資本もとで)” の例文
生活の資本もとでを森林に仰ぎ、檜木笠ひのきがさ、めんぱ(割籠わりご)、お六櫛ろくぐしたぐいを造って渡世とするよりほかに今日暮らしようのない山村なぞでは
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
幸い資本もとでを見てやろうとおっしゃってくださる方もありますから、しかるべき、と申したところで身分相当のところから婿むこを迎えて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
考えると物理学校などへはいって、数学なんて役にも立たない芸を覚えるよりも、六百円を資本もとでにして牛乳屋でも始めればよかった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれは小博奕の好きな男で、水茶屋ばいりの資本もとでを稼ごうとした長三郎が、かえって彼に幾たびか巻き上げられたということであった。
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これが豆腐とうふなら資本もとでらずじゃ、それともこのまま熨斗のしを附けて、鎮守様ちんじゅさまおさめさっしゃるかと、馬士まごてのひら吸殻すいがらをころころる。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眞「成程、じゃアわしが師匠にうてお前様お梅はんと寝て居りみすから、私に何うか賭博ばくち資本もとでを貸してお呉んなさませと云うか」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
長崎を根拠ねじろにして博多や下関へドンドン荷を廻わすようになりましたが、その資本もとでというたなら、大惣の生胆いきぎも一つで御座いました。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それが、近ごろねまして、ちょっとまとまったものを貰ったから、それを資本もとでにここで開店いたしましたこの居酒屋、チチン。
目科はあたかも足を渡世とせい資本もとでにせる人なると怪しまるゝほど達者に走り余はかろうじて其後に続くのみにてあえぎ/\ロデオンまちに達せし頃
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「お持ちならばね、ほんとに申しにくいけれどね、商売の資本もとでに差支えたものだからね、少しばかりでよいから融通してもらえまいかね」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
合わせれば、おれたち二人が里へ出て小商こあきないをやる資本もとでにはなるッてものだ。しめた、こいつア運が向いて来たのかもしれねえぞ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勝頼の首級をいただいたところで別に資本もとでがかかるのではなし、ホロリと一滴こぼしたところでそのため眼病になりもしない。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
実際、私どもは命がけの投機やま仕事をしていたので——骨を折るかわりに命をけ、勇気を資本もとでにしていた、というわけですね。
「お前はどこから金貨を手に入れたのだね。資本もとでさえありゃ、おれは世界中のかねをみんな手に入れることが出来るんだがな。」
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
「おれたちあからだが資本もとでだでなあ、大切にしなけれや」と言い合った。「かわいそうにまあ、まだ子供だによ」と言った。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「疑ごうていると見ゆるな。身分は身分、好物は好物じゃ。ほら、この通りここに五十両程用意して参っているが、これだけでは資本もとでに不足か」
女が今の男に落籍ひかされてから、彼はすこしばかりの資本もとでをもらって、夤縁つてのあったこのS——町へ来て、植木に身を入れることになったのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まず最初、三頭のりつぱな種豚たねぶたを買ひこみました。この三頭の親豚を資本もとでにして、四五年のうちに、五六十頭も子豚を、殖やさうといふのでした。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
松下のやうな男には、誰でもが挨拶だけは成るべく叮嚀ていねいにしようとする。挨拶には別に資本もとでが掛らないで済む事だから。
私はお屋敷方に出入りして、いろ/\の事を見聞きしてをりますが、口の固いのが資本もとでで、皆樣から信用をして頂いて、かう商賣を續けてをります。
ちょっと米法山水べいほうさんすい懐素かいそくさい草書そうしょしろぶすまをよごせる位の器用さを持ったのを資本もとでに、旅から旅を先生顔で渡りあるく人物に教えられたからである。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ああ、なんたる変り方でしょう⁉ 父はいつの間にか、聖職を捨ててしまって、聖器類を売払った金を資本もとでに、亡命人エミグラント達の血とあぶらを絞っているのです。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
資本もとでにして、何か店を開いたら、なんぼよかんべ。——第一、土地持ってっと、税金ばかりかかって来て……
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
資本もとでに初めし醫者家業いしやかげふ傷寒論しやうかんろんよめねどもなりとて衣服いふくおどかし馬鹿にて付る藥までした三寸の匙加減さじかげんでやつて退のいたる御醫者樣もう成ては長棒ながぼうかごよりいのち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その実吉新のあるじの新造というのは、そんなわるでもなければ善人でもない平凡な商人で、わずかの間にそうして店をし出したのも、単に資本もとでが充分なという点と
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
