)” の例文
旧字:
大原は何かと深切にしてくれまして、昨晩自宅へ来ぬかと言いましたので、大原に近づくにはよい機会だと思っていて行きました。
謎の咬傷 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「将軍は、世に並ぶ者なき英雄と聞いていましたのに、どうしてあんな老人をそんなに、怖れて、董卓の下風かふういているのですか」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
送って出た女房や子供が連れ立ってこの聚落しゅうらくの出外れまでいて来ていた。いずれにせよ彼らにとってはこれも門出にちがいなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
崑が途を歩いていると、使いの者が来て神の言いつけであると言って、しきりに伴れて往こうとするので、しかたなしにいて往った。
青蛙神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そりゃ、親方悪い了簡りょうけんだろうぜ。一体俺達が、妻子眷族けんぞくを見捨てて、此処ここまでお前さんに、いて来たのは、何の為だと思うのだ。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「この低い柵の開きを開けると、眠っていても直ぐ起きて来ますからそいつへ干菓子ひがしをくれてやるんです。喜んでいて来ます」
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
えんを上って行く後から、いて行ったのは娘の民弥で、二人家の内へかくれた時、老桜の陰からスルスルと忍び出た一人の人物があった。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
後ろから二三台の空の人力車が、この二人を目あてにいて来てゐたのだが、この時、それが、一度に前へ廻つて梶棒をおろした。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「どこまでもいて来ようって云うんなら——、そして、いつまでも、この僕を金しばりにして苦しめようって云うんなら——」
魔性の女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
康子が清三の顔をぬすむようにして云った、清三は黙って座を立った、清三が外套がいとうを着て食堂を出ると、康子も一緒にいて来た。
須磨寺附近 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……ええかね君……温柔おとなしくいて来たまえ。悪くははからわんから。ええかね。君はあの女優が殺された空屋の近くに住んでいるだろう。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……一度は金沢のやぶの内と言う処——城の大手前とむかい合った、土塀の裏を、かぎ手形てなり。名の通りで、竹藪の中を石垣にいて曲る小路こうじ
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手品師はそこらの道具を片附けると、もう一度女たちの方を見て、くすんと笑ひ乍ら米国流に尻をふつていて行かうとした。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
変だとは思ッたが、ぶら/″\電車の路にいて進むと、いよいよ混雑を極めてたが、突然後方うしろから、僕の背をつゝく者が有ッた。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
妙なことには二人の人は二人ともいいところがあって、別々に考えることは出来ても、一人にき一人を悲しめるということができなかった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
『鬼おそれ』もあるし、『観音様かんのんさまの手』もあるし、夜になるとお父つあんにいて西瓜畑へ番に行くんだ。お前も行こうや。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
驚きの目をみはって、父親の立寄って行くところへは、どんなつまらないものでも、小野田も嬉しそうにいて行って見せたり、説明したりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そのうちにしつこくいて来た駕籠かきは、いつの間にかいなくなっていたが、それに代って、清の足つきを見ていた婆さんがまだついて来て
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
しの「それに就いて、勇助どんはわれと一緒に若旦那へいて出たが、勇助どんはけえらねえが、なにか矢張やっぱり汝がと一緒か」
『あゝ丈夫だよ。爺さんがもう時世にいて行けなくなる頃には、息子がちやんと入れ代りに新手あらてをつくつて置いてくれる。うまく出来たものさ』
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
香央も従来もとよりねがふちなみなれば深く疑はず、妻のことばにきて、婚儀ことぶきととのひ、両家の親族氏族うからやから四九鶴の千とせ、亀の万代よろづよをうたひことぶきけり。
そのものに脅えたような燃える眼は、奇異な表情をたたえていて、前になり後になり迷いながいてくるのであった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
平次は死体の背から刃物を抜いて見せると、五六人いて来た人々は、互に顔を見合せて口をきく者もありません。
貧しい生活の中に、いよいよ残して行かれるとなると、さすがに梅三爺は、一緒にいて行きたいような気がした。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
栄蔵はその人のおこなひに感動させられたので、もしも今眼の前にその人がゐるなら、その人にいて行きたいと思つた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
