早業はやわざ)” の例文
それがなかなかの早業はやわざで、見ている人たちも気が付かなかったと云いますから、女も唯者ではあるまいとみんなが噂をしていましたよ
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「恐ろしい早業はやわざ、まるで鳥だ」造酒は思わず舌を巻いたが、「しかしこれであたりが付いた。ううむ、そうか! きゃつであったか」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
けもかわしも出来ぬ早業はやわざ、軍十郎はまるで名剣で斬られたごとく、真っ向を割下げられて後ろざまにすっ飛ぶ。同時に兵右衛門が
半化け又平 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おかけになっていらっしゃるくび飾りが取り換えられたということは、普通では考えられぬ、魔術のような早業はやわざだということになります。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
また粘土なしには煉瓦をつくらぬけれども、粘土さえ揃えば電光石火的の早業はやわざで煉瓦をこしらえるところは一見「直覚的」とも見られる。
ホオムズの探偵法 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「いや、遠慮なさることはいらない。何しろあの場合の、咄嗟の撮影の早業はやわざなんてものは、人間業じゃなくて、まず神業かみわざですね」
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてつづいて手と足の早業はやわざは、二階の窓わくを伝わって、五分と経たないうちに、狩屋三郎の身体は軽々と番町の往来に立っておりました。
九つの鍵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
じくじくと考えている彼の眼がきゅうに輝きだして、湯気ゆげを立てんばかりな平べったい脂手が、空を切って眼もとまらぬ手真似の早業はやわざを演ずる。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と思った時には、マスクの怪人は、まるで軽業師のように身をひるがえして、短剣の軌道きどうをよけていた。目にも止まらぬ早業はやわざだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
竹を縦に細かく仕種しぐさ、裂いた竹を拡げて糸で編む手捌てさばき、凡ては目にも止まらぬほどの早業はやわざで、手がどんな奇蹟を行うかが目前に見られます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それは米友流の極めて速かな早業はやわざを以て、一瞬の間に行われてしまったものですから、頭の上を通られた連中までが
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
帯さへ解かざる手練しゅれん早業はやわざ流行せしかば、一時禁止となりしがほどもなく再興して三囲の古き仲間に合体せし由。これは大正七、八年の頃なるべきか。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
が、今の早業はやわざで自信を倍加した彼は、身をかわしながら床の間にけ上ると、八幡大菩薩の軸を背中にして構えた。
と言ったが惣兵衞も肝を潰し、大刀だいとうの鞘を払って振り上げたが、斬込む了簡もなく、只ウーン/\と云ってるばかり、小三郎は元より早業はやわざの名人ゆえ
かさがさねの早業はやわざに、わたくしいたくち容易よういふさがりませんでしたが、ようやちつけて四辺あたり景色けしき見𢌞みまわしたときに、わたくしたびおどろかされてしまいました。
じじいが横を向いてるすきをうかがって足を引いてさかさまにころばし、あっと悲鳴をあげてる間に屋台をがらがらとひいてきた阪井の早業はやわざにはだれも感心した。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そのおとこは、まったく人間にんげんともおもわれなかった早業はやわざ名人めいじんで、また、さるのように、すばしこくうえのぼることもできれば、またかぜのように、すこしのすきまがあれば
おけらになった話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
人に知らせないようにる、この早業はやわざは、しかしながら、礼拝と、愛撫と、謙譲と、しかも自恃ほこりをかね、色を沈静にし、目を清澄にして、胸に、一種深き人格を秘したる
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
えいッ! という掛け声と一緒に、飛鳥の早業はやわざで跳ねあがるや、昔、大力サムソンが驢馬の顎骨を引き抜いた要領に端を発する模範的アッパー・カットの一撃を喰わした。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
佐分利五郎次さぶりごろうじが、飛びかかるが早いか、ガラリとその笛を打ちおとすと、とたんに、右からも、走りよった足助主水正あすけもんどのしょう早業はやわざにかけられて、あわれ、野百合のゆりのような小娘こむすめ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな早業はやわざができようとは今の今まで想像もしなかったし、しようとも思っていなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と藤岡さんは早業はやわざをやった。くるみ大のものを切り取ったのである。むろん血が出た。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「何とすごからう。奴を捩伏ねぢふせてゐる中にあし掻寄かきよせてたもとへ忍ばせたのだ——早業はやわざさね」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
