神々こうごう)” の例文
この不具ふぐになったをごらんください。そして、いまでも、おもしますが、そのときのくも姿すがたがいかに神々こうごうしくて、ひかっていたか。
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
湖水を挟んで相対している二つの古刹こさつは、東岡なるを済福寺とかいう。神々こうごうしい松杉の古樹、森高く立ちこめて、堂塔をおおうて尊い。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それが一だん向上こうじょうすると浅黄色あさぎいろになり、さらまた向上こうじょうすると、あらゆるいろうすらいでしまって、なんともいえぬ神々こうごうしい純白色じゅんぱくしょくになってる。
「でも小父様はお立派なのね。お顔もお姿もお召し物も。……そうして何て神々こうごうしいのでしょう。妾、ひざまずいて拝みたいのよ」
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そしてその踏み絵の神々こうごうしくできすぎたため信者と誤られて殺されたことは事実である、また拷問の仕方や、始めの歴史叙説はむろん
繰拡くりひろげたペイジをじっ読入よみいつたのが、態度ようす経文きょうもんじゅするとは思へぬけれども、神々こうごうしく、なまめかしく、しか婀娜あだめいて見えたのである。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それが、はるかかなたの空にかすむ山頂まで無限につづいている光景は、言語に絶する壮観であり、むしろ神々こうごうしくさえあった。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その輪廓の正しい顔はすごいほど澄みわたって、神々こうごうしいと云ってもいゝような美しさが、勝平の不純な心持ちをさえ、きよめるようだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一糸も纏わぬ処女——神々こうごうしいばかりに美しいのが、碧い眼を据えて、物に驚く風情に、ジッと此方こちらを見詰めて居るのでした。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
人生の最も温良な一片に対して向けられた、この幼稚な狂熱——それは神々こうごうしい無意味なものを、人間的な関係の中へおいた。
博士はその間その姿勢ではとても見ることのできないはずの、聖なる新月の神々こうごうしい姿を心眼の中にとらえて、しっかりとおがんでいたのだ。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
顔面の剥脱して表情を失っているのも茫乎ぼうことして神々こうごうしい。同時に無邪気であり、生のみちあふれたよろこびと夢想の純潔を示す。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
そしてその見えない天の川の水をわたってひとりの神々こうごうしい白いきものの人が手をのばしてこっちへ来るのを二人は見ました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
といっても、神様のように神々こうごうしく、近寄り難いかがやきではなく、人間が始終、何かに満足しながらいきているようなかがやきであります。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その峯々から蒸発する湯気が、薄い真綿まわたのような雲になって青い青い空へ消え込んで行くのが、神々こうごうしい位、美しかった。
眼を開く (新字新仮名) / 夢野久作(著)
葉子はこうした心になると、熱に浮かされながら一歩一歩なんの心のわだかまりもなく死に近づいて行く貞世の顔が神々こうごうしいものにさえ見えた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
コゼットはいかにも神々こうごうしい様子で、彼の用をすることに天使のような喜びを示して、朝晩その傷に繃帯ほうたいをしてやった。
と申しましても、陛下のかんむりのまわりには、なにか、神々こうごうしいもののかおりが、ただよってはおりますが。——
髪もまゆも、薄い口髭くちひげもまったくの緑色で——その不思議な色合いが、この娘を何かしら、神々こうごうしく見せるのだった。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
となれなれしく書いた浅緑色の手紙を、さかき木綿ゆうをかけ神々こうごうしくした枝につけて送ったのである。中将の返事は
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その飛鳥の宮の日のみ子さまに仕えた、と言うお方は、昔の罪びとらしいに、其が又何としたわけで、姫の前に立ち現れては、神々こうごうしく見えるであろうぞ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
いつの間に掃除をしたものか朝露に湿った小砂利こじゃりの上には、投捨てた汚い紙片かみきれもなく、朝早い境内はいつもの雑沓ざっとうに引かえて妙に広く神々こうごうしくしんとしている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
どうだ! 衛門! 今日の不尽はかつて見たこともない神々こうごうしさだぞ! こんな荘厳な不尽を見るのはわしも初めてだ! 見ろ! あの白銀しろがねきらめくいただきの美しさを
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「塗駕籠の御簾みすごしに、白いおひげと、鼻ばしらのたかいお顔が、何やらきょうは、神々こうごうしげに拝まれたぞよ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老松おいまつちこめて神々こうごうしきやしろなれば月影のもるるは拝殿階段きざはしあたりのみ、物すごき下闇したやみくぐりて吉次は階段きざはしもとに進み、うやうやしくぬかづきて祈るこころに誠をこめ
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
