ぎょう)” の例文
その方法は第一に「ぎょう」である。「行」とはあらゆる旧見、吾我ごがの判別、吾我の意欲を放擲して、仏祖ぶっそ言語行履ごんごあんりしたがうことである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
鐙小屋あぶみごやの神主さんは、また室堂むろどうへ上ってぎょうをしておいでなさるのだから、誰もそのほかに、あの沼の傍へ立入る者は無いはずです。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お杉は消えかかる焚火を前にして、かたえの岩に痩せた身体をせかけたまま、さながら無言のぎょうとでも云いそうな形で晏然じっと坐っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何だかそのぎょうあいだに妙子の西洋間せいようまが見えるような気がする。ピアノのふたに電燈の映った「わたしたちの巣」が見えるような気がする。……
或恋愛小説 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いかにもけちくさくぎょうと行とをくっつけるように書いて行ったが、そうすると今度は余白がたくさん残るので、それも気が気ではないのだ。
初更からふたたび壇にのぼり、夜を徹して孔明は「ぎょう」にかかった。けれど深夜の空は冷々ひえびえと死せるが如く、何のしるしもあらわれて来ない。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここは全く金胎こんたい両部の霊場である。山嶽を道場とする「ぎょうの世界」である。神と仏とのまじり合った深秘な異教の支配するところである。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私の村の富士講には妙な風習があって、道中水を飲むことがぎょうの一となっていました。御岳講の方では水を浴びるのですが富士講では水を飲む。
登山談義 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
最も大きな力となっているのはおそらく「かくし念仏」のぎょうであろう。この念仏宗は今は東本願寺の系統に属しているが、別に僧侶そうりょを設けない。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
般若の哲学 これから申し上げるところは、「観自在菩薩かんじざいぼさつじん般若波羅蜜多をぎょうずる時、五うんは皆空なりと照見しょうけんして、一切の苦厄くやくしたもう」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
すべての善は、われ知らずにこれをぎょうじてゆき、すべての悪は、われ知らずに離れ去ってゆく至福至妙の状態であります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さてはわがぎょうを不動明王がしろしめすところとはなったか、これなら大願も成就するであろうと勇気百倍、晴れやかな顔で滝壺にもどっていった。
葉子は一々精読するのがめんどうなのでぎょうから行に飛び越えながら読んで行った。そして日付けの所まで来ても格別な情緒を誘われはしなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
乞食こつじきぎょう をやりました。僅かな物を上げてくれるのですけれども、五、六軒廻って来ると一日の喰物くいものくらいはある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「不動様で思い出したが、今日は道灌山どうかんやまに東海坊が火伏せのぎょうをする日ですよ。大変な評判だ、行ってみませんか」
これで大和も、河内との境じゃで、もう魂ごいのぎょうもすんだ。今時分は、郎女さまのからだは、いおりの中で魂をとり返して、ぴちぴちして居られようぞ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「あんたここにこうしておいでになってなにかぎょうでもなさるのですか、行をなさるには私どもがこうしてお話するのもお邪魔になるということですが」
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
司令官の側に、先刻さっきから一言も吐かないで沈黙のぎょうを続けていた有馬参謀長が佩剣はいけんをガチャリと音させると、「よオし、読みあげい」と命じたのだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
主人にしては少し洒落しゃれ過ぎているがと思う間もなく、彼は香一炷を書き放しにして、新たにぎょうを改めて「さっきから天然居士てんねんこじの事をかこうと考えている」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この頃、ぎょうとしての科学などという言葉で表現されているものの中には、このこともはいっているのであろう。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
阿闍利さまは、こんど越中の或る坊の招きで、百日のぎょうにゆかなければならぬ。その間この山を留守をするゆえ、たまに寺を見廻り下さいと申されました。
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
はじめのびん二人共ふたりとも無言むごんぎょう呑乾のみほしてしまう。院長いんちょう考込かんがえこんでいる、ミハイル、アウエリヤヌイチはなに面白おもしろはなしをしようとして、愉快ゆかいそうになっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「これはこれはお二人とも無言のぎょうと見えまするな。拙者も行は大好物、どれどれお仲間にはいろうか」彼は構わず座敷へ上がり二人の傍へ胡坐あぐらを組んだ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
