しょく)” の例文
瀟々しょうしょう、外の雨声ばかりで、寒室のしょくは、油も凍るか、いとど火色も細い。火の気といっては、家康の側に、手炉しゅろ一つあるきりだった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだね、これは——」横瀬は、十しょくの電灯の光の下に、小さい薬壜を、ふってみながら、いつまでも、後を云わなかった。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今夜は、父が、どうもこんなに電燈が暗くては、気が滅入っていけない、と申して、六畳間の電球を、五十しょくのあかるい電球と取りかえました。
灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
宵闇よいやみの迫った室内にぱっと百しょくの電燈がついて、客と主人との顔が急に明るく浮び上った。そして二人の心は顔よりももっと明るかったのである。
予審調書 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
真黒い天井からブラ下がった十しょくの電球ははえふん白茶気しらちゃけていた。その下の畳はブクブクに膨れて、何ともいえないせっぽい悪臭を放っていた。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は妻子眷族けんぞくを別室に宿らせ、自分ひとりは剣を握り、しょくをたずさえ、楼に登って妖怪のあらわれるのを待っていると、宵のうちには別に何事もなかったが
そして、昼間も雨戸をしめ切って、態と五しょくの電燈をつけて、薄暗い部屋の中で、彼一流の無気味な妄想もうそうを描きながら、うごめいているのだということであった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
よるしょくって遊宴中、腰掛けをつらねた上に数猴一列となって各の手に炬火かがりびを捧げ、客の去るまで身動きもせず、けだし盗人の昼寝で当て込みの存するあり
赤っぽい光を投げている八しょくの電球を頭の近くまでさげた波子は、針の手を休めず、縫い物に精出している。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
煤だらけのむき出しのはりから、十しょくほどの薄暗い電灯が吊り下げられ、ぼんやりと部屋の中を照している。
パチンと誰かが彼の頭の上にいつもついている十二しょくの電気を消したのである。明るい部屋が突然暗くなったので、却って彼は目をさましたのかもしれなかった。
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
通りにはやはりたき火のあともありましたし、電気会社には、まるで燈台で使ふやうな大きなラムプを、千しょくの電燈の代りに高く高くつるしてゐるのも私は見ました。
毒蛾 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
夫人、世話めかしく、雪洞ぼんぼりの蝋を抜き、短檠たんけいの灯を移す。しょくをとって、じっと図書のおもてる、恍惚うっとりとす。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暗夜にしょくをとって歩む一歩を進むれば明は一歩を進め暗もまた一歩を進める。しかして暗は無限大であって明は有限である。暗はいっさいであって明は微分である。
知と疑い (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
通胤は走田での出来事を手短かに語りながら、父の眼色をじっとみつめた。……清胤は黙ってその紙片にしょくの火をうつすと、燃えあがる火を見ながらしずかに云った。
城を守る者 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また、ある人、夢に盗賊の室中に入りて、手にしょくを取り物品を探るを見、翌朝これをその母に語る。
妖怪報告 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そこへ昔命に懸けて愛した男を、冷酷なきょうだいに夫にせられて、不治の病に体のしんに食い込まれているエルラが、しょくって老いたる恋人の檻に這入って来る。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
駈寄かけよった人々がしょくを差上げ、片手を刀の柄にかけて、同じく空を見上げたところで幕になりました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
しょくり扇をふるって論ずる物静かに奥深き室の夜は愈々更けて沈々となった。一鉄がフト気がついて見ると、信長の坐を稍々やや遠く離れて蒲生の小伜が端然と坐っていた。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
暗い五しょくの電燈の下ではしを取り上げる時、父上が珍しく木彫のような固い顔に微笑をたたえて
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
傾ける顔に五十しょくの球の光が当るとき、鼈四郎のまぶたには今まで見たことの無い露が一粒光った。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
店の上につるされた、五十しょくぐらいの電燈が、蒼白あおじろい、そしてみずみずしい光をふりまき、その光に濡れそぼっている果物屋の店や、八百屋の店は、ますます私の心を、憂鬱に
郷愁 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
わが昔の家に近かりし処に禅宗寺ありけるが星を祭るとてしょくあまたともし大般若だいはんにゃの転読とかをなす。本堂ののきの下には板を掲げて白星黒星半黒星などをえがき各人来年の吉凶を示す。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
体をしょくの柄のように反らせ、この小虫にとっては、恐らく無上の苦痛を堪えながら、完全に責任を果そうと努力しているらしい様子を見ると、浩は一種の厳粛な感動にうたれた。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
家じゅうにたったひとつの十六しょく電燈でんとうが、親子のすがたをぼんやりらしていた。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