じょちゅうなり何なりにして、私をお傍へ置いてくださいますまいか、そのかわり、私は親の残してくれた金三十両持っております、それをあきない資本もとでにお使いくださいまし
山姑の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
神詣かみまうでには矢張やは真心まごころひとつが資本もとででございます。たとえ神社じんじゃへは参詣さんけいせずとも、熱心ねっしんこころねんじてくだされば、ちゃんとこちらへつうずるのでございますから……。
老婆は遠縁の親類の二男が、徴兵から帰ったら、養子に貰って貯金の三百幾円を資本もとでとして店を大きくするはずであった。これが老婆の望みであり楽しみであった。
身投げ救助業 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
多少の資本もとでをもわけられるようになったから、あたしの心に定めた通りになったから、やましきところがなかったのと、も一つは、あたしの山に居ることを聞いて
五円の資本もとでが山分けして八倍になり、もうこの婆さんさえしっかり掴えて居れば一儲け出来ると、腰が抜けそうにだるいという婆さんの足腰を温泉で揉んでやったり
俗臭 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
資本もとでの二りやうぐれえでこんで餓鬼奴等がきめらまでにや四五にんいのちつないでくのにやあけ手拭てねげでもかぶつてるやう放心うつかりした料簡れうけんぢやらんねえかんな」かれぢいさんのあたま
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
俺にはどんなことでも、やれないことのないほどの資本もとでがある。それは誰も知らないことなのだ。
霊肉の資本もとでを払って、多大な犠牲を敢えてして、肉をらし、心を労して生活してる人はない。私は彼らに作品を提供するまえに、ただちに生活を提供せよと要請したい。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「初め香料品をあきなっていたユシュルーじいさんの昔の資本もとでだ。」するとボシュエは言った。
性質は快活で、現在の境涯をも深く悲しんではいない。むしろこの境遇から得た経験を資本もとでにして、どうにか身の振方をつけようと考えているだけの元気もあれば才智もあるらしい。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あくる朝この親切な百姓家ひゃくしょうやを出るとき、わたしたちには二十八フランの資本もとでがあった。
「このひとも東京言葉を勉強しに、高い資本もとでを費うて東京の學校へはいつとるのかい。」
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
ほほほまお人の悪い、してその悪口と仰しやるは。さ、その事でござんする。あの奥様のお里といふは、秋田様とは表向き、世間を繕らふ仮の親、真実まことは高利も、わづかな資本もとでの金貸業。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
所で僕は発身ほつしんして商人あきんどと宗旨を換え、初めは資本もとでが無いから河渫ひの人足に傭はれた事もある。点灯会社に住込んで脚達きやたつかついで飛んだ事もある、一杯五厘のアイスクリームを売つた事もある。
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
資本もとではいらないから始めてみろ、商売がうまく行けば、信用だけでドンドン荷を送るというので、つい始めてみましたが、……たいへんよく気をつけてくれるので、まあそう儲りもしないが
(新字新仮名) / 海野十三(著)
同じ油を売るならば資本もとでをおろして一構えの店を出したき心願、少し偏屈な男ゆえかかる場合に相談相手とするほどの友だちもなく、ちまけて置座会議にのぼして見るほどの気軽の天稟うまれにもあらず
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そんなことしたら、命がない。どうも、この土地は柄が悪いなあ。真面目な商売は出来やせん。暴力団が威張っとるし、このごろじゃあ、泥棒も増えた。わしも、もう、明日から商売が出来ん。資本もとで
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
資本もとでは、若旦那」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
考へると物理学校抔へ這入つて、数学なんて役にも立たない芸を覚えるよりも、六百円を資本もとでにして牛乳屋でも始めればよかつた。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
実は身の置処おきどころがなくって饂飩屋になった又作だ、こゝで千円の資本もとでを借り、何か商法に取附とりつくのだ、君も又貸したって、よろしいじゃアねえか
これがお前さん、資本もとで要らずでげすから大したもんでげさあ。というような論法が、こいつのラシャメン立国論になっている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
資本もとでかからず、こういう時、おのぼりの気前を見せるんだ、と思ったから、さあさあ御遠慮なく、で、まず引受けたんだね。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宿場の旅籠はたごなどという稼業しょうばいは、俗にも三年宿屋と申してな、はじめてから三年のあいだは、おろした資本もとでがすこしもかえらぬのが、ほんとうだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いいいいそこは色情いろ資本もとでに、世を過ごして来た彼女であった。眼を細め唇をすぼませ、次々に浪人どもへ秋波ながしめを送った。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そういう連中が持って来るような、二文か三文の資本もとでで仕入れられるおもちゃのたぐいでさえ西洋人にはめずらしがられた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)