いや)” の例文
旧字:
エジプト文明の栄華の煙りが歌の如くに美しくいやがうへにも栄え渡つた時代、クフ(KHUFU)と称ふ王様の御代に帰つて、——。
青白き公園 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
この類似は、彼女の衣服の飾りつけと、その色合いの選択とによって、ベアトリーチェがいやが上にも空想的気分を高めたからであった。
いやが上にも、価値あらしめんと、わざわざ信玄の怒りをいどんでおる者共だ。斬っては、彼等の思うつぼに乗るというものである
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時男の声音こわねは全く聞えずして、唯ひとり女のほしいままに泣音なくねもらすのみなる。寤めたる貫一はいやが上に寤めて、自らゆゑを知らざる胸をとどろかせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これが更に永く続くとすれば、列国講を収めて捲土重来けんどちょうらい、周囲の高度の文明の圧迫はいやうえに力を増して来るであろう。
と暗に武家をさえののしって、自家の気を吐き、まだ雛雞ひなどりである右膳を激動せしめた。右膳は真赤な顔をいやが上に赤くした。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
奥の道は、いよいよ深きにつけて、空はいやが上に曇った。けれども、こころざ平泉ひらいずみに着いた時は、幸いに雨はなかった。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
所謂る和尚さまなるものの上には、いやうえに痛棒を加えておいてよいが、禅堂の組織と精神の上には何とかして行末絶えざる栄光あれと祈るのである。
僧堂教育論 (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
その表現はそのチョッピリとした鼻の背景として、そうした気分をいやが上にも引っ立てているかのように見えます。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その騒しさが少年の心をいやが上にも刺戟した。まだ社会の裏面を渾沌こんとんとして動きつつあった思想が、時としては激情の形でほとばしようとすることがある。
勿論白がいや白くなれば、鼠色ねずみいろ純黒まっくろいきおいなる様なもので、故先生があまりに物的ぶってき自我じがを捨てようとせられた為
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
青銅の鶴が噴水の水とともに優雅な曲奏ふしで歌を唄うというのは何にしても珍しい出来事に相違ないから、「唄う鶴の噴水」に対する市民の人気はいやが上にも昂まり
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
急立せきたつ胸を押鎮おししずめ、急ぎ宅へ帰って宅の者を見届につかわしましたる所、以前にいや増す友之助の大難、最早棄置すておき難しと心得、早速蟠龍軒の屋敷へ駈付け、只管ひたすら詫入り
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかもその氷柱の美女の艶やかさが、私にとっては一層蠱惑こわくとなり、いやが上にも情慾を掻き募らせて、いかに私が狂おしきばかりの恋情に身をただらせていたことか!
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「永い間の非道ななされ方のむくいとは思いませんか。年々の不作も構わず、無法な御用金を仰せ付けた上、いやが上の徴税とりたてに、知行所の百姓は食うや食わずに暮しております」
それが土地の気受けにかない、神戸における楠公様のしばいである上に、川上の事件は当時の新聞が詳細に記述したので、人気はいやがうえにと添い、入院費用はあまるほど得られた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
更に夏なれば虫屋、風鈴屋、簾屋、茣蓙屋、氷屋、甘酒やなど、路の両側に櫛比して店を拡げ、区劃を限って車止めの立札のてられる頃より、人出は夜と共にいや増しに増して
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
あゝ、我等をしてなほ強く此の聖なる団結を増さしむる神への愛をいやまし玉へ。あーめん
しょうに対してさえ、毎月若干じゃっかんの手当てを送るに至りけるが、夫婦相思そうしの情は日一日にいや増して、彼がしばしば出京することのあればにや、次男侠太きょうた誕生たんじょう間もなく、親族の者より
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
慧鶴は漸くあわただしい心のおもむくままに驀地まっしぐらに故郷へ帰った。秋の十月に諸国に地震があり、故郷の駿河も相当ひどかったということは彼の帰心をいやが上にもそそったのであった。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
住職はこんなに評判が悪いとも知らず、長い御祈祷をいやが上にも長くしてから
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
感じ早い氏の頭に驚くべき速力を以て僅少の時間内にいやうへ畳み込んだ日本の百千の印象が今其の一端をつまんで引越して見ると、ぞろ/\と釣し柿のやうにつながつて際限なくめくれて来るから
露都雑記 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
なやましけ人妻ひとづまかもよぐ船の忘れは為無せないやひ増すに (同・三五五七)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
私の番になるとばア様は二三の仲間を誘ひ、意味ありげに陰険な視線と薄笑ひとを浴びせ乍ら、私の前を行きつ戻りつした。ひて心をむなしうしようとすれば、いやが上に私の顔容はひずみ乱れた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
