幻影げんえい)” の例文
しかし、そのうったえに答えてくれるものもなければ、クロの幻影げんえいさえも見えてこない。かれはまたぼんやりと加茂の流れをみつめていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「静御前」と云う一人の上﨟じょうろう幻影げんえいの中に、「祖先」に対し、「主君」に対し、「いにしえ」に対する崇敬すうけい思慕しぼの情とを寄せているのである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ものがた良人おっとほうでも、うわべはしきりにこらこらえてりながら、頭脳あたま内部なか矢張やはりありしむかし幻影げんえいちているのがよくわかるのでした。
といいはじめる幻影げんえいを、三ども四ども、はっきり見たのだった。耳がじいんとなって、両手にあせをにぎっていた。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
そのはものぐるはしいまで、あはたゞしく外套ぐわいたういだ。トタンに、衣絵きぬゑさんのしろ幻影げんえいつゝむでかくさうとしたのである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
貴方様は京浜国道で、自動車を電柱に衝突なさいまして、御頓死ごとんし遊ばしましたのですぞ。貴方様は幽界ゆうかいにお入りになって、唯今ただいまから幻影げんえいを御覧になっています。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こういうと、おつは、がっかりとして、自分じぶんからだすなうえげてきだしました。かれは、つかれたあたまに、いろいろの幻影げんえいました。夜中やちゅう、うなされつづけました。
幽霊船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
鳥海ちようかいまた阿蘇あそ噴火ふんか大蛇おろちしば/\あらはれるのも、迷信めいしんからおこつた幻影げんえいほかならないのである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
……幻影げんえいとか幻聴げんちょうとか云う奴さ、……小野! 僕はもう全く疑う余地はないと思うんだ! 石ノ上ノ文麻呂は時々このあやしげな幻覚に悩まされているんだぜ! 昨日も昨日で
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
かれ作品さくひんかれ盛名せいめいかれ手紙てがみ乃至ないし写真しやしんのやうなものから想像さうざうされた年少作家ねんせうさくか大久保おほくぼが、んなにうつくしい幻影げんえい憧憬心あこがれごころおほ彼女かのぢよ情熱じやうねつそゝつたかは、竹村たけむらにも大凡おほよ想像さうざうができるのであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ゆめ同樣どうやうあたひとぼしい幻影げんえいぎなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
何か奇怪な幻影げんえいのようなものが頭の隅にこびりついていて、それが少しずつ髣髴ほうふつとよみがえって来、朝の光が次第に明るさを増すのにつれて
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
吹雪ふぶきの空を見あげて、くろい大鷲おおわし幻影げんえいをえがいたのは、法師野ほうしのいらい、その行方ゆくえをたずね歩いている鞍馬くらま竹童ちくどうである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アクチニオ四十五世も、ロザレや霊魂第十号の幻影げんえいも、同時にかき消すように消え失せた。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さく出来栄できばえ予想よさうして、はなかほりひらめくひかりごと眼前がんぜんあらはれた彫像てうざう幻影げんえいは、悪魔あくまに、おびうばはうとして、らず、きぬかうとして、ず、いましめられてもなやまず、むちうつてもいたまず
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『そんな時代じだいもあったかナ……』とおとお現世げんせ出来事できごとなどは、ただ一ぺん幻影げんえいしてしまいます。現世げんせはなし大概たいがいこれでよろしいでしょう。はやくこちらの世界せかい物語ものがたりうつりたいとおもいますが……。
この物凄い光景を見た瞬間、帆村の頭脳あたまの中に電光のようにひらめいた幻影げんえいがあった。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
されば佐助は当夜枕元へ駈け付けた瞬間しゅんかん焼けただれた顔をひと眼見たことは見たけれども正視するにえずしてとっさに面をそむけたので燈明の灯のゆらめく蔭に何か人間離れのしたあやしい幻影げんえい
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おもふばかりで、何故なぜ次第しだい民也たみやにも説明せつめい出來できぬとふ。——にしろ、のがれられないあひだえた。孰方どつち乳母うばで、乳※妹ちきやうだいそれともあによめ弟嫁おとよめか、敵同士かたきどうしか、いづれ二重ふたへ幻影げんえいである。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「おおにくむべき幻影げんえいよ。わが前より消えてなくなれ。消えてなくなれ!」
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
幻影げんえい静止仏せいしぶつ
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)