悪戯いたづら)” の例文
旧字:惡戲
事によると Invitation au Voyage の曲も、この沼の精が悪戯いたづらに、おれの耳をだましてゐたのかも知れない。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
自分はもと洛中を騒がした鬼だが、余り悪戯いたづらが過ぎるとあつて貴方あなたの御先祖安倍晴明殿のために、この橋の下にふうぜられてしまつた。
これは審査員に対する遺恨と云ふ様な事で無く、その画がよくよく気にらなかつた為だと云ふ。悪戯いたづらぬしつかまらない。(四月十四日)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
然し与次郎が何のために、悪戯いたづらに等しい慝名とくめいを用ひて、彼の所謂いわゆる大論文をひそかに公けにしつつあるか、其所そこが三四郎にはわからなかつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
悪戯いたづらつぽさとはにかみとのまざり合つてゐる様子だの、そのすべてが、何かしら微妙な、手で触れにくい、不思議な物として見えたのだつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
だが、再度の失敗にもめげず、狡獪な悪魔はその悪戯いたづらをやめなかつた。やがて、不意に駈けよりざま、彼は両手で月を掴んだ。
咲子は押入の前にある電話機に駈けよつて、畳につくひながら、悪戯いたづらさうな表情で受話機を耳のところへ持つて行つた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ありの穴に小便をしたり、蛇を殺してその口中こうちゆうかへるを無理におし込んだり、さういふ悪戯いたづらをしながら、時間が迫つてくると皆学校まで駈出して行つた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
やがては墨染すみぞめにかへぬべきそでの色、発心ほつしんは腹からか、坊は親ゆづりの勉強ものあり、性来せいらいをとなしきを友達いぶせく思ひて、さまざまの悪戯いたづらをしかけ
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
籾山のうろたへる顔がちよつと見たいのだ。復讐なんて、けちな真似まねをするつもりはない。悪戯いたづらのしをさめだ。
クロニック・モノロゲ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ゆき子は、悪戯いたづらをした子供のやうな無邪気さで、六十万円の、教会の金を盗んで家を飛び出してきた話をした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
あんまり穏和おとなしすぎるので、もうちつと悪戯いたづらをしてくれればよいと思つてゐる位の栄蔵が、そんな大それたことを仕出来しでかしたといふのは、わけが解らなかつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
が、あゝそれが何と云ふ悪魔の悪戯いたづらだらう! 母達は、だん/\美奈子のゐる方へ歩み寄つて来るのであつた。彼女の心は当惑のために張り裂けるやうだつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
『それあ解つてますよ。——老人としより達があんな子供らしい悪戯いたづらをするなんて、可笑いぢやありませんか?』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
此文書は何者の手に出でたか、同志のあづかり知らぬものであつたが、其文章を推するに、例の落首などの如き悪戯いたづらではなく、全く同志を庇護ひごしようとしたものと見えた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
どこからやつてきたのか、アフリカからでも海を越えてきたのか、悪魔が一つ現れて、夜、海岸のさびしいところなんかを歩いてる人たちに、いろんな悪戯いたづらをしました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
父は煙草を喫はないので、家には煙管きせるも煙草もなかつたが、或る時弥市といふ老水夫が煙草入を忘れて行つたので、私は悪戯いたづら半分に二三服喫つて見たのがもとであつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
悪戯いたづらいた機嫌きげんそこねたかたち、あまり子供こどもがはしやぎぎると、わか母様おふくろにはてあるぢや
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
事柄が事柄だ。根も葉も無い蔭口が新聞へ麗々しく出たのでそれを湯村の悪戯いたづらと察して怒つただけだ。日を腐らした上、此方こちらから謝つて行けば何の事なく収るに相違ない。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
悪戯いたづらなくせに、大飯食おほめしぐらひばかり揃つて居て——はゝゝゝゝ、まあ君だから斯様こんなことまでも御話するんだが、まさか親の身として、其様そんなに食ふな、三杯位にしてひかへて置け
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
程無く内儀は環を捜得さがしえ帰来かへりきにけるが、悪戯いたづらとも知らで耳掻みみかきの如く引展ひきのばされたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
本当に悪い悪戯いたづらをしやがるな。十字架をおつつといて猫の死骸をほじくらせやがる。それつてえも役人共が死んぢまつた者の棺桶をほじくり返へして迄検べるやうなしつつこいマネを
駱駝に跨つてゐる、悪戯いたづらざかりの女狐めぎつねの子。みよ。カメレオンは強烈なチアノーゼに罹つた。ラレグル猿は跳ねてゐる。⦅補欠の跳躍選手!⦆だがこれらは、およそ時世粧であることが判る。
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
わたくしは白井と木場とがまた悪戯いたづらを初めたなと思ふと共に、このまゝ放棄うつちやつて置いたら、今にどんなだいそれた事をしでかすかも知れないと、いよ/\恐怖の念を深くするに至つたのである。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
和蘭陀オランダ風車かざぐるま小屋の沢山並んだ野を描いた褐色の勝つた風景画は誰が悪戯いたづらをしたのか下の四分通りが引きちぎられてました。私の父はまた色硝子いろがらすをいろいろ交ぜた障子を造つてえんへはめました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