その陰気な顔つきがいやがうえにも部屋の印象を暗くするのであった。
その心づくしが却って仇となって、いやが上にも父上のお心を狂わせて、罪に罪を重ねさせまするは、なんぼう忍ばれぬ儀でござりまする。先日わたくしに向かって思い切ったと仰せられたは偽りか。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うちらし浅間はわかず雨雲のいやしき垂るるすぐろ落葉松からまつ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それらのものをいやが上に主張しようとするのである。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
村の中は不安の雲がいやが上に捲き起ります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いやうえにも人気にんきあおったのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いや栄主義の勝利なのか
春と修羅 第三集 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
いや彼方をちに 見ゆる家群いへむら
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
それはいやが上に黒い。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
人生に対する観察はいよいよ手馴らされ、皮肉になり、それと共に彼の好奇心はいやが上にも昂進して行った。
二人ふたりは、くがごと他界たかいであるのをしんずるとともに、双六すごろくかけいやうへにも、意味いみふかいものにつたことよろこんだ……勿論もちろんたに分入わけいるにいて躊躇ちうちよたり
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一方に、東京市民の淫蕩気分はいやが上に甚だしくなって来る。どこかにセリ出されねば納まりが付かぬ。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
そういうわがことよりもいやまして、このお通の可憐いじらしく、そして不愍ふびんでならないと思われるのは、男でさえ、片荷には重すぎる悩みを、女の身で、生活にちつつ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見上ぐれば、蝦夷松椴松みねみねへといやが上に立ち重なって、日の目もれぬ。此辺はもうせき牧場ぼくじょうの西端になっていて、りんは直ちに針葉樹の大官林につゞいて居るそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それをいやが上にもアコギな掘出し気で、三円五十銭で乾山の皿を買はうなんぞといふ図〻しい料簡を腹の底に持つて居たとて、何の、乾也だつて手に入る訳は有りはしない。
骨董 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そして、たゞボーフラのやうに小さい凧が空の一点からしきりにまねいては嘲笑ひ、私の悲惨な憧憬をいやが上にもたかぶらせながら、絶え間なく白日の夢に髣髴としてゐるのであつた。
鱗雲 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
吾々は基督が十字架につかれた事をいやが上にも生かさなくてはならない。
白きひだけぶかき雲をいやに雲はきあがりまかがやくへり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「いや、いやが上にもさ」
田園情調あり (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
のみならずその合唱隊や囃子方の揃った服装や、気合い揃った動きは、気分的に厳粛な背景を作って、演舞者の所作があらわす気分を、いやが上にも引っ立てて行く。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それをいやが上にもアコギな掘出しで、三円五十銭で乾山けんざんの皿を買おうなんぞという図〻ずうずうしい料簡を腹の底に持っていたとて、何の、乾也けんやだって手に入る訳はありはしない。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
だから、もしその弱い者たちの口から、健気けなげなひと言でも聞けば、男子たるものは、それこそそれを無限の愛と受けて、同時に、顧みなき自己の雄魂を、いやが上にも強め得るのであった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紫の幕、くれないの旗、空の色の青く晴れたる、草木の色の緑なる、ただうつくしきもののいやが上に重なり合ひ、打混うちこんじて、たとへばおおいなる幻燈うつしえ花輪車かりんしゃの輪を造りて、はげしく舞出で、舞込むが見え候のみ。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この王様ですらテテツクスの伝説をいやが上にも尊敬して、夕べの礼拝堂の神体を黄金の蝉をもつて象り、星占の塔に昇る前の一刻を、この像の脚下にひれ伏して彼女の御機嫌を窺つたと云はれます。
歌へる日まで (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
黄櫨染くわうろせん大御衣おほんぞあかく照り立たしいやさやさやに若き大君
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼等はその御自慢の性格や趣味をいやが上にも向上さして、あらん限りののぼせ方をした。その結果、その云うことやすることがみんなうわずって、真実味が欠けて来た。