學びしかば平兵衞はじめ家内の者迄重四郎を先生々々といと叮嚀ていねい待遇もてなしうやまひ居たり或時みせ若者等わかものら打寄うちより彼の先生には劔術けんじゆつ早業はやわざたつし給ふと承まはり候が我々も親方の用事ある時は金子きんす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それよりかもさきほどから弾丸のように飛出して来て敏捷の間にいくつもの早業はやわざをやる男の子の手足が生きて加奈子の眼底に残った。加奈子は五六歩過ぎてからまた振返って男の子をみた。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
早業はやわざでござった。なかなかこうは参らぬものだがよう仕遂しとげられた。」
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
彼はそれらのことを手品師のような早業はやわざでやってのけた。
眼にもとまらぬ早業はやわざでその寒暖計をかくすのだ。
喝采 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「まるで活動役者のやうな早業はやわざぢやないか。」
実に見事な早業はやわざだったそうに厶ります。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
と上田は兵隊の早業はやわざに感心していた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
そういって、机博士は、オーバーのボタンに仕掛けてある秘密撮影用の精巧な小型カメラを、服の上から軽く叩いた。博士らしい早業はやわざであった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
余りの早業はやわざに三人の者は、手を拱ねいて見ているばかり、とめもさえぎりも出来なかった。苦笑を洩らすばかりであった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
忍術まがいの早業はやわざで、消えてなくなったわけではなく、窓から身をおどらして、室外へ飛び出してしまったのです。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「まア/\待った」と声を掛ける途端に、また其のの者が逃出そうと致しますから、飛鳥ひちょうの如く彼方あなたへ駈け此方こなたに戻って一々引留める文治が手練てだれ早業はやわざ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その殿下のいられる同じ部屋の中へ、同じ軍服の偽者が現れてそういう早業はやわざができるとお前には、考えられるのかね? 人間の頭に想像もつかんことじゃないか
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
砲手がいつの間に玉をこめたのか、玉がいつの間に筒口を飛び出したのか、目にも止まらぬ早業はやわざであった。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
此方こなたも心得たりと抜き放ち、二、三ごう切結きりむすうち、以前の侍足を踏み滑べらせ路の片側なるがけかたへと落ち込む途端とたんすそを払ひし早業はやわざに、一人は脚にてもられ候や
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
白襯衣君がパッとうけて、血の点滴したたるばかりに腕へめて抱きましたが、色の道には、あの、スパルタの勇士のおもむきがありましたよ。汽車がまだとまらないうち早業はやわざでしてなあ。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、それにしても、どうして彼が、毛利軍をいて、中国から一転できたか、そんな早業はやわざができたか、勝家の常識では、ほとんど、奇蹟を聞くような気がしたのである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若い教授プロフェッサー身体からだは目にも止まらぬ早業はやわざ、両樋をじ、出張りを伝わり、六十尺の上を平地の如く歩んで、二つ三つ勇躍すると、その姿はもう屋上庭園の胸壁の中へ隠れてしまいました。
判官三郎の正体 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
正確なノックは士気を一層緊粛きんしゅくさせた、三塁から一塁までノックして外野におよびまた内野におよぶまでひとりの過失もなかった、次第に興奮こうふんしきたる技術の早業はやわざはその花やかな服装と
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
重四郎とよび今年ことし二十五歳にて美男びなんいひこと手跡しゆせきよく其上劔術早業はやわざの名を得し者なるが父重左衞門より引續ひきつゞき手跡の指南しなんをして在ける故彼の穀屋平兵衞の悴平吉も此重四郎にしたがもつぱ筆道ひつだう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
というと同時に例の早業はやわざをやった。照彦様は
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
人々はまたその早業はやわざに驚いて目を見張った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「そうよ。器用な早業はやわざで、カンガルーの股燻製ももくんせいを一ちょう上衣うわぎの下へ隠しやがった。あいつは掏摸すりか、さもなければ手品師てじなしだ」
当るを幸いに折助をみつぶし噛みつぶして廻る早業はやわざは、たしかに類を呼ぶ千疋狼のたぐいが、よき獲物ござんなれと、一挙に襲いかかったものとしか思われません。
それならばたとえ眩暈めまいだけは覚えていても、大体の意識はハッキリしていたのにどういう方法でそれだけの早業はやわざを、——頸にかけ腕に巻いているものを取り去って
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
透かさぬ早業はやわざさかさに、地には着かぬ、が、無慚むざんな老体、蹌踉よろよろとなって倒れる背を、側の向うの電信柱にはたとつける、と摺抜すりぬけに支えもあえず、ぼったら焼のなべを敷いた
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いや道中で盗まれたのじゃ。眼にも止まらぬ早業はやわざでな。あれには俺も感心したよ」
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)