)” の例文
そうした場合には、往来へ塀越へいごしに差し出たの枝から、黄色に染まったさい葉が、風もないのに、はらはらと散る景色けしきをよく見た。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だんだん減っていた私の所持品もちものといってはさい荷車一つにも足らなかった。小倉は暇にまかせて近いところを二度に運んでいった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
床に盆を置いて貰って、その上へ小さな机子ウーズ(腰かけ)を置き、そこへ腰かけて、ッちゃい、可愛らしい手で、ツメこんでいた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
「大きなお世話だ。自分こそあの頃は、よもぎの寮のお甲っていうおかみさんに、いつも叱られて、っちゃくなっていたくせに」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今朝は日曜なれば家にれど、心は楽しからず。エリスはとこすほどにはあらねど、さき鉄炉てつろほとり椅子いすさし寄せて言葉すくなし。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「いえ、もう、お恥しいほどつぽけな工場をやつとります。まあおかげ様で瓦斯ガスエンヂンだけは評判を取つとりますやうなわけで。」
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
仕打は蟷螂かまきりのやうな顔のつぽけな俳優やくしやだなと思つた。俳優やくしやはまた蟋蟀こほろぎのやうな色の黒い仕打だなと思つた。仕打はとうと切り出した。
えりのところに涼しげな白いレイスのついた愛らしい服装が、彼女の体をいくらかいさく見せていたが、やつれも顔に見えていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そのいっこいひとは、几帳面きちょうめんで几帳面で、譜をとるのに、これっぽっちの間違いもない。ありゃどうしたことじゃろうかね。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
さく、豆のようで、まだその顔すら見えるには暇があったが私の目にはありありと、顔色の土黒い、眼のさかしい、まぶたの赤い、口の大きな唇の厚い
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
翻りてくれないのリボンかけたる垂髪さげがみの——十五ばかりの少女おとめ入り来たり、中将が大の手にさき読本をささげ読めるさまのおかしきを、ほほと笑いつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
乗客と云うのはやっぱり私一人、次のっぽけな国境の停車場で、税関の検査があったが、窓からのぞいたばかりで、極めて簡単に済んでしまった。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
つまり、ソバカスと思ったいさな斑点は、被害者が心臓を突き刺されて、俯向うつむきになったままバッタリとノビてしまったトタンに、めり込んだ鉄屑なんだ。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「まあ、バラ色のっちゃな舌」と、ジナイーダは、頭が床に届かんばかりに身をかがめ、横合いから猫の鼻の下をのぞきこみながら、そう指摘してきした。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
新太郎ちやんは、ベソをかきながら立つてゐるだけで、謝罪あやまりもしなかつた。これは謝罪つたりしていいやうな、つぽけな出来事ではないのである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
そしてお前は急ぎはじめる、急ぐうちに僕のみ一人侘しく遠い岩壁にさく残して、お前は白い石畳をだんだん早い速力で、ただ一条ひとすじに駈けぬけて行く。
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「もしさうなら、決してあんな話を気にかけるんぢやないよ。——人間はツマらないものだなんて云ふ奴は馬鹿だよ。——人間はつぽけでもいゝんだよ」
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
まるで子供みたようにっぽけな奴であったというが、考えて見ると、こいつがやっぱり、あの岩の中からわしを傷けた奴と同じ怪物に違いないのですじゃ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
配下はいか與力よりき同心どうしんふるへあがるし、人民じんみん往來わうらいあるくにもひさくなつて、足音あしおとさへてぬやうにした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「先生、おやすみですか」と言いながら私のへやにはいって来たのは六蔵の母親です。背の低い、痩形やせがたの、頭のさい、中高なかだかの顔、いつも歯を染めている昔ふうの婦人おんな
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
僕あ、人から馬鹿にされるのは嫌いなんだ。そんなっぽけなくせして、この古強者ふるつわものをちょろまかそうったって、そりゃ無理だよ。こんどやったら、ポマードのびん
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
