真昼まひる)” の例文
旧字:眞晝
堀割ほりわり丁度ちやうど真昼まひる引汐ひきしほ真黒まつくろきたない泥土でいどそこを見せてゐる上に、四月のあたゝかい日光に照付てりつけられて、溝泥どぶどろ臭気しうきさかんに発散してる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
すると、ここに、しろ着物きもの大男おおおとこが、その真昼まひるごろ、のそりのそりと線路せんろうえあるいているのをたというものがありました。
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その子は、夏の真昼まひるに生れた。男子であった。膚やわらかく、唇赤き弱々しげの男子であった。ドミチウス(ネロの幼名)と呼ばれた。
古典風 (新字新仮名) / 太宰治(著)
真昼まひるの日ざかりに、わたしたちはうちを出て、カピを先に立てて、手を組みながらそろそろと歩いた。その年の春はあたたかで、日和ひよりがよかった。
鐘楼しゅろうしたにあじさいがきさかっている真昼まひるどきだった。松男君まつおくんうでによりをかけて、あざやかに一つごオん、とついた。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
真昼まひるの道も、真っ暗だった。環は、はじに打たれて、陽も見られなかった。往来の人に、顔も見られるのも嫌だった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし室の内部からしんばりをかったりして真昼まひる女給たちから小心しょうしんわらわれたものだ。その夜、お千代は当番で、最後まで店にのこっていたものらしい。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
降るような真昼まひるの光線にあうと、両眼は脳心のほうにしゃにむに引きつけられてたまらない痛さを感じた。かわいた空気は息気いきをとめるほどのどからばした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
戸外おもてあたか真昼まひるのやう、つきひかりひろげたうちへはら/\とさして、紫陽花あぢさいいろ鮮麗あざやかあをかつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この曙光しょこうが発展して真昼まひるの輝きとならば、神の愛は悉く解り、来世の希望は手に取る如くあざやかとなるのである。しかしながらこれは急速に発展すべきものではない。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
おに真昼まひるひかりにあってはいくじのないものですから、うらめしそうに、しばらくは、旅僧たびそうのうしろ姿すがたとおくからながめていましたが、ふいと姿すがたえてえなくなりました。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
昼は明るい、見渡せば水平線、真昼まひる海が動いて静かに蒼空を吐き出してゐる。
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
外はかば篝火かがり真昼まひるの様に明るい。余等の天幕の前では、地上にかん/\炭火すみびおこして、ブツ/\切りにした山鳥や、尾頭おかしらつきのやまべ醤油したじひたしジュウ/\あぶっては持て、炙っては持て来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
夏花のすがたは細きくれなゐに真昼まひるいきむの恋よこの子よ
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
この山を吾あゆむとき長崎の真昼まひるはうを聞きつつあはれ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
日は真昼まひる——野づかさの、寂寥せきれうしんざうにか
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
光明道こうみようどう此原このはら真昼まひるひとり過ぎゆかば
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
真昼まひるに夢を見てしより
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
けれど、ちょうどだれもみちとおるものがなかったので、それをたものがありません。真昼まひる太陽たいようしたで、おとこはついにけてしまったのです。
てかてか頭の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
裾たるる紫ひくき根なし雲牡丹が夢の真昼まひるしづけき
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
はた、辻の真昼まひるどき、白楊はこやなぎにほひわななき
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
真昼まひる ルコント・ドゥ・リイル
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
「だって、この真昼まひるなかに」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宝石商ほうせきしょうさん、あなたのおちなさるひすいのように、そのうみいろは、あおくうるんでいます。また、真珠しんじゅのように、真昼まひるには、日光にっこうかがやいています。
花咲く島の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
真昼まひる、ものあたたかに光素エエテル
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
太陽の使つかひ真昼まひるの霊
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
こうしてみみをすますと、大海原おおうなばら波音なみおとのように、あるいは、かすかな子守唄こもりうたのように、都会とかいのうめきが、おだやかな真昼まひる空気くうきつたってくるのです。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ひとつんでも、真昼まひる
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
勇吉ゆうきちが、さきになって、こう一は、あとからついて、人通ひとどおりのすくない、しろかわいた真昼まひる往来おうらいけていきました。
真昼のお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
色あかき世界の真昼まひる
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
年寄としよりのいうことですが、なんでもしずかな真昼まひるごろ、足音あしおとをたてずに、いけちかよると、金銀きんぎんの二ひきのへびが、たわむれながら、水面すいめんおよいで、おやしろのほうへ
うずめられた鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
真昼まひる
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つきひかりは、真昼まひるのように、くまなくてらしていました。いぬこえは、野原のはらのはてのむらから、こえるのでした。
風七題 (新字新仮名) / 小川未明(著)
真昼まひるなり
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まちほうへつづくみちうえには、かげろうがたち、そらいろはまぶしかった。しずかな真昼まひるで、人通ひとどおりもありませんでした。金魚売きんぎょうりのおじさんは、きっと、あっちの露路ろじへまがったのだろう。
夢のような昼と晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
まだあつい、なつ時分じぶん野原のはらしろおとこがさまよっているときは、おおきなくもつくばかりのからだでのそりのそりと、真昼まひる線路せんろあるいたものであるが、まちはいってからは、小男こおとことなって、晩方ばんがたからよるにかけて
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)