春秋はるあき)” の例文
この鐘きかむとて、われとせの春秋はるあきをあだにくらしき。うれたくもたのしき、今のわが身かな。いざやおもひのまゝに聽きあかむ。
清見寺の鐘声 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
大門際おほもんぎわ喧嘩けんくわかひとるもありけり、よや女子をんな勢力いきほひはぬばかり、春秋はるあきしらぬ五丁町てうまちにぎわひ、おくりの提燈かんばんいま流行はやらねど
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
春秋はるあき彼岸ひがんにはお寺よりも此人の家の方が、餅を澤山貰ふといふ事で、其代り又、何處の婚禮にも葬式にも、此人のばれて行かぬ事はなかつた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
宿を取るにも、見物するにも、一向勝手が分らないところから、東京の松内さんに戴いた紹介状を持つて、早速大阪毎日支局の春秋はるあきさんを訪ねる。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それとも渚の砂に立って、巌の上に、春秋はるあきの美しい雲を見るような、三人の婦人のきぬを見たのが夢か。海も空も澄み過ぎて、薄靄うすもやの風情もたえに余る。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
春秋はるあきには白粉おしろいを付け髪を結い、美しく着飾って、そのころ杉田屋にながくいた定五郎さだごろうという老人の背に負われて、巳之吉夫妻といっしょに花を見にゆき、秋草を見にいった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
春秋はるあき時候の変り目に降りつゞく大雨たいう度毎たびごとに、しば麻布あざぶの高台から滝のやうに落ちて来る濁水は忽ち両岸りやうがんに氾濫して、あばらの腐つた土台からやがては破れたたゝみまでをひたしてしまふ。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
一ぴきやるのにも、もらいがなくて、そんなにこまるのに、毎年まいねん春秋はるあきいくひきも子供こどもんだらどうするつもりです。やはり、しかたがないから、そのたびにてなくてはなりません。
僕たちは愛するけれど (新字新仮名) / 小川未明(著)
このはなは婬婦いんぷなりしが娘おくま容顏きりやう衆人しうじんすぐれて美麗うつくしく見るものこゝろうごかさぬものなく二八の春秋はるあきすぎて年頃に及びければ引手ひくて數多あまたの身なれども我下紐わがしたひもゆるさじと清少納言せいせうなごんをしへも今は伊達だてなる母を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いや、衣食は春秋はるあき二度ずつ、肥前ひぜんの国鹿瀬かせしょうから、少将のもとへ送って来た。鹿瀬の荘は少将のしゅうとたいら教盛のりもりの所領の地じゃ。その上おれは一年ほどたつと、この島の風土にも慣れてしまった。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ひと春秋はるあきねたしと見るはただに花きぬに縫はれぬ牡丹しら菊
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
まるで春秋はるあきの花が一時いちどきに河を流れて行くようである。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
祭も、日曜も、春秋はるあき
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ああはれ、また春秋はるあき
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
良人をつとたんの觀念くわんねんなにとしてゆめさら/\あらんともせず、たのしみは春秋はるあき園生そのふはな、ならば胡蝶こてふになりてあそびたしと、とりとめもなきことひてくらしぬ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夕旦ゆふべあしたの鐘の聲も餘所よそならぬ哀れに響く今日けふは、過ぎし春秋はるあき今更いまさら心なきに驚かれ、鳥の聲、蟲のにも心なにとなう動きて、我にもあらでなさけの外に行末もなし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
なき、その母に手を曳かれて、小さな身体からだは、春秋はるあきの蝶々蜻蛉に乗ったであろう。夢のように覚えている。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
春秋はるあき時候の変り目に降りつづく大雨のたびごとに、しばと麻布の高台から滝のように落ちて来る濁水は忽ち両岸に氾濫して、あばら家の腐った土台からやがては破れたたたみまでをひたしてしまう。
清洲のおしろで十年じゅうねん春秋はるあきをすごしまするあいだ、あけくれおくがたのおそばをはなれず、月ゆき花のおりにふれて風流のお相手をつとめまして、ひとかたならぬ御恩をこうむりましたのも
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
春秋はるあきを 老いて行くのみ
髪切虫 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ああはれ、また春秋はるあき
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
まこと言ひかはせし事だになけれども、我のみの哀れは中々に深さの程こそ知れね、つれなき人の心に猶更なほさら狂ふ心の駒を繋がむ手綱たづなもなく、此の春秋はるあきは我身ながらつらかりし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
子には襤褸ぼろを下げさせ家とては二畳一間のこんな犬小屋、世間一体から馬鹿にされて別物にされて、よしや春秋はるあき彼岸ひがんが来ればとて、隣近処に牡丹ぼたもち団子と配り歩く中を
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しめの形や、かりの翼は勿論、前の前の下宿屋あたりの春秋はるあきの空を廻り舞って、二三度、俊吉の今の住居すまいに届いたけれども、うたがい嫉妬しっとも無い、かえって、卑怯ひきょうだ、と自分をののしりながらも逢わずに過した。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
には襤褸ぼろげさせいゑとては二じよう此樣こん犬小屋いぬごや世間せけんたいから馬鹿ばかにされて別物べつものにされて、よしや春秋はるあき彼岸ひがんればとて、隣近處となりきんじよ牡丹ぼたもち團子だんごくばあるなか
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
時は治承ぢしようの春、世は平家の盛、そも天喜てんぎ康平かうへい以來九十年の春秋はるあき、都もひなも打ち靡きし源氏の白旗しらはたも、保元ほうげん平治へいぢの二度のいくさを都の名殘に、脆くも武門の哀れを東海の隅に留めしより
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
大門際おほもんぎわ喧嘩けんくわかひと出るもありけり、見よや女子おんな勢力いきほひと言はぬばかり、春秋はるあきしらぬ五丁町のにぎはひ、送りの提燈かんばんいま流行はやらねど、茶屋が廻女まわし雪駄せつたのおとに響き通へる歌舞音曲おんぎよく
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
春秋はるあきはな紅葉もみぢつゐにしてかんざし造物つくりものならねど當座たうざ交際つきあひ姿すがたこそはやさしげなれ智慧ちゑ宏大くわうだいくは此人このひとすがりてばやとこれも稚氣をさなげさりながら姿すがたれぬはひとこゝろわらひものにされなばそれもはづかしなにとせんとおもふほど兄弟きやうだいあるひとうらやましくなりてお兄樣あにいさまはおやさしいとかおまへさまうらやましとくち
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)