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少女は——少女もやっと宣教師の笑い出した理由に気のついたのであろう、今は多少ねたようにわざと足などをぶらつかせている。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先例しきたりのごとく言い放ちて光代はね返りぬ。善平はさらに関せざるもののごとく、二言めには炭山がと、心はほとんど身に添わず。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
わたしゑりかぶつてみゝふさいだ! だれ無事ぶじだ、とらせてても、くまい、とねたやうに……勿論もちろんなんともつてはません。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ねて、どうすかしても、しかつてもはうとしませんので、女官じよかん面目めんぼくなさそうに宮中きゆうちゆうかへつてそのことをまをげました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
椿岳の生活の理想は俗世間に凱歌がいかを挙げて豪奢ごうしゃおご、でなければ俗世間にねて愚弄ぐろうする乎、二つの路のドッチかより外なかった。
そして、まこと、まごころ、こういうものは彼が生れや、生い立ちによるねた心からその呼名さえ耳にすることに反感を持って来た。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
妙に、ねたり、ふさいだりしていた自分が、急に、間がわるくなって、からりと、なたへ出たような幸福感で、体が熱くなった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから後お祖父さんは、「蔵へ入れるよ。」といはれると、どんなにねてゐても、すぐしやんとするやうになつたことをおぼえてゐる。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
先刻さっき何だかねて泣いてたら、それっきり寝ちまったんだよ。何ぼなんでも、もう五時だから、好い加減に起してやらなくっちゃ……」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
隠しても隠しきれないねた気質は、日記から読みとった作者の、どこか打解けにくいところのある、寂しい諦めと、我執がしゅうを見のがされない。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
大向のない、世をねた、しわがれ声で「あら推量!」をよくうたった市馬を思う。牡丹餅の市馬といわれた先々代は三遊亭だったと聞く。
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
鬼頭も、しかたがなしに、道ばたの、彼女の隣へ腰をおろしてゐる、その方へわざと背中を向けて、彼女は、ねるやうに肩をゆすぶつた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
真そこから泣き、笑い、怒り、怨み、ね、甘ったれ、しなだれかかり、おどし、すかし、あやなす事が出来るのであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ちょいとねたり、お小使いがなくてすこしばかり憂鬱ゆううつになることはあっても、こんにちかぎり僕は君とわかれる、とか
職業婦人気質 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
おれはこんな男に対して、どんな手段を取るだろう、俺がしょくの都へくのは、ねて往くのではない、苦しいから逃げて往くのだ、いずれにしても
倩娘 (新字新仮名) / 陳玄祐(著)
「パドミーニ、パドミーニはいるんじゃないの、そこに。駄目よ、黙って、ねていたって、ちゃんと分るんだから……」
一週一夜物語 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「鳥よく木をえらぶ。木に鳥を択ばんや。」などと至って気位は高いが、決して世をねたのではなく、あくまで用いられんことを求めている。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「おい島ちゃん、そんなにねんでもいいじゃないか」作が部屋の前を通りかかったとき、薄暗うすくらがりのなかにお島の姿を見つけて、言寄って来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
最初のうちは「そんなら行きたくはないわ」とねておいでだったが、午後になると、急に機嫌を直して、明さんを誘って一緒に出かけていった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私は人心の頼みがたくして人生の寒冷なることを経験したるにもかかわらず、それは私をして白眼世にねるがごとき孤独に向かわしめなかった。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
彼には順一の心理がどうもつかめないのであった。「ねてやるといいのよ。わたしなんか泣いたりして困らしてやる」
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
彼はわざとねたのであろう、きょうの華やかな宴の莚に浄衣じょうえめいた白の直衣のうしを着て、同じく白い奴袴ぬばかまをはいていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひとりこうしてわれと我が身をねて、他の者からそうでもない冷遇を受けているとひがんでいる娘のところへ、忘れずにしげしげと見舞に来たり
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なかは幾つかの縁談に首を振り、江戸へ出てくらしたいとか、生涯ひとの嫁にはならないとか、売れ残りの姉がいるから世間が狭い、などとねていた。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこで彼はかじを引張ったり、鞭でひっぱたいたりして一生懸命に馬を出そうとするけれど、ねた動物は却って膝を折りまげて、どたりと横っ倒しになった。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