しょく尽きてこうおしめども、更尽きて客はねたり。寝ねたるあとにエレーンは、合わぬ瞼の間より男の姿の無理にひとみの奥に押し入らんとするを、幾たびか払い落さんとつとめたれどせんなし。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しょくの電気のついた帳場の炬燵こたつにあたって、お母アさんへ手紙を書く。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
こう」もいけない。その後また「とう」も「しょく」も皆いけなくなった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
電球は炭素線の五しょくとか十燭とかいうもので、今から言えば玩具のようなものではあったが、それでも、「D川の水が電気になったんだ」と言って、母や祖母たちは、大いに驚嘆していたものである。
動力革命と日本の科学者 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
気遣う様子更に無し、れど目科は落胆せず、倉子にしょくらせて前に立たせ余をうしろに従えて、穴倉の底まで下り行くに、底の片隅に麦酒びいるの瓶あり少し離れて是よりも上等と思わるゝ酒類の瓶を置き
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
と歌を以て尋ねた時、傍のしょくを持てるものが
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しょくを継ぐ孫弟子もある子規忌かな
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
わざと、しょくともさずにある。すすきの穂の影が、縁や、そこここにうごいている。ひさしからし入る月は燈火ともしびよりは遥かに明るかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
別の人が、ぱっと五しょくの電灯をつけた。その人は妙な形の頭巾ずきんをもっていて、それを五郎造の率いる一行の一人一人の頭の上からすぽりとかぶせた。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やはり丸裸体まるはだかのまま、貧弱な十しょくの光りを背にして、自分の病棟付きの手洗場の片隅に、壁に向って突っ立っていた。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
郅伯夷しつはくいという男がそこに宿って、しょくを照らしてきょうを読んでいると、夜なかに十余人があつまって来て、彼とならんで坐を占めたが、やがて博奕の勝負をはじめたので
また、ある人、夢に盗賊の室中に入りて、手にしょくを取り物品を探るを見、翌朝これをその母に語る。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
温は大中元年に、三十歳で太原たいげんから出て、始て進士のに応じた。自己の詩文はしょく一寸をもやさぬうちに成ったので、隣席のものが呻吟しんぎんするのを見て、これに手をしてった。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
初の烏 (思い着きたるていにて、一ツの瓶の酒を玉盞ぎょくさんぎ、しょくかざす。)おお、綺麗きれいだ。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何かしら今夜の良人おっとの気分を察するところがあって、電灯も五十しょくの球につけ替えた。あかり煌々こうこうと照り輝く座敷の中に立ち、あたりを見廻みまわすと、逸子も久振りに気も晴々となった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
潜渓が方生の天台にかえるを送るの詩の序に記して曰く、晩に天台の方生希直きちょくを得たり、其の人となりや凝重ぎょうちょうにして物にうつらず、穎鋭えいえいにして以てこれを理にしょくす、ままはっして文を
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
人のごとく物をげ、物を取り寄せ杖で他を打ち、つちで栗を破り、てこで箱のふたを開き、棒をへし折り、毛箒の柄の螺旋を捻じ入れ捻じ戻し、握手を交え、しょくに点火してその燃ゆるを守り
内容は密会であるが、形式は金吾家のこころ祝いというわけで、座にはきらびやかに屏風びょうぶをめぐらし、煌々こうこうしょくを列ね、さすが特別収入のある連盟だけに、美酒佳肴かこう配膳はいぜんにもぬかりはなかった。
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
広い室の中に五しょくの電灯がぽっかりついた。三尺とはなれては、新聞さへ読めない程の薄暗さである。窓にはシェードがおろしてあるし、鍵穴にもふたがしてあるので、光は全く室外にはれない。
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
十六しょく電燈でんとうが急にぱっと明るくなったように思われた。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
秀吉はひとりしょくに対していた。こよい弥右衛門に託して安土へ急がせた書簡は、急遽きゅうきょ、信長自身の来援をこの地に仰ぐためのものだった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しょく電燈でんきに照らされた鉄の寝台ベッドの上には、白い蒲団を頭から冠っている人間の姿がムックリと浮き上っていた。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「どうなったい、お前さん」勝手元に働いていた女房のおつるは、十しょくの電灯を逆光線に背負って顔を出した。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やがてほんとうに寝床にはいると、又もやその股を刺す者があった。痛みが激しいので、急に童子を呼び、しょくをともしてあらためると、果たして左の股に鍼が刺してあった。
初の烏 (思ひ着きたるていにて、ひとツの瓶の酒を玉盞ぎょくさんぎ、しょくかざす。)おゝ、綺麗きれいだ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)