檀家だんか)” の例文
それを一とまとめにして、當寺の檀家だんかで、黒門町の兩替屋樽屋金兵衞に引渡し、小判に替へて本堂再建の入費に當てることになりました。
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
快生が今まで居た下総しもうさのお寺は六畳一間の庵室で岡の高みにある、眺望ちょうぼうは極めて善し、泥棒の這入る気遣はなし、それで檀家だんかは十二軒
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「——大檀家だんか趙大人ちょうたいじんのお顔もあることじゃし、明日ともなれば、わしから智深にきびしく諭戒ゆかいを加えて、以後きっと、慎ませようで」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁度町の檀家だんかに仏事が有つて、これから出掛けるところとやら。住職は一寸丑松に挨拶して、寺内の僧を供に連れて出て行つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
某日あるひ住持は檀家だんか待夜たいやに招かれたので、名音も其の供をしてったが、意外に手間取って帰ったのは夜の十二時過ぎであった。
法華僧の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もとどおりこの本寺の檀家だんかになってくださるだろうと、ついあさはかなことを考えたのが、こんな人騒がせのもとになったのでござります。
広い境内を掃くのを、栄蔵や金ちやんが手伝つてあげると、このお坊さんは喜んで、いつも檀家だんかから頂いた饅頭まんぢゆう落雁らくがんをくれるのであつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
水野若狭守みずのわかさのかみ内、神林某の妻という名義で、幸い、この寺の檀家だんかのうちにしかるべき紹介者があったものですから、寺でも待遇が違いました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あとで聞けば、坊さんは越後者えちごものなる炭焼小屋の主人あるじが招いたので、去年も五十円から出したそうだ。檀家だんか一軒のお寺もゆかしいものである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
和尚をしやうさん、こゝにある団扇うちは長川谷町はせがはちやう待合まちあひ梅廼屋うめのや団扇うちはですか」「左様さやうです」「梅廼屋うめのや此方こちら檀家だんかでございますか」
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
白隠和尚はくいんおしょうはその檀家だんかの娘が妊娠して和尚おしょう種子たねを宿したと白状したとき、世人からなまぐさ坊主ぼうずと非難されても、平然として
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
門徒寺もんとでらつても檀家だんかが一けんあるでい、西本願寺派にしほんぐわんじは別院並べつゐんなみで、京都の岡崎にあるから普通には岡崎御坊で通つて居る。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
大きい檀家だんかの私用で、本尊を納めた仏壇と、その家代々の位牌いはいが安置してあり、年忌法会などはそこでするし、ときに親族の集まりなどにも使う。
落ち梅記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
以て當寺の檀家だんか一同へ御目見を仰付らるべし此旨村中むらぢうへ申達すべしとの事なり下男共げなんども何事も知らざれば是を聞てきもつぶし此頃迄臺所だいどころで一つに食事しよくじ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一例を挙げると、もし坊さんに女の子があって、その女の子が年頃としごろになったとすると、檀家だんかのものが相談して、どこか適当な所へ嫁にやってくれます。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
梵語でいえば、ダーナで、あの檀那だんなさま、といった時のその「檀那だんな」です。だからお寺の信者のことを「檀家だんか」といいます。財物をお寺に上げるからです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
檀家だんかなかにも世話好せわずきのある坂本さかもと油屋あぶらや隱居ゐんきよさま仲人なかうどといふもものなれどすすめたてゝ表向おもてむきのものにしける、信如しんによ此人このひとはらよりうまれて男女なんによ二人ふたり同胞きやうだい
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
普通の宗教家は木魚を鳴らして伽藍がらんを守り、死人を迎えて引導を渡すをもって、僧家の本分を尽くせりと思い、はなはだしきに至りては、檀家だんかの機嫌を取りて
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「さやうですか。あれはこちらの古い檀家だんかだと承はつてゐます。昔の御商賣は何でございましたでせう。」
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
或る女——寺に虞美人草ぐびじんそうの種子をくと檀家だんかに死人が絶えないという伝説を信じている女——などは
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
だれでもよいから、ひとり、檀家だんかたいらすけ殿とののお邸へまいって、つぎのようにはなしなさい。
ある日和尚おしょうさんは檀家だんかから、たいそうおいしいあめをもらいました。和尚おしょうさんはそのあめをつぼの中にれて、そっと仏壇ぶつだんの下にかくして、ないしょでひとりでなめていました。
和尚さんと小僧 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
住職も非常に困って檀家だんか狩集かりあつめて見張みはるとなると、見ている前で、障子がめらめらと、燃える、ひゃあ、ととびついて消す間に、うつばりへ炎が絡む、ソレ、と云う内羽目板から火を吐出ふきだ
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
檀家だんかだし、中学校の同級生だから、その後も時折顔の合う機会があったのである。
合縁奇縁 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかしながら勿論もちろん私もこれまで幾らか学校のため力を尽したに違いない。学校は寺みたいなものだ、私は檀家だんかだ。檀家として大きな檀家であったに相違ない。貧乏寺の檀家に過ぎない。