位置が南にかたより過ぎて、雪が早く融けるし、氷河はッぽけなかたまりに過ぎないし、富士山のように、新火山岩で、砂礫されきや岩石が崩れやすいので、高山植物は稀薄であるし
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ねづみが「おぢさんわたいのやうないさなものをいぢめたつてあなたの手柄てがらにもなりますまい」つてつたらライオンは「ハヽヽヽなるほどさうだ」つてゆるしてやつた。
伝肇寺でんでうじさき古寺、此寺の山の墓場に、かやと栗並び立ちたり。並び立ちともに老いたり。榧の木は栗の木のそば、栗の木は榧のかたへにさびさびて、すでに老いたり。
だが、僕は、実のところ、っぽけな悪いことなんかやりたくないのだ。同じやるなら、未だかつて、人類の誰もが案出したことのないような悪事を企らもうと思っているのだ。
偽悪病患者 (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
いやよ、猫の仔でも持って来たんじゃないのと云って見たら、それは鉢の真中に、一本、いさな小さな桜草の芽がうえてあるのでした。こんなの買えないでしょう? 本当ね。
こめ大變たいへんだかられが風呂敷ふろしきぢやちつとつちえんだがかえのればしてくんねえか
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
原の中へ拵えるものとなると、高値なものではいけないが、といってっぽけな見てくれのないものでは、なおさらいけない……どうでしょう。一つ大きな大仏さんでも拵えては……
その中の嬌態きょうたいおのずから春の如き温情を含む。門の外にてさな声「あのあまっちょめが」
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「馬鹿! 止せッて云ったら——、ッぽけなダイヤなんかみっともないぞ——」
梟の眼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
お幸はっちゃいしなやかな掌へ白粉下をぬらしつつ、顔一面にたたきこんでいた。右手の指の指環の宝石が輝く。(姐さん風を吹かして)と想いながらも、お幸の肉体を美しいと思った。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
『御一緒にいらつしたらどうですか。勝間さん、つぽけな宿屋ですよ。』
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そいつが派手な浴衣に赤褌あかふんのまんまボンヤリ甲板から降りて来やして、囃子はやしを聞いているあっしの顔をジイッと穴のあくほど見ながら、ッポケなドングリまなこをパチパチさせたもんです。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
... モツとねきへ寄せんかい、邪魔になつて洗やへんわい』『ねきへ寄つたら洗ふ処有らへん哩』『どだい、こんなつこい背中へ二人かかるんのが阿呆やい、足へ廻れ/\』でおとうと弟子が脚へ廻つた。
相撲の稽古 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
丹沢山たんざわやまで会った篤実とくじつな四人の学者たち。それから、っちゃなボクさん。
ウム、いかにも俺、っこくて江戸前だから、業平なりひら蜆ってところだろう。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
窓はほんの光線取あかりとりにして、鉄の棒をめぐらし如何いかなる剛力ごうりきの者来ればとて、破牢はろうなど思いも寄らぬてい、いと堅牢なり。水を乞うて、手水ちょうずをつかえば、やがてさき窓より朝の物を差し入れられぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ある時はフィリップのごとさき町にちひさき人々ひとを愛せむと思ふ
和歌でない歌 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
夫人は、このイちゃい娘をハナから、無視していることとて
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「おかしいや、そんなッぽけなお客様があるもんか。」
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青い田と田のあひださい蓮池には紅白の花が咲いた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
姉妹又友、*そのはじめさく育てど天上に
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
「何んだ、佐々木の手はッちゃいな!」
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
我にさう籠るに耳は眼はなくも
雑信(一) (新字新仮名) / 種田山頭火(著)
さき墓その世のさまを伏し拝む
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
おぼゆるはさきわが身の
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
さきを野べにのこさずして
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
わたしを、さい 妻を
秋の瞳 (新字旧仮名) / 八木重吉(著)
はいとさくひろ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
風もなみも さきうで
七里ヶ浜の哀歌 (新字新仮名) / 三角錫子(著)