うたげ)” の例文
現に関白殿の花のうたげのゆうべに、彼は自分と玉藻との語らいをぬすみ聴いていたらしく、それを白状せよと迫って土器かわらけをしい付けた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
險しきはしごを登りて、烟突の傍なる小部屋に入り、こゝにて食を饗せられき。我心にては、國王のうたげに召されたるかとおぼえつ。
元旦のうたげには屠蘇とそ干鮑貝くしがい干海鼠ほしなまこ丸餅まるもちの味噌汁などが、それぞれに用意され、祝日に忙しい歳暮が筒井の眼の前にあった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
だが彼の心は、瞬間明るくなって、先年三形王みかたのおおきみの御殿でのうたげくちずさんだ即興が、その時よりも、今はっきりと内容を持って、心に浮んで来た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
含羞はなじろまぶたを染めて、玉のうなじ差俯向さしうつむく、ト見ると、雛鶴ひなづる一羽、松の羽衣掻取かいとって、あけぼのの雲の上なる、うたげに召さるる風情がある。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただかすかに伝わって来るような、淋しい場所にたたずんでは、この遥かなうたげの騒音の中から、お前の高らかな声を聞き分けようとしたことがある。
娘たちのうたげらしく、いろどりの華やかな膳部ぜんぶに酒が出た。夫人たちほどではないが、みんな盃を手にし、この家の三人の待女が給仕をしてまわった。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その水の上へむかしの泉殿いずみどののようなふうに床を高くつくって欄杆らんかんをめぐらした座敷がつき出ておりまして五、六人の男女がうたげをひらいておりました
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さかずきに触れなば思い起せよ、かつて、そは、King Hiero のうたげにて、森蔭深き城砦じょうさいの、いと古びたる円卓子に、将士あまた招かれにし——私は
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
ひるごろ大隊長とともにグリンマというところの銃猟仲間の会堂にゆきて演習見に来たまいぬる国王のうたげにあずかるべきはずなれば、正服着て待つほどに
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
下人しもびとあこがれる、華かな詩歌管絃しいかかんげんうたげも、彼にとっては何でしたろう? 移ろいやす栄華えいがの世界が彼にとっては何でしたろう? 花をかざして練り歩く大宮人おおみやびとの中に
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
行幸輦みゆきぐるまは、ふた夜も、三夜みよもとどめられるので、相互の陪従ばいじゅうのおあるじに供する二人も、その間じゅうは、花の闇で、忍び会いもし、または昼は昼で、花ふぶきのうたげむしろ
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれらはむかしのうたげのテーブルの愉快なしきたりを守ろうと欲するが、その声はしゃがれ、沈んだおごそかなものになって、はしゃぐ気分をそこない、酒も味をうしなって
そうして甲府の城下では、あの豪快な信玄公が、観桜のうたげをひらいているかも知れない。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
緋でも、紅でも、黄でも、紫でも、碧でも、凡そ色と云う色皆ほのおと燃え立つ夏の日の花園を、経木きょうぎ真田さなだの帽一つ、真裸でぶらつく彼は、色のうたげ、光のバスに恍惚とした酔人である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
殯宮ひんきゆう通夜つやをしてゐるやうな赤楊はんのきよ、おまへの王樣は崩御になつた、赤楊はんのきの民よ、靜かな水底みなぞこかんむりの光を探しても、うたげ歌舞かぶの響を求めても、詮ない事になつてしまつた、赤楊はんのきの王樣、今
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
西八條の屋方やかたに花見のうたげありし時、人のすゝめにもだし難く、舞ひ終る一曲の春鶯囀に、かずならぬ身のはしなくも人に知らるゝ身となりては、御室おむろさとに靜けき春秋はるあきたのしみし身のこゝろまどはるゝ事のみ多かり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
あはれにもうたげあらけてめづらしき異國の酒の香のみ殘れる
吉井君の歌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
うたげに幾夜をも飲み明そうとする時などがそれです。205
雪見とはかなしき独りのうたげかもまばたきをするまみの冷き
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
すると、僧都は(うたげの松原へ行って月見をしたい)
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
山上憶良臣やまのうえのおくらのおみうたげまかる歌一首という題がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ふりしきる雪は深夜に婚姻飛揚ヴオル・ニユプシアルうたげをあげ