猪のおツ母さんは、しきりに坊やをめてゐましたが、いつの間にか、うと/\と眠つてしまひました。悪戯いたづらの坊やは、おツ母さんの眠つてゐる間に、そうつと、山を下の方へ降りて行きました。
熊と猪 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
「ふん、面白い。このチビごけが、どんな悪戯いたづらをするかしらんて?」
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ふと異しい物音がした、キキと何かを引つ掻くやうな、……と思ふとまた性急に、然し怖々おづおづと、否寧ろ時折は粗雑がさつ四肢よつあしで引つ掻きちらす悪戯いたづらな爪の響——それが絶間もなくキキとキキと続いてくる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
悪戯いたづらのやうに、先生は私に片眼をつぶつて見せました。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
東京の悪戯いたづら斎藤緑雨りよくうは右に森先生の西洋の学を借り、左に幸田先生の和漢の学を借りたものの、つひに批評家の域にはいつてゐない。
若い門弟は一寸令嬢の一人に悪戯いたづらがして見たくなつた。実をいふと、その門弟は大分だいぶん前から二人のうちの姉さんを想つてゐたのだ。
保雄は相変らず自分に対する新聞雑誌記者の無責任な悪戯いたづらまないのだなと思つた。茶の間の前桐の箪笥の前に立つた山田は
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
彼は房一の悪戯いたづらの共謀者でもあれば手下でもあつた。彼の単純な胸の中には、いまだにその頃の房一に対する尊敬の念が残つてゐるのである。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
悪戯いたづら好加減いゝかげんすかな」と云ひながら立ちがつて、縁側へ据付すゑつけの、の安楽椅子いすに腰を掛けた。夫れりぽかんと何か考へ込んでゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
モ少し何とか優しい事を云つてからでなくちやならん筈だ。余り性急せつかちにやつたから悪い。それに今夜は俺が酔つて居た。酔つた上の悪戯いたづらと許り思つたのかも知れぬ。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
木の葉に露がたまつてゐるのだと気がついても、彼女はもうそれを鬼頭の悪戯いたづらにしてしまふことができないのである。いきなり、身をかはして、奥へ逃げ込まうとした。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
わけ旦那だんな祖父殿おんぢいどんことわしらんで、なにはつしやりますやうな悪戯いたづらたかもわからねえ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
くれないどころか、この子供は悪戯いたづらをするのだと感違ひして、棒でもつて追つぱらふだらう。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
どうして其様そん悪戯いたづらするんだい。女の児は女の児らしくするもんだぞ。真個ほんとに、どいつもこいつも碌なものはありやあしねえ。自分の子ながら愛想あいそが尽きた。見ろ、まあ、進を。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
切られぬ縁の血筋といへば有るほどの悪戯いたづらを尽して瓦解ぐわかいの暁に落こむはこのふち、知らぬと言ひても世間のゆるさねば、家の名をしく我が顔はづかしきに惜しき倉庫くらをも開くぞかし
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼女は幸福さうだつたが、違つた環境のさびしさが段々しみて来た。悪戯いたづらは出来ないし、がらにあふ女達も近所にはなかつた。行儀や言葉づかひを直されるのも、気窮きづまりで仕方がなかつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
わたしが、たゞホンの悪戯いたづらのために、ホンの意地の為めに、宝石にも換へがたい貴女の純な感情を蹂み躙つてゐようとは、思ひ出すだけでも、わたしの心は張り裂けるやうです。美奈さん! 許して下さい。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
職人は暫くそんな悪戯いたづらをしてゐたが、最後にたもとを探つて、マツチを取り出したと思ふと、ぱつと火をつて虱の背に当てがつた。
そのつれ ああ云ふ莫迦者ばかものは女と見ると、悪戯いたづらをせぬとも限りません。幸ひ近くならぬ内に、こちらの路へ切れてしまひませう。
往生絵巻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、微笑した、悪戯いたづらつ子のやうな目つきで、ぢつと房一の顔をのぞきこんだ。それは驚くほど巧みな打明けだつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
与次郎は愛すべき悪戯いたづらものである。向後も此愛すべき悪戯いたづらものゝために、自分の運命をにぎられてゐさうに思ふ。風がしきりに吹く。慥かに与次郎以上の風である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
といつて笑顔ゑがほをなすつたが、これはわたし悪戯いたづらをして、母様おつかさんのおつしやることかないとき、ちつともしからないで、こはかほしないで、莞爾につこりわらつておせの、それとかはらなかつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何日であつたか、二年生の女生徒共が、何か授業中に悪戯いたづらをしたといつて、先生は藤野さんを例に引いて誡められた事もあつた様だ。上級の生徒は、少しそれに不服であつた。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と、いくぶん悪戯いたづらな眼付で、彼女は鬼頭の顔をみつめながら、こんなことを云ひだした。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
猫を飼つて鼠を捕らせるよりか、自然に任せて養つてやるのが慈悲だ。なあに、食物くひものさへ宛行あてがつてれば、其様そんな悪戯いたづらする動物ぢや無い。吾寺うちの鼠は温順おとなしいから御覧なさいツて。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)