“奴(め)” の例文
「何ぬかす、あんぽんたん奴(め)。わいが寝こんでしもて、孫がどうなるもんか。ベンゲットの他あやんは、敲き殺しても死なへんぞ。」
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「……これはこれは……まだ御機嫌も伺いませいで……亭主の佐五郎奴(め)で御座りまする。……何か女中が無調法でも……ヘヘイ……」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「その通りだよ、親分、自分の本当の娘でないから、閑斎の海坊主奴(め)、お澪を大旗本の何とかの守(かみ)の妾(めかけ)に差出すことを承知したんだ」
熊「ヘン嫉(そね)め、おたんちん、だがな八公、若大将にゃア気持が悪くなるてえことよ、阿魔奴(め)でれ/″\しアがって、から埓口(らちくち)アねえ」
汝(うぬ)野狐奴(め)、また来(う)せた。と得三室外へ躍出づれば、ぱっと遁出(にげだ)す人影あり。廊下の暗闇(やみ)に姿を隠してまた——得三をぞ呼んだりける。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
孫奴(め)は、殊のほか短慮者ゆえ、御奉公を過っても、三度まで死罪のお宥(ゆる)しをお含みおき下さるなら、差出しましょうといわれたそうな。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「此奴(こいつ)、他妻(ひとづま)の寝室へ忍びこんだ姦夫……や、何ということだ、わしの友人でしかも子供のように齢の若いこの男を……淫婦奴(め)が」
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
公園をさまよう若者達が「木馬館のラッパが、馬鹿によく響くではないか。あのラッパ吹き奴(め)、きっと嬉(うれ)しいことでもあるんだよ」
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お蔭(かげ)で名誉(めいよ)は助(たす)かった。もう出発(しゅっぱつ)しましょう。こんな不徳義(ふとくぎ)極(きわま)る所(ところ)に一分(ぷん)だって留(とどま)っていられるものか。掏摸(すり)ども奴(め)、墺探(おうたん)ども奴(め)。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「たわけな武者修業奴(め)、剣法では汝(うぬ)には勝てぬけども、鎌の手の妙術、自然に会得した滝之助(たきのすけ)だ。むざむざ尻叩(しりたた)きを食うものか」
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「何だ。貴様たち。こちらは文字のある先生方じゃないか。下衆のくせに寄ってたかって、先生方に反抗(はむか)うなんて、恥知らず奴(め)が……。」
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
あの村のマルタ奴(め)の妹のマリヤが、ナルドの香油を一ぱい満たして在る石膏(せっこう)の壺をかかえて饗宴の室にこっそり這入(はい)って来て、だしぬけに
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
「馬鹿爺い奴(め)。どこへでも往きゃあがれ。いずれ四文もしないガラス玉か何かだろう。あんな手品に乗って気を揉んだのは、馬鹿だった。」
橋の下 (新字新仮名) / フレデリック・ブウテ(著)
息子が係りの刑事に連れられて、入ってきたのを見るや否や、いきなり大声で「こン畜生! この親不孝の馬鹿野郎奴(め)!」と怒鳴(どな)りつけた。
母たち (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
反対者の冷笑熱罵(ねつば)もコヽを先途(せんど)と沸(わ)き上れり、「露探」「露探」「山木の婿の成りぞこね奴(め)」「花吉さんへ宜(よろ)しく願ひますよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
船頭が「こいつ奴(め)っ」と掛け声をかけながら、出刃庖丁の峯で彼の頭を叩くと、鰒は𥇥をぱちぱちさせて、まばたきをする。
飛沙魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
淡々奴(め)根が材木屋のむすこだけあつて、商才を弟子集めの上に働(はたらか)して、門下三千と称してゐる。これがまづ、いまいましい。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
何と及ばぬながら一つ競駈(かけくらべ)を試して見ようでござらぬかと言うと、野猪心中取るにも足らぬ守宮奴(め)と蔑みながら、さようサ
オルクン奴(め)は、わたくし共の様子を見て、疑はれたのだなと暁(さと)つたものですから、仲間の槍を皆取り上げて、一束にして一人の男に渡しました。
「ヨシ、ごろつき奴(め)、死ぬまでやってやる」私はこう怒鳴ると共に、今度は固めた拳骨で体ごと奴の鼻っ柱を下から上へ向って、小突(こづ)き上げた。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
だから、あなたがこの手紙を御覧になるときはその点でもユリ奴(め)、運のいい奴! と私をゆすぶって下すっていいのです。
「おお、ハンス奴(め)。ナチスの旗を立てている。なに、モール博士、降服しろと信号を送っているぞ。な、なまいきな奴だ」
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「へつ、此(こ)の弱蟲(よわむし)! そんなら貴樣(きさま)らには、何(なに)ができる。此(こ)の命知(いのちし)らず奴(め)!」そして肩(かた)をそびやかして睨視(にら)めつけました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「わざと求めて邂逅(いきあ)ってやろう。そうだ北条内記奴(め)に。そうして彼奴(きゃつ)の眼の前で、思うさま大声で笑ってやろう。ゲラゲラゲラと崩れるように」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
日の暮れぬ前にあんたのお抱えのアルカーシカ奴(め)を、ちょっとわたしに貸し下されて、わしの男ぶりを然るべくととのえさせては貰えんですかい。
いいか、よく聞くがよい、恥知らず奴(め)! すべてそれらの祝福は天に達せぬ前に落ち、神の処までのぼりゆくのはただ一つののろいのみであろう!