……何でも元栄の話では、その寺はもともと管長の隠居寺いんきょでらなので檀家だんかというものは一人もないが、その代り寺に附属した財産があって、寺地の年貢だけで楽に暮して行けるということだ……
待網を掛けて雑魚ざこを捕りひそかに寺へ持帰もちかえって賞玩しょうがんするのだ、この事檀家だんかの告発にり師の坊も捨置すておきがたく、十分に訓誡くんかいして放逐ほうちくしようと思っていると、当人の方でもあらかじめそのあたりの消息を知り
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
その時は愚僧もいつか年四十を越し、檀家だんか中の評判も至極よろしく、近郷の百姓ども一同愚僧が事を名僧知識のやうに敬ひ尊び候やうに相なりをり申候。何事も知らぬが仏とは誠にこの事なるべく候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
伊勢の一志いちし郡などでいう島の女、信州川中島附近の越後えちごの田植女、秋田県由利ゆり郡などの荘内しょうないの早乙女などは、今では年々の檀家だんかのごときものができて、いつもまった家の田に来て植えているが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
新仏にいぼとけといっしょに檀家だんかから菩提寺ぼだいじへ納めてくるいろいろの品物には、故人が生前愛玩あいがんしていたとか、理由わけがあって自家うちには置けないとか、とにかく、あまりありがたくない因縁ものがすくなくない。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
親分、眞氣ほんきになつて搜してやつておくんなさいまし。あの黄金佛がなくなりア、本山は申すに及ばず、檀家だんか中へ申譯がないから、傘一本で寺を
毎年正月の八日には馬籠仲町にある檀家だんか姉様あねさまたちが仏参を兼ねての年玉に来る、その時寺では十人あまりへ胡桃餅くるみもちを出す、早朝から風呂ふろ
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
米俵か小豆あずきか、とにかく裕福な檀家だんかの贈りものとみえ、牛車に山と積まれてゆく俵の上には、木札が差し立ててあり
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けさほど檀家だんかのおかたが、ここにおいでと知らしてくださいましたゆえ、ころころと飛んでまいったのでござります
檀家だんかの関係で移転の費用がととのわず、さりとてところ替えを命ぜられた以上、ここで寺務を執ることもできないため、捨て寺同様になっているのであった。
ひとでなし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たのめば和尚は大膳に向ひ拙寺せつじ檀家だんかの者共天一坊樣御暇乞おいとまごひ御尊顏ごそんがんはいし奉り度由あはれ御聞屆ねがはんと申上れば是迄の知因よしみに御對面たいめん仰付らるゝとて御座の間のみす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「いえ檀家だんかといふわけではありませぬが、ながあひだ塩原しほばら附届つけとゞけをしてゐる人は梅廼屋うめのやほかありませぬ、それで団扇うちはがあるのです」「それはういふわけです」と聞くと
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
檀家だんかであった元小倉藩の士族が大方豊津とよつかえってしまったので、廃寺のようになったのであった。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
もとは檀家だんかの一人成しが早くに良人おつとを失なひて寄る辺なき身の暫時しばらくここにお針やとひ同様、口さへらさせて下さらばとて洗ひそそぎよりはじめてお菜ごしらへはもとよりの事
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「生意気なことを言うな。それはそうと与八、遊びに来い、檀家だんかから貰った牡丹餅ぼたもち饅頭まんじゅうがウンとあって本尊様と俺とではとても食いきれねえ、お前に好きなほど食わしてやる」
常念御坊じょうねんごぼうは、がなによりもすきでした。きょうも、となり村の檀家だんか法事ほうじでよばれてきて、お昼すぎからをうちつづけ、日がかげってきたので、びっくりしてこしをあげました。
のら犬 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
西明寺さいみょうじ——もとこの寺は、松平氏が旧領石州から奉搬の伝来で、土地の町村に檀家だんかがない。従って盆暮のつけ届け、早い話がおとむらい一つない。如法にょほうの貧地で、堂も庫裡も荒れ放題。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
住職は驚いて檀家だんかわかい者に来てもらっていっしょに天井裏へあがった。
義猫の塚 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
白足袋に高足駄の坊さんが、年玉を入れた萌黄もえぎの大風呂敷包をくびからつるして両手でかかえた草鞋わらじばきの寺男を連れて檀家だんかの廻礼をしたりする外は、村は餅搗もちつくでもなく、門松一本立つるでなく
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
檀家だんかに死者のあるごとに幽霊の寺参りがあるといい、深夜、本堂の戸があいたり、鐘がなったり、足音がしたりするときには、必ず檀家より死人の知らせが来るというが、幽霊には姿も形もなく
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
何も銀杏のせいと云う訳でもなかろうが、大方の檀家だんかは寺僧の懇請で、余り広くない墓地の空所くうしょせばめずに、先祖代々の墓の中に新仏しんぼとけを祭り込むからであろう。浩さんも祭り込まれた一人ひとりである。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
檀家だんかで一番金持の松本さんだった。僕も挨拶に出て坐り込んだ。
合縁奇縁 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
住職は大夕立に降り込められて、目黒の檀家だんかから帰ったのは薄暗くなる頃、——それから、途中から帰ったのが怪しいと言うなら、もう一人あるよ。
頽廃したものは興し、衰微したものは助け、各檀家だんかのものをして祖先の霊を祭る誠意をいたすべきことをさとらしめた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
忘れもしないちょうどおととしの秋でござりましたが、朝からひどい吹き降りのした晩でござんしてな、檀家だんかの用を