断崖だんがい)” の例文
旧字:斷崖
看護員は現在おのが身の如何いかに危険なる断崖だんがいはしに臨みつつあるかを、心着かざるものの如く、無心——いなむしろ無邪気——のていにて
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
背の高い雑草にはおおかくされていましたが、のセントーが物語ったような地形ではあり、又そぎ取ったような断崖だんがいもありました。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
両側の断崖だんがいは、その高さ何百メートルともしれなかった。そのはるかはるかの切れめに、夜の空があった。星が美しくまたたいていた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
空の高さ断崖だんがいの大きさ地球の重さがある。モネの海はその地平線まで何マイルかある。本当に船を走らす事が出来るだけの空間を持っている。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
最初、車台が海に面する断崖だんがいへ、顛落てんらくしようとしたとき、青年は車から飛び降りるべく、咄嗟とっさに右の窓を開けたに違いなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
雲ゆきが悪い! 気がつかれてはたいへんだぞと、そういうことには敏感びんかん蛾次郎がじろう、ポイと立って断崖だんがいのふちから谷をのぞきこみ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
試みに四国八十八ヶ所めぐりの部を見るに岩屋山海岸寺といふ札所の図あり、その図断崖だんがいの上に伽藍がらんそびえそのかたわらは海にして船舶を多くえがけり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そこから三十メートルぐらいの断崖だんがいについている急な坂路を上って、ゆるやかな傾斜地を走っているやや広い路に出たとき
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
いよいよ大野木の乗合バスの乗り場に着いてから小浜まで三里、麦畑と切り断ったような断崖だんがいの間を、乗合バスは走っているのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
東京の桜井書店で発行になった吉井勇よしいいさむ氏の歌集『旅塵』に、佐渡の外海府での歌の中に「寂しやと海のうえより見て過ぎぬ断崖だんがいに咲く萱草かんぞうはな
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
断崖だんがいから転り落ち、その殆んどが次々に討たれる有様で、長茂も傷を負いながら、辛うじて川伝いに越後国へ逃げ帰った。
いわおの上のヨハネは、断崖だんがいの上のスフィンクスである。われわれはその言葉を解くことを得ない。それはユダヤの人であり、ヘブライの言葉である。
二十五日、二十八日、晦日みそか、大晦日、都の年の瀬は日一日と断崖だんがいに近づいて行く。三里東の東京には、二百万の人の海、さぞさま/″\の波も立とう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
船首にグングンのしかかって来る断崖だんがい絶壁の姿を間一髪の瀬戸際まで見せ付けられた連中のひたいには皆生汗なまあせにじんだ。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さらに下方、山のふもとには、断崖だんがいの間の狭い隘路あいろに、際限なき戦い、抽象的な観念や盲目的な本能などの狂信者たち。
舞台には渓流けいりゅうあり、断崖だんがいあり、宮殿きゅうでんあり、茅屋ぼうおくあり、春のさくら、秋の紅葉もみじ、それらを取り取りに生かして使える。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
斜めになった陽の光は、河岸のあちこちにそば立つ断崖だんがいのいただきの木立のあたりにためらい、岩壁の濃い鼠色ねずみいろと紫色とをいっそう深くきわだたせていた。
ここに来ると川幅はもう余ほど広く、こんな広い川を見るのは生れて初てである。また向うの断崖だんがいに沿うた僅ばかりの平地をば舟をいてのぼるのが見える。
最上川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
河川があり瀑布ばくふがあり、火山があり温泉があり、海岸線の屈曲は非常に多く、白沙青松はくしゃせいしょうのところもあれば断崖だんがい絶壁のところもあり、黒潮の北上、寒波の南下
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
人間にいていたけがれし霊が豚に入り、その豚が断崖だんがいに駆け下り、ガリラヤ湖底深く沈んで溺れ死んだという、その中に十字架の暗示が認められはしないか。
ふもとからは約五里のみちのりであるが、断崖だんがいの中腹に危うくしがみついているようなその道は、登り降りが多く、狭くて勾配こうばいが急で、馬を通すこともできなかった。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
岩とも泥とも見当けんとうのつかぬ、灰色をなすった断崖だんがいは高だかと曇天に聳えている。そのまた断崖のてっぺんは草とも木とも見当のつかぬ、白茶しらちゃけた緑を煙らせている。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
万治の頃、伊達家だてけが更に深く掘り下げて舟を通すようになったので、仙台堀とも云っている、この切堀の断崖だんがいは、東京の高台の地層を観察するのに都合がよかった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
とかくして頂上についたのであるが、急に濃い霧が吹き流れて来て、頂上のパノラマ台といふ、断崖だんがいへりに立つてみても、いつかうに眺望がきかない。何も見えない。
富嶽百景 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
渓流が流れて来て断崖だんがいの近くまで来ると、一度渦巻うずまきをまき、さて、それから瀑布ばくふとなって落下する。悟浄よ。お前は今その渦巻の一歩手前で、ためらっているのだな。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ある日も寛斎は用達ようたしのついでに、神奈川台の上まで歩いたが、なんとなく野毛山のげやまかすんで見え、沖の向こうに姿をあらわしている上総かずさ辺の断崖だんがいには遠い日があたって
