ひつさ)” の例文
大に文字禪をひつさげ、天晴一小手進上申し度候ところ、どう考へても、筆ボラは舌ボラの妙には不如しかず、儉約して葉書に相場を卸し申し候。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
此處こゝ筒袖つゝそで片手かたてゆつたりとふところに、左手ゆんで山牛蒡やまごばうひつさげて、頬被ほゝかぶりしたる六十ばかりの親仁おやぢ、ぶらりと來懸きかゝるにみちふことよろしくあり。
城の石垣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕は頭重うして立つあたはず。円月堂、僕の代りに徹宵てつせう警戒の任に当る。脇差わきざしを横たへ、木刀ぼくたうひつさげたる状、彼自身宛然ゑんぜんたる○○○○なり。
かれ身を固めず、ジュダのためせし槍をひつさげてひとりかしこをいで、これにて突きてフィレンツェの腹をやぶらむ 七三—七五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
下島は切られながら刀を拔いたが、伊織に刃向ふかと思ふと、さうでなく、白刃をひつさげた儘、身を飜して玄關へ逃げた。
ぢいさんばあさん (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ときなつ最中もなか自分じぶんはたゞ畫板ゑばんひつさげたといふばかり、なにいてにもならん、ひとりぶら/\と野末のずゑた。かつ志村しむらとも寫生しやせい野末のずゑに。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
一刀をひつさげて、寢卷のまゝでやつて來た新三郎。お國の指さす方を見て、これも思はずギヨツとしました。
今川橋いまがはばしきは夜明よあかしの蕎麥掻そばがきをそめころいきほひは千きんおもきをひつさげて大海たいかいをもおどえつべく、かぎりのひとしたいておどろくもあれば、猪武者いのしゝむしやむか
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
故郷は之れ邦家なり、多情多思の人の尤も邦家を愛するは何人か之を疑はむ。孤剣ひつさげ来りて以太利イタリーの義軍に投じ、一命を悪疫にしたるバイロン、我れ之を愛す。
富嶽の詩神を思ふ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
男女の教員が敬之進を取囲とりまいて、いろ/\言ひ慰めて居る間に、ついと丑松は風呂敷包をひつさげて出た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
千人の生命を断たんと瞋恚じんゐの刀をひつさげし央掘魔あうくつま所行ふるまひにも似たらんことを学ばせらるゝは、一婦の毒咒どくじゆに動かされて総持の才を無にせんとせし阿難陀あなんだ過失あやまちにも同じかるべき御迷ひ
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
小橋氏は鞄をひつさげた儘はたと立ち停つた。自分が訪ねてかうとする町の方角が立たなくなつたのだ。で、道通りの人の中から、精々せい/″\親切さうな、信神しんじん家らしい男を見出みだして呼びかけた。
三藏の父は竹刀をひつさげて中國九州を武者修行に𢌞つて廢藩後も道場を開いて子弟を教育したといふ武骨一片の老人で、三藏はその老後の子であつたに拘らず家庭の教育は非常に嚴格であつた。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
〔譯〕一とうひつさげて、暗夜あんやを行く。暗夜をうれふる勿れ、只だ一とうたのめ。
途中とちう大なる蝮蛇まむしの路傍に蜿蜒えん/\たるあり、之をへば忽ち叢中さうちうかくる、警察署の小使某ひとり叢中にり、生擒せいきんして右手にひつさきたる、衆其たくふくす、此に於て河岸に出でて火をき蝮のかわ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
あのやうな問題をひつさげて、あのやうな人物と話すといふことは、無論駿介にとつては最初の經驗であつた。一體に彼は人前に出て辯舌をふるふ、といふことを得手とするたちの人間ではなかつた。
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
錯提長劍草爲茵 錯つて長剣をひつさげ草を茵と為す。
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
旗野の主人あるじ血刀ちがたなひつさげ、「やをれ婦人をんなく覚めよ」とお村のあばら蹴返けかへせしが、くわつはふにやかなひけむ、うむと一声ひとこゑ呼吸いきでて、あれと驚き起返おきかへる。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やはりイブセンやストリントベルクの評論を書く生徒の一人で、専門は確か独法だつたかと思ふが、大学へはいつてからも、よく思想問題をひつさげては、先生のもとに出入した。
手巾 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一刀をひつさげて、上りかまちにヌツと突つ立つたのは、青髯あをひげの跡凄まじい中年の浪人です。
ぐチヨークをとゝの畫板ぐわばんひつさまたそとした。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
鱗綴うろことぢの大鎧にあかがねほこひつさげて、百万の大軍を叱陀しつたしたにも、劣るまじいと見えたれば、さすが隣国の精兵たちも、しばしがほどはなりを静めて、出で合うずものもおりなかつた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
平次は脚絆きやはん草鞋わらぢと言つた裝束で、手槍を擔ぎ、子分達はさすがにそれほど大袈裟には用意しませんが、それでもいゝ若い者が、百姓一見たいに、竹槍までひつさげて押し廻したのですから
自分じぶんひさしぶりで畫板ゑばん鉛筆えんぴつひつさげていへた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
二十一、程なく小笠原少斎、紺糸の具足ぐそく小薙刀こなぎなたひつさげ、お次迄御介錯ごかいしやくに参られ候。未だ抜け歯の痛み甚しく候よし、左の頬先れ上られ、武者ぶりもいささかはかなげに見うけ候。
糸女覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ガラツ八は鬼の首でもひつさげたやうな勢で飛んで來ました。
銭形平次捕物控:050 碁敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
が、この感服は私にとつて厳乎げんことして厳たる事実である。だから私は以上述べた私の経験をひつさげて、広く我東京日々新聞の読者諸君に龍村さんの芸術へ注目されん事を希望したい。
竜村平蔵氏の芸術 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)