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そばだ
ふりがな文庫
“
欹
(
そばだ
)” の例文
私は覚えず耳を
欹
(
そばだ
)
てた。余りつづけては鳴かず、その一声きりであったが、その声は、私に或るいくつかの特殊な朝を思い出させた。
日記
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
仏教者はそれほどに光彩を放たなかったが、今までの基教的伝統・因襲に飽きたらず居たものは、喜んで仏教に耳を
欹
(
そばだ
)
てたのである。
釈宗演師を語る
(新字新仮名)
/
鈴木大拙
(著)
此
(
こ
)
の
按摩
(
あんま
)
杖
(
つゑ
)
を
力
(
ちから
)
に、
川
(
かは
)
べりの
水除
(
みづよ
)
け
堤
(
づゝみ
)
へ
来
(
く
)
ると、
杖
(
つゑ
)
の
先
(
さき
)
へ
両手
(
りやうて
)
をかけて、ズイと
腰
(
こし
)
を
伸
(
の
)
ばし、
耳
(
みゝ
)
欹
(
そばだ
)
てゝ
考
(
かんが
)
えて
居
(
ゐ
)
る
様子
(
やうす
)
、——と
言
(
い
)
ふ。
怪力
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
新しくパリー人の視聴を
欹
(
そばだ
)
てたことは、マルシェ・オー・フルールの池の中に自分の兄弟の首を投げ込んだドウトンの罪悪であった。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
暫しまどろんでいた元三は驚いて入口の方へずり寄って耳を
欹
(
そばだ
)
てた。彼は少しばかり耳が遠いのではっきり聞えはしなかった。——
土城廊
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
▼ もっと見る
島々の数を尽して
欹
(
そばだ
)
つものは天を
指
(
ゆびさ
)
し、伏すものは波にはらばう、あるは
二重
(
ふたえ
)
にかさなり
三重
(
みえ
)
にたたみて、左にわかれ、右に
連
(
つらな
)
る。
惜別
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
いつも耳きょとんと
欹
(
そばだ
)
て、すたこらすたこら駈け歩いて、可愛い奴だ。儂あそいつ見たさに、わざわざ邑内へ廻ることがあるだよ。
蕎麦の花の頃
(新字新仮名)
/
李孝石
(著)
例の約束をした二つ目の右側の扉、———それへ手捜りで擦り寄ってじっと耳を
欹
(
そばだ
)
てゝ見ても、矢張ひッそりと静まり返って居る。
少年
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
わたくしは耳を
欹
(
そばだ
)
てた。「それは思ひ掛けないお話です。藤井紋太夫だの谷の音だのが、壽阿彌に縁故のある人達だと云ふのですか。」
寿阿弥の手紙
(旧字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
ふと耳を
欹
(
そばだ
)
てると向うの二階で
弾
(
ひ
)
いていた三味線はいつの間にかやんでいた。残り客らしい人の酔った声が時々風を横切って聞こえた。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
眠元朗はいまさらのように
四辺
(
あたり
)
を回顧しながら、寂しい風物の間に、貝殻に耳をあてながら聞くような湖鳴りに幾たびとなく耳を
欹
(
そばだ
)
てた。
みずうみ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
斯
(
か
)
うして
愛
(
あい
)
ちやんは
自問自答
(
じもんじたふ
)
を
續
(
つゞ
)
けて
居
(
ゐ
)
ましたが、
暫
(
しばら
)
くして
外
(
そと
)
の
方
(
はう
)
で
何
(
なに
)
か
聲
(
こゑ
)
がするのを
聞
(
き
)
きつけ、
話
(
はなし
)
を
止
(
や
)
めて
耳
(
みゝ
)
を
欹
(
そばだ
)
てました。
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
もいちど、耳をよく
欹
(
そばだ
)
てて聞き直したいように紫ばんだ唇がわななきかけたが、にわかに、ものもいえない面持ちなのである。
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「マルヒユスですか。目の光る、日に焼けた、髪の黒い男ぢやありませんか。」名を聞いて耳を
欹
(
そばだ
)
てたフロルスは、
怜
(
うれ
)
しげな声でかう云つた。
フロルスと賊と
(新字旧仮名)
/
ミカイル・アレクセーヴィチ・クスミン
(著)
そこから路は右を指して急な登りとなり、蟠屈せる樹根を蹈んで、巨巌の
欹
(
そばだ
)
てる間を右に左に辿り行くさまは、木曾駒の登りに能く似ていた。
木曽駒と甲斐駒
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
其
(
そ
)
の水音に消されて、今までは誰も
聞付
(
ききつ
)
けなかったが、
何処
(
どこ
)
やらで
微
(
かすか
)
な
唸声
(
うなりごえ
)
が聞えるようである。巡査は
忽
(
たちま
)
ちに耳を
欹
(
そばだ
)
てた。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
しかし次の瞬間には、全く思ひもかけず唐突に起つたヷイオリンの強い絃の音に、われにもなく心をとられて耳を
欹
(
そばだ
)
てた。
輝ける朝
(旧字旧仮名)
/
水野仙子
(著)