オルガンは、裁縫するようには手が動かないからだ。それを一生けんめい、ひきこなそうとする男先生の勉強ぶりは、奥さんにとっては、神々こうごうしいようでさえあった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
八尺やさか曲玉まがたまという、それはそれはごりっぱなお首飾くびかざりの玉と、八咫やたかがみという神々こうごうしいお鏡と、かねて須佐之男命すさのおのみことが大じゃの尾の中からお拾いになった、鋭い御剣みつるぎ
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
有明けのともしびに照らされた師匠の顔は、物凄いほどに神々こうごうしいものであった。昼夜を分かたぬ連日の祈祷に痩せ衰えた彼の顔も、今度は輝くばかりに光っていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
甲州一と里人の自慢している大杉が幾株か天を突いて、鳥一つ啼かぬ神々こうごうしき幽邃ゆうすいの境地である。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
私は、その長い睫毛まつげのかげが蝋燭の光りでちらちらしている彼の頬を、じっと見あげていた。私の火のようにほてった頬には、それが神々こうごうしいくらい冷たそうに感ぜられた。
燃ゆる頬 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私は、いま神様を信じます。これは、この空の色は、なんという色なのかしら。薔薇。火事。虹。天使の翼。大伽藍がらん。いいえ、そんなんじゃない。もっと、もっと神々こうごうしい。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それから、膝の上に抱き上げられて、泣きながら見上げた母の顔が、非常にやさしく美しく、神々こうごうしくさえも思えた。で彼はまた母の胸に顔を埋めて、震えながら泣き出した。
叔父 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
すき透るように眼のなかが澄んできて、どこかの聖人みたいな神々こうごうしい顔つきになった。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
比丘尼行者が祈祷を売り物にする住まいなら、玄関出入り口の構えなぞ、少しは神々こうごうしいこしらえでもしてあるだろうと思いのほかに、いたってちゃちな、ただのしもた屋でした。
つぎは原田直次郎氏の「騎竜観音」、縦八尺、幅五尺ぐらいの大作、紫雲を分けて全身を現わした老竜の背に、神々こうごうしく立てる白衣の観世音、右手に楊柳の枝を携えて水をそそぐ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
「そらこの絵エ問題になったくらいやもん、よう似てるわ。ほんとの光子さんはこの神々こうごうしさの上にちょっと肉感的なとこあるねんけど、日本画にしたらその感じが出えへんねん。」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
愛する女に取り巻かれてる心地がして、限りないうれしさが胸いっぱいになった。眼を閉じて霊妙な曲をひきだした。そのとき彼女は、神々こうごうしい諧調かいちょうに包まれてるその室の美を悟った。
元旦がんたんの初日の出を、伊豆いず近海におがみ、青空に神々こうごうしくそびえる富士山を、見かえり見かえり、希望にもえる十六人をのせた龍睡丸りゅうすいまるは、追手おいての風を帆にうけて、南へ南へと進んで行った。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
ほの暗い通路、崩れかかった石碑、黒ずんだかしの羽目板、過ぎさった年月の憂鬱ゆううつをこめて、すべてが神々こうごうしく、厳粛な瞑想めいそうにふける場所ににつかわしい。田園の日曜日はきよらかに静かである。
西洋で言って見ると希臘ギリシアの倫理が Platonプラトン あたりから超越的になって、基督クリスト教がその方面を極力開拓した。彼岸に立脚して、馬鹿に神々こうごうしくなってしまって、此岸しがんがお留守になった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
女神めがみはもういない。しかし神々こうごうしい跡は残っている。9950
神々こうごうしいようなところがありました。
血友病 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
すべてがいかにもきよらかで、優雅ゆうがで、そして華美はでなかなんともいえぬ神々こうごうしいところがある。とてもわしくちつくせるものではない。
しかし、そのしまは、こんなふうに神々こうごうしかったけれど、しんとしておとひとつしなければ、またけむりのぼっているところもありませんでした。
町の天使 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これほど美しく神々こうごうしい曲を幾つも知らないばかりでなく、これほど見事な演奏も、五つとは数えることが出来ないと思う。
一方こんなに騒がしいのに、堀川に添った日置あたり、材木置き場に自然と出来た例の木小屋の静かさと来たら、むしろ神々こうごうしいほどである。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
老僧はしずかに厨子ずしとびらをひらいた。立ちあらわれた救世観音は、くすんだ黄金色の肉体をもった神々こうごうしい野人であった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
その手の陰に、凄い程白く塗った若い女の顔と、気味の悪い程赤い唇と、神々こうごうしいくらい純真に輝く瞳と、額に乱れかかったおびただしい髪毛が見えた。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
思想的にも、感覚的にも、開発された本当に新しい女性にしか、許されていないような、神々こうごうしい美しさがあった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
緋のはかま穿いても居なけりや、掻取かいどりを着ても届ない、たゞ、輝々きらきらした蒔絵まきえものがそろつて、あたりは神々こうごうしかつた。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)