かの女はほとんどびしょれに近くなりながら、急に逸作の方を振り向くと、いつもの通り少しも動ぜぬ足どりで、雨のなかを自分のあとからいて来る。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
が、漸々だんだん病勢が猖獗さかんになるにれて、渠自身も余り丈夫な体ではなし、流石に不安を感ぜぬ訳に行かなくなつた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
光代は妹が自分のすぐうしろに、おとなしくいて来るのに少し案外な気がして、おもはず眼眸をかへした。
水と砂 (新字旧仮名) / 神西清(著)
ところが面白いことには、その七、八軒目から、もう老人の後には、用のない弥次馬やじうまがうんといて来て、それらが老人が射的屋へ入るたびに、コソコソと
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
「おじいさんにいてみるわ。わたしうちはあすこなのよ。」と、少女しょうじょは、さきになって、小道こみちはしっていきました。薬売くすりうりの少年しょうねんは、すこしおくれていていくと
薬売りの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
説教の坊さんの声が、にはかにおろおろして変りました。穂吉のお母さんのふくろふはまるできぬを裂くやうに泣き出し、一座の女の梟は、たちまちそれにいて泣きました。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
私は何の思慮もなく、引き込まれるやうな気持で、彼女にいて行つた。四五町も行つたかと思ふ所に彼女の家があつた。母親らしい人と十四五の妹とが家に居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「ありがとう、行って見ましょう」こう感謝して、私はふらふらとおかみさんの後にいて行った。
法王の所にも行かれて侍従医か博士かどっちか我々はよく知らんけれども、世間の評判では侍従医になったという。一体私はあの人にずっといて居った下僕しもべじゃない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これから集金に廻るがいて来んか、と彦太郎がいうと、急に顔をしかめて、どうも昨夜から腹が痛いですから、と云い、返事も待たず、馬鹿にしたような薄笑いを浮かべて
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
昼から、孟宗の荷を三島へ出すから、お前がいて行って、いつもの丸久へ売り渡し、その代金と、それからこの三百円を一緒に、三島の銀行へ預けて来ておくれ。良いかい?
忠僕 (新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
うるさがりもしないでいてくるままにさせたのはその証拠だとかんがえていたのである。途方に暮れて、その顔をぼんやり見あげていると、山下氏がいかめしい声で、いった。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
トお勢は文三の跡にいて二階へ上る。文三が机上に載せた新聞を取ッてお勢に渡すと
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼は雪のなかを蹌踉よろめきながら進み行く人のように、その荷車の後ろへいて行った。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
「私を愛する者は私にいてお出!」そしてその女王は見栄をきつて巣箱を飛び出して決して再び其処にはいつて来ない。その女王の味方のものは女王と一緒に飛んで行つてしまふ。
『玉藻』七月号「虚子俳話」——真ということ——拝読いたしました。真を追及すれば美というものがこれにいて来るということを否定された先生の論に眼をみはったものであります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
八人の警吏が各々めいめい弓張ゆみはりを照らしつつ中背ちゅうぜいの浴衣掛けの尻端折しりはしおりの男と、浴衣に引掛ひっかけ帯の女の前後左右を囲んで行く跡から四、五十人の自警団が各々提灯ちょうちんを持ってゾロゾロいて行った。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「俺がこうして、樹の枝を一つ一つ曲り角で、ヘシ折って行くからいて来い」
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
薬屋の司会で、小学校長の説教、理髪床りはつどこの主人の聖書朗読に次いで、祈祷もあったし、感話もあった。石田は泣いて故人との友情を語り、僕もまた東京からいて来た仔細を言葉少く述べた。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
又ミコちゃんの行く所へは、どんな所でも家来のようにいて行きます。
可愛いポール (新字新仮名) / 北条民雄(著)
男の案内にいて上った問題の家と云うのは、電車街路に面した古本屋と果物屋、——多分斯うだったと思いますが、——の間の狭い路次を這入り、其の突き当りの二階家だったのであります。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
運命的に吸われるように、その青年は、私のあとへいて来た。私は、ひとの心理については多少、自信があったのである。ひとがぼっとしているときには、ただ圧倒的に命令するに限るのである。
座興に非ず (新字新仮名) / 太宰治(著)
グワッ、グワッ、さあみんなわたしいておで。これからえら方々かたがたのお仲間なかまりをさせなくちゃ。だからお百姓ひゃくしょうさんの裏庭にわ方々かたがた紹介しょうかいするからね。でもよくをつけてわたしそばはなれちゃいけないよ。
「一きれ頬張らせて呉れたらなあ、俺は羅馬ローマまでもいてくよ。」
梅原と僕とはドリヷル君のあといて楽屋へはひつて行つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)