そして尚も、飢えた野良犬のように、その垣の低い家の周りを、
些細
(
ささい
)
な物音をも聴きのがすまいと耳を
欹
(
そばだ
)
てて、ぐるぐるぐるぐると
廻
(
まわ
)
っていた。
腐った蜉蝣
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
他の小鳥が寝処を捜す時刻になってから、この二色の鳥ばかりが際限もなく鳴いて来る故に、
憂
(
うれい
)
ある者は
殊
(
こと
)
に耳を
欹
(
そばだ
)
てざるを得なかったのである。
野草雑記・野鳥雑記:02 野鳥雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
兵員たちも耳を
欹
(
そばだ
)
てて、甲板のあちらに突っ立ち、こちらに佇みして、音の起ってくる原因を確かめようとしていた。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
青年は耳を
欹
(
そばだ
)
てて、その口笛のする方を
窺
(
うかが
)
った。それは繁みの向う側で吹きならしているものらしいことが分った。
恐怖の口笛
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
動くという働きを失ったようになって、伝二郎は床のなかで耳を
欹
(
そばだ
)
てていた。すると、女が、というより女の幽霊が、不思議なことを始めたのである。
釘抜藤吉捕物覚書:07 怪談抜地獄
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
かれははつとして耳を
欹
(
そばだ
)
てた。次第にそれは階段から廊下の方へと近寄つて来る跫音だといふことがわかつた。しかしそれはひとつの跫音ではなかつた。
時子
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
この村へは一年に一度か二度ほどしか來ることのない、變な帽子を
被
(
かぶ
)
つた電報配達人が、松原の入口を小走りに入つて來たので、村の人達は皆目を
欹
(
そばだ
)
てた。
天満宮
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
まだ
生々
(
いきいき
)
としている小さな
金壺眼
(
かなつぼまなこ
)
は、まるで
二十日鼠
(
はつかねずみ
)
が暗い穴から
尖
(
とん
)
がった
鼻面
(
はな
)
を突き出して、耳を
欹
(
そばだ
)
てたり、髭をピクピク動かしながら、どこかに猫か
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
乍
(
たちま
)
ち有りて、
迸
(
ほとばし
)
れるやうにその声はつと高く揚れり。貫一は
愕然
(
がくぜん
)
として枕を
欹
(
そばだ
)
てつ。女は
遽
(
にはか
)
に
泣出
(
なきいだ
)
せるなり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
ポツジヨは耳を
欹
(
そばだ
)
てたり。何とか云ふ。颶風は我が久しく觀んことを願ひしところなり。「アバテ」も暫く我と共に留まり給へ。日の暮るゝまでには
凪
(
な
)
ぐべし。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
電話の
鈴
(
りん
)
が鳴る度に、プラトンは全身を震はせて、一種の恐怖が熱いものゝやうに心の臓に迫つて来るのを感じた。そして床に起き直つて耳を
欹
(
そばだ
)
てゝ聞いてゐる。
板ばさみ
(新字旧仮名)
/
オイゲン・チリコフ
(著)
玄關
(
げんくわん
)
から
病室
(
びやうしつ
)
へ
通
(
かよ
)
ふ
戸
(
と
)
は
開
(
ひら
)
かれてゐた。イワン、デミトリチは
寐臺
(
ねだい
)
の
上
(
うへ
)
に
横
(
よこ
)
になつて、
肘
(
ひぢ
)
を
突
(
つ
)
いて、さも
心配
(
しんぱい
)
さうに、
人聲
(
ひとごゑ
)
がするので
此方
(
こなた
)
を
見
(
み
)
て
耳
(
みゝ
)
を
欹
(
そばだ
)
てゝゐる。
六号室
(旧字旧仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
八五郎はゾッとして枕を
欹
(
そばだ
)
てました。紛れもありません。仏壇の中、
位牌
(
いはい
)
の前に現われたのは、青黒い地に
紅隈
(
べにくま
)
を取って、金色の眼を光らせた、鬼女の顔なのです。
銭形平次捕物控:015 怪伝白い鼠
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
一つの器の高き美的価値と、その存在の低い平凡とが結合し得るという言葉ほど、耳を
欹
(
そばだ
)
たしめる福音があろうか。私は空想を語ることに興味を覚えるのではない。
工芸の道
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
その人々は本場仕込みのツンツルテンで
脛
(
すね
)
の露出し具合もいなせなり腰にはさんだ手拭も赤い色のにじんだタオルなどであることがまず人目を
欹
(
そばだ
)
たしめるのであった。
子規居士と余
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
姉妹は思わず目を見合せて、ようやく明るい
微笑
(
ほほえみ
)
を交しながら、なおも息をつまらせて耳を
欹
(
そばだ
)
てていた。しかし、隣家からは、
相不変
(
あいかわらず
)
、なんの返事も無いらしかった。
姨捨
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