なんだと、このおしやべりもの奴(め)。俺(おれ)を嘘つきだなんて、一たい貴様、何だつてそんな悪口をいふんだ? そんなことをいふわけを言へ、もしわけを
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
住所も刷ってないような怪し気な奴めが! と言わんばっかりの顔をしてフガ奴(め)はジロジロと人の手許(てもと)を眺めていた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「人非人奴(め)! 人非人奴! どれほどまで執念(しふね)く妾達(わたしたち)を、苦しめるのでございませう。あゝ口惜しい! 口惜しい!」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「何と云ッて出たものだろう?」と強(し)いて考えてみても、心奴(め)がいう事を聴かず、それとは全く関繋(かんけい)もない余所事(よそごと)を何時(いつ)からともなく思ッてしまう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
塵埃(ほこり)が積(たか)る時分にゃあ掘出し気(ぎ)のある半可通(はんかつう)が、時代のついてるところが有り難(がて)えなんてえんで買って行くか知れねえ、ハハハ。白丁(はくちょう)奴(め)軽くなったナ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
廊下に出してさえ置けば、狸奴(め)が綺麗に舐(な)めてくれる。それは至極結構だが、聖堂には狸が出るという評判が立ったもんだから、狸の贋物(にせもの)が出来たね。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
殊に私らの仲間ではうっかり羽織袴(はおりはかま)でも着用に及び、扇子を持って歩き出そうものなら、それこそ馬鹿奴(め)と叱られる位の進歩をさえ示して来たのである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
鵜呑(うの)みにして埋めて来た哀(かな)しみが抉(えぐ)りだされるのだ、「蝦夷のうぐいすめは季節の去就にまよっておるのじゃ、たわけもの奴(め)が、碌(ろく)なことはあるまいさ」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「然し、」と彼は復(また)しても吉野が憎くなる。「アノ野郎奴(め)、(有難う御座います。)とはよくも言ひやがつた!」
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
(三)ヒヤーこりゃ如何(どう)じゃ。アノ四角奴(め)、一夜の中(うち)に八角に成りよった。この分でわまた明日わ、十角や二十角にも成るだろう、こりゃ所詮(しょせん)叶(かな)わぬわイ。
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
番頭奴(め)ジロリ我々一行の姿を見て、忽(たちま)ち態度を一変し、無礼極まる言辞を弄(ろう)して、別館という、梅毒患者ばかり押込めておく薄汚い室(しつ)へ追い込もうとした。
「なあんだ兵吉じゃねえか。仁助(にすけ)も三吉もか。馬鹿野郎ども。我家さチャセゴに来る奴、あっか。馬鹿奴(め)。」
手品 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「さてはその方、あらかじめ自分で盗(ぬす)み、松の根元にかくし置(お)いたものにちがいあるまい。不届(ふとど)きもの奴(め)!」
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
兎に角、そう言うから、じゃお宮という女奴(め)、何を言っているのか、知れたものじゃない、と思いもしたが、まだ何処へも行きゃしないというので安心した。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「やい、この騙(かたり)奴(め)、よくも、よくも、そんなことが云えたものだ、やい、手前がいくらそんなことを云って、ごまかそうとしたって、乃公(おいら)の方には証人があるぜ」
立山の亡者宿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この化物奴(め)と、矢庭に右手(めて)に持ったる提灯を投げ捨てて、小僧の襟髪掴んで曳とばかりに投出すと、傍(かたえ)のドンドンの中へ真逆(まっさか)さまに転げ墜ちて、ザンブと響く水音
河童小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし彼時(あのとき)親類共の態度(そぶり)が余程(よッほど)妙だった。「何だ、馬鹿奴(め)! お先真暗で夢中に騒ぐ!」と、こうだ。
日本一のうつけ者奴(め)、両方の腕がなくなって生きていても何になろうぞ、それにしても過去の戒行が拙(つたな)いばかりに、貴様のような者を主人に持ったのが無念でならぬ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「又来てやがる! 行かねえか、騙(かた)り奴(め)! 愚図々々してるとふん捉(づかま)えて、つき出してやるぞ!」
掠奪せられたる男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「それから——例の、軽輩の秋水党、こいつ奴(め)が、又二の舞を演じて、某らを討取ろうと——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
私が部屋に這入(はい)ると絹のハンカチに涙の地図をかいた女が私の姿を見ると罵(ののし)るように、妾は日本が憎い、妾の恋しい人を連れ出すのはこのインボスタ奴(め)! このジャブです。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
「では、あの、前夜あの者奴(め)をお庇(かば)い遊ばしたことを、お詑びに参るのでござりまするか」
「いや人でなし奴(め)に、切腹を申しつける廉(かど)はない。縛り首にせい。縛り首にじゃ。」
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
奴等の買いたいのは錫なんだ。いいか欲しいのは錫なんだぞ。馬鹿者奴(め)! 分ったか
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)