辱めることになる」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おどろくばかり柔順なのは駒井甚三郎で、これらの暴言に対して、最初から怒るの風がないのみならず、甘んじてそのはずかしめをうけて慎しむのていです。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
諸侯方をはずかしめてお心遣こころやりを遊ばすなどとは、太守の御身分としてまことに軽々しきお振舞い、……かようなことでは御家風にも障るでござりましょう
蕗問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
されば恐らく、えるされむは広しと云え、御主おんあるじはずかしめた罪を知っているものは、それがしひとりでござろう。罪を知ればこそ、呪もかかったのでござる。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼是かれこれを考うれば、生が苦心は水のあわにして、かえって君の名をはずかしむる不幸の決果を来さんかとも危まれ候……
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おもうに彼の君はずかしめられ臣死するの一時に際し、靦然てんぜんとして幕府に恭順を唱え、志士をくびきりて幕軍の轅門えんもんに致したる、俗論党の故郷として、充分の価値ありというべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
むべなるかな縲絏るいせつはずかしめを受けて獄中にあるや、同志よりは背徳者として擯斥ひんせきせられ、牢獄の役員にも嗤笑ししょうせられて、やがて公判開廷の時ある壮士のために傷つけられぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
また怒るということは馬鹿の性癖であると悟りまして私はその後はずかしめに逢うても忍ぶという心を養成した訳でございます。こういう風で毎日六時間ずつ勉強して居りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼らはあまりに多勢で、彼はどうともしようがなかった。彼らは彼をはずかしめ押しつぶしてやろうと——他の多くのことにはそれぞれ意見を異にしていながら——皆一致していた。
あれほどまでにお勢母子おやこの者にはずかしめられても、文三はまだ園田の家を去る気になれない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
海はとゞろきわたりて、若き牧神フォーンごとく吹く風は、其手そのておさゆるころもぎて、路上に若き女をはずかしめんとす。あたゝかく、うつら/\と暮れて行く Basqueバスク の里の夕まぐれ。
自分や雪子がかつてないはずかしめを受けたと云う感がするのであったが、それにもして、今は妹の容貌ようぼういなみようのないきずが出来たと云うこと、取るに足らない些細ささいなものであったにしても
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
軟弱かよわい娘を斯様なさみしい処へ連れて参り、はずかしめようと致す勾引かどわかしだな、許し難い奴なれども修行の身の上だから何事も神仏に免じて許して遣る、殺してもい奴だが其の儘許して遣るから
明治九年に国学者阿波あわの人某が、福沢のあらわす所の『学問のすゝめ』をはくして、書中の「日本にっぽん蕞爾さいじたる小国である」の句を以て祖国をはずかしむるものとなすを見るに及んで、福沢に代って一文を草し
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
なぜッて、宗山がその夜のうちに、私にはずかしめられたのを口惜くやしがって、傲慢ごうまんな奴だけに、ぴしりと、もろい折方、憤死してしまったんだ。七代まで流儀にたたる、と手探りでにじりがきした遺書かきおきを残してな。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金を持っている自分達の生活を、否人格まで、散々にはずかしめている。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
はずかしめをうけるより、日本人らしくたたかって、死のう。
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
使いして君命をはずかしめずとは、侍奉公の身の当然にてもござれば、二年でも三年でも、お心にかなうまでは、お訪ねする覚悟でござる。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
物をるのはつぐないがつくが、女をはずかしめるのは罪だ……というような気に制せられるのを、自分ながら不思議に思う。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「頭がいい。それでは実際問題として、照彦てるひこ様が学校で他の生徒にはずかしめられた場合、きみはどうしますか?」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)