その山の間にはヒマラヤ山の名物のロードデンドロンの花は今やまさに
綻
(
ほころ
)
びんとし、奇岩怪石左右に
欹
(
そばだ
)
つその間に小鳥の
囀
(
さえず
)
って居る様は実に愉快な光景でありました。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
アッケないほど一つだけ鳴つて、それきり鳴り止んでシンとしてゐたので、ハッとして思はず
欹
(
そばだ
)
てた先生の心へは呆れ返るほど寒々とした闇の冷たさが押し込んできた。
群集の人
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
「この空気!」と
喬
(
たかし
)
は思い、耳を
欹
(
そばだ
)
てるのであった。ゾロゾロと
履物
(
はきもの
)
の音。間を縫って利休が鳴っている。——物音はみな、あるもののために鳴っているように思えた。
ある心の風景
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
俊一君は耳を
欹
(
そばだ
)
て始めたが、折から頭の上で電話が鳴り出したので、飛び立ち上った。
拠
(
よんどこ
)
ろない。
嫁取婿取
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
耳を
欹
(
そばだ
)
てて聽くとそれは一隊の樂手が、どこか近隣の村から出て來て、クリスマスの歌を奏するのだと推想された。彼等は邸館のぐるりを𢌞つて窓々の下で音樂を奏した。
クリスマス・イーヴ
(旧字旧仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
微
(
かす
)
かに声するを何事ぞと耳を
欹
(
そばだ
)
てると
蚋
(
ぶゆ
)
が草間を飛び廻って「かの青橿鳥は何を苦にするぞ」と問うに「彼の初生児を鷹に捉られた」と草が
対
(
こた
)
う、蚋「汝は誰に聞いたか」
十二支考:01 虎に関する史話と伝説民俗
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
二人共頸を延ばして海の方を見て、耳を
欹
(
そばだ
)
てた。引汐が岸辺に小さい波を打つてゐる。
センツアマニ
(新字旧仮名)
/
マクシム・ゴーリキー
(著)
いや、拙者なぞもこの時節がらいつどのような
御咎
(
おとがめ
)
を
蒙
(
こうむ
)
る事やら
落人
(
おちうど
)
同様風の音にも耳を
欹
(
そばだ
)
てています。それやこれやでその後はついぞお尋ねもせなんだがこの間はまたとんだ御災難。
散柳窓夕栄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
物思に沈んでゐた己は耳を
欹
(
そばだ
)
てた。あれは己の友達だ。ケルベロスといふ犬だ。
樺太脱獄記
(新字旧仮名)
/
ウラジミール・ガラクティオノヴィチ・コロレンコ
(著)
一同耳を
欹
(
そばだ
)
てた。フリイデリイケも、女教師も、アウグステをばさんも黙つた。小さいオスワルドは熱心に何事か聞かうと思つて、フオオクに突き刺した肉を口に入れるのを忘れてゐた。
祭日
(新字旧仮名)
/
ライネル・マリア・リルケ
(著)
少女驚いて耳を
欹
(
そばだ
)
つればをかしや
檐頭
(
えんとう
)
の
鸚鵡
(
おうむ
)
永日に
倦
(
う
)
んでこの
戯
(
たわむれ
)
を為すなり。
俳諧大要
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
寢室の格子戸を見上げることも
要
(
い
)
らない!
扉
(
ドア
)
が開きはしないかと耳を
欹
(
そばだ
)
てる必要もない——鋪石の上に
砂利道
(
じやりみち
)
に足音がしはしないかと想像することも!
芝生
(
しばふ
)
も庭も踏み
躙
(
にじ
)
られ、荒れ果て
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
チモフエイは
稍
(
やゝ
)
耳を
欹
(
そばだ
)
てた気味で、愉快げに
齅煙草
(
かぎたばこ
)
を鼻に啜り込んだ。
鱷
(新字旧仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
首を上げ、耳を
欹
(
そばだ
)
てて、その耳に全身の感覚を集めようとしていた。
狂馬
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
苦い顔をして
階段
(
はしご
)
を
上
(
あが
)
つて、懐手をした儘耳を
欹
(
そばだ
)
てて見たが、森閑として居る。右の手を出して、垢着いた毛糸の首巻と
毛羅紗
(
けラシヤ
)
の
鳥打帽
(
とりうち
)
を打釘に懸けて、其手で
扉
(
ドア
)
を開けて急がしく編輯局を見廻した。
病院の窓
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
貞之進は始終耳を
欹
(
そばだ
)
てゝ居たが、ついに思う名を聴得なかったので、
平日
(
ふだん
)
ならば男児が
塵芥
(
ちりあくた
)
ともせぬほどのことが胆を落し、張合なげに巻煙草を吸附て居ると、その芸妓はこっち向きに
居坐
(
いざ
)
り直って
油地獄
(新字新仮名)
/
斎藤緑雨
(著)
私は床の上へ起上って耳を
欹
(
そばだ
)
てた。私はそっと部屋の外へ出て、階段の上から下を覗いた。寸時
歇
(
や
)
んでいた跫音がまた聞えてきた。怪しい物音に釣込まれて、私は怖々ながら一番下の廊下まで下りた。
日蔭の街
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
欹
漢検1級
部首:⽋
12画
“欹”を含む語句
歔欹
傾欹
欹側
欹傾
欹目
欹立