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
くらくらとする断崖だんがい、感動の底にある谷間、キラキラと燃える樹木、それらは飛散ってゆく僕に青い青い流れとして映る。僕はない! 僕はない! 僕は叫びつづける。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
一丈余りの蒼黒あおぐろい岩が、真直まっすぐに池の底から突き出して、き水の折れ曲るかどに、嵯々ささと構える右側には、例の熊笹くまざさ断崖だんがいの上から水際みずぎわまで、一寸いっすん隙間すきまなく叢生そうせいしている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けわしい海岸の断崖だんがいをがたがた走る軽便鉄道や、出水でみずの跡の心淋うらさびしい水田、松原などを通る電車汽車ののろいのにじれじれしながら、手繰たぐりつけるように家へ着いたのであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「おれは植木の医者の方が上手かも知れない。蟠竜はんりょうというのはこんなのだろう。これを見ると深山の断崖だんがいから、千仞せんじんの谷に蜿蜒えんえんとしている老松おいまつを思い出すよ」とおっしゃるので
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
焼け土のあるいは赤きあるいは黒きが旧噴火口の名残なごりをかしこここに止めて断崖だんがいをなし、その荒涼たる、光景は、筆も口もかなわない、これを描くのはまず君の領分だと思う。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そのうち二頭はあばらをかみさかれているというみじめさだ。タンナリーはその後も二回でかけたが、一そうの不成功で、最後の日には、その乗馬が断崖だんがいからころがり落ちて死んだ。
これが断崖だんがいだよ。低いところで千じゃく、高いところは三千尺もある。真直まっすぐにつき立った岩壁でずっと囲まれているんで、このがけの上は、外の世界からすっかり切り離されているんだ。
車漸く進みゆくに霧晴る。夕日ゆうひ木梢こずえに残りて、またここかしこなる断崖だんがいの白き処を照せり。忽にじ一道いちどうありて、近き山の麓より立てり。幅きわめて広く、山麓さんろくの人家三つ四つが程を占めたり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
数百尺の大断崖だんがいから落ちて、湧き返る怒濤どとうの中に押し流され、それっきり死骸も上がらなかったという事件は、当時神田日本橋かけての噂になったことを、平次はまざまざと記憶していたのです。
断崖だんがいから取って投げたように言って、中村は豪然ごうぜんとして威張った。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
断崖だんがいから、まっさかさまになって、墜落したそのものすごい光景をみていたとしたら、その人は、きっときもをつぶしたにちがいない。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただそこに大きなならの木があって、断崖だんがいの空間にのぞんで屈曲くっきょくしていた。バリバリというと蛾次郎がじろうは、みきをはってその横枝よこえだへうつっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして民衆は反乱をその成り行きに放置する。暴徒らはペスト患者のごとく見捨てられる。人家は断崖だんがいとなり、戸は拒絶となり、家の正面は壁となる。
道の左には、半間ばかりの熊笹くまざさしげっていて、そのはずれからは十丈に近い断崖だんがいが、海へ急な角度を成していた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
此処ここは湯小屋のある三つ沢を、右まわりに十五町ばかり登って来た台地で、二百坪たらずある前庭のさきは、谷へきれる断崖だんがい。うしろには山の中腹が迫っている。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこはちょうど断崖だんがいの端の頂きになっていた。木立のすきまから、彼は、なんマイルにもわたって鬱蒼うっそうとした森林がつづいている低い地方をいちめんに見おろした。
ゆえに土佐とさ〔高知県〕では、これをタキユリというのだが、同国では断崖だんがいをタキと称するからである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
断崖だんがいの左右にそびえて、点滴声する処ありき。雑草高きこみちありき。松柏まつかしわのなかをく処もありき。きき知らぬ鳥うたえり。褐色なる獣ありて、おりおりくさむらに躍り入りたり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その断崖だんがいからなかば宙に乗出した危石の上につかつかと老人は駈上り、振返ふりかえって紀昌に言う。どうじゃ。この石の上で先刻の業を今一度見せてくれぬか。今更引込ひっこみもならぬ。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それはもう断崖だんがいのなかほどまで下降していた。断崖の岩膚はまっくろな陰になっているのに、天女の雲だけが、みずから光を発するかのように、乳色と桃色に輝いていた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
右手はるかに海がえ、やがて断崖だんがいの上に張りめぐらした鉄鎖てっさらしいものが眼に入ってきます。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
クリストフはその大将で、先頭に立って進み、模範を垂れ、斜面を進撃して上っていった。枝がしなやかな時には、むちになった。クリストフは馬に乗って、断崖だんがいを飛び越えた。
午後は又一君の案内で、アイヌの古城址こじょうしなるチャシコツを見る。㓐別川りくんべつがわに臨んだちょっとした要害ようがいの地、川の方は断崖だんがいになり、うしろはザッとしたものながら、塹濠ざんごうをめぐらしてある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
茶屋は断崖だんがいに迫つて建つてゐるので、深い谿間たにあひと、その谿間を越えて向うの山巒さんらんを一目に見ることが出来る。谿間は暗緑の森で埋まり、それがむくむくと盛上つてゐるやうに見える。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)