つつし)” の例文
そして(やはり一種の酒乱というものさ)(天才はどうしても常人とちがうね)(これからは少しつつしむこったね。実際笑談じゃないよ)
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
咽喉の病もえ、胃の苦しみも去った今の余は、つつしんで殿下に御礼を申上げなければならない。また殿下の健康を祈らなければならない。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
粗笨そほん鹵莽ろもう、出たらめ、むちやくちや、いかなる評もつつしんで受けん。われはただ歌のやすやすと口に乗りくるがうれしくて。(四月三十日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ご殊勝なことだけど、それほどつつしみのあるひとが、ヒョコヒョコ東京へ出てきて、あたしたちに迷惑をかけるのはどういうことなのかしら。
姦(かしまし) (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
すくなくとも氏を二三日立腹りっぷくさせて置くに充分だったろうと思い、妙な場所柄ではあるが、ここにつつしんで、お詫び申上げておく次第である。
人造物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
昼は昼で、君のうわさをし、君の仕事のことを話題にし、君をわれわれの誇りとし、君の名をおそつつしんで口にのぼせていたものだ。
そのかたわらには五、六人の童子が扇を持ってあおいでいた。役人はつつしんで自分の来意を訴えると、男は童子にあごで指図して金を運ばせて来た。
(六) 子曰く、弟子入りては則ち孝、出でては則ち弟(悌)、つつしみてまことあり、汎く衆を愛して仁に親しみ、行ない余力あれば則ち以て文を学べ。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
右の条々、つつしんで相守り申すべく候。もし違乱に及び候わば、八百万やおよろず天津神あまつかみ国津神くにつかみ、明らかに知ろしめすべきところなり。よって、誓詞如件くだんのごとし
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
熊楠つつしんでかんがうるに、古エジプト人は日神ウンを兎頭人身とす、これ太陽あしたに天に昇るを兎の蹶起けっきするに比したんじゃ(バッジ『埃及諸神譜ゼ・ブック・オブ・ゼ・エジプシアンス』巻一)
旗の役の小侍は、それと見ると的を捧げ、矢場を縦に走って来たが、つつしんで的を源兵衛へ渡す。源兵衛から殿へたてまつる。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しからば何ゆえにこの例を掲げたかというに、ごろの行状をつつしみ、日常の信用をあつうするだけの慎みをなさねばならぬことを勧めたいからである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いわゆる無政無法の世の中とはこのことなるべし。私裁の国を害することかくのごとし。つつしまざるべからざるなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さてこそと天にも昇る心地ここちにて、控所に伴われ行きしに、典獄署長ら居並いならびて、つつしんで大赦文たいしゃぶんを読み聞かされたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
その老臣ろうしんは、つつしんで天子てんしさまのめいほうじて、御前ごぜんをさがり、妻子さいし親族しんぞく友人ゆうじんらにわかれをげて、ふねって、ひがしして旅立たびだちいたしましたのであります。
不死の薬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
まあ、難有ありがたいお寺の庭、お宮の境内けいだいうえがた御門ごもんの内のような、歩けば石一つありませんでも、何となくつつしみませんとなりませんばかりなのでございます。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あへて一行をわづらはすことなけん、つつしんで随行の許可きよかを得んことをふと、衆其熱心ねつしんかんよろこんで之をゆるす、内二人は上牧村の者にして他一人は藤原村字くぼの者とす
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
「俺のような人間になるな」という事もよく云ったものであるが、これも父の或る悲しい、淋しい心理の一角を露出した言葉と察して、つつしんで、うなだれていた。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
女は門の内側に置いてあった恐ろしい大きな竹の笠、——茶の湯者の露次に使う者を片手で男の上へかざして雪を避けながら、片手は男の手を取ってつつしまやかに導く。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
見ることのひややかに、言ふことのつつしめるは、彼が近来の特質にして、人はこれが為にるるをはばかれば、みづからもまたいやしくも親みを求めざるほどに、同業者はたれも誰も偏人として彼をとほざけぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わたしは此処につつしんで御身の光輝ある過去に別れを告げよう、さようならマダム貞奴!
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
手当ての時には、ジルノルマン嬢はつつしんで席をはずしたが、ジルノルマン氏はいつもそこについていた。はさみで死肉を切り取る時、彼はいつも自ら「いた、いたい!」とうめいていた。
明治二十四年四月十九日いわゆる『第一高等中学校不敬事件』ののちに、余のためにその生命をすてし余の先愛せんあい内村加寿子につつしんでこの著を献ず、願くは彼女のれいてんに在りて主とともに安かれ。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
つつしんで阿蘇の神霊に献ずるぞ、それッ——祖父の手が空に挙がると、九つの鍵を連ねた銀の輪が、暁の最初の光を浴びて、キラキラと光りながら、阿蘇の噴火口の赤錆色をした熱鉄の中へ
九つの鍵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
いや、たとへ米塩べいえんの資に窮さないにしても、下手へたは下手なりに創作で押して行かうと云ふ気が出なかつたなら、予は何時までも名誉ある海軍教授の看板をつつしんでぶらげてゐたかも知れない。
入社の辞 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
有難き仕合わせとつつしんでお受けをして退出したことでありました。
「それは結構でございますな。つつしんで拝見はいけんいたしましょう」
コーカサスの禿鷹 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ここではつつしんだうえにも謹まなくてはならない。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「ちとおつつしみ——」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
与次郎はビールを飲む。いつものように口をきかない。さすがの男もきょうは少々つつしんでいるとみえる。三四郎が、小さな声で
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あいにく四辺あたりに何の花もなかったので、わたしは名も知れない雑草のひと束を引き抜いて来て、つつしんで墓の前に供えた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
時ならぬ忠告は有害ならぬまでも、無益におわる場合多ければ、葬式そうしき祝詞しゅくじを呈し、めでたき折に泣きごとを述ぶるにひとしきことは常識にまかせてつつしみたい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そして、その手紙てがみ文字もじは、うまいほうではなかったが、いかにも丁寧ていねいつつしんでいてあったので、きよのおとうとさんは、まじめな少年しょうねんであろうとおもったのでした。
北風にたこは上がる (新字新仮名) / 小川未明(著)
ついてはつつしんで叡旨えいしを奉じ豊後伊豆両人の登城は差し止めるがいい、それを言って将軍が奥へはいった時は、すすり泣く諸臣の声がそこにもここにも起こった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
れで悪いと云うならば追出すよりほかに仕方はあるまい。追出せばつつしんでめいを奉じて出て行くけの話だ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
人さし指中指の二本でややもすれば兜背形とっぱいなり頭顱あたま頂上てっぺんく癖ある手をも法衣ころもの袖に殊勝くさく隠蔽かくし居るに、源太もうやまつつしんで承知の旨を頭下げつつ答えけるが
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
石の唐櫃からびつこもったように、われと我を、手足も縛るばかり、つつしんで引籠ひきこもってござったし、わたくしもまた油断なく見張っていたでございますが、貴下あなたいささか目を離しましたわずかひま
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「——わが敬愛する黒馬博士に対し、はなは遺憾いかんなることなれども、余は博士を、当分の間、わが日本より閉め出すのむなき事態に至れることを、つつしみて通告する次第である」
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
郷党の人々とつきあう時には恭順朴訥きょうじゅんぼくとつであった。宗廟朝廷では閑雅で言葉をつつしんだ。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「娘に頬を染めさせるようなことは、なるべくつつしんで云わない方がいいよ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
越後の雪の中でつつしんでおりまして、相当、むずかしいところを、やりとおしたように見受けられますので、そこまでなすってくだすったついでに、いっそ、越後からお迎い取りくださるわけには
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
つつしみて御挨拶あいさつ申し上げ候。
つつしんで申しづるは
吾輩が先刻さっき一大奇観と云ったのはこの事である。吾輩は文明の諸君子のためにここにつつしんでその一般を紹介するの栄を有する。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
行親 おんつつしみの身をもって、素性すじょうも得知れぬいやしの女子どもを、おん側近う召されしは……。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その中には一言も発しないで、涙をのみながら始終つつしんで命をきいていた隊士もあったという。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さればこそ習慣は第二の天性を成すといい、幼稚の性質は百歳までともいう程のことにて、まことに人の賢不肖けんふしょうは、父母家庭の教育次第なりというも可なり。家庭の教育、つつしむべきなり。
家庭習慣の教えを論ず (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
神職 ははっ、ははっ、恐れながら、御神おんかみに伺い奉る、伺い奉る……つつしみ謹みもうす。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つつしみてご挨拶あいさつ申し上げ候
飛びつき損じて畳の上へこぼれたものは打算ださんの限りでない。随分無分別な飯の食い方である。吾輩はつつしんで有名なる金田君及び天下の勢力家に忠告する。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)