こんな人間の口の惡さは、頭の良さと、世にねた自棄やけの反響で、決して附き合ひにくい人間とは思はれません。
じゃんけんをしたり、ねたり、怒ったり、泣いたり、笑ったりする声がはっきりと手にとるようにきこえた。
『そんなことつたつて仕方しかたがない』とねた調子てうし五點フアイブひました。『七點セヴンわたしひぢいたんだもの』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
それは女々めめしき病弱なねた心から出る不具者かたわものの懐疑を駆逐するであろうが、雄々しき剛健な直き心の悩む健全な懐疑とは親しげに握手するのではなかろうか。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
寡言ことばすくなにして何事も内気なる浪子を、意地わるきね者とのみ思い誤りし夫人は、姉に比してややきゃんなるいもとのおのが気質に似たるを喜び、一は姉へのあてつけに
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ここの山々の特徴は、山々の起伏の線の、へんにむなしい、なだらかさに在る。小島烏水といふ人の日本山水論にも、「山のね者は多く、此土に仙遊するが如し。」
富嶽百景 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
また橋を二つも渡つて、川沿ひの赤い軒燈の出た宿屋に入つた時、やゝねてゐた竹丸の機嫌も直つた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
どうせ私は大した友達ではないでござんしょうよとばかりにねて、とみには口もきいてくれなかった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「そればかりぢやない。鼻がまだ直り切らんのでせう。一寸見るとねて居るやうぢやが、五年も六年も拗ね通されるものぢやない。身體に故障があるからでさあ。」
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
ねたやうにちゞこまつて、円くなつてゐる姿勢が、昼間と少しも変つてゐないし、食べ物もフンシもそつくりそのまゝ並んでゐるので、又がつかりして明りを消す。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
多分一頻ひとしきり噂のあつた岩野清子女史との結婚問題を気にして、それで一寸ね出したものらしい。
さあちゃんといったらお返事をなさいな。なんの事ですねたまねをして。台所に行ってあとのすすぎ返しでもしておいで、勉強もしないでぼんやりしていると毒ですよ」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
はらはらしている伸子の注目の前で、佃は腕組みをし、ますます不活溌なねた風で答えた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
公判の劈頭に書類を能く読んでいないからとねて答弁を渋った支倉は、こゝに於てあたかも堤の切れた洪水の如く、滔々数千言、記憶が薄らいだどころか、微に入り細を穿うが
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「お峰さんか。まあ、お逢いになれば解りますが、こいつが又たなかなかのものなんです」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そしてつまらない事にねて、気持の悪い思ひをする事が、どんなに馬鹿々々しいかと云ふ事も知りながら、それでどうしても素直でない自分が忌々いまいましくて仕方がないのです。
さて怒が生じたところで、それをあらわに発動させずに、口小言を言ってねている。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「呉羽之介どの、片里どのの言葉ご用心なされ——学は古今に渡り、識百世をつらぬく底の丈夫ますらおなれど何をねてか兎角とかくおこないも乱れ勝ちな人ゆえ、この人の言うことなぞ信用はなりませぬぞ」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
菊がねだったのやら、そちがねたのやら知らぬが、別れともない、別れて行くはいやじゃ、なら御一緒にと憎い口説くぜつのあとで、手に手をとりながら参ったであろうが喃。ウフフ、あはは。
女の方が思うように自分に対して和らかになびいて来ぬのが飽き足らなくって、こっちでもねた風になって、怠儀そうにして歩いてるお宮を後にしてさっさっと兜橋かぶとばしの方に小急ぎに歩いた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それでもう今夜はあの娘も斷念あきらめたと見えて、それを話し出した時には流石さすがに泣いてゐたけれども、平常のやうに父親の惡口も言はずねもせずあの通りに元氣よくして見せて呉れるので
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
何一つ調和してるものはない。この古ぼけた世の中はすっかりゆがんでいる。僕はすべてに反対する。一つとしてまっすぐに動いてるものはない。世界はねている。ちょうど子供と同じだ。
疑は人間にありとか、月の世界にくらべては、下界はただ卑しく汚い所ではありますが、又、それなりの風情もあれば楽しみもあります。恋のやみじに惑いもすれば、いとしい人にねてもみる。
紫大納言 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
みんな呆気あつけにとられて、この小さなね者の後姿を見送るだけだつた。
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
道子さんはねたものゝ、好奇心が動いている。直ぐに開けて見て
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)