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
ちて縫はさむかこのきれを、うたげのをりの
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
命のうたげに酒盛りをしていたが
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
うたげの歌も 消えうせつ
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
うたげにいそぐ風情かな
艸千里 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
うたげあり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
またそればかりでない。近い頃にも関白殿の花のうたげに、玉藻のからだから不思議の光りを放って暗い夜を照らしたという噂もある。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
始まってから、やっと半時も経ったか経たないかくらいなのに、うたげのにぎやかさは、もう思う存分に募り切っていた。
だが彼の心は、瞬間明るくなつて、去年六月、三形王のお屋敷でのうたげくちずさんだ即興が、その時よりも、今はつきりと内容を持つて、心に浮んで来た。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
水郷すいごうの貞時の家、そしてきらびやかな正月のうたげも、筒井が去っては催物もよおしものの数々が控えられたことであろう、しんせつな父君、ひたいの若い貞時に永い三年を待たせたことなど
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
あんずるに、火の原因おこりは、昼、初春はるうたげに、たくさんな花籃はなかごが持ち込まれており、上には、蝶花の祭りかんざしがたくさんしてあったが、かごの底には、硫黄いおう焔硝末えんしょうまつ、火薬玉などが
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この日はあしたの珈琲を部屋にて飲み、ひる頃大隊長とともにグリンマといふところの銃猟仲間の会堂にゆきて演習見に来たまひぬる国王のうたげにあづかるべきはずなれば、正服着て待つほどに
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
つのらせていたところ父親九兵衛が老後の用意に天下茶屋てんがぢゃや閑静かんせいな場所を選び葛家葺くずやぶき隠居所いんきょじょを建て十数株のうめの古木を庭園に取り込んであったがある年の如月きさらぎにここで梅見のうたげもよお
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
道了塚を巡って、たけなわの春は、華麗なうたげ展開ひらいていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
われも亦せいなるうたげつらなりて、わが歡樂は飮みほしぬ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
休息はかれらのうたげ、すべては心のおもむくままなり
ハチム王うたげひらけよ——そも何ぞ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
しけりうたげの度毎に。
「玉藻のか」と、清治は声をかけると、あたりは急に明るくなった。その光りは花のうたげのゆうべに、玉藻の身から輝いたのと同じように見えた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
旅行りよこうをしたさきで、いつもあたらしく小屋こやがけをして、それに宿やどりました。さうしてかならず、その小屋こやをほめたゝへるうたんで、宴會えんかいひらきました。これを、新室にひむろうたげといひます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
華やかに扮装いでたった鉄騎五百人と軍楽隊との“元宵げんしょうの行列”にまもられて城中の“初春はるうたげ”から退がってきた梁中書りょうちゅうしょの通過を、男女の見物人とともに見送っていたものらしいが
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此蠅ですら宇宙のうたげ参与あづかる一人で、自分のゐるべきところをちやんと心得てゐる。
愛の詩集:03 愛の詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
自分の加わらなかったうたげに、彼は酔っていた。そして嫉妬しっとのために疲れていた。以前の通り、まったく以前の通りだったのである。自分は顔をほてらせながら、暗い所にたたずんでいた。
わが十二の時、王宮の冬園ふゆそのに夜会ありて、二親みな招かれぬ。うたげたけなわなる頃、国王見えざりければ、人々驚きて、移植うつしうゑし熱帯草木そうもくいやが上に茂れる、硝子ガラス屋根の下、そこかここかと捜しもとめつ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ゆめ、な語りそ、人の世はよろこびおほきうたげぞと。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
たまゆる海の色、うたげのゑまひ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
うたげにまれ、踊にまれ