行水が済むと仙人の群ははじめのみちを走って帰った。彼もその群にまじって帰った。皆それぞれ洞穴ほらあなを持っていた。行水から帰って来るとその日のぎょうにかかった。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして、私がこの樹立の中にまいりますのを、大変お嫌いになりまして、毎朝ぎょうをなさる御霊みたま所の中にも、私だけはけがれたものとして入れようとはなさいません。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
俊寛 あの時成親殿は八幡はちまん甲良大明神こうらだいみょうじんに百人の僧をこもらせて、大般若だいはんにゃ七夜ななよの間ぎょうじさせました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「ラップ」の作家たちは、それ等を記録するに空虚な形式上の目新しさが何の役にも立たないことを学んだ。誇張的な形容詞や、感歎記号や、ただぎょうを切りはなして
ソヴェト文壇の現状 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「林君、ここで靴を脱ぐんだ。声を立ててはいけないよ。わしがいいというまでは、無言のぎょうだ。いいかね、忘れても音を立てたり、声を出したりするんじゃないよ」
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
無理むりやりに、手習てならいッふでにぎらせるようにして、たった二ぎょうふみではあったが、いやおうなしにかされた、ありがたくぞんそうろうかしこの十一文字もじになるままに
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
で、そう云う功を積んだ行者がひとたび不浄観をぎょうずると、生きた美人がひとり行者自身の主観に醜悪に映ずるばかりでなく、第三者の眼にまでそう見えるようになる。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まことに天馬空をけるという思い切ったあばれ方で、ことにも外国の詩の飜訳ほんやくみたいに、やたらにぎょうをかえて書く詩が大流行いたしまして、私の働いている印刷所にも
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
旧暦の十一月十三日から四十八夜の間瓢箪ひょうたんをたたき空也念仏くうやねんぶつを唱えて歩くもので、極めて卑近なぎょうをして俗衆を教化しようとした空也上人の衣鉢いはつを伝えたものであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
正道正業しょうどうしょうごう思惟しゆいさるる事には恭敬心くぎょうしんを以て如何にも素直にこれを学び之をぎょうじたのであった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ヴェーッサンタラ大王は檀波羅蜜だんばらみつぎょうと云ってほしいと云われるものは何でもやった。宝石ほうせきでも着物きものでもべ物でもそのほか家でもけらいでも何でもみんなわれるままにほどこされた。
この常不軽のぎょうはこの辺の村々をはじめとして、京の町々にまでもまわって家々のかどに額を突く行であって、寒い夜明けの風を避けるために、師の阿闍梨あじゃりのまいっている山荘へはいり
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
右手奥の方から、多勢の行者達のたまごいのぎょうの呼ばい声が不気味に聞えて来る。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
ぎょうの松にむかった方には狩野かのうという絵師の家が、鬱蒼こんもりした中に建っていた。
「観自在菩薩、深般若波羅蜜多をぎょうずる時、五薀ごうん皆空かいくうなりと照見して……」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
このおばさんのつもりでは、クリスマスからつぎの年の秋までのことを、いろいろおもしろく書きたいと思っていたのです。それが、まだ一ぎょうも書けないので、すっかりこまってしまいました。
浮雲の筆はれきって、ぱっちり眼を開いた五十男の皮肉ひにく鋭利えいりと、めきった人のさびしさが犇々ひしひしと胸にせまるものがあった。朝日から露西亜へ派遣はけんされた時、余は其通信の一ぎょうも見落さなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しばらくの間、彼の声は、乞食女のように、ぎょうから行をたどる。
しかしかれらは次のぎょうがこうであるのを知らなかった——
泰軒があけてみると、紙には、ただ一ぎょう……。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ミソギのぎょうに声を合わせてイヤサカを叫び
殺意(ストリップショウ) (新字新仮名) / 三好十郎(著)
わたしを離れ岩の上から引きつれて行った手の温かいこと、こんな寒いところに、ひとりぎょうをしているとは思われませんでした。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
戦慄せんりつすべきもう一ぎょう予言よげん! 小太郎山こたろうざんとりでがあやういとはどういうわけか? それは伊那丸にも民部みんぶにも、どうしてもわからなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後年彼がこの話をした時、弟子懐奘えじょうは問うていう、「自らの修行のみを思うて老病に苦しむ師を扶けないのは、菩薩ぼさつぎょうに背きはしないか」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ただ念入りに繰り返してあるのは彼等は互に愛し合っていると云う、簡単な事実ばかりだった。広子は勿論ぎょうの間に彼等の関係を読もうとした。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
火の気を一切おつかいにならないで、水でといた蕎麦粉そばこに、果実くだものぐらいで済ませ、木食もくじきぎょうをなさるかたもあります。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
火伏せのぎょうだって、本人は火遁かとんの術のつもりさ。する事も言うこともみんな法螺だ。——もっとも病気だけは不思議によくなおしたが、